最終的にハッピーエンドになるFE風花雪月 作:嫁キャラが選べない
-大樹の節-
学校暮らしにも慣れた頃、初めて級長を発見できた。丁度その頃には金鹿の学級メンバーも全員揃っていたので、全員と挨拶を済ませることができた。
級長であるクロードさんの話によると、野営中に盗賊に襲われ、たまたまそこに居た傭兵のベレスさんが助けてくれたらしい。
「? あれ、何だろう…」
私の目線の先では見慣れぬ人が大勢の生徒に囲まれていた。金鹿の学級の教室にいるから、おそらくアレがベレスさんで間違いないだろう。
「おっ、噂をすれば…だ。ようサテュロス」
「ご機嫌ようクロードさん。この方が…?」
「よろしく」
ベレスさんは随分と無愛想な顔をしている。顔は良いのに、その顔から表情は全く読み取れない。
ベレスさんの顔をしげしげと眺めていると、ベレスさんは不思議そうな顔(分からないが、恐らくそう)をしていた。
「私の顔に何かついているかな」
「いえ、顔が良いなあと思いまして」
願わくば、この人の悲しそうな顔が見てみたいものだ。鉄面皮の人がそれを崩した瞬間ほど美しく、悦楽を感じられるものはないのだから。
ひとまず眺め終え、この人をどうやって不幸にさせるかを考える。
聞けばベレスさんは傭兵だと言う。
だとすれば、私がベレスさんの傭兵団に入り絆を深めた所で目の前で派手に傷を負うとしよう。多くの人はそれで傷つくと知っている。
この人が冷血でなければ、の話だが。
「私はサテュロスって言います。家名は聞かないでください。好きではないので」
「分かったよ。よろしくサテュロス」
その後、ベレスさんと別れ一人訓練場に行く。パーネス家に居た時は毎日のように剣を振っていたので、癖になってしまっているのだ。
剣を振りながら思い出す。父ゴエティアに連れられて平民を討伐しに行った時のことを。
「はあっ!せいっ!一点、二点…子供は三点!」
ゴエティアには『私が殺した平民に点数をつけさせる』悪い癖があった。
ゴエティアは私が言うのも何だが、性的倒錯者だ。自分の娘が嫌がる顔が何よりも好きで、ことあるごとに私に人殺しを強要してきた。
「視える…」
思い起こすのは、目の前で子供を殺され激昂して向かってくる母親の顔。あの時は確か、喉元を突いて顔を縦に引き裂いたんだったか。
「っ、ふう……」
訓練場のどこかから一つ視線を感じる。であれば私の訓練の成果、観客に是非とも見てもらおう。
「はっ…はっ……ぅ、うううー…」
唐突に私は剣を落とし、体を抱いて蹲る。表情は目の前で恋人を殺してやった時の女の顔にして、床に頭を打ちつける。
慌てて誰かが駆け寄ってくる音が聞こえる。
「お、おいサテュロス!?大丈夫かよ!?しっかりしろ!」
声からしてレオニーだろう。確か平民の出だったはず。幸いにもパーネス家の悪い噂は知らないらしく、仲良く接してくれている。
「……ぁさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」
涙を流しながら喘ぐように何者かに対する謝罪の言葉を漏らす。思えば泣き真似も慣れたものだ。
父ゴエティアを喜ばせる為だけにメイドから練習させられたっけ。
「ちょっと、おい!……何があった?話してみろよな」
「私が、殺した………私が…あの子を…」
あの子と言っても、もはや誰の事かすら分からない。分からないがとにかく殺してはいるので適当な人間を思い出す。
そういえば、唯一私を庇ってくれた子を目の前で殺された事があったっけ。その子にしよう。
「ごめんなさい…クローヴィス……ごめんなさい…」
「クローヴィスって何の話だ?サテュロス、おーい!」
そろそろ頃合いだろう。私はレオニーの存在に今気づいたかのようにハッとする振りをして無理矢理取り繕ったような笑顔を浮かべた。
「あ、ははは…ごめんレオニー。変なの見せちゃった…いるなら言ってよね」
「おう…それで、大丈夫なのか?随分と魘されてたみたいだけど」
「っ、ごめん…私、もう行くね」
そう言って小走りで訓練所を出る。あくまでもこれは種まきに過ぎない。この作物を収穫するのは、まだ先だ。
-金鹿の教室・昼-
