お兄様は嫁がせたい   作:たらこ40

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漸くかぐや様登場、だけど地の文だけです。というか、もうしばらくかぐや様のセリフないかも。


惚れた女を信じる辛さ

 あくる年の1月1日。かぐやが産まれた。そして同じ月の30日、お母さんの名夜竹さんが亡くなった。

 

 

 かぐやは産まれたばかりのこの短い期間の事をおそらく映像として記憶している。その小屋が何処に在るのかも理解していた以上、自身の周囲の一連の流れを理解して記憶していたという事になるのかな?

 

 

 大した才能だ、の一言で片づけていい能力じゃないな。

 

 

 彼女が、「父親としての愛情の掛け方」を理解できなかった親父に、それでも父として幼いながらに慕っていたのは、この時期の記憶が基になっているからという可能性がある。

 

 

 病の床に就いている名夜竹さんにかぐやを抱き上げ、赤ん坊の顔を彼女に見せてやった、なんてエピソードがあってもおかしくない。

 

 普通なら覚えている訳が無い、父親に抱き上げられた記憶がかぐやの中に残っているのなら、幼い頃のかぐやが滅多に会えない父親を慕うのも理解できる。

 

 

 名夜竹さんが亡くなってからの親父は急激にしょぼくれた。だがかぐやの存在が親父の唯一の心の支えになったみたいだ。

 

 

 ただ、同時に親父の心の棘として常に彼に刺さる存在にもなった。男が一度一喝して、DNA検査を拒んだんだ。万が一の際、名夜竹さんの、いや惚れた女の子供を守る為に。

 

 馬鹿だなとも思うし、漢らしいとも思う。その後それを引き摺ってかぐやを構ってやれなくなったのは不幸だけど。

 

 一人の人間にあれもこれもと望むのは難しい事だとは思うけど、これに関しては何といえば良いのか判らん。ただ単純に親父を責められる問題じゃない。

 

 

 検査の件は、再度俺達兄弟も集められて念を押された。

 

 

 黄光兄さんはかぐやに親父の血が入っていようがいまいが関係ないという立場だったし、青龍兄さんはそもそも関心が無かったようだ。俺は俺で、特殊な能力のせいか、何となく血のつながりが理解出来ちゃったりする。

 

 

 うん、安心しなよ。間違いなくかぐやはあんたの子だよ。ぼんやりと感じる魂の波動が似ているし、オーラからも血縁関係を感じる。

 

 

 と、いうか彼女が育つにつれ、四宮の血筋であることはよりはっきりとしてくるのだけれども、今の段階ではそれはわかる筈もない。

 

 

 勘当覚悟で検査を強行して、親父とかぐやの間に存在する棘と壁を取り払ってやる事も、出来るがやらない。別に勘当を恐れている訳じゃない。

 

 

 それをしてしまえば、原作の流れが崩れ、彼女が白銀と添い遂げられなくなる。それだけはこの世界の異物である俺の責任において許容できる事ではない。

 

 

 かぐやは、いずれ白銀が救うだろう。だが、親父は……。この先約17年、疑念に焼かれ苦しみ続けて真実を知ることなくこの世を去る事になる。

 

 最愛の筈の娘に愛を注ぐ事すら出来ず。

 

 まさしく地獄だな。

 

 

 それを見て見ぬふりをし、更には原作通りの教育を彼女に課すことになる俺もまたろくでもない外道だけど。

 

 

 

 正直、名夜竹さんを助けようと思えば助けられなくも無かった。最近、医療に関しての魔法をコソ練していたからな。犠牲になったネズミやゴキブリには哀悼の意を表する。上手くいけば最低でも数年は命を伸ばせていたんじゃないかな。

 

 ただ、親父と名夜竹さんの間に、胡散臭い魔法治療の話なんかを持ち出して入り込むのはちょっと無理だったし、人間相手にぶっつけ本番する勇気も無かった。言い換えれば救命活動でAEDを使えば助かるかもしれない人をAEDの使い方が良く分からないし自信がないから見捨てたという事になる。非道だよな。

 

 それにここで名夜竹さんを助けてしまえば原作が大きく崩れる。だから見捨てた。人としてあるまじき行為だよな。人からこれを聞いたのなら胸糞悪くて殴り飛ばしているだろう。

 

 

 結局、俺の出来た事は保険を掛けるだけで精一杯だった。あ、生命保険の話じゃねぇぞ?

