シンデレラは遅れてやってくる 作:白雪(pixivでもやってる)
「サンドリヨンの引退からもう三年か……時が過ぎるのは速いな」
しみじみと呟く池上。
引退したサンドリヨンは生まれ故郷である白狼ファームで繁殖牝馬として過ごすこととなった。
会いに行ったことがあるが、うまくやれてるようで安心したのを覚えている。
サンドリヨンの2018……初子は自分の厩舎に預けられることが決定している。
かなりの素質馬だそうで楽しみである。
「ちょうど三番子が昨日受胎したって嬉しい連絡もあったからな」
サンドリヨンは、物語のヒロインの如く現れ、関係者に喜びをもたらしてくれた。
G1馬を三頭産んだオリエンタルアートを母親とするため、その牝系も繋がってほしいものだ。
二番子は牝馬だし走れなくてもそういった面で期待している。
「さて、仕事するか……ん?」
その日の朝、厩舎にひとつの連絡が入った。
受け取ったのは、奇しくも池上調教師自身であった。
「は……?サンドリヨンが、いなくなった……!?」
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ここはどこなんだろう、あのこはどこ?
つめたくて、くらいばしょ。
じぶんのへやじゃないことはわかる。
あのこはどこなの、だれかおしえてよ。
うるさいひとたちがはいってきた。
わたしをいじめてる。
いたいよ、やめてよ、せめて、せめて、おなかのこだけは……
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サンドリヨンがいなくなった、そう最初は知らされていたのだ。
実際は、失踪ではなく誘拐であった。
スタッフ、警察が総出になって探した翌日、犯人グループが送ったとされる文書が届いたのだ。
内容は、「サンドリヨンを返して欲しかったらサンドリヨンの獲得賞金の半分の額と交換」
アイルランドにも、誘拐された馬がいたことを今さらながら思い出した。
その馬もサンドリヨン同様営利目的で拐われたが、結局模倣犯防止のためお金は用意されず、遺体も見つからなかった、と。
馬は繊細で、知らない人間に手荒く扱われたら暴れるが…サンドリヨンは優しい馬だ。
今まで人の悪意に触れてこなかった馬だから、素直についていってしまったのかもしれない。
二番子は近隣住民に保護され警察に渡されたところだ。
見つからないのは、サンドリヨンだけ。
サンドリヨンのファン、関係者、世界のホースマンもこの事件の行方に注視している。
馬主も「金ならいくらでも出す」と言っていた。
はやく、帰ってきてくれ。
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そううまくいかないのが、物語であり現実である。
その事件はあっという間に終わった。
サンドリヨンの死とともに。
遺体はひどい惨状で、ゴミのように道路に投げ捨てられていた。
脚は折れ痩せ細りひどく暴れたのか鼻血を出していた。
不衛生な環境に置かれ、まともなものも食べさせて貰えなかった。
それが一目でわかった。
犯人グループは捕まったが、当然気持ちは晴れなかった。
しかるように彼女を弔い、残された子は人の手で育てられた。
彼女の覚醒から引退まで手綱をとった池副も葬式に参加し、兄二頭の一口馬主や多くのファンがサンドリヨンに別れを告げた。
サンドリヨンの残した産駒はわずか二頭。
片方は牝馬だったためこのまま走らせずに繁殖入りの話が出たが、結局従来の馬同様ターフで走ることとなった。
サンドリヨンの2018は、フランスの英雄譚の主人公からとられシャルルマーニュ。
サンドリヨンの2019は、母親の名前がフランス語でシンデレラを表していたので、イタリア語で人魚姫をさすラシレネッタ。
悲劇のヒロインから産まれた二頭がターフでどんな走りをするかは、まだ誰もしらない。
シャーガーしちゃった