どけ!!!俺は(姫様の)お兄ちゃんだぞ!!!   作:ジャギィ

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第18話

桟橋の端に腰を掛けて海を眺める。とても穏やかな波をしていて空も快晴。けれど俺はそれに対し、一種の不吉さを感じていた。まるで嵐の前の静けさのような…

 

(当たってほしくなかったけど…世の中そう上手くはいかないよなぁ…)

 

俺の予測は悲しいことに当たってしまった

 

──カゲロウとタドリ、そしてヨモギの故郷“ツキトの都”を滅ぼしたのは、アマツマガツチで間違いないだろう。カゲロウの証言と、俺がゲームで何度も見たアマツマガツチの姿が殆ど一致していたからだ

 

カゲロウ曰く、暴風が悉くを消し飛ばし、落雷が遍くものを灰燼に変えたらしい。俺の記憶ではアマツマガツチは雷を意図的に落とす攻撃などしていなかったが、寧ろあれはゲームの方がおかしいのだろう。ただ嵐を伴わせるだけのクシャルダオラとは訳が違う。嵐を自由自在に操るのだ、雷を発生させるくらい造作もないはず

 

今は(嵐龍)の姿が観測されないため調査を中断しているが…これらの事態が解決すれば、セルバジーナとラパーチェ辺りに