どけ!!!俺は(姫様の)お兄ちゃんだぞ!!!   作:ジャギィ

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第10話

エルガドを騒がせた『チッチェ姫失踪事件』は一晩で収束した

 

あの夜、チッチェとたくさん話した。王国を飛び出した理由、旅であった出来事、カムラの里に行き着いたこと、そこでの日常、百竜夜行の戦い、そして王国に戻ってきた事、フィオレーネに嵌められて1ヶ月缶詰めの日々だった事…お母さんより多くのことを話した

 

特にヨモギがチッチェの友達になれるように仲良くなったことは丁寧且つ真剣に話した。でも途中で「妹分にする必要はあったんですか?」と聞かれて目を逸らしてしまい、もっかい怒られてしまったのはナイショの話だ

 

チッチェを叩いたことに関しては後悔はしてない。それだけチッチェは危険な行動をしたのだし、必要な事だった…ゴメンやっぱめっちゃ後悔してる。そもそも前提条件が違うとはいえ、勝手にナルガクルガを狩りに行った俺が言う資格はないし。…でも、俺が言わなければ有耶無耶になる可能性もあったから、やっぱり言うべきだったと思う

 

ただ、叩いたケジメはつけるべきだ

 

後日、妹の目の前で自ら竜撃弾を食らうという罰を実行し、その事でチッチェ(あとヨモ)に怒られた上でまた泣かれるのだが、それはまた別のお話…

 

閑話休題(それはともかく)

 

事件の翌日、ガレアスに「今回のような暴走は、今後しないでいただきたい」と注意を受けてションボリするチッチェだったが、ハッキリ言って今回の騒動は俺の不始末が招いた結果だ。それに昨晩俺があれだけ怒ったのだから、これ以上の説教は俺が受けるのが筋だと代わりにガレアスの説教を正座で受けた。ガレアスは何故か呆れていた

 

それと、今回の事件に巻き込んでしまった新人騎士のジェイの処遇についてだが、これは俺がアルローやお母さんに頼んでお咎めなしにしてもらった。王族同士のいざこざに理不尽に巻き込まれても尚、チッチェを命懸けで守った有望な騎士の未来を、こんなバカげた事で潰してはならない。俺がジェイの奴にしてやれる詫びみたいなもんだ

 

アルローは「あいつがチッチェ姫をクエストに同行させなければ起きなかった事件だから、処罰がないと他の騎士に示しがつかない」って言ってたが、新米にそこまでの判断を要求するのは酷な話だ。そもそもチッチェが命令したって言ってたから、尚の事ジェイ1人を責めることは出来ない

 

どうしても罰を与えるってなら、怪我が治ったらあいつを鍛え直してやってくれと言うと、アルローもガレアスみたいに呆れた後「王子はもうちょい、他の奴に責任を取らせてもいいと思うがねぇ…」等と言っていた。何を言う、責任くらいちゃんと取らせるさ。今回は俺が悪かった、それだけの話だ

 

しかし、城塞高地に怒り喰らうイビルジョーが現れるとは。ゲームの世界観でも現実なのだから、モンスターもゲーム以上に自由に動くし、サンブレイクで出なかったモンスターが現れても不思議ではないが…その内俺ですら知らないモンスターも出てくるかもしれない。もっと強くならなければいけないな

 

それにしても、ハモンさんから話を聞いていたとはいえ…凄まじいな『氷霊エルサルカ』

 

6年前、王国を襲ったイヴェルカーナが、最後の総攻撃の際に落とした…というより体から剥がれ落ちた残骸を、王国は回収して管理していたのだ。それらの素材をロンディーネ経由でカムラの里まで運んでもらって、全ての素材+αでハモンさんに打ってもらったのがこのエルサルカだ。素材の使用許可はしっかり女王陛下から承認済みである。こういう時王子の立場というのは実に便利だ

 

