お兄様は嫁がせたい   作:たらこ40

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初めてのかぐや視点です。

正直、これまで書いてきた部分の帳尻合わせに苦労しました。
不自然になったりおかしな結末になったり、何度か書きなおして、1日かけてしまったお話です。


今も何処か気になるので投稿前にもう一度読んでいます。


かぐや様は兄さまを……

 私は親の愛情を受けた記憶がない。母親は私が生まれてからすぐに亡くなってしまった。父親は母が亡くなってから殆ど私にかまってはくれなかった。

 

 

 私には赤ん坊のころの記憶がある。

 

 

 記憶にある中で一番古い記憶は多分、母の亡くなる少し前。赤ん坊だったからぼやっとした視界の中だったけど、おそらく父と母が寄り添って外を見ている風景だった。

 

 

 それ以来、私に家族と呼べる人は一人、いや二人だけ。

 

 

 一人はもちろん父。

 

 

 

 本当に回数は少なかったけど、抱き上げて母に沿わせてくれたから。小さい頃何回か頭をなでてくれたから。それが愛情なのかはわからない。

 

 ただ、頭をなでてくれた父はいつも悲しそうだった。

 

 

 

 もう一人は兄さん。私には兄は3人いる。だけど私が心から兄と呼べる人は一人だけ。

 

 

 

 四宮家の麒麟児、四宮雲鷹。

 

 

 小さい頃は、ずっと兄さまが私を可愛がってくれた。兄さまがお顔を見せてくれるたび私は笑っていたわ。私を育ててくれたのは早坂奈央。ちょうど同じ頃産まれた娘の早坂愛と一緒に育ててくれた。だから、私にとっては奈央さんはお母さんのようなものね。

 

 でも奈央さんは私のお母さんにはなってくれなかった。

 

 

 まだ私がうまく動けない時から何度か雲鷹兄さまは私のベッドに来てくれて、可愛がってくれていた。

 

 

 隣に寝ていた早坂も、雲鷹兄さまはあやしてくれていた記憶がある。

 

 

 しばらく顔を見なかった時もあるけど、気が付いたら私の顔を覗いて笑ってくれていた。

 

 

 

 兄さまは小さい頃は神童と呼ばれていたって話で、子供の内からお金をいっぱい稼いで、すごく偉い人なんだって、まだ言葉を理解できていなかった私に奈央が寝物語に話してくれた。

 

 

 その時は、言葉としてではなく音として何となく記憶していたけど、言葉を覚えてからその日の事を思い出せば、奈央さんが話してくれた内容を理解できた。

 

 

 

 でも、兄さまが私を可愛がってくれたのは小さい時だけ。ある日を境に兄様はパッタリと私を可愛がってくれなくなった。

 

 

 

 「まだ言葉は通じんだろうから言ってもわからんかもしれんがな。

 

 俺は親父からお前を任された。かぐや、俺はお前を強くしなくちゃならん。もう甘やかすわけにはいかなくなった。これから先、お前がどんなに辛かろうと、泣こうと手抜きはできん。

 

 すまんな、俺にはそうするしかやり方がわからん。」

 

 

 

 そう告げると、私の頭を一撫でして、部屋から出て行った。

 

 

 

 いかに私が兄さまのような天才だとは言え、言葉をまだよく理解できていない時の会話を、細かい内容まではっきりと思い出せる事は殆どない。この言葉の他で思い出せるのは奈央さんがよく話しかけてくれたお話の内容だけだった。

 

 

 不思議と、兄さまのこの時の言葉だけはずっと耳について離れなかった。

 

 

 

 その日から私の兄さまは兄さまではなくなった。奈央さんもお母さんにはなってくれなかった。

 

 お父さんも私を愛してくれない。

 

 

 そして私に味方は誰もいなくなった。

 

 

 

 幼稚園に行くようになって、お家でも沢山の習い事をするようになった。間違ったら手を鞭で叩かれるの。すごく痛いの。間違わないように、一生懸命頑張ったわ。

 

 

 時々、兄さまが最後に頭をなでてくれた時の言葉を思い出したわ。強くなればいいのよ。そうすればまた兄様は兄さまに戻ってくれる。また頭をなでてくれる。そのはずよ。

 

