どけ!!!俺は(姫様の)お兄ちゃんだぞ!!!   作:ジャギィ

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第13話

訳あってルナガロンのクエストは中断した

 

クエスト後に最大のトラブル(メル・ゼナ襲撃の事である。本当だよ?)が襲ってきたがなんとか退けると、ギルドと王国にその内容を報告、エルガドに帰還したのだった

 

メル・ゼナに襲われはしたものの、フィオレーネがキュリアに咬まれなかったのは幸いだった。ただし代わりに俺が咬まれて……あと、弟子(シキ)からの視線が物凄く侮蔑し切ったものになった。事ある毎に「クソ王子」と呼ぶ反抗的な弟子に心が折れそうだ。今度王都にある高い菓子でもお詫びに持っていこう

 

まあ、キュリアの毒に関しては大丈夫だ。タドリにはバハリを通してのツテがあるし、ゲームではセレクトクエスト(ストーリーを進める為の特定のクエスト)を幾つかクリアした後にフィオレーネは倒れる…現実はゲームと違って、本来数日は掛けてクエストの準備と達成をするから、倒れたとしても相当先の話だ

 

それに実は、こういった時に備えてキュリアの毒に対抗する薬の素材…“エスピナス”の毒液は既に手に入れて保管してある。…ぶっちゃけて言うが、俺はエスピナスを狩るのが苦手だ。それこそもう1度狩りに行けと言われたら、氷霊エルサルカを持ち出そうとする程度には

 

遥か太古の昔、“樹海”でエスピナスの先祖にあたるモンスターは“鋼龍クシャルダオラ”と縄張り争いを行い、なんとその戦いを征しているのだ。実際に戦ったからこそ分かる。あいつを完全に殺し切るにはそれこそ傀異克服した古龍クラスでなければ不可能だ。それほど異常な硬さとタフさを兼ね備えたモンスターなのだ。ハッキリ言ってイビルジョーやラージャンよりずっと厄介だ

 

とにかく、先の事に備えて早い内にエスピナスの毒液を取り出して分かりやすい場所に置いておこう。タドリのことだ、それだけでも事態を早く収束出来……

 

 

 

あれ 視界が 揺れ あたま まわら

 

 

 

「お兄様?」

 

クエストボードの前にいた兄が急に片手で頭を押さえて揺れる。その横顔はどこか悪いように見える

 

「なん で どく こんな はや」

 

心なしか青ざめている兄が聞き取れない音量でボソボソと呟く。苦痛に歪んだ顔でこちらを向いたことで、ようやくチッチェは兄の様子が(普段とは違う風に)おかしい事に気づく

 

「お兄様、顔色が悪いですよ?どこか具合が…」

「ち ちぇ たど え す──」

 

小さな声で最後まで言い切る前に、テッカの言葉は途切れ…

 

ドサリ!

 

「キャアアアア!!?お兄様!?」

 

王国の姫の悲鳴が、エルガド中に響き渡った

 

あんなに頼もしい、あんなに強い兄がいきなり倒れるという今までにない異常事態に、チッチェは横たわっている兄に近づいて呼び掛ける

 

「お兄様、しっかりしてください!!お兄様!!」

「姫!!一体何事で…王子!?」

 

その悲鳴を聞いて駆けつけたガレアス提督やフィオレーネ達がチッチェの元に集うが、そこで明らかに顔色の悪いテッカ王子が倒れている姿を見た事で、さらに混乱が広がる

 

「チッチェ姫!テッカ王子の身に一体何が!?」

「わ、わかりません!お兄様が具合を悪そうにしていたと思ったら、急に倒れ出して…!」

「お兄ちゃん、大丈夫!?ねえ、お兄ちゃん!!」

 

茶屋にいたヨモギもテッカが倒れていることに気づき、縋り付くように彼の体を揺する

 

野次がテッカを取り囲むように集まっていく中、ガレアス提督は一喝して近くの騎士に指示する

 

「今すぐ王子を医務室に運べ!!バハリ、医療班と共に王子の容態を確認せよ!!」

「了解!!」

 

いつも飄々とした態度のバハリも、友が倒れたとあっては普段のマイペースさもなりを潜めて、即座に注射などの器具を抱えて医務室に向かう

 

そして、そんな騒動に最後にやってきたのは…自室でクエストの疲れを癒していたカムラの英雄だった

 

「師匠………?」

 

担架に乗せられ運ばれていくテッカの姿を、信じられないものを見る目で唖然と眺めるシキ

 

日常(テッカ)が崩れ落ちていく有り様に、誰もが困惑を隠すことが出来なかった……

 

 

 

騎士団指揮所の作戦会議所にて、ガレアス提督、フィオレーネ、バハリ、アルロー教官含めた大勢の騎士、そしてシキが集まっていた。誰もが沈痛な面持ちを浮かべ、重力が何倍にも増えたかのようにそこの雰囲気は重々しかった

 

「…バハリ、王子の容態は?」

「…正直に言わせてもらうけど、結構やばい。テッカの体の症状は、50年前に王国中で蔓延した疫病と全く同じものだった。違うのは、疫病の治療薬の効果が全くないところ…今は治療用の点滴(昔、王子が開発させた物)のおかげで容態の悪化は防げてるけど…このまま放置していたら、本気で彼は死にかねない」

 

ドン!

