古龍が相手でも怖くないと言ったな?あれは嘘だ
「アッツゥイ!」
普段からまあ熱い溶岩洞だが、今日は輪にかけて熱い。その元凶を討伐しに来てるわけだが、こうなるならクーラードリンクでも持ってくれば良かった
『グオォォォ!』
「うるっ、せえよぉ!!」
劈く咆哮を水月の構えで防いで即座に切り掛かる。頸動脈(ちゃんと狙った場所にあるかは不明だが)を断ち切ろうとするが、密集し、そして連なった真っ赤なたてがみによって阻まれる
また、斬りつけた対象を凍らせることの出来る冰龍の太刀だが、こいつは常に炎熱か爆発性の粉塵を纏っている為、凍りついても即座に溶かされるか、爆破であっさり砕かれる。分かっちゃいたが相性が悪過ぎる!
『ガア!』
ライオンのような見た目から猫パンチを彷彿させる前脚攻撃だが、実際は岩すらもバターのように溶かす超高熱の爪撃だ。全然可愛くない。直撃すれば即死、よくて瀕死だろう
『ガルルルッ!!』
ガギィ! ジュゥゥゥ…!
「うおおおおおおおおっ!?」
咄嗟にエルサルカで鍔迫り合いに持ち込むが、怒り喰らうイビルジョーなど比較にならんほどパワーが強い!しかもそのイビルジョーの唾液すらものともしなかったエルサルカの刀身が、剛爪の熱でジワジワと溶かされ、蒸発して水蒸気になる。このままだと焼き斬られる!
「ウシャアアアァァァッ!!」
マグマの如く赤く煮えたぎった爪を受け流しながらコマのように回転し、その勢いで翼爪と翼膜を一気に切り裂く
『ゴアァァァ!?』
右翼をズタボロに切り裂かれて、さらに翼を凍てつかせたエルサルカの氷が傷口に食い込み、追加の出血とダメージを与える
よし!このまま一気に押し込んで…!
『お兄ちゃん、横!!』
『ガァァァッ!!』
「ってうおわぁっ!?」
しかし、唐突に割り込んできた
「ありがとう!!助かったヨモ!」
『どういたしまして!でも…!』
そして横槍を入れた奴の目眩し効果が切れたということは、今俺が相手していた奴とのタイマンが終了したことを意味する
『ガルルルルルゥ!』
『グルルルルルゥ!』
「クソォ!また揃った!」
『どうするの、お兄ちゃん!?』
「こうなったら…!」
2匹揃ってこちらを睨みつけ、翼をはためかせて火の粉を撒き散らす。「オレンジ色」と「青色」が溶岩洞内部を美しく彩るが、
クル
俺はその2匹の『炎龍』に対して簡単に背を向け、野良の翔蟲も駆使して叫んだ
ダッ!
「逃げるんだよォォォ─────ッ!!」
『『グオオオオオオッ!!』』
…直後、“炎妃龍ナナ・テスカトリ”のヘルフレアと“炎王龍テオ・テスカトル”のスーパーノヴァが、溶岩洞内を木っ端微塵に吹き飛ばした
「な、なんとか生きてる…!!」
エルガドにある自室(訓練時代に使っていたもの)のベッドに倒れ込みながら、所々ゴワゴワしている布団の感触に生の実感を味わっていた
幸せの絶頂を味わった数日後、最上位のハンターに対する緊急クエストが通達された
“溶岩洞ニテ 炎王龍ノ出現アリ”
基本は溶岩地帯の奥深くを根城にしているテオ・テスカトルが、溶岩洞の浅めの階層にまで上ってきたのだ。その個体の大きさからマスターランク相当のテオと断定し、
「ちくしょう、乱入でナナ・テスカトリが出てくるなんて聞いてねえぞ…!!」
これに尽きる
ナナ・テスカトリの生態が胎生か卵生かは詳しく分かってないが、雌である以上子供か卵を守る役目があるナナ・テスカトリは、滅多なことでは巣から出てこないという説が立てられているのだが…どうやら今回はその例に外れたらしい
突如乱入してきた炎妃龍の襲撃にハンターの1人が重傷を負い、危機を感じたもう1人のハンターが撤退を提案したのだが、2体の古龍、それも阿吽の呼吸で動ける奴らを相手に全員で背を向けて逃げれば皆殺しは確実だ
故に俺1人が殿を務めて、あわよくば討伐してやろうと意気込んだのだが…流石に無理だった。これが1体だけまたは連続狩猟ならばまだ撃退くらいは出来たのかもしれないが、同時狩猟は無理ゲーの一言に過ぎた。あのイヴェルカーナと比べりゃまだあの2体の方がずっとマシだったが、それでも2体同時に捌いて時間稼ぎするのが手一杯
結局俺達は重傷患者が出たのもあってクエストを中断、リタイアという形でクエストは終了した。ギルドにはちゃんと情報収集するように文句を言っといたけどな!