 

 強い人ってどんな人なんだろう。

 

 

 

 

 兄さまは兄さまじゃなくなってしまったけど、私を色々なところに連れて行ってくれた。どんな場所に行っても皆、兄様に頭を下げていた。兄様は私を見るときはすごく冷たい目をしていた。

 

 

 兄様はきっと強いのね。

 

 

 

 少しずつ兄様の目を真似できるようになってきた。兄様を見るときはいつも真似していたわ。だって、目の前にお手本があるんですもの。何となくにらめっこをしているようで内心笑いを堪えていたのは内緒。

 

 

 

 早坂と再会したときはうれしかった。早坂は赤ちゃんの時一緒にいたことを覚えていなかったけど、初めて友達ができるのだと思った。

 

 

 私に味方してくれる子が早坂だったら素敵だわ。そう思った。

 

 

 でも早坂は友達にはなれないって。

 

 

 だからお願いしたの。お仕事でもいいから私の味方になってほしいって。

 

 

 本当は友達になって欲しかった。本当は普通におしゃべりしてほしかった。だって赤ちゃんの頃から一緒にいたんだもの。それってもう姉妹のようなものよね。

 

 

 本当は、お姉ちゃんになってほしかった。

 

 

 本当に欲しいものは手に入らないと学んだわ。

 

 

 

 

 習い事を早坂も一緒に受けるようになって、表情を殺すことを学んで、泣いては駄目と教わって早坂は泣いちゃって。

 

 

 母さんの七回忌の時に学んだわ。兄様もよく言っていた。言葉にした約束を守らない奴は信用できないと。

 

 早坂も教えてくれた。信用できる人だけを友達にするべきだと。

 

 

 

 早坂の顔が凄く寂しそうだったのを覚えている。

 

 

 だから私に友達はずっといなかった。

 

 

 早坂は友達じゃない。私の使用人で私の味方。それは早坂自身が選んだから。だから私に友達はいない。

 

 

 

 

 

 

 早坂が家出をしたとき、私は間違えた。

 

 

 いつも強い早坂が、奈央さんに嘘つきと怒鳴って家を飛び出したの。私はとっさに早坂を追いかけた。

 

 

 あの子、足が速いから中々追いつけなくて。一度見失ってからあたりを探し回ってやっと見つけて。

 

 

 「なんで」って聞くから、早坂が選んだ答えをそのまま返したわ。

 

 

 

 

 だって、あの時早坂が求めていた言葉は、私にとってはどうしても口にできない言葉だったから。

 

 

 本当は友達だと言いたかった。でも、私は早坂と友達になる約束はしていなかった。

 

 

 言葉で、ちゃんと確認して約束していなかった。だから、あの時私は「友達だから」とは言えなかった。

 

 

 

 

 あの日から早坂は使用人になった。私には味方は一人もいなくなった。

 

 

 

 ある日奈央さんから、東京の四宮邸に雲鷹兄様が住む事になりそうだと。それを父が望んでいるという事を話して、私に許可を求めてきた。

 

 

 

 良いも悪いも、元々この家は雲鷹兄様が東京に住む際に建てた家。私は兄様に住まわせてもらっているだけ。少し考えたけど、断る理由はなかった。

 

 

 

 

 ふと思った。私に味方はいない。一人で生きている。私は泣かない。私は友達がいなくても平気だ。

 

 

 私は……、強くなったのではないか。

 

 

 

 

 兄さまの言葉が頭に浮かぶ。「お前を強くしなくちゃならん。」兄様は私が強くなったか見に来るのかもしれない。私が強くなったら兄様は兄さまに戻ってくれるのかもしれない。

 

 そんな事あるわけないのに、その時は何となくそうだと良いなって思った。

 

 

 でも、もしかしたら。

 

 

 

 だけどここで弱いところを見せては駄目。強くなったと思ってもらえない。顔を見たらまた睨み返すか、気を抜いたら弱い所見せてしまうかもしれない。だってお久しぶりですもの。もしかしたら笑ってしまうかもしれないわ。

 

 

 これは兄様のテストかもしれない。

 

 

 