「ねえサテュロスちゃん、担任の先生ってどんな人だと思う?」
丁度授業がもうすぐ始まると言った頃、ゴネリル家のヒルダが私に話しかけてきた。ヒルダは何かと私に話しかけてくれる可愛い子だ。
この子の顔が血と泥に塗れたら、きっともっと可愛いだろう。
「うーん。この間大修道院に来てたジェラルトさんみたいな人じゃないかな」
「あの人かー、あり得そう。知ってる?あの人の異名、『壊刃』って言うんだって。凄そうよね」
『壊刃』ジェラルトと言えばフォドラ全土に名が知れた英傑だ。かつてはセイロス騎士団に所属し、その後は傭兵として私の兄ファウヌスの首を取った本人。
ファウヌスは優しい男だった。それ故に躊躇い死んだのだ。
「っ、『壊刃』………そうか、そういえば…」
「どうしたの?そんなに怖い顔して。何かジェラルトさんとあったとか?」
「いや、特には無いよ──────本当に」
自然と顔が強張ってしまっていたようだ。以前ジェラルトの目の前で笑顔で平民を殺してしまい睨まれているのだ。
おそらく、次に顔を合わせれば碌なことにはならないだろう。そう考えると自然と警戒してしまうものだ。
「ん…?アレって、クロード君たちを助けてくれたって言う…まさか、あの人が先生!?」
ヒルダが指差した先にはベレスさんが教材と思わしき書類を持って立っていた。良かった、どうやら1年間を怯えて過ごす必要は無さそうだ。
いや、もしかしたらジェラルトさんから私について伝えられているかもしれない。気をつけねば。
「もしかして、担任ってあなたなんですかー?」
「ええっ!?そうなんですか、ボクはてっきり…」
「うん、騎士団にでも誘われたのかと思ってましたよー」
ヒルダ、イグナーツ、クロードさん等の金鹿の学級の面々がベレス先生を囲んで話をしている。私も混ざりたかったが、万が一を想定して遠巻きに見ているだけに徹しよう。
しかし、周りが楽しそうにしていて自分だけ蚊帳の外というのは中々に心に来る。無論、自業自得なのだが。
-大樹の節・三十日-
あの後、私は居た堪れなくなり昼夜問わず訓練所に篭っていたため聞いていなかったのだが、どうやら今日は学級対抗の模擬戦があるらしかった。
慌てて走って来たから間に合ったものの、もう少しで模擬戦が始まる所だった。
また、訓練所に籠っていたのが功を奏したのか、課題出撃に際して熱心に努力をしていると思われたらしい。そこだけは良かったと思う。
「ようサテュロス、あんなに訓練してた割に意外と落ち着きがないみたいだが。大丈夫か?」
「それが…訓練所から慌てて走ってきたので、装備らしい装備がこの汗まみれの制服一枚なんですよね…」
「おおっと、そりゃ大変だ。先生、サテュロスはあんまり前線に出さない方が良いかもな」
クロードさんのその言葉にベレス先生は少し考え込んだ後、私の手を握ると確信したかのように私の方を向いた。
これで疲労していると判断されたらまずい、実戦経験をより多く積みたい私としてはここで後方支援に回されるのが一番困る。
「────君は慣れているね。帷子を着ている時よりも今の方が自然だ。恐らく君は…うん、暗殺者向きの戦い方が得意なんだろう?」
「な、え……えっ?」
「だってほら、君は走ってきたというのに私たちは初めから君がここにいたように感じた。君は足音を立てずに走ったりする事が出来るんだろう?」
たった少しの接触でそこまで分かるとは…流石は元傭兵といった所だろうか。
私が今まで培って来た経験を全て読まれているのではないかと、先生の瞳を見るとそう思う。
「流石は先生、すごい洞察力だ。サテュロスは行けるな?」
「あ、はい。もちろん行けます」
その後、一通り軍議を済ませてから模擬戦開始の鐘が鳴ったのだった。
-戦場・ガルグ=マク近郊-
私は先生の指示で先生のバックアップ…もとい討ち漏らしの討伐を任された。私と先生は遊撃隊として戦場を荒らすのが目的らしい。
クロードさんは森の中に潜んで狙撃。ヒルダはクロードさんを守るための前衛で、ローレンツは俯瞰してサポートに徹するという作戦だ。
「サテュロス、あそこに黒鷲の学級の陣営が見えるね。青獅子の学級はまだ手出しをするつもりが無いみたいだから、先に黒鷲からやろう」