怪我を負った奴もなんとか生きてはいたが、怪我が致命的だったらしく、ハンターを引退するらしい…成功ばかりに目がいって忘れていたが、ハンターというのは元来こういうものだ。どれだけ名を馳せた強いハンターも、次の瞬間にはぽっくり死んでる可能性がある。それを考えれば生きてるだけ儲けもんなんだから、未練がましい目で俺を見ないでほしかったな…
しかし、古龍も含めての大自然だ。盛者必衰…人間も、国も、そして古龍ですら例外ではない。かつて世界一繁栄していたシュレイド王国やそれ以上の繁栄があったとされる古代文明が古龍に滅ぼされたように、その古龍が今の人間に滅ぼされることもあるように…この王国だってそうだ。今は大丈夫でも、それこそ気が遠くなるほど先の未来では影も形もなくなってるかもしれない…
ま、今は俺や王国騎士達、それにカムラの英雄殿だっている。少なくとも俺が生きてる間は、王国を滅ぼさせなどさせんがね
「しかし、やっぱり古龍は凄まじく強いな…」
ハンター歴はもう10年になるが、俺は1度も古龍を討伐出来ていない。そもそも交戦したのが6年前のイヴェルカーナと今回のテオ夫婦だけなのだが、テオ夫婦は1対2とは言え古龍の武器を持って尚撃退出来なかったし、イヴェルカーナに至ってはこちらのホーム且つ圧倒的数の有利があったにも関わらず終始押されっぱなしで、メル・ゼナの介入がなければ王国は滅びていたに違いない
そう考えると、ハンター歴が1年未満にも関わらず“百竜ノ淵源”を討伐したシキの経歴の異例さが際立つ。あれ?もしかしてあいつ、もう俺より凄いハンターなんじゃ…?そりゃ英雄だなんて持て囃されるわけだ
とにかく、メル・ゼナもそうだが、キュリアの大元であるガイアデルムも古龍である以上、王国を襲ったイヴェルカーナに近いか同等の力を持っていると想定した方がいい。ゲーム内じゃボロクソ叩かれてるガイアデルムだが、その生態を考えれば最大限に警戒せねばならない
だが残念なことに、俺はキュリアをゲームの知識でしか覚えていない。しかもその記憶すら大分薄れている。元凶がガイアデルムである事、メル・ゼナが長い時間をかけ共生関係を築いた事、ガイアデルム討伐後にあらゆるモンスターへの強制寄生に適応して「傀異化」という現象を引き起こす事、そしてその傀異化すら『克服』する古龍が現れる事…細かい設定など完全に忘却の彼方だ
仕方ない、こういう時は『あの男』に頼るしかない
現状もっともキュリアに詳しい、王国一の研究者に
「という訳で助けてバハえも〜ん!!」
「う〜ん、昔から何度も言ってるけど、俺は便利な道具じゃないんだよ?テカ太くん?」
俺のおふざけ全開の言動に対してキレッキレの返しをするこの男の名は“バハリ”。王国随一の研究者であり、長寿の竜人族なのもあってその知識も豊富。今回の騒動の根幹にあるキュリアの研究も任されるあたり、王国から篤く信用されていることが分かる
ちなみに俺の前世の知識のネタに的確なツッコミを唯一入れてくれる希少な人材でもある。バハリ曰く「変な電波が急に受信される」んだとよ
「ていうか久しぶりだねぇ王子。イヴェルカーナ撃退作戦会議以来だっけ?背も随分おっきくなっちゃってぇ」
