元暗殺者、宮益坂女子学園へ赴任する 作:俺っちは勝者の味方ー!
追伸;UA数10000+お気に入り件数500件突破、誠に感謝です。
ワンダーステージ。
『くっ…どうしてあなたが立ちはだかるのです! ルーイ騎士団長!』
『 “どうして” なんて、そんなもの決まっているだろう? ……この私こそが君たちワンダー王国が宿敵、《黒 龍》に他ならないのだからね』
『なっ、何いィ!?』
『ククク、実に愉快な反応だ。どうしても信じられないというのなら見ているがいい、私の真の姿を!』
ゴゴゴゴ…
――なるほど、確かにこれはすごい。
偶然居合わせたビビバスのみんなとワンダーステージのショーを観覧してるけど、物語の世界観にぐっと引き込まれていくみたいだ。自他共に認めるフェニランマスターこと小豆沢さんが強く薦めるだけあって、初心者の僕でもこのショーの完成度がいかに高いのかがよくわかる。
この物語の主人公はとある王国に忠誠を誓う新米騎士(名を『ツカーサ』という)で、彼を中心として話は進行していく。
魔法やモンスターの存在するファンタジーな世界観がモチーフだからか、ヒロインのネネルナ姫は歌うことで癒しの魔法を発動させるし、ツカーサの相棒である女騎士エムルー(もとい宮女1年B組の鳳さん)は
そのストーリーの構成も実に秀逸だ。
序盤にてツカーサが『みんなが笑顔で平和に暮らせる国を作るんだ!』という夢をはっきりと誇示することで、彼が騎士団長ルーイに憧れるまでの心情の移り変わりに共感が持てる。ちょっぴり臆病なエムルー、お転婆なネネルナ姫と織りなす日々のドタバタ劇を通して主人公が徐々に成長していくのもおもしろい。
途中『
そういう
『な、なんという気迫だ。目の前に立っているだけでも押しつぶされそうになる…!』
『私が恐ろしいか…そうだろう。 だが、それは私も同じ。 これまで数多くの魔物たちを打ち倒してきた貴様の実力と勇気こそ、私にとってはもっとも恐ろしいものなのだよ』
『ならば、この魔物の軍勢による襲撃もお前の策略のうちであると?』
『いかにも。 全ては騎士ツカーサ諸共王国の騎士団を滅ぼすためにしたこと』
『! …っ許しておけん! 例え俺が強く憧れたお人であっても、このような蛮行に走る姿をみすみす放ってなるものか!』
『ほう? 私を許さずして、どうする?』
『馬小屋に入って、反省してもらおう!』
冒頭のシーンにどういう意味があったのか、これで
ルーイが一瞬で神々しい装備から全身真っ黒でおどろおどろしい衣装に変わってみせると同時に、舞台裏から彼と同じ意匠が施された龍が現れる。胴体は西洋、頭は東洋の
「(それに馬小屋で反省って、たしか騎士団の懲罰システムの一つだったはず…)」
ここまで彼の人となりを見ていれば、ある程度想像がつく。ツカーサは例え相手が敵であっても手を差し伸べようとしているのだろう。十歳から十代半ばの男の子が見れば胸が熱くなりそうな展開だ。
『やれるものならやってみるがいい。 …我が忠実なるしもべ《
『『『ギョイ〜』』』
あ、そんないかついネーミングしてたんだ、この魔物たち。雰囲気は黒龍そっくりだけど、普通の動物がデフォルメされたような姿だったから意外に設定がちゃんとしててびっくりした。
しかし、《アンコクシュウ》…狭間さんや不破さんあたりが好みそうな響きをしてるから、イメージ付与にはあまりにもピッタリすぎる。
『来い! どんな者が相手でも俺は負けない!』
程なくして激突するツカーサと
その『魅せる戦い方』に夢中の僕は、彼が今まで積み上げてきたであろう途方もない努力の片鱗を垣間見た気がした。
ガコンッ!