ちなみにその+αとは『氷狼竜の秘氷玉』と『大竜玉』である。俺が持つ数少ないレア素材なのだが、これらを本来必要な『冰龍の零玉』代わりに使っても、エルサルカは本来の力を発揮出来ないとハモンさんは言っていた。おそらくスキル“冰気錬成”を強化する力がないのだろう。或いは攻撃力、属性値、切れ味のどれかか、全部が弱体化しているか

 

それでも今持つどの武器よりも圧倒的に強く、しかも氷の刃が勝手に再生するという意味の分からん能力まで付与されている。これで未完成だというのだから、いやはや古龍というのは本当に恐ろしい。改めてイヴェルカーナと戦って迎撃出来たのが…いや五体満足で帰還できたのが奇跡なのだと実感できる

 

それだけに、自身の腕を鈍らせかねない強さの武器だから、エルサルカは緊急時や古龍戦以外では使わない方が自分の為だろう

 

とにかく、予想外のアクシデントは起きたがなんとか城塞高地への調査も再開し、シキは緊急クエストが来るまでG級モンスターを相手に腕を磨くことだろう

 

そして今、俺が何をしてるのかと言えば…

 

 

 

「はいお兄ちゃん、あ〜ん」

「あ〜ん」

 

ヨモが作ったうさ団子を、ヨモ直々に食べさせてもらっていた

 

おっとちょっと待ってくれ、これには当然理由がある。だから毒投げクナイや麻痺投げクナイは一旦置こうか…よし、置いたな

 

ぶっちゃけて言うが、今の俺は縛りプレイをしているようなもんだ。シキと一緒に狩りに行く事が多々あるが、シキは基本太刀を使う為…そして俺の指導の影響でかなり俺に近い戦い方、つまり敵に張り付いたまま攻撃を避け、無理な場合はカウンターで防御するという狩りをする。俺は仲間に合わせて攻撃のタイミングやリズムを変えられるが、弟子はまだその領域に達していない。無駄な回避や被弾も多い

 

かと言って俺の方で合わせてやってもあいつの成長の阻害にしかならない。だから離れていても攻撃とサポートが出来るヘビィボウガンを使っているのだが、既にシキの進行度に合わせた装備は完成している。ちなみに使ってる武器はビシュテンゴ亜種の“緋天具・杖弩ジゾウ改”で、装備もそれに合わせた通常弾特化のスキル構成にしてある。状態異常弾も使えるスグレモノだ

 

他にはダイミョウザザミの“バスタークラブ”やトビカガチの“飛雷重弩【雷上動】改”などを作ってある。そう、属性貫通特化のヘビィボウガン達だ。氷属性はルナガロンを狩るまでお預けだな

 

…雷神龍のヘビィ?バカ!武具の為だけに古龍を狩る奴なんてこの世界にいねえよ!シキだって「イブシマキヒコとナルハタタヒメの傷が癒えきってない上に交尾後で消耗していて、且つ環境生物のフル活用と怨虎竜の乱入がなかったら“百竜ノ淵源”の討伐は絶対に不可能だった」と断言してるくらいだ

 

俺がついていっても苦戦は間違いなしだ。むしろマガイマガドが俺を警戒して三つ巴になる可能性も考えれば、損得勘定を加えてもやはりシキ1人に任せて正解だったのだろう

 

…話が大きく逸れたが、要するに今の俺は暇を持て余しているのだ。G級クエストの最上位はほぼ古龍か古龍級生物の討伐クエと言っていい。それでもこの世界での古龍の強さと希少さ、目撃情報の少なさを考えれば、おそらくその頃には一気にキュリアの活動が活発化し、“ガイアデルム”出現まで事が動くはずだ

 

シキだって着実に強くなってる。あいつの成長に合わせて動けばいいのだから、焦る必要はない

 

「は〜い、あ〜ん!」

 

……だから、妹分に癒されるのは決して間違ってることじゃない。ないったらない

 

食べさせる故の配慮か、串の先端だけに刺さった団子をパクついて咀嚼している内に、新しい団子を先端に刺していくヨモ

 

「おいしい?お兄ちゃん」

「いやぁ、やっぱりヨモが作るうさ団子は格別だな〜。ヨモに食べさせてもらうとより甘露な味になる気がする」

「もう〜褒めたって団子しか出ないよ〜」

 

後ろ髪をクシクシ掻いて照れる妹分のなんと愛らしい姿なことか。こんな姿はカムラの里屈指のうさ団子狂い、ヒノエですら見たことがないだろう事を考えると何たる優越感…!

