だから何となくこの作品を書きたくなりました。
死んだときの記憶は無い。よくあるトラックにひかれたのかも知れないし、病気で死んだのかもしれない。
ただ、それなりに長生きした記憶はある。結婚は、まぁ出来なかったが、平成から令和にかけて晩婚化はますます進んでいたし、自分から動かない男にチャンスがある訳もない。
あぁ、勘違いしている奴が沢山いるだろうから言っておくけど、彼女が出来ない、結婚できないってのは外見や収入が悪いから、が全ての原因じゃねぇからな。
単に、理由はどうあれ自分から動かないからだ。もしくは節操なしに手あたり次第食い散らかしてりゃ女にも愛想をつかされるだろう?
現に、ブサメンでも低収入でも結婚して子供作ってひぃひぃ言いながら何とか生活している奴もそれなりにいるし、いっそ開きなおって生活保護を受けたり、保護費を増やす為にガンガン子供を作る奴もいる。
そういう奴を見習えって訳じゃねぇけどよ。「神は自らを助くるものを助ける」だっけか?顔も金もないなら、自分から動かなければ女を捕まえることは出来ない。待っていればいつか目の前に自分に好意を持ってくれる女の子がやってくる、なんてことは現実的にはあり得ない。
そういう事に気が付けた時には、俺はもうかなりいい歳になっちまっていた。そう、縁側で緑茶を啜っているのがお似合いのな。だからずっと独り身だ。恋人は右手だけ。
笑ってくれや、プロに筆おろしを頼む勇気すらなかった。いや、店の前まではいったことはあるんだ。ただ、急に謎の震えと汗が出てきてな。自分が酷い奴の様に思っちまって。そのまま自宅へUターンしちまった。
最初も言った通り、死んだときの事は覚えてねぇ。覚えてねぇが、まぁトラックにひかれたって事はねぇはずだ。晩年は足腰が悪くなって、自宅のアパートから出る事も殆どなかったし、多分、ボケって……あぁ、いまはそう言っちゃいけねぇんだっけか?
まぁ、認知症って言うのか?それになっていたはずだ。辛うじて残っている記憶の一つに頭の薬だって言われて呑み続けていたってのがある。
家族は誰も居ない。親は当然先に逝った。兄弟はとっとと死んじまったし、俺の世話をしてくれるものは誰も居なかったはず。
よく覚えてないけどな、多分、行政やら福祉やらに面倒見てもらって大往生したんじゃねぇかな?毎日よく分からない中年のおばちゃんがうちに来ては家事をして、最後の方は看護婦とかも来ていた気がする。ぼんやりとだけどそんな感じがする。最後は自宅で、だったのか病院でなのかは本当に記憶の欠片もない。
んでだ、死んでみて吃驚とはどっかの映画のコピーだが、二次小説にありがちで一時期流行った神様転生ってのをする事になった。
何でも、神様にも都合があってな。俺みたいな魂の大きな奴を捕まえてきては、自分の為に働かせているんだと。曰く、「人が食事をする為に食器やシルバーを使うのと同じように私にはお前たちが必要なのだ。」だとさ。
神様が何を食べるのか、怖くてとても聞けなかった。小腹が空いたからとか言ってパクリとされても俺には何一つ抵抗できやしねぇ。
神様の道具になる、その報酬は再びの人生、いや幾たびも人生を歩める権利と義務。そして力を使えるようにしてくれる事。
力ってなんやねんって思わんでもないが、まぁ俺みたいなラノベや二次小説好きな奴なら耳にタコができる位に聞いたことがあるだろうチートって奴だな。
神様は「
この魂の力を引き出せる位に大きな魂を持つ人間って言うのは滅多にいないんだと。だから俺が拒否しようが関係なしに転生させられるらしい。
道具って、何をすればいいのか不安だったけど、慣れないうちに只生まれ変わって普通に生きて行けばそれでいい、らしい。縁だとか、世界のひずみとか色々教えてくれたけど、よくわからなかった。
後は、慣れてきたら、出来るだけ世界に影響を与えるような生き方をしてくれると助かると言われた。その内勘所がつかめてくる、それまでは好きに生きろ、だとさ。
んで、どういう力が良いか、って聞かれたから色々とテンプレートな要求をしたよ。まずアイテムボックスの様な収納系の能力は当然だろ?後は鑑定とかか?
どういう世界に行くのかは分からんから、それなりに欲張らせてもらったつもりだ。優秀な頭脳、強靭な肉体、出来れば不老不死。あ、でも死にたくなった時に死ねないのは悲惨だから、死にたい時はサクッと死ねる様にしてほしいともな。
後は魔法だよな、魔法。一々修行しなくても色々と魔法が使えれば便利だし、どんな世界に転生しても役に立ちそうだ。何せ俺は魂が大きくて魔力も多いらしいから、どんな魔法も使いたい放題だろうし。
まぁ、神様の答えは社会の荒波に比べればかなり甘く、それでも微妙に甘さが足りなかった。俺が望んだチートは、殆ど神様がデフォルトで付けてくれる初期チートだったみたいでな。それもこれも、道具である俺が簡単に死んでしまうと、俺を使徒にする為に使ったコストが赤字になるから、だとよ。
出来るだけ一つの世界で長く、効率よく神様の食器係を続けてほしい、と。次の世界でも、その次の世界でも可能な限り魂がすり減るまで。
ある意味地獄に落ちたと言えなくもないかもな。
んで、他のチート、鑑定は対象物を精査し自身の知識と突合する能力なら作れるが、所謂アカシックレコードの様な知識の集合体にアクセスするのはお勧めできない。人の心のままでいたいのならって脅された。
同じように、魔法についても簡単な魔法は使える様にしてくれるし、あらかた知識は刷り込んでくれるけど、後は自分で研鑽しろってさ。
まぁ、神様なりの理由があるんだろうな。ただ、俺としてはまぁ、魔法が使えるならそれだけで十分だし、不老不死なら危ない世界に行く事になっても何とかなるだろうと気楽に考えていた。
どんな世界に転生するのかだけは神様は教えてくれなかった。
「特にプレッシャーや試練を与えるつもりは無いし、与える意味もない。人間的な成長はこの際、無意味であるしな。だが、お前はこういうサプライズを好む人間だろう?」
たしかにつまらん人生を生きてきたせいか偶に友人が企画してくれたサプライズは良い人生の潤いになったのは確かだ。
ただ、ちょっと、な。神様のサプライズなんて怖くてどうしようもねぇよ?