「(っ!)」
白熱した戦いの真っ只中、おもちゃのネジが外れるような…嫌な音が聞こえた。
どう考えても
「(ステージを降りた…!?)」
どういう作りをしているのか、突然動きを変えたロボットは結構な高さのあるステージから降りてもびくともせずに稼働し続けている。
……
暴走(?)しているのは敵役に宛がわれたうちの一体だけとはいえ、バイク大の機械が客席の先頭列に座る
幸いなのは、子どもとロボットの間に僕が止めに入れるだけの距離がまだ十分にあることだ。…止めようがなければ、最悪身を呈して守ればいい。
ショーを中断させる覚悟も決めて、身を乗り出したまさにその時―――
「(渚)」
「(…! 茅野?)」
「(私に任せて)」
口元に指を当て悪戯っ子のようなウィンクを決める茅野は、逆に僕が止める間も無く飛び出した。
さながらピンチに駆けつけるヒーロー…否、ヒロインのような華麗な身のこなしで客席から舞い降りた彼女は――――
「てりゃあぁ!」
岡野さん直伝のドロップキックをロボットに叩き込み、子どもたちを危機から救う。
機械仕掛けの動物が地面に倒れると、一瞬耳の痛くなるような静寂がステージ全体を支配した。けれど、
『何をボッーとしているの、騎士ツカーサ! 一刻も早く闇刻衆を打ち払いなさい! それとも私たちワンダー王国騎士団の務めを忘れてしまったの?』
ショーの熱を決して冷まさせはしないと言わんばかりに、茅野は叫ぶ。
…ああ、そうだ。彼女にとって
圧倒的演技力を誇る大女優が乱入したショーステージ。その行く末がどうなるのか…不安な感情よりもむしろ興奮が勝り、子どもみたいにワクワクしている僕がいた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「な、なんだなんだ?」
「これもショーの演出なのか?」
オーディエンスが静かに騒めく。プロレス技を以て類のロボットを止めてくれた華奢な女性の登場に、舞台上のキャストを含めワンダーステージの全員が釘付けになる。無論、この俺も。
しかも彼女は続けて、これもあくまでショーの演出の一環であると周囲に知らしめるように完璧な芝居を披露する。俺に向けて投げ掛けられる言葉は、まるで騎士団の仲間が鼓舞してくれるように錯覚した。注目を掻っ攫われたが全く嫌な気持ちはせず、むしろ奥底からやる気が満ち満ちてくるようだ。
「(っ!)」
『貴方に勇気が足りないというのなら、この女騎士メイプルが助太刀するわ! …だから、決して諦めないで』
視線がかち合い、彼女の瞳から伝わってきたのは、『ショーを絶対に成功させたい』という…俺たちワンダーランズ×ショウタイムと全く同じ意志だった。ううむ、初対面のはずなのにここまで気持ちが通じ合えるのは奇跡としか言いようがないな。
しかし……ふっふっふ、名も知らぬ女性だが、騎士としての
『言われずともわかっているさ! ツカーサの辞書に “諦める” という文字はなあぁい!!』
「(司くん?)」
「(やりきるしかないだろう! 俺たちのミスを最高の演技で繋いでくれたお客さんのためにも!)」
「(それは……ふふ、確かにそうだね。僕も挽回するつもりで精いっぱい暴れさせてもらうよ)」
「(うむ! 気合いが十分なのはいいことだが、くれぐれもステージは壊してくれるなよ!)」
となれば、メイプル?ともこっそり段取りを取らねばならんな…。必要な時は彼女にもステージに上がってもらおう。
この少々突飛な大舞台、必ずや成功させてみせる!
☆
『勇猛果敢なメイプルに相応しい武器を授けるぞ! 聖剣エクスカリバーだ!』
『いやこれどう見てもなまくら刀――』
『エクスカリバーだ!!』
『………』
『―――、――――♪』
『ぐおおおっ……これ、は!』
『おお! ネネルナ姫と王国に住まう
『『みんなー! もっともっとネネルナ姫を応援して〜!』』
「「「「「がんばれー、おひめさま!」」」」」
『―――こうしてルーイが “優しいこころ” を思い出すと暴れん坊の魔物たちもすっかり大人しくなり、ツカーサが大好きだった王国は再びたくさんの笑顔で溢れ、長く平和な世が続いたのでした』
『めでたしめでたし!』
パチパチパチパチ!
「ふう、なんとか丸く収まったみたいだね。…おや? アンコクロボがまだ動いて――」
『ギギギ……』
ボカアァン!