 

全員がその音の原因を見る。フィオレーネだ。握り拳を机に叩きつけ、唇を噛みながら自分の無力さに震えている

 

「フィオレーネ……」

「…おそらく、キュリアだ」

「何…?」

 

その呟きの意図を、ガレアスは即座に察する

 

「…メル・ゼナに奇襲を受けた件か」

「そうです。あの時、我々の中で王子は唯一キュリアに咬まれていました。かつて王国中に蔓延した疫病が、エルガドの中で王子1人だけに発病するのはどう考えてもおかしい。タイミングから考えて、キュリアに咬まれたのが原因だと考えられます」

「確かにキュリアには未知の毒が確認されているが…もしそうだとしたら、50年前の疫病もキュリアが原因だと言うことになるな…」

「そこが分からないのです。キュリアは近年確認されたわけで、50年前には影も形もなかったはず。何故…?」

「…単に見えてなかっただけ、って言うのは?」

 

バハリは疑問を解き明かすように答える

 

「どういう意味だ?」

「俺達の肉眼では確認出来ないくらい…それこそ虫よりずっと小さい生物だったなら、当時キュリアが確認されていなくても変じゃない。そして、50年の歳月をかけて、ようやく目で見えるほどの大きさになったとすれば」

「…今まで確認出来なかった説明もつく、か…」

 

しかし、今それが分かったところで問題の解決にはならない。重要なのは一点

 

「バハリ、このまま放置していればと言ったな…?つまりそれは、お前には王子を治す心当たりがあるのではないか?」

「…あるとも。フィオレーネ、6年前、王子の治療の手助けをしてくれたタドリを覚えてるかい?」

「…! なるほど…あの者は優秀な薬師だったな…」

「あの、すみません。誰ですか?“タドリ”って…」

 

そこで唯一、6年前に起きた王国の一大事を知らないシキがおずおずと手を上げる

 

「各地で名を知られているほどの竜人族の医者だ。6年前、王子が右目を失う怪我を負った際、その治療に一役買ってくれたのだ」

「ついでに言えば、今テッカの体を蝕んでいる疫病が王国内で流行った時も、すぐに薬を調合して多くの人を救ったこともある。スゴウデというやつさ、所謂」

「その人なら、師匠の体を治すことが出来るんですね!?」

「ああ…ただ、問題があってね」

 

難しそうな顔でバハリが言う

 

「彼、薬の材料を調達する為に1人で旅に出ているから、見つかるのに多少の時間がかかると思うんだ」

「そんな…!?」

「シキ殿、焦るな。王子の一大事なのだ、王国中の騎士を総動員して、必ずタドリ殿を探し出してみせる」

「フィオレーネ…」

「だから、その間に貴殿は力を蓄えていてくれ。古龍の眷属の毒なのだ、薬の材料にモンスターの素材が必要になる可能性も十分有り得る…だから、ここは我々に任せてくれ」

 

フィオレーネから強い意志を感じる。彼女だって不安なはずなのに、責任に押し潰されそうなはずなのに、それでも自分の務めを果たそうを心を奮い立たせているのだとシキには理解出来た

 

だからシキも強く頷いてみせた。その返事を見たフィオレーネも微笑んで頷いてみせる

 

「…よし。ではシキ殿はクエストの達成を、バハリはキュリアの毒の解析を、フィオレーネ達王国騎士はタドリ殿の捜索を行うことだ」

 

ガレアスが目を閉じて脳裏に思い浮かべるのは、爵銀龍に跨がり、全てを凍てつかせる災厄と対峙する幼い王子の姿…

 

「…我々は何度も…何度も何度も、本来我々が守るべき、王族であるあの御方の勇気と慈悲深さに助けられ、救われてきた。今度は我々が、命を懸けてあの御方を救う番だっ!!」

 

周囲にいる全員の顔を見渡す。その全ての表情に、決意と覚悟があった

 

「誰1人も欠けるな、王子は犠牲の上で助かることを望まない!!命を懸けて任務にあたり、そして…

 

 

『生きることから、逃げるな!』」

『『『はっ!!』』』

 

 

騎士達の心がひとつとなる中、カムラの英雄は、今は何もしてやれない事にもどかしさを覚えながらも、苦しみと戦っている師に誓う

 

「師匠…まだ貴方には昨日の事を謝ってもらってないし…それに今までの恩を返しきれてないし、まだまだ貴方を超えてもいないんだ」

 

 

「必ず助けます…だから、生きてください…!!」

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