 

 不老不死を公言してはいても、俺はまだ人間だと思われて生きて行きたい。

 

 

 

 そのまま黄光兄さんの言葉に従って暫くは日本で生活をつづけた。親父を支えつつ、兄さんを支えつつ。最近は何となくだけど兄さんも俺に対して当たりが柔らかい。まぁ、そのうちまた自分の立場や家を守る為に変わってしまう可能性もあるけど。

 

 

 かぐやも生まれてから暫くは本家で親父の近くで育てられていたけど、産まれた時からの記憶を持つかぐや曰く、父親からの愛情を受けた事が無いと言うのは表面上はそのままだった。

 

 親父はまだ赤ん坊の筈のかぐやにどう接すればいいのかすら分からないまま、乳母代わりの早坂ママに世話を任せきりで偶に顔を見せるのが関の山だった。

 

 流石にかぐやも赤ん坊のころの記憶をすべて覚えている訳では無いだろうから、俺は気にせず可愛がっていたけどな。

 

 

 何の気遣いもせずにかぐやを可愛がれるのは白銀とのゴールインが確定した後か今の時期しかないからな。

 

 

 俺的には数あるお気に入りの作品の中でもトップクラスに好きな作品の、しかも好きなキャラクターだから、赤ん坊とは言え推すのは当然だろう?これから俺は嫌われるんだし、せめていまくらいは良いじゃないか。

 

 

 親父の横車のせいで少々四宮家が動揺したが、黄光兄さんの影響か、それとも俺が帰ってきているせいか思いの他動揺は広がらず、四条が付け入るスキはなかったようで、表面上は平和そのものに見える。

 

 

 だが間違いなく何処かしらには四条が食いついてきているんだろうけど、簡単にわかる事じゃない。だから念のために正答率90%以上の占星術で占ってみたら、やっぱりこの時点で何人か食い込まれている事が判明した。

 

 

 当然、原作の流れを作り出すためにも放置したけどね。誰が転んだかも調べはついている。一応、転んだ彼らの弱みは掴んでおくけど。

 

 これ、占い師でも食っていけるな。万が一、四宮を捨て自由になる選択をしたら占い師で食っていくのも面白いかもな。

 

 白銀父の様に。

 

 

 

 年に数回、アメリカに戻って仕事を片付けているけど、ネットワーク技術が発達してきた昨今は態々遠距離を移動する必要は激減してきて、今ではほぼネットワークから指示を出すだけで事業を回せている。

 

 

 最初から自分が居なくてもある程度回るように基本を組み立てていたからな。ただ、新規事業を立ち上げたりするのは、やはり現住所の日本でやった方が良いだろう。立ち上げの時が一番大変だし。

 

 

 そもそも新規の事業を立ち上げる必要は今の所ないだろうけど。

 

 

 そんな事を考えながら、2歳になったかぐやと早坂愛の相手をしていたら、親父に呼び出された。ん?まぁ大丈夫だろう?2歳の時の記憶が残っていても、それほど原作に影響はないだろうさ。心配する必要ないさ。

 

 俺がかぐやに恨まれて嫌われるのはこれからだよ。

 

 

 

 「雲鷹、お前、結婚は考えておらんのか。」

 

 

 

 黄光兄さんと同じように、呼び出された部屋に入ったら座るのを待つでもなく出合頭に一言を掛けてくる。

 

 血なのか、それともそう言う家風なのか。まぁ、つまらん前置きで時間を潰すよりは建設的ではあるけど。

 

 

 お互い牽制しあいながら腹を探る必要は、今は無いしな。

 

 

 「あぁ?いや、結婚って言われてもな。俺らに結婚の自由があるとは思っちゃいないし、今更好きな奴もいない。

 

 正直面倒だとしか思っていないからな。必要なら言われたとおりに結婚するよ。」

 

 

 うん、前世通して未だに清い身体をキープしているからな。ここまでくると、清いまま突っ走るのも悪くないとさえ思えてきた。長年連れ添った右手も時折慰めてくれる左手も、今更見捨てる訳にもいかんし。

 

 

 ま、まぁ?美人さんと一緒になれるって言うなら、ちゃんと愛する気持ちはあるけどな。

 

 答えながら親父の前に、ゆっくり座る。今回はテーブルの上に俺の分のお茶も用意されている。当たり前なんだろうけどちょっと嬉しい。

 

 