「了解です。ここからなら…えいっ!」
私は近くにあった小石を思い切り投げ、何やら大声をあげて「エーギル!」と叫んでいる人の足に軽くぶつける。
すると、面白いようにエーギルが釣れ、芋づる式にもう一人の陰険そうな人が着いてくる。
「行くよサテュロス。はあっ!」
「ここで脱落してね、せいっ!」
先生は剛撃で陰険な人を仕留め、私はエーギルの足を掬い上げて剣を突きつけて降伏を促した。
その様子を見ていたエーデルガルトさんが頭を抱えて深くため息をつく。彼らには悪いが、おとなしく戦場で気を昂らせた事を反省してもらおう。
「くくく…新任教師の一端を見られただけでも良しとしましょうか…」
「くっ…!エーギル家の嫡子たる私がそんな…まだまだ鍛錬しなければ!」
そう言って戦闘区域外へとノソノソ歩いていく二人を見ると、もう少し痛めつけておけば良い悲鳴でも聞けたのだろうかと思案する。
そこで油断してしまったのが悪かったのか、いつの間にか飛んできていた手斧が私の胸に吸い込まれ──────る直前に、先生が手斧を払い除けた。
「っ、すみません!ありがとうございます」
「気にしないで。青獅子も来てる。私達は一旦森へ隠れよう」
先生はどこか焦った様子でそう言う。さっきの手斧のせいだろう。
チラリとエーデルガルトさんの方を見ると、多少の動揺が見られた。アレは危うく殺しかけるところだったからか、はたまた別の理由か。
「クロードは私と来て。サテュロスは待機して、隙を見て攻撃。いいね?」
「分かったが…先生、それだとサテュロスが腐っちまうがどうする?」
「─────嫌な予感がするからね、後方に回ってもらうことにした」
嫌な予感か…そんなものだけで戦力的に充分な、負傷していない兵を後方へ回すほどでは無いはずだ。
もしかすると、先生は未来が分かるとでも言うのか…いや、そんな筈はない。未来なんて見ることは決して出来ないのだから。
「という訳だ。サテュロスはローレンツに着いてくれ」
「分かりました」
その後、何事もなく戦いは金鹿の学級の勝利に終わった。勝利の祝賀会が開かれると言われたので、付き合いのために参加することにした。
金鹿の学級のメンバーたちと思い思いの時間を過ごしていると、クロードさんがコッソリと耳打ちしてきた。
「なぁサテュロス…先生はどうしてお前を下げたと思う?」
「いきなりどうしたんですか?」
「ちょっとだけ…いやだいぶ気になってな。一緒にいたお前なら何か分かるんじゃないかと思ってな?」
「………関係あるかは分からないんですけれど、一瞬だけ先生が焦ってたように見えたんです」
「──────。へえ、なるほどな。ありがとうサテュロス、なにか掴めた気がするよ」
クロードさんは一瞬驚いた顔をした後、どこかへ立ち去っていった。恐らく図書室だろう、私は彼がよく図書室で屯してる事を知っている。
借りていた本を見るに、フォドラの伝承や十傑達について記された書物を随分と熱心に調べていたようだ。
「クロードさん。あまり深入りはし過ぎないでくださいね?」
「なんだって──────?」
フォドラ十傑と言えば、やはり神器だろう。
しかし、神器というものは碌なものではない。なぜなら、我が家に伝わる魔笛アウロスという神器のせいである。
魔笛アウロス、またの名を「情欲の笛」と言い、その音色を聞いたもの全て(紋章持ち以外)に魔物の卵を植え付ける力を持つというものだ。
そんなものを使って戦っていた十傑など、滅んで然るべきであるし、そんな連中を追い求める必要性など微塵もない。
「おい、サテュロス…お前、何を知って…」
「これ以上は言えません。貴方のためなんです、クロードさん…奴等に近づきすぎてはいけない」
「奴らって…っ、おい待て!」
私は追いかけてくるクロードさんをダッシュで振り切り、自室にさっさと籠ることにした。
余計な詮索をされて、もしアウロスを持ち出されたらこの世界が滅んでしまう。あんなもの、破壊してしまった方が良いのだ。
その後、私は部屋の中で白魔法の練習を一人でしたのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
