シンデレラは遅れてやってくる 作:白雪(pixivでもやってる)
検疫つらい……。
私もしんどいし、先生や厩務員さん、池副さんもきつそうだ。
あとオーストラリアって、こんなに暑いんだね……?
たくさんシャワーを浴びたからもう皮膚が刷りきれるとか冗談言ってるけど笑えないよ先生。
「俺たちの苦痛はなんてことない。問題は、サンドリヨンの状態だ。体調はどうですか?」
「問題ないです。輸送疲れ自体はありますがいつも通り。」
現地の獣医さんが答え、先生が安心したように頷いた。
「これなら大丈夫そうだな。引退レースだから万全の状態で出したい」
「……今から緊張してきたんですけど」
「池副お前なあ……」
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コックスプレート。
オーストラリアの中距離最強決定戦。
12連勝の女傑ウィンクスに挑むが……他馬も実力馬ばかり。
G12勝のハートネル、二週間前にG12勝目をあげた牝馬ヤンキーローズ、ムーンランドロンシャン賞馬ヴァダモスなど。
日本との違いは多々あるが、ムーニーヴァレー競馬場一番の特徴は直線の短さだろう。
173メートル。
中山の直線も短いがその約半分。
ゆえに先行馬有利。
直線なんでこんなに短いの?
何を思ってこんな短い直線にしたの?
いわゆる大外一気が使えないやつだこれ。
前目につけれるかな……。
「というかアウェー感ハンパない」
「それはそうです。あなたは日本馬なのですから」
ぼやいた私に話しかけてきたのは威圧感のある牝馬。
鹿毛で強そうで……あ、もしかして
「あなたがウィンクス……?」
「ええ。私は豪州の女王ウィンクス。一応、現役最強馬……と呼ばれています。歓迎しますよ、日本の最強牝馬サンドリヨン」
歓迎してる雰囲気じゃないけど。
「G1を六連勝……しかも七歳牝馬が。すごいと思います。ですが、ここは日本ではなくオーストラリア、私たちの庭。日本と同じ競馬ができると思わないでください」
「それは私もわかってるわ。でも私だってね、さすがに引退レース負けたままじゃ終われないわよ。」
ジェンティルドンナちゃんの引退撤回男らしかったなあ。
「そうですか。…………手加減はしません。全力で迎え撃ちます」
「えぇ。首洗って待っててね」
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『異国の地で競走生活にさよならを告げるサンドリヨン。最強女王ではなく、挑戦者……シンデレラとして、このコックスプレートを走ります。』
『最強の名前を持つのはサンドリヨンだけではありません。昨年覇者にして連勝街道を駆けるウィンクスも同じです。さあ、サンドリヨン。あなたは今日伝説になる!スタートしました!』
いいスタートは切れたけど……ちょっと後ろになったな。
早めにスパートかけたいかも。
日本の競馬場とは違った芝、雰囲気……嫌いじゃない。
前が壁になったら嫌だな。
坂を登ってコーナーを回る。
まだだよね、池副さん。
『先頭ヴァダモス、二番手ブラックヒートバート、ハートネル。ヴァダモスが三馬身ほどリードする展開。少々縦長です。そして一番人気ウィンクスは四番手にあがって、日本のサンドリヨンは後方三番手追走。』
耐えて
『さあとうとう最終コーナー、最後の直線』
耐えて
『サンドリヨンまだ来ない!来てくれ!』
ここだ。
『最終コーナー最初に抜け出したのはやはりウィンクス強い!ああっと!だが、だがサンドリヨンが一気に並ぶ!コーナリングで一気に並んだ!?こんなことが、こんなことができるのか!?後方にいたのに!!』
並んだとき、勝てると思った。
あまりにも、呆気なく。
脳内に、私に、池副さんに、池上先生に、その確信があった。
「「勝った」」
『やはり二強!この二頭の一騎討ちになるの…………いやならない!持ったまま!サンドリヨン池副謙一持ったままウィンクスを交わした交わしたぁ!』
『残り100メートル!50メートル!これが、これが、世界のホースマンよ、どうか目に焼き付けてくれ……!これがサンドリヨンだー!!!』
一着 サンドリヨン
二着 ウィンクス(四馬身)
三着 ハートネル(五馬身)
シンデレラの物語をご存知でしょうか
姉二人と継母に虐げられていたシンデレラは魔法をかけられ、王子と踊り素敵な一夜を過ごしましたが鐘が鳴り響き魔法が解けてしまいます。
慌てて帰るシンデレラ。
ガラスの靴を片方残して……。
魔法が解けたシンデレラは姉二人と継母に虐められる日々に戻ってしまいます。
ところが王子が、残したガラスの靴を手がかりにシンデレラを探し始めるのでした……。
「この靴にぴったりとはまった女性と結婚しよう」
数々の女性が挑戦しますが不思議と誰も履けないのです。
残りは姉二人。
姉二人はもちろん履けず、さあもう女性はいなくなった……そう思ったときに、待ったをかけたのはシンデレラ。
シンデレラはガラスの靴を履き、片われのガラスの靴も差し出し、あの日踊った女性であることを明かします。
王子はシンデレラにプロポーズし、シンデレラは王妃となり幸せに暮らしましたとさ。
何が言いたいかって?
魔法は絶対にとけるものなのです。
12時に。