 幼いころからの家庭教師もよく、意表をついて急にテストをしてきた。そしてちゃんとできなかったら手の甲を鞭で叩くのだ。

 

 

 それならば甘えないところ、強いところを見せなくては。

 

 

 

 

 でも正直、兄様に会うのは怖い。今、あの冷たい目で睨まれるとどうすればいいのかわからなくなってしまうかもしれない。

 

 

 

 ……今はあまり兄様と顔を合わせたくない。

 

 だって、もう今更な話じゃない。兄さまは兄さまではなくなって私を愛してくれないのだから。子供が臍を曲げるような言葉が私の中にポッと出てくる。

 

だって子供だし。

 

 

 自分でもどうすればいいのかがわからない。もう少し時間が欲しい。

 

 

 

 「普段、お互い顔を合わせないようにしていただけるのなら問題ありません。」

 

 

 

 少しでいいのよ。私の中で色々と整理がついてからなら、また以前の様に兄様のあの冷たい目にも耐えられるから。

 

 

 

 

 直ぐにでも兄様がお引越ししてくるのかと思ったけど、お返事をしてから、ずっと兄様は来なかった。仕事が忙しくなって、欧州に出かけているのだとか。

 

 

 

 少しホッとした。

 

 

 

 いつの日からか、少しだけ早坂がやさしくしてくれる時があった。何かあったのかもしれない。

 

 そういえば、兄様がこちらに引っ越ししてくるかもしれないと聞いてから、少しだけ今までと雰囲気が違ってきたような気がする。

 

 

 

 だけど私との関係はずっと使用人と主人のままだった。気が付けば、ほんの少し立ち位置が私に近くなった位の違い。

 

 

 だけど、私に取っては大きな違いだった。

 

 

 

 結局兄様はお仕事で2か月くらい欧州に行っていた。

 

 

 ある日学校から帰ると、家の者が雲鷹兄様がいらしていることを伝えてくれた。

 

 

 ……普段合わないようにと御約束したけれど、こういうときくらいは挨拶をした方がいいわよね?

 

 兄様のお家に住まわせてもらっているのは私の方なんだし。

 

 

 

 流石に2か月も時間があれば私だって覚悟の一つくらいつくわ。

 

 

 兄様の側近の方に挨拶をしたい旨お伝えして応接室で待つ。ちゃんと上座は兄さまの為にあけてあるわ。

 

 

 

 それほど待たない内に雲鷹兄様が応接室に入ってきた。あぁ、何年ぶりの兄様だろう。

 

 

 

 「2か月の間、欧州でのお仕事お疲れさまでした、お兄様。これからは我が家でゆっくりとお寛ぎください。」

 

 

 

 自然と兄様を労う言葉が口をついて出てきた。でも隙は見せない。ちゃんと兄様を見習って目を作る事は忘れない。

 

 

 「おう、その言葉に甘えよう。急に世話になる形になっちまってすまんな。変わりはないようだな。」

 

 

 変わりは……ありますよ?小学生の頃より成長しましたし、いっぱい勉強しました。家庭教師からも褒められましたし。

 

 

 強く、なりましたよ。きっと。

 

 

 

 「えぇ、おかげさまで、お兄様も。」

 

 

 えっと、お変わりなく、お変わりなく?今気が付いたのですけど、本当にお変わりありませんわね。え?赤ん坊の頃に見たお兄さまとも変わっていないように見えるのですけれど。

 

 

 

 「……っ!」

 

 

 

 え?えっとお兄様って今お幾つでしたっけ?あれ?父も兄たちも私が子供の頃と比較すればちゃんと年を取っている。お顔も変わってきているし、しわも増えてきたわ。

 

 

 奈央さんも、直接言うと睨まれてしまうけど、その……、最近小じわが増えてきているって、この前零してたわよね。

 

 

 私の計算が間違っていなければ兄様ってたしか39歳位よね?奈央さんと大して変わらないお歳のはず。でも、どう見ても私の同級生とあんまり変わらない感じなんだけど。

 

 

 

 

 「……お変わりがない様で。ええ、本当に……。」

 

 

 

 思わず崩れた表情をグッとこらえて引き締める。駄目だ、これは罠よ。目の前のお手本に忠実に目を作る。

 

 

 

 乗りき……った!