「もうちょい大きくなりたいけどな。テオ夫婦とも戦って思ったが、やっぱり古龍と渡り合うならまだパワーが足りない」
「古龍相手に力比べするなんてキミくらいだよ」
真顔で言われてしまった。ウツシ教官に並ぶ変態にそんな事言われるなんて心外極まりない
今のやり取りから分かるように、バハリとは身分を超えた友人として仲良くしてもらっている。お互いフィオレーネに色々言われてしまう身だからか、結構ウマが合うのだ
「本題に入るが、キュリアの事が知りたい。特に生態に関することをな。些細な事も含めて教えて欲しい」
「テッカはハンターでしょ?そんな事まで気を回さなくていいと思うけど」
「…『深淵の悪魔』」
「ッ!」
俺が口にしたワードにバハリは目を見開く。そして目を閉じて頭を振ると、真剣な顔つきで聞いてくる
「…ガレアスから聞いたのかい?」
「いや、文献と、6年前のメル・ゼナを見て気づいた。今回の城塞高地の異常はメル・ゼナが放ったキュリアが原因とされているが、そもそもメル・ゼナ自体は大穴が開く前からほんの僅かにだが目撃情報や文献がある。今までメル・ゼナの情報がロクに出回らなかったのは、おそらくメル・ゼナは人間が入り込めない秘境の奥地などを縄張りにしていたから。イヴェルカーナとの戦闘後に王都で暴れなかったのは、縄張りさえ侵さなければ古龍とは思えないほど大人しい生態だったから。そして王都に乱入したメル・ゼナはキュリアを使役していなかった…この事から、メル・ゼナのキュリアを使役する能力は後天的に身につけたものだと考えられる」
「…続けて」
「メル・ゼナがいつキュリアを使役しだしたのかは分からないが、今まで全くと言っていいほどなかったメル・ゼナの目撃情報が増えだし、被害も出てきたのが約50年前だ。…俺の仮説はこうだ。50年前にエルガドの元となる城塞都市に突如大穴が開き、そこにメル・ゼナが現れて暴れ出した。人々はメル・ゼナが大穴を開けて現れたと思い込んだが…実際には大穴を開けた
と言っても、ゲームの説明を大まかになぞらえて、それらを実際の情報で所々補完しただけのこじつけに過ぎない。その証拠にバハリも気難しそうな顔でうんうん唸るだけだ
「………キュリアを後天的に身につけたって所はいいんだけど、それ以外は殆どこじつけみたいなもんだねぇ。なんたって証拠がない」
「だよねえ」
「でも、この仮説が全部当たってたら学会がひっくり返るよ!なんたって人間と共生可能な古龍なんて今まで確認されてないからね!」
「でも証明の為の証拠が全然足りてない。もしこの仮説が全部当たってたとしたら、『深淵の悪魔』はメル・ゼナ以上にキュリアを使役、行使する能力を持っている可能性が出てくる。そんな奴が何の対策もしない内に出てきたら、今度こそ王国は滅びるかもしれん」
そこまで言い切ると、決心した顔でバハリは言う
「…分かった。俺が知り得る限りのキュリアの情報をキミに教えるよ」
「悪いな、こんな妄想に付き合わせて」
「気にしない気にしない!キミは俺の大事な友人なんだからね…友人が困ってたら助けるのは当然だろ?」
「ああ………ありがとう」
悪友みたいな感じだが気が合うし良い奴だし、俺には勿体ないくらい出来た友達だよ