「きゃあああっ!」
「か、茅野ぉーーー!!」
「爆発オチなんてサイテー!」
お わ り。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「誠に申し訳ありませんでした!」
ショーが閉幕しワンダーステージから観客が出払っても、僕たちはまだ客席に留まっていた。それというのもキャストさんと茅野がお互いに話がしたいと意見が合致したかららしいが、開口一番にクソデカボイスの謝罪が飛び出てきたせいで茅野は目をパチクリさせて驚いている。
「気にしないで。私もあなたたちのショーをめちゃくちゃにしちゃったし…本当に、色々とごめんなさい」
「めちゃくちゃになった原因は類のロボットのせい…。だから大丈夫、です…」
「寧々、確かに悪いのは僕だ。反省するよ。
…でも、一つだけ弁解させてくれないかい? 僕はアンコクロボに自爆機能なんて搭載していない。だから、あの最後の爆発は僕にとっても不可解なんだ」
「また出鱈目を…」
「いや、類は嘘を言っていない。俺だってあのロボに爆破する機能があるなんて知らなかったからな。少しでも危険な可能性があるのにそれを伝え忘れるなんて杜撰な真似は、類は絶対にしない」
「う〜ん、司先輩がそこまで言うなら……でも、だとしたらどうして?」
ワンダショもビビバスのみんなも難しい顔を浮かべる。製作者本人である神代くんは、さんざん悩み抜いた上である結論に辿り着いた。
「……少し言い訳がましいけれど、カエデさんのキックの当たりどころが悪かったのかもしれませんね」
「え。あの時頭を思いっきり蹴ったけど、まさか
「そう、
「―――――」
「……ゴリラ」
「誰だ今 “ゴリラ” っつったの!!??」
消え入りそうな呟きが聞こえ、今を時めく女優がしちゃいけないような表情で茅野は荒ぶる。ああ、ファンの人がこんな顔を見たら卒倒不可避だよ…。
「ちょっ、落ち着きなよ茅野…」
「はあ!? これが落ち着いていられると思うわけ!?」
「滅相もございませんっ!!」
「ふふ、見かけによらず案外茶目っ気のある人なんですね。 “磨瀬 榛名” さん」
「「!」」
今、なんて…?
「む、どうした類。熱でもあるんじゃないか?」
「ん…いきなりカエデさんを某有名女優の名前で呼ぶのは失礼だよ…。確かに雰囲気は似てるかもしれないけど」
「? このお姉さん、榛名さんなんじゃないの?」
「「「「「え?」」」」」
「あり?」
「えむちゃん、それ本当?」
「うん! 初めて見た時からなんとなーくそんな気がしてたんだ!」
神代くんは持ち前の観察眼で見抜いたとして、鳳さんは完全なフィーリングで茅野の正体に気づいてたってことか。……まずい。これ、誤魔化しきれるかな。
「ま、まさか…きっと他人の空似だよ。ほら、磨瀬 榛名とは髪色が全然違―――」
「よくわかったね。そ! 正真正銘、私が本物の “磨瀬 榛名” さんだよー」
「茅野!?」
「「え、マジ…」」
「ほほう。それはそれは…」
と、茅野の突然のカミングアウトに高校生組一同は三者三様の反応を示している。鳳さんはさらに目をキラキラさせ、白石さんと東雲くんに至っては唖然としたまま動かない。神代くんはなぜか余裕の表情だ。
それ以外の子たちも大小差はあれど驚きを露わにしてるしで、状況は軽くカオスと化す。
「なんで正体バラしちゃったの!?」
「このままはぐらかしてもみんな納得しなさそうだし、仕方なく? …それに、即席とはいえ同じ舞台に立った仲間をずっと騙してるのは違うんじゃないかなって思ったからさ」
「…!」
「もちろん、このことを誰かに言ったら『
きっと小豆沢さんや司くんらとの距離がぐっと近くなったからこそ、自分の心に正直でいたいんだろう。であれば…これ以上僕が余計な口を挟むべきじゃあないかな。
「それにしても、ウィッグまで着けて変装してたのにバレるとはね〜。類くんはどうして
「一緒にショーを演じたらすぐに気づけましたよ。榛名さ――いえ、カエデさんの動きのクセは磨瀬 榛名のそれとほとんど同じでしたから。…あとは、その透き通るような声域で確信を得られた、という感じでしょうか」
「ふうん…。そこまで豪語するだけあって、私のお芝居かなり研究してくれてるみたいだね」
「当然だ! 名演技を幾度となく連発してきたあなたの芝居を、ショーの参考にしない手はない!」
「…司、その割に全然見抜けてなかったじゃん」
「それはそれ、これはこれだ!」
あはは…彼、ショーが終わってもずっと元気だなぁ。咲希さんのお兄さんっていうのも納得がいく。
あんなに動き回ってたのに疲れを一切感じさせないその様子からわかる通り、彼も大概努力家だ。いやほんと、天馬家の遺伝子どうなってんだろ…。