 

 

 

 私が体勢を立て直している間に兄様はきょろきょろと応接室の中を見渡していた。

 

 

 

 「何かございましたか?」

 

 

 

 内心の動揺を表に出さないように声を作る。先生に教わった表情を出さない訓練、こんな所で役に立ったわね。

 

 

 

 

 「あぁ、いや。所々、昔と変わっているなと思ってな。良い趣味だ。」

 

 

 

 応接室の調度品は早坂と二人で相談していくつか変えていた。まだ「完全な使用人」じゃない時の早坂と。

 

 

 

 「申し訳ありません。元々はお兄様のお屋敷だったのですからご不快に思われたらご容赦ください。」

 

 

 

 思わず声が冷たくなる。

 

 

 

 「いや、今はここの主人はお前だ。お前の好きにすればいい。俺は適当に隅っこで暮らすから、約定通り、必要以上に関わるな。お互いにな。」

 

 

 

 「っ!……」

 

 

 

 私は認められた?ここの主人は私。それは私が強くなったという事ですか?

 

 

 でも、あぁ私は言葉をまた間違えたのね。言葉が足りなかったわ。心の準備が付くまではってつけるべきだったのよ。

 

 

 え?ちょっと待ってよ。それじゃ私はもう兄様とは関われない?

 

 

 いや、普段は、だから。何か特別な事があればいいのよ。簡単よ、色々と理由を作ればいいの。そうして段々と空気を変えていってそのうち新しい約束を交わしましょう。

 

 

 でも、一度胸に広がった動揺は簡単には収まらなかった。

 

 強くなったと、多分認められた。でも関わらないと約束してしまった。兄様は兄さまにまだ戻ってくれない。

 

 

 

 「分かりました。お兄様。それでは私はこの後用事がありますので失礼しますわ。」

 

 

 

 カッとなって、とっさに立ち上がってしまった。立ち上がったからには部屋を出なくてはならない。ほんの少しだけ期待する。

 

 

 兄様が私を呼び止めてくれるのを。強くなったなって。

 

 

 

 そんな事起きる訳がないのに。

 

 

 欲しいものは手に入らない。足早に部屋を出て自室に向かう。

 

 

 何故かいつもより近い位置で早坂が付いてきた。

 

 

 

 

 そんな私に初めての友達ができて、少しずつ早坂との誤解も解けてきて。中学を卒業して、高校生になった。

 

 

 入学式から一週間たったころかしら。仕事で忙しそうに世界中を飛び回っている兄様から一枚のカードが送られてきたわ。

 

 

 たった一言添えられたカード。

 

 

 「卒業、おめでとう。」

 

 

 思わず声を上げてしまった私を、私は責めない。これが兄様が私を認めてくれた言葉ではないのはわかる。でも、今までこんなことしてくれたことはなかったのに。家族の誰もしてくれなかったのに。

 

 

 生まれて初めてのお祝いの言葉!

 

 

 うれしくて、どうすればいいのかわからなくて早坂に泣きながら抱き着いてしまった。丁度、カードを態々手渡しで届けてくれた奈央さんにも飛びついた。

 

 

 早坂も奈央さんも涙を浮かべながら抱き返してくれた。

 

 

 

 その日から、私の机の中に宝物が一つできた。引き出しの奥に大事にしまってあるの。

 

 

 

 




細かい事を言ってしまうと、赤ん坊の視力とか色々あるんでしょうけど……。背もたれの長い椅子に座っている名夜竹さん。高齢なはずなのに隣に立っているお父さん。二人で笑顔で満月を見ている筈なのにお互いを見つめているあのシーン。

 奇麗な満月よりもあなたを見ていたい。

花火大会のかぐや様と被って、実に印象的なシーンでした。

あの幸せそうな二人の場面を覚えているかぐや様は、多分幸せ者だと思うのですが。

私の父と母は愛し合っていたと確信できるシーンだと思うのですけど、そういう言及ってないですよね。


あれだけクイズや謎々が得意なはずのかぐや様が01300101をみてハッとこなかったのも、多分悲しい事なんだと思います。

母の命日は知っている筈なのに。

かぐや様は救われてほしい。原作を読んでいる時強く思った事です。
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