 何やら親父は難しい顔をして考え込んでいる。時折お茶をすすりながら。俺もそれに合わせてお茶をすする。うん、流石四宮家のしかも親父に出される茶だけはある。普段使いの筈なのにかなりいい葉っぱを使ってやがる。うめぇ。

 

 

 「お前には迷惑をかけた。黄光の指示だろうが、忙しい中、帰国させてしまって長い事縛り付けてしまったな。」

 

 

 親父の口からは信じられない言葉が出てきた。まぁ、俺が四宮グループの一員であることは間違いないし、四宮の事業を幾つか経営しているのも事実だ。

 

 だけどスタンフォード入学あたりから起こした新事業は、四宮グループとは直接関係ないようにしているし、俺自身四宮に寄り掛からんでも生きていける。その気になれば簡単に出奔できなくもないのは事実だ。

 

 

 いや、だからと言って仮にも家族を見捨てるほど薄情ではないつもりなんだけど。原作の雲鷹さんなら兎も角。

 

 

 

 彼も、かぐやに関しては歪んではいたけどちゃんと兄として愛情を注いでいた。もともとそう言う優しい気質は持っているのさ、この雲鷹さんには。

 

 だが態々そんな事を言い出すという事は。

 

 

 「て、事はそろそろお役御免って所かな。」

 

 

 それはちょっと不味い。原作ではこの後俺がかぐやを育てるとこになる筈なのだがこの流れはアメリカに追い出される流れじゃね?

 

 

 「あぁいや。俺が選んだ婚約者はあんな事になっちまった。前に言ったろ?相手を選んで少しは遊べってな。

 

 あっちでお前を待っている奴はいないのか、という話だ。」

 

 

 「さっきも言ったが本当にいねぇなぁ。」

 

 

 あぁ、もしかしてかぐやを預けるのに独身男性だと荷が重かろうって事なのかな。もしアメリカに好きな奴がいるのなら、結婚を認めてやる、代わりにかぐやの面倒を見ろって事か?

 

 なるほど、それならこの話の流れも分かる。が、俺は普通に女にもてねぇんだよ。主にこのベビーフェイスのせいで、だと思う。

 

 前にも言ったけど引っかかってくるのはショタコンの変態ばかり。勘弁してほしいのですよ。

 

 

 黄光兄さんの様に溜息を一つ吐くと親父はぼそぼそ言葉を続ける。

 

 

 「俺はもう、お前の結婚をどうこうしろと言う気はない。お前自身の価値に釣り合う娘はそうはいない。今更お前に後ろ盾が必要にも思えん。」

 

 

 まぁ、そうなんだよね。閨閥を作る為の結婚ってさ。家同士の繋がりを強くする為なんだけど同時に結婚する人自身の後ろ盾を確保する行為でもあるんだよね。

 

 つまり、現時点で俺に後ろ盾は必要ないから好きにしろ。四宮家としても取り込みたい家が特にある訳では無いって事かな。いや、正確に言えば俺の機嫌を損ねてまで取り込みたい家は無いって事だな。

 

 

 つまりそれなりに俺自身の力を四宮家が把握し、尊重……警戒しているって事かもしれん。

 

 

 「とは言っても、近づいてくるのは少年趣味の性癖を持った女か男なんだけどね。」

 

 

 「はっ、難儀なものだな。いっそその変態を娶りゃいいじゃねぇか。おっ!それで万事解決だな、ぉぃ。」

 

 

 「勘弁してよ。その結婚、本当に必要な結婚なのかい?家にとっても俺にとっても。」

 

 

 「まぁな、もしも歳に似合いの相手を見繕ったら……、少し考えれば絵面がやべぇな。……つーかお前本当に年を取らねぇな。今何歳だ?」

 

 

 「27歳。あと2か月で28歳だな。」

 

 

 「そのなりでアラサーかよ。あいつの血筋に仙人がいたって与太話を信じたくなるな、こりゃ。」

 

 

 名夜竹さんが亡くなってから久しぶりに親父が笑った。苦笑に近いものだけれども、少しは心の整理がついたのだろうか。

 

 

 「まぁ本当に不老不死だからな。」

 

 

 そんな俺の言葉を鼻で笑い飛ばす親父。本当だとしても確かめようは無いだろうから、ここで嘘をつく必要は無いのだよ。

 

 ただこのままだと、いつまでたっても本題に入れない。

 

 

 「かぐやの事だろう?側に置いておくのが辛い、四宮家から距離を置かせてやりたい。親戚連中は未だにかぐやを濁った眼で見やがるからな。

 

 後は俺が後妻の子供だから、かぐやを上手く育てられるんじゃねぇか?

