【第1章完】スキル【編集】を駆使して異世界の方々に小説家になってもらおう!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第3話(1)またも体を張った取材

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「うおおっ! これですよ! これ! 創作意欲がビンビンと刺激されます!」

 

「そうですか、それは何よりです……」

 

 茶色い三つ編みのヘアスタイルが特徴的な眼鏡をかけた若い女性が興奮気味に手に持ったスケッチブックにペンを走らせる。この若い女性はレイカ先生という。先生ということはつまり、我が社にとって大事なお仕事を依頼する方だ。先日、我が社と仕事をしたクレイ先生のお弟子さんで、新進気鋭のイラストレーターさんである。

 

「うん、とってもいい! 良すぎる!」

 

 レイカ先生のペンが止まらない。

 

「良いですね! 本当に素晴らしい! なんかこう……良い! アイディアがドンドンとあふれ出てきて止まらない!」

 

 そのわりには語彙力が足りてないですね、という余計なことを言い出しそうになったのを私はグッとこらえる。

 

「これは良いです! なぜなら良いものだからです!」

 

 なんか構文みたいなのが飛び出した。

 

「もうなんというか、良さしかない!」

 

「……レイカ先生、参考までにお伺いしたいのですが……」

 

「はい⁉ なんですか、急に質問ですか⁉」

 

「あっ、お邪魔になるようでしたら良いのですが……」

 

「いえ、構いませんよ! どうぞ!」

 

「では……特にどの辺りを良いとお感じになられたのですか?」

 

 ただ『良い!』を連呼されても困る。こちらとしてもある程度は把握しておかないと。

 

「なかなかの質問ですねえ!」

 

「そ、そうですか……」

 

「う~む、やはりこの筋肉の躍動でしょうか!」

 

「筋肉の躍動……」

 

「ええ、さらにその肉体同士の激しいぶつかり合いですかね!」

 

「肉体同士のぶつかり合い……」

 

「技の応酬なんかも見ごたえありますよね!」

 

「技の応酬……」

 

「やっぱりプロレスは最高のエンターテインメントですよ!」

 

「そうですか」

 

「この格闘技をこの世界にもたらしてくれたという異世界の方々にはまったく感謝してもしきれませんね!」

 

 どうやら私と同じ転移者が広めたものらしい。知らなかった。そういえば、元いた世界で観戦した記憶がおぼろげにあるような……。いや、それよりもだ……。

 

「先生、もう一つよろしいでしょうか?」

 

「はい! なんでしょう?」

 

「何故に私はパンツ一丁なのでしょうか?」

 

 そう、私は黒のパンツ一丁という姿でレイカ先生の傍らに立っている。

 

「取材の一環です!」

 

「こ、これが取材? 今ひとつ分かりません……」

 

「モリさんには実際にレスラーの方々から技をいくつか受けてもらおうかと思いまして!」

 

「ええっ⁉」

 

「やっぱり体験してみないと分からないじゃないですか」

 

「じゃ、じゃないですかと言われても……」

 

「本来なら私が受けようと思ったのですが、危険だということで急遽モリさんに代わっていただきました!」

 

「き、聞いていないのですが⁉」

 

「今言いました!」

 

「い、いや……」

 

「より良い作品作りのため……お願いします!」

 

 レイカ先生が頭を下げてくる。ここで私が断って、せっかくの新鋭イラストレーターを逃すようなことになってしまったら、編集長に怒られる。それだけは避けねばならない。私は少し逡巡した後、答える。

 

「……分かりました」

 

「ありがとうございます!」

 

「どうすれば良いでしょう?」

 

「リングに上がって下さい!」

 

 レイカ先生は部屋の中央にあるロープで囲まれた四角いスペースを指し示す。私は言われるがまま、ロープをくぐって、そこに上がる。

 

「上がりました」

 

「はい! ではお願いします!」

 

「うっす……」

 

 見るからに屈強な男性が私の正面に立つ。

 

「じゃあ、ちょっと、ラリアットやエルボーなど、打撃技から見てみたいですね~!」

 

「うっす!」

 

「え?」

 

 打撃技?

 

「そらっ!」

 

「ごはっ⁉」

 

 私は強烈な手刀を胸に喰らう。もちろん手加減はしているのだろうが、それでもかなりの衝撃だ。続けていくつかの技を立て続けに喰らい、私はたまらず倒れ込む。

 

「ちょうど倒れ込まれたので……」

 

 何がちょうどだ、ちょうどって。男性がレイカ先生の方を向く。

 

「はい」

 

「関節技の方をいくつかお願いします」

 

「分かりました……」

 

 関節技? それってもしかして……。

 

「はっ⁉」

 

「まず腕ひしぎ十字固めを……」

 

「!」

 

 男性は私の右手手首を掴み、さらに右腕を脚に挟んで、伸ばしてくる。痛い。

 

「お~極まっていますね~良い感じです!」

 

 レイカ先生がスケッチブックにペンを走らせる。全然良い感じではないのだが。

 

「それでは4の字固めを……」

 

「‼」

 

 男性は私の両脚に脚を絡めてきて、私の両脚を4の字に交差させる。痛い。

 

「お~シンプルですけどそれでいて美しいですね!」

 

 レイカ先生が声を上げる。全然美しくないのだが。

 

「それでは逆エビ固めを……」

 

「⁉」

 

 男性はうつ伏せになった私の体を跨いで、私の両脚をわきの下に挟んで持ち上げ、私の背中を反らせる。これも当然痛い。

 

「お~出た! ポピュラーな技! 奥深さを感じます!」

 

 レイカ先生が叫ぶ。痛さしか感じないのだが。

 

「はあ……はあ……」

 

「お疲れ様でした! ありがとうございます! お陰で良いイラストが描けそうです!」

 

「そ、それは何よりです……」

 

 しばらくして、レイカ先生が描いたイラスト集が発売された。美少年同士がくんずほぐれつするイラストが中心であった。これがまたよく売れた。気を良くした編集長は第2弾を企画しろと言っているが、身の危険を感じた私は適当にはぐらかしておいた。どこまで誤魔化せるだろうか……。その前に小説でヒットを飛ばさなくてはならない。今日も打ち合わせだ。

 

「こ、こんにちは~」

 

 全身水色の液状のような体をした柔らかそうな方が入ってきた。

 

「そ、その体が欲しい!」

 

「えっ⁉」

 

 私は思わず叫んでしまった。相手は戸惑う。

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