 

可愛くて、気遣い上手で、料理も出来るなんて、きっと良いお嫁さんになるだろう…そう考えていると

 

「……もう我慢出来ませんっ!」

 

突如クエストボード横にいた受付嬢が、怒り心頭でこちらにやってきた。そう、我が最愛の妹にしてこの国のお姫様、チッチェが

 

「ヨモギ!さっきからあなた、何をしているのですか!?」

「何って…うさ団子食べさせてるだけだよ?」

「そんなうらやま……ゴホン!とにかく!お兄様も子供じゃないのですからそんな事しなくていいんです!」

 

うらやま?今「羨ましい」って言いかけた?まさか妹よ…俺の為にヨモに嫉妬しているのか!?ヤバい、顔のニヤけが止まらない

 

そんなチッチェに機敏に気づいたのか、ヨモは手を叩いて納得する

 

「そっか!チッチェもお兄ちゃんに団子を食べさせたいんだ!」

「え…?ち、違いますよ!わたくしはそんな…!」

「いーからいーから!ほら、遠慮しないで!」

 

そう言ってうさ団子が1個だけ刺さった串を手渡すヨモ。流れで受け取ってしまったチッチェは串を片手にオロオロしていたが、やがて緊張気味に、そしてほっぺを朱に染めながら…

 

 

「お、お兄様……あーん…」

「何…だと…?」

 

 

それは間違いなく、ラギアクルス(地震)級の激震だった

 

相手は実の妹で、俺はチッチェに対して恋愛感情も性的感情も抱いていないとお兄ちゃんの矜恃に誓って断言出来る

 

だと言うのに、なんだ?この、いけないことをしているドキドキと背徳感は!?

 

俺はただ静かに、そして無言で差し出された串先の団子を口に含み、抜き取って、噛み締めて味わった

 

(うまい……)

 

味も食感も変わっていないのに、差し出してきた相手が違うだけでこうも違うのか…ヨモが食べさせてくれた団子とはまた別種の美味だ

 

「お、おいしいですか?お兄様」

 

不安そうに俺の顔を覗き込む天使。俺は彼女に対して最高級の笑みとサムズアップで答えてやると、天使は花が咲いたような笑みで喜んでくれた

 

「よかったぁ!喜んでもらえて!」

「…むぅ〜…」

 

そのやり取りが面白くなかったのだろうか。ヨモがふくれっ面で俺達を見ると、別の串に団子を刺して俺の口元にずずいと近づけてくる

 

「はい、お兄ちゃん!あ〜ん!」

「え?妖精?」

 

そして、今のやり取りで自信でもついたのか、チッチェも手に持った串に新たなうさ団子を刺して俺に差し出してくる

 

「はい、お兄様!あーん!」

「え?天使?」

 

目の前にいる2人の可愛い(シスターズ)が団子を食べさせてくれる。前世でそんな徳なんて積んだことはなかったのに…ここは極楽浄土か…?

 

「…2人とも、順番に食べるから焦らないで」

 

お兄ちゃんとして2人の厚意を受け取らないわけにはいかない。余裕のある態度で心の中のだらしなさを表に出さず、2人にそう言って俺は団子を頬張る

 

周囲や騎士団指揮所の方から感じる騎士達の嫉妬の視線が大変心地いい

 

俺は幸せ空間で幸せと一緒に団子を噛み締めながらただただ思った

 

(ああ…今なら古龍が相手でも怖くない…)

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