「ふむ、心配する必要は無い。最初の転生、尚且つ歩き方を覚え始めたばかりのお前を直ぐに死ぬような危険な世界に送るような事はせんよ。
何度も言うが、別にお前に苦難を与えたいわけではないからな。
お前の記憶にある、お前が好きだった幾つかの作品からランダムで産まれる先を選んだ。無論、誰に産まれるかもランダムだ。登場人物に産まれるのか、モブに産まれるのか。男なのか女なのか、全て無作為だが産まれる年代は原作に絡む事が出来る時期だ、とだけ言っておく。」
そう言うと、俺が言葉の意味を飲み込める迄じっと待つ神様。やがて理解が及んだことを察した神様が「それでは良い旅を」と一言告げると俺の意識が遠のいていく。
意識が完全に落ちる前に「あぁ、産まれてから直ぐに君の記憶が戻る事は無い。恐らく10歳になるまでには今の記憶を取り戻せるだろう。なに、サービスだよ。」と言う神様の言葉に感謝の言葉を口の中でつぶやいたのが、俺の最後だった。
そうは言っても、生まれ変わってからここまで完全に俺の記憶が無かった訳では無い。流石に赤ん坊のころは何も覚えていないけど、ぼんやりと「俺」の意識が今の俺と重なって新しい人生を見てきた。かなり裕福な家庭で、富豪の後妻の子として産まれた。
年の離れた兄達には相手にされなかった。母は小学校に上がる前には死んでしまった。上流階級に産まれたせいでかなり厳しい教育を受けた。それが厳しいのだと理解できるくらいには少しずつ「俺」の記憶が俺に流れていたのかもしれない。
ただ、神様からもらった優秀な頭脳、強靭な肉体は持ち前の高魔力に支えられ期待通りに常人を遥かに超えるスペックを叩き出してくれた。お陰で厳しい教育にも難なくついていけたし、幼いながらも天才と呼ばれていた。
戯れにピアノに初めて触れてみれば、少々たどたどしくとも楽譜を初見でショパンを弾ききった。この辺は前世の経験が出てきたのかもな。
スポーツをしてみれば年上のプレイヤー相手に圧倒して、プロのアスリートからは将来が楽しみだと絶賛される。家庭教師に教わる前から様々な知識を披露し、小学生の勉強など教育を受けるまでもない。まぁ、前は三流の文系とは言え大学を出ていたから、そのくらいは神様のチートが無くても何とかなるけどよ。
あんまり人間離れをしていたせいか不気味がられてはいたが、幼稚園に通う前から実家にある図書室に通い詰めていたおかげで、さもありなんと一部の人達には納得してもらえた。
ぼんやりとした意識の中で、あぁ、剣と魔法の世界じゃない、現代日本に産まれたんだな、と理解できたが「俺」の方の頭はほとんど眠っていたようでその他はよくわかっていなかった。
母が死んだことも、帝王学を含む厳しい教育課程も、兄達から俺の才能に関して嫉妬じみた嫌がらせも、唯一の親が愛情をくれない事も、それほど苦では無かった。
この世界の親については、二度目のせいか真実、親、だとは思えなかったし、兄妹に関しても俺を嫌う理由は理解できる。
一度老境に入った経験があるからな。今更肉親の薄情に嘆くほど純情でもない。それと仕事とはいえ他者の親切の有難さもあの頃は日々感じていた。だから今も側に仕えてくれる子には普通に感謝できていた。
そして、10歳の誕生日を数か月後に控えた頃、ほとんど寝ていた状態の「俺」と俺が一つになった。神様の言う、記憶が戻ったという事か。
そして速やかに床に崩れ落ちた。自室での休憩時間で良かったよ。
いや、良いんだ。俺この作品大好きだから。あの二人が幸せになる場面をこの目で見届ける事が出来るのならファンとしてこれ以上の喜びはない。もちろん、原作では語られなかった後輩二人の恋愛頭脳戦を鑑賞できるなら猶更だ。だからこの世界に産まれた事は本当に嬉しい、んだけど、何で俺が「
そう、俺は若い頃から好きだった「かぐや様は告らせたい」の世界に産まれてきたのだ。それもよりによって、この世界のヒロイン……は作者的には藤原千花という説もあるけど、メインヒロインである四宮かぐやの腹違いの兄で、半分敵役の、そして彼女を冷たい氷のかぐや姫に育ててしまった自称屑人間、四宮雲鷹、に。
あぁ、好きなキャラクターに嫌われる人生しか見えない。