嫁、懐妊す。
めでたいなぁ、めでたい、めでたいねぇ……村がこんな状況じゃなけりゃなぁ!
おいおいおい、どうすっぺよマジでよ。いつ?いつデキたんです?最初に嫁を抱いたときか?確かにそれなら辻褄は合う……嘘じゃんそんな一発で孕むもんなの?これマジなの?
はあ、現実逃避は止めよう。
まあさ、知ってたよ。なんか嫁の腹膨らんでないかって。でも怖くて理由を聞かずじまいになってたんだよね。結局嫁が業を煮やして「デキたが」と申告してきたことで、いよいよ俺も覚悟を決めなくちゃいけなくなった。
俺親になるんだ……と感慨に浸るのは時期尚早だ。
だって俺たちの子供が生まれてくるの、こんな村*1なんだぜ?俺子供にちゃんと食わせてやれる自信ねぇよ。嫁は「だから早いこと魔法で何とかしろよな」って、言葉では言ってこないけどスゲープレッシャーを浴びせてくる。やめろよ、俺そういうのに弱いんだって!胃が痛くなってきたって!!
チクショー!何で農業に使える魔法を俺は知らないんだぁ!!!!(彼が習った魔法は禁術と軍用魔法ばかりである。)
嘆けど事態が好転することはなし。ならば今は無い知恵を絞るほかないのだが、知恵なさ過ぎて何も浮かばんわ。結局さ、馬鹿が何考えても何も良案は浮かばないってわけよ。俺魔法以外取柄ないし、しかもその魔法もここでは役に立たないってマジ終わってんじゃん。
仕方ないので嫁に相談してみることにした。
認めたくはないが、嫁は地頭だけは前世現代人であった俺よりも良いのだ。その代わり胸も背も足りないんだけどね。
ビシッ
あ!今お前俺の足蹴ったな!?お前がちんちくりんで貧乳なのは事実じゃんかよぉ!あっ、スミマセンスミマセン謝りますのでどうかその拳を下ろしていただけないでしょうか。
「魔法は旦那様の方が詳しいのでは?」
そうだよ!でも俺理論はからっきしでさぁ!既存の魔術を覚えるのは早かったけど、理論をしっかりと理解できてないんだよぉ!だから土壌改善の魔法を新たに作るなんてできないんだよなぁ。これが師匠が俺を凡人以下と評した所以なんだろうな。
「そうですか。しかし私も魔法はさっぱりなのですが」
うんうん、それは俺もよくわかってるさ。
「なので、君には魔法を覚えてもらいます」
「は?」
俺の言葉に呆けた面を晒す嫁。
ふふふ、まあそんな反応になるだろうな。しかし安心してほしい。君は知らないだろうが、魔法とは実は誰でも扱える万能の力なのである。
「いやそれは知ってますけど」
あ、そうなの。
「魔法を平民に教えるのって、族滅の刑でも生ぬるいってもっぱらの噂じゃないですか」
なるほど、そういうことか。でもねぇ、この法律には決定的な穴があるんだよな。
「魔法使いが平民に魔法を教えてはならぬというだけで、平民が平民に魔法を教えてはならぬとは、条文のどこにも書かれていないんだよね」
「魔法が使えたら平民も魔法使いなのでは?」
そう思うよねぇ。だがしかしだよ。
「残念。王国法によると、魔法使いとは王家、または聖14家に連なる者のみ名乗ることを許される名称なんだよ。だから平民が魔法を使おうとそいつは魔法使いじゃないし、故にそいつが平民に魔法を教えようと犯罪にはならない」
ちなみにこれは前村長が所持していた王国法全集から得た知識だ。何であの人あんな本持ってたんだろう。
「なるほど、しかし私が魔法を使えたところで、何の解決にもならないのでは?」
「いやいや、嫁ちゃんは頭がいいだろ?俺の教える魔法式*2から、法則性を導き出して新しい魔法でも作ってくれればいいかなぁって」
「結局他人任せかよこの男。あと嫁ちゃんって言うな」
だってよぉ、無学な俺じゃこのくらいしか思いつかねぇもの。
「安心しなよ。どんな魔法でも使うだけなら自信があるんだ、俺」
「まあいいですけど、夫ならもう少し妊婦に優しそうな方法を思いつけないものですかね」
ははは、それは……ごもっともで。
●
我が名はルイ2世・アキヒコ。以前はルイス・キャロライナ・ベクティムと名乗っていたものだ。
ルイ2世・アキヒコってなんだよ(笑)。俺が自分で名乗ってるんだけどさ、まあバリバリの偽名っつーか通名っつーかさ。何でこんな偽名を名乗る羽目になったかってーと、俺が平民に魔法をバラ撒きすぎたからだな。
本職の魔法使いどもがいよいよ俺の噂を耳にしたらしくて、血眼になって探してるって噂になってんだ。当然その血眼になって探してるメンツの中には俺の実家連中もいるわけで……っつーか、主要メンバー?連中魔法ばら撒き魔の正体を10年以上前に出奔した俺なんじゃねーかと思い至って、必死こいて探しているらしい。そうだよね、お上にばれたら族滅だもんね(笑)。まったく変なところで勘の良い奴らだよな。俺の出奔には最初気が付かなかったクセにね。
とまあ、そいつ等を撒くために偽名を使ってるって一面もあるが、それだけではねーのよなコレが。
そうだよ。俺を殺しにかかってくるクソ弟子どもを撒くためだよ!
なんなんあいつら。俺がどれだけ名前を変えて、どれだけ場所を変えても必ずやってくるんだけど。そんなに俺のこと好きか~?お前ら~(怒)。
クソが。
お前らのせいで夜も安心して眠れねぇんだよ!
何でお前ら徒党を組んでくるの?なんで俺を殺すためだけに組織化してんの!?何だよ『暗黒十字結社』って。そういうお年頃なのかな(笑)。っていうか俺お前らになんかしたかなァ!?俺お前らに魔法を教えただけだよね?なんなのマジで。意味わかんなすぎてウケるんですけど(笑)。
「見つけましたよ、センセー」
背後からさ、聞き馴染みのある声が聞こえるんだよね。
振り向けばほら、俺に弓引く弟子の姿が。もちろん二重の意味でね(笑)。
「もう逃げられませんよ、センセー。さあ、諦めて僕たちの糧になってください」
やだよ。
ふざけんなよ。
俺はまだ才能あるガキ探し終えてないんだよ。
「……ッ、あなたは、いつもそうだッ」
ビュン、と俺の頬を魔弓が掠める。
「相変わらず物に頼るか、エミィ」
魔弓とは、その名の通り魔力を込めた弓である。通常の物よりも引きやすく、威力は強い。しかし……
「俺はそれを魔法とは認めないと、言ったはずだが?」
「無理やりにでも認めさせてみますよ、センセー。貴方を殺すことでね!」
は、はは。
かっこいいセリフ吐いたけどさ、俺エミィに勝てないからね(笑)。
魔弓は魔力を弓矢に込めて使う性質上、純粋なる魔法とは言えない。しかしながらその威力は純粋な魔法の遥か上をいく。本気を出せば理論上たった一度矢を射るだけで超級魔獣*3を蒸発させ、星に極大の穴を開け、地に巨石を降らす。冗談ではなく、本当の話だ。
奴は今、そんなものを凡人にしか過ぎない俺に放とうとしているのだ。
勝てるわけがなかった。
あの……再三言うけどさ、俺お前らになんかした?