「カエデさん! 今日はカエデさんといっしょにとっ〜てもわんだほいなショーができて、あたしすっごくうれしかったです!」
「うん。こちらこそ貴重な経験ができて楽しかったよ。また暇ができたら、絶対ワンダーステージに遊びに来るからね♪」
「はーい!」
「またいつでもいらしてくださいね」
ワンダショのみんなとそう約束を交わすと、茅野の真っ直ぐな眼差しが今度は僕に向けられる。
「渚。私、最後にどうしても乗りたいアトラクションがあるんだけど…一緒に乗ってくれる?」
「? もちろんいいよ。折角の茅野のリクエストだもの」
「やった! それじゃあ決まりね。
…ってことで、ちょっと名残惜しいけど、みんなとはそろそろお別れかな」
「ええ〜、カエデさんと渚さんのことでもっともっと尋m――聞きたい話いっぱいあったのにぃ…」
「おい、名女優の生演技見れただけでも十分すぎるだろ。これ以上二人のプライベートに首突っ込もうとすんな」
うん……今ちょっと不穏な言葉が聞こえてきたけど、流石に気のせいだよね? これから各々片付けを行ったり、帰路に向かったりするらしいしで、ひとまずは追求されずに済みそうだけど後が怖すぎる。
遊園地に来て楽しい思い出を作れたのに、こんな形で不安の種が残るなんて嫌だよ、僕…。
「みんな、今日は本当にありがとね!」
「小豆沢さんと鳳さんはまた学校で。司くんたちもあんまり遅くならないように帰るんだよ。それじゃ」
「はい! さようなら」
「バイバーイ、なぎちゃん先生!」
どうか僕たちのことは記憶の隅に追いやって、忘れていて欲しい…。今はそう切実に願うばかりだ。
「あの二人さあ……アレで付き合ってないなんて、絶対ウソだと思わない?」
「「「「「「それは言えてる」」」」」」
「ほえ?」
◆◇◆◇◆◇◆◇
フェニックスワンダーランド 観覧車。
空はすっかり茜色に染まって、窓から見える小さな街並みの中にはぽつぽつと営みの光が灯り始めている。
幻想的で儚く…けれどとても美しいその景色を、私の向かい側に座る
…顔がほんのり熱い。きっと私の頬は、今朝方渚に褒められた時のように赤らんでいるんだろう。
「終わってほしくないなぁ…」
「え?」
「茅野と一緒に笑ったり、驚いたり、ドキドキしたり……こんなに楽しかった一日がもうすぐ終わるって思うとすごく切なくなっちゃって」
「! ////」
渚が名残惜しそうに吐露した言葉に、またしても体温が上がってしまう。こんなとろけきった顔を見られたくなくて咄嗟に俯いたけど、別に渚は私を誑かすつもりで言ったんじゃない。本当はわかってる…わかってるはずなのに――――
「(意識しないで耐え切れるわけないじゃん!?///)」
私の心はめちゃくちゃ揺さぶられていた。内心動揺しまくりの私の胸中を知ってか知らずか、渚はさらに畳み掛ける。
「それだけ今日のショーに心を動かされたんだ。茅野が舞台に上がった時の衝撃とか興奮、見ている人をショーの世界へ
「っ」
渚がここまで余韻に浸っている
あの時子どもたちを守りたいと思ったのは紛れもない本心だ。こんなにも素敵なショーが途中で終わってほしくないと望んだことも。
けれど、それをきっかけに、私は台本にない舞台を作り上げた。渚に私の魅力をもっと感じて欲しいがあまり…。
幸いにも観客みんなが即興の演技を受け入れてくれたからよかったものの、一つ間違えていれば批判の矛先がワンダーランズ×ショウタイムに向いていてもおかしくはなかった。
―――だから、
「(こんな最低な私のする演技じゃ渚のハートを射止めるなんて以ての外、か…)」
進展が見られないどころか、一気に振り出しに戻った気分…。綺麗な空の色に反して、湿っぽいブルーに染まりかけた時――
「茅野」
「ひゃいっ!」
「これまでは教師の仕事が忙しいからってちゃんと向き合う機会を作ってこなかったけど、今度はちゃんとした舞台で茅野の演技が見たくなったよ。主演を務めて、全力のパフォーマンスを魅せてくれる茅野の姿を」
「ふえっ//」
―――ああ、もう本当に…
「好き。大好き」
「ん? 何か言った?」
「うんん、何でもない!
……ねえ渚。私が女優業に懸ける想いは本物だよ。ちゃんと近くで見るなら覚悟しといてね。ナメてかかると思わず腰抜かしちゃうかも」
「! ふふ、楽しみにしてるよ」
もう少しだけ、この気持ちは大事にとっておこう。なんだかんだ言って私も、渚とのこの絶妙な距離感が好きだから。
今はただ…ターゲットの寝首を掻く最高のチャンスが訪れる瞬間を、貪欲に、粘り強く狙っていく。
私だって一端の
今後も色んなキャラとの交流が書けたらいいな。モチベが持つか心配だけど。