-とある日・中庭-
この日、クロードはとある生徒について思索を巡らせていた。
金鹿の学級でも一つ抜けて他学級の生徒と仲良くしている女、サテュロス・パーネスのことだ。
「パーネス、パーネスねぇ。紋章を持っているのか、持っていないのか。帝国との繋がりがあるのか、無いのか。全く…謎が多すぎるぞ、あの家は…」
クロードは次期盟主として全ての同盟貴族を記憶している。その特性、その領地、その度量。全て知り尽くしたクロードでさえ、パーネスという家については情報があまりに少なかった。
クロードが一人思い悩んでいると、丁度良い所に彼を救うものが現れた。
「おや、クロードではないか!どうしたのだ、そんなに思い悩んで。もしや、僕に次期盟主を譲る気にでもなったのかい?」
「ん…?ああ、ローレンツか。いや待てよ…なあローレンツ、パーネス家について何か知ってるか?」
クロードが「パーネス」と言った瞬間、ローレンツは青筋を立てて明らかに不機嫌そうな表情になった。
クロードとローレンツのいつものようなじゃれ合いではなく、そこには芯の通った、確かな怒りがあった。
「クロード!君は次期盟主であるのならばパーネス家とは関わらない方が賢明だ!奴は貴族の責務というものを愚弄している!果ては娘まで使って領民の虐殺をしているのだぞ!関わるべきではない!」
「……娘まで使って?どういう事だ。何故だかは知らないが、俺の元には殆どパーネス家の情報は入ってこなくてな」
「良いだろう。クロード、君にも分かりやすく説明してやる」
・・・・・・
良いかね、まずパーネス家の悪行がなぜ知れ渡らないか。それはひとえに、危機を伝える者が皆殺されているからだ。
僕も魔法が使われた反応からやっと異常を察知できたくらいだから、普通の間者などでは分かるはずもあるまいよ。
パーネス家現当主、ゴエティア=ヘルズ=パーネスは非常に残虐な男だ。
奴は「狩り」と称して罪も無い領民達を殺すのだ。それも、聞けばまだ成人もしていない娘を連れて、娘に領民を殺させていたそうだ。
今現在は娘が失踪しているため、虐殺は行われていないらしいが…。
しかし、ゴエティア伯の怒りようは凄まじいらしい。なんでも、領内に「娘を見つけたら連れてくるように、死んでいても構わない」…という旨の触れを出したそうだ。
連れて来た者には多額の報酬と永遠の安息を与えるとも言っている。
正直…僕はゴエティアの娘に見つかって欲しくないと思っている。見つかれば、死は免れぬだろうからな。
・・・・・・・
「………それで、その娘の名前は?」
「確か──────まさか!?」
「どうしたローレンツ、思い当たるのか!」
ローレンツは震えた声でただ「ついて来い」とだけ呟いた。
クロードは何も言わずそれに従い、ローレンツについて行った。そして、二人がたどり着いた先には丁度「サテュロス」と書かれた部屋があった。
「サテュロスさん、僕と話をしないか」
ローレンツが語りかけると、入って来いとでも言いたげにドアが開く。
二人は生唾を呑み中に入った。
「クロードさ───どうして!?」
「赤い髪、緑色の目、やはりだ…間違いない。サテュロス=ヘルズ=パーネス、君はゴエティア伯の娘、サテュロス=ヘルズ=パーネスだね?」
「な、なぜその忌み名を…」
ローレンツが問い詰めると、明らかに動揺したようにサテュロスは目を見開いた。一月以上も共に過ごして来ている二人が見たこともないほどサテュロスは狼狽していた。
「なあサテュロス。お前────」
クロードが言葉を紡ごうとするのをローレンツが手で遮った。
「サテュロスさん、君はどうしてガルグ=マクへ?」
「え──────何って、そんな…結婚相手を、見つける為…ですかね…?」
「なるほど…飽くまで、言うつもりはない…と。良いだろう!僕は君が自分から話してくれるまでずっと待つとしよう。クロード、君もそれで良いね?」
「お、おう…あー、サテュロス。話したくなったらいつでも気軽に話してくれよな、それじゃ」
そう言ってクロードとローレンツは行ってしまった。
後に残されたサテュロスは、ただ茫然としていたのだった。
クロードとローレンツの関係性が全身が千切れるほど好きです