【第1章完】スキル【編集】を駆使して異世界の方々に小説家になってもらおう!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第9話(2)内容が良い

「……突然お声がけして申し訳ありません」

 

「はあ……」

 

「私たちは決して怪しいものではありません」

 

「どこからどう見ても怪しいのですが」

 

 ルーシーが首を傾げる。街中で声をかけてきた男女二人、全身黒ずくめのスーツに黒いサングラスをかけているからだ。ルーシーは軽い気持ちで近くの喫茶店に入ってしまったことを後悔した。

 

「……おい」

 

 男が隣に座る女に促す。女が首を傾げる。

 

「はい?」

 

「はい?じゃない、アレをお渡ししろ」

 

「アレ? ドレですか?」

 

「アレと言ったらアレだろう……」

 

「え、コレですか?」

 

「なんでティッシュだ、違うだろ!」

 

「あ、あのう……」

 

 ルーシーが困惑する。

 

「い、いや、失礼! おい、コレだ、コレ!」

 

 男が自分の胸ポケットを指差す。

 

「ああ!」

 

 女は理解する。男が苦笑を浮かべる。

 

「ははっ、お待たせを……」

 

「私はこういうものです……」

 

 女がテーブルに名刺を差し出す。ルーシーが呟く。

 

「名刺……」

 

「……ってか、まず先輩が出すべきなんじゃないですか?」

 

 女が男に尋ねる。男がばつが悪そうな顔をする。

 

「……だよ」

 

「え?」

 

「今切らしているんだよ、ちょうど」

 

「ええっ⁉ それって、社会人としてどうなんですか?」

 

「しょうがないだろう!」

 

「こ、これは……!」

 

「!」

 

 男女はルーシーの方に顔を向ける。

 

「カ、カクヤマ書店さんの方なのですか……?」

 

「は、はい、そうです……」

 

「な、何故、カクヤマ書店さんがワタシのところに?」

 

「実は……おい」

 

 男が女を肘で押す。

 

「あ、は、はい……って、ここは先輩が言うところでしょう」

 

「そうか?」

 

「そうですよ」

 

「いや、こういうの実は初めてだからな……」

 

「私だってそうですよ」

 

「あの……」

 

 ルーシーが怪訝な顔になる。

 

「ああ、度々失礼……」

 

「いえ……」

 

 男は椅子にきちんと座り直して、口を開く。

 

「単刀直入に申し上げます。ルーシーさん、当社で小説を出しませんか?」

 

「ええっ⁉」

 

 ルーシーが驚く。女が手帳を取り出す。

 

「では、早速打ち合わせの日時を決めましょう……」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!」

 

「どうかしましたか?」

 

 男が首を傾げる。

 

「い、いや、なんでワタシなんですか?」

 

「それは……なあ?」

 

「ええ……」

 

「だよなあ?」

 

「そうですよ」

 

 男と女は互いに顔を見合わせて何度か頷き合う。そして、ルーシーに向き直る。

 

「……そういうことです」

 

「いや、どういうことですか⁉」

 

「この期に及んで言葉が必要でしょうか?」

 

「いつだって必要です!」

 

「ふむ……」

 

「……」

 

「我々はルーシーさんの書かれる小説が素晴らしいと思っているのです」

 

「え?」

 

「なんと言っても内容が良い!」

 

「内容が良い……」

 

「ええ、そうです。それに……」

 

 男が女に促す。

 

「挿し絵が良い感じです」

 

「挿し絵?」

 

「ご、ごほん! ごほん!」

 

 男がわざとらしく咳き込む。女は慌てて言い直す。

 

「い、いや、美しい挿し絵がイメージされるような文章だということです」

 

「そ、そうですか……?」

 

「そうです!」

 

「後はなんと言ってもストーリーが良いです!」

 

「ストーリーが良い……」

 

 男の言葉をルーシーは反芻する。

 

「いかがでしょうか?」

 

「え? なにがですか?」

 

「この素晴らしい作品をより素晴らしくするための方法があるのです」

 

「ほ、本当ですか?」

 

「ええ……」

 

「そ、それはなんですか?」

 

「良い環境で磨き上げることです」

 

「良い環境……」

 

「その環境を当社……カクヤマ書店はご提供することが出来ます」

 

「!」

 

「あらためていかがでしょうか?」

 

「お、お話だけでも伺ってみようかな、なんて……」

 

「そうですか!」

 

「では、打ち合わせの日時を決めましょう!」

 

「は、はい……」

 

 その後、ルーシーは店を後にする。男は汗をハンカチで拭う。

 

「ふう、まずは上手くいったな……」

 

「……良いんですかね?」

 

「良いんだよ。なりふり構っていられないだろう?」

 

「はあ……あっ! あそこに歩いているのはスライムのマルガリータさんですよ!」

 

「よし! 声をかけるぞ!」

 

「はい! あ、お会計置いときます! 釣りはいりません!」

 

 男と女は店を出て、マルガリータに声をかける。

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