【第1章完】スキル【編集】を駆使して異世界の方々に小説家になってもらおう!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第2話(2)ボールをすくい取る

「へ~これが編集部っすか~」

 

「ちょっと確認をさせていただきます……」

 

「あ、はい」

 

「お名前は?」

 

「アンジェラっす!」

 

「お住まいは?」

 

「西の村っす!」

 

「ご種族は?」

 

「狼の獣人っす!」

 

「……はい、確認が取れました……」

 

「あの~編集さん?」

 

「はい」

 

「なんでそんなに離れているっすか?」

 

 私が部屋の端の方に隠れるように座っていることにアンジェラさんは困惑気味だった。

 

「えっと……」

 

「お話がしづらいというか……」

 

 それもそうだ、大体失礼にあたる。私はおそるおそるアンジェラさんの座る席に近づく。

 

「実は……」

 

「実は?」

 

「かくかくしかじかで……」

 

 私は先日の恐怖体験について話す。アンジェラさんは笑う。

 

「あ~それでっすか、それはまた大変だったすね……」

 

「す、すみません……狼さんの耳を見てしまうと、体がつい反応してしまって……」

 

「まあ、それも無理ないっすね。でも、あの狼も結構かわいいところあるんすけどね」

 

「そ、そうですか?」

 

「そうっす。よく分かっていないだけっすよ」

 

「は、はあ……落ち着きました。あ、申し遅れました、私はこういう者です」

 

 席に着く前に私は名刺をアンジェラさんに渡す。

 

「モリ=ペガサスさんっすか……」

 

「ええ、モリとお呼び下さい」

 

「……モリさんはニッポンからの転移者ってのはマジっすか?」

 

「え、ええ、そうです」

 

 隠してもしょうがないことだと思い、私は素直に頷く。

 

「すっげえー! オレ、転移者の方、初めて見たっすよ!」

 

 アンジェラさんは目を輝かせてこちらを見てくる。

 

「そ、そうですか……でも、何故私が転移者だということをご存知なのですか?」

 

「いや、もう結構な噂になっていますよ、カクヤマ書房さんにそういう編集さんがいるって。オレの村にも聞こえています」

 

「そ、そうなんですか……で、あれば……ごほん」

 

 私は咳払いをひとつ入れる。アンジェラさんが首を傾げる。

 

「ん?」

 

「ここがカクカワ書店ではなく、カクヤマ書房だということはご存知なのですね?」

 

「ええ、それはもちろんっす!」

 

 後で知らなかったと言われても困るので、このことはきちんと確認しておこう。

 

「では、アンジェラさんは我が社のレーベルから小説を出版することになっても構わないということですね?」

 

「はい! 間違って原稿を送っちゃったのはこっちのミスっすから! それで声がかかるのも一つの縁かなと思って!」

 

「ふむ、そうですか……」

 

「そうっす!」

 

 前向きなのはこちらとしても非常に助かる。私はアンジェラさんの送ってきた原稿を取り出して、机の上に置く。

 

「それでは早速ですが、打ち合わせを始めましょう」

 

「はいっす!」

 

「原稿の方を拝見させていただきました……これは……いわゆる『スポーツ』ものですね」

 

「はい! 『スコープ・ザ・ボール』を題材にしてみたっす!」

 

 スコープ・ザ・ボールとは、こちらの世界で流行っている球技で、赤青2チームに別れた選手たちが、フィールドに設置された四つのかごの中に入った相手チームのボールをすくい取り、制限時間内にどれだけ多くの相手チームのボールをすくえるかを競う競技である。相手に対しての妨害は目つぶし、急所への攻撃を除けば、基本なんでもありである。

 

「スコープ・ザ・ボールはたいへんな人気競技ではありますが、あまり小説の題材にはなっていませんね……」

 

「そうっすよね! 狙い目だと思ったっす!」

 

「確かに目の付け所は悪くないと思います……しかも」

 

「はい」

 

「そこに一捻りを加えておられますね」

 

「ええ、主人公は転生した先の異世界のニッポンで『スコープ・ザ・ボール』を行うという展開なんすよ!」

 

「うむ……」

 

 私は軽く額を抑える。

 

「どうっすか! この展開⁉」

 

「……」

 

「衝撃的だと思うんすけど⁉」

 

「……確かにインパクトはあります」

 

「そうでしょう⁉」

 

「ただ……」

 

「ただ?」

 

「展開に無理があります」

 

「え?」

 

「私はニッポンからの転移者です。転移の際のショックで記憶がおぼろげなのですが……ニッポンをはじめ、あの世界の方々にスコープ・ザ・ボールは受け入れにくいと思います」

 

「ど、どうしてっすか⁉」

 

「……逆なんです」

 

「逆?」

 

 アンジェラさんが首を傾げる。私は説明する。

 

「向こうではボールをかごに入れる競技が流行っています」

 

「かごに……入れる⁉」

 

「ええ、ボールを蹴ったり、投げたり……」

 

「はあ……」

 

「棒と棒の間に通したり……」

 

「へえ……」

 

「ボールを棒で打って、客席に入れるというのもありましたね……」

 

「それ……なにが面白いんすか⁉」

 

「そこなんですよ!」

 

 私はアンジェラさんを指差す。

 

「えっ⁉」

 

「価値観などがまるっきり違う相手……異世界の方々がスコープ・ザ・ボールをすんなりと受け入れるとはどうしても考えにくいのです」

 

「な、なるほど……」

 

 アンジェラさんは頷く。私は原稿を眺めながら呟く。

 

「無理に異世界などへ行かず、この世界でスコープ・ザ・ボールを行う小説の方が無難かと思いますが……それだとインパクトに欠けますね。もちろん、インパクトが全てだとまでは言いませんが……」

 

「う~ん……」

 

 アンジェラさんが腕を組んで考え込む。

 

「キャラクターなどは生き生きとしていますが……」

 

「……それなら、これはどうっすか⁉」

 

 アンジェラさんが頭をガバっと上げる。

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