 

 そんな話なんじゃねぇかと思ったんだが。」

 

 

 親父からは切り出しにくいだろう話をこちらから切り出してみる。これは一種の賭けだよね。此方から切り出したせいで、否定し反発されて思わぬ流れになってしまう可能性もある。

 

 

 原作の雲鷹さんは多分、碌に説明を受けずに押し付けられた、もしくは四宮家から連れ出したのかもしれんけど。

 

 

 「だが独身のやもめ暮らしじゃ子供一人育てるのも手間だろう、せめて俺が家庭を持っていればって事かい。」

 

 

 特に驚くでもなく、親父は俺に視線をやる。

 

 

 「まぁ、お前ならその位察するわな。かぐやは女だからな。傍に身内の女がいた方が色々と都合がいいだろう。」

 

 

 原作では度々義姉様という単語が出てくる。複数形ではなく単数形だ。恐らくは雲鷹の妻の事を指しているのだと思う。

 

 仲は悪いというような感じではなく、親戚付き合いとしてつかず離れず、誕生日なんかの時にはお祝いをしてくれる程度には親交があったようだ。

 

 だが、この世界の雲鷹はぼっちだからな。そうか、俺は彼女から義姉も奪ってしまう事になったのか。

 

 

 

 「黄光の所は駄目だ。あれは今は落ち着いているが、いずれかぐやを道具にする。青龍は論外だな。あそこは夫婦仲が良くない。そのうちかぐやに害が及ぶだろうよ。」

 

 

 「黄光兄さん、信用ないね。まぁ、俺の方は女手は何とかなるでしょう。定期的に早坂を回してくれれば、多分。同い年の同性の子供がいるんだから、それなりに頼れるんじゃないですか?」

 

 

 微妙に納得できていない親父が微かに首をひねる。出来れば身内の女性に任せたいと思っているんだろうけど。無い袖は振れないのだよ。

 

 

 

 「かぐやを預かるのは別に構わないけど、預かるからには責任が出てくる。単にかわいがるわけにもいかんでしょ。四宮の人間として育てる事になりますよ。

 

 年頃になる前には親の愛も知らない糞な人間になっちまうかもしれませんけど。性格も最悪な女にね。それでもかまわないので?」

 

 

 俺の挑発めいた言葉に対して考える風を見せずに即答する親父。

 

 

 「構わん。四宮に産まれた以上、甘やかして育てたら食われて終わるだけだ。特に女はな。あの子を出来るだけ強く育ててくれ。逆に四宮を食らうくらいにな。お前の様に育ってくれれば、俺も安心して名夜竹の所に行ける。

 

 

 すまんが、頼む」

 

 

 そう言った後、「正直、あの子の側に居るのが苦しい。」と聞こえない位小さな声でつぶやいた。

 

 

 それだけ強く名夜竹さんを愛していたってか。愛にも種類がある。相手が自分を裏切ったとしても受け入れる無償の愛もあるだろう。万人向けではないが。

 

 年老いてからの親父の本気の恋は、相手の不貞の可能性も吹き飛ばすくらい強く、しかし自分の種じゃないかもしれないという事実に狂おしいくらいに胸を焼いているんだろうな。

 

 

 信じたい、という気持ちと彼女の子供を守りたい、という気持ち。裏切られていたら、という不安も入り混じって、正直、俺では親父の胸の内は想像もつかない。

 

 

 其処まで辛いのならDNAを調べればいい。彼女を信じているのなら調べればいい。きっと親父を裏切らない結果が帰ってくると俺が断言してやる。

 

 

 だが、もし違うと確定してしまった時、愛する女の子供を守ってやる事が自分に出来るのか、自信が無いんだろうな。

 

 そんな事があった後にかぐやを愛してやれるのか、と。

 

 

 結局そんな自縄自縛に陥って、結果かぐやに素直に愛情を示せなくなってしまう。本末転倒も甚だしいけど、これが人間なんだろう。

 

 

 

 これがこの世界の現実で、これがあるから白銀とかぐやの二人は強く惹かれ合う事になる。そう考える事にして、口を噤む。

 

 

 そうしてただ首を縦に振った。

 




ストックをあらかじめ幾つか投稿しておく事って出来ないんですかね?
よくサイトの使い方が分からないから、ストックを一気に上げてしまってますw

次の分はストックしておいて、もう少ししたら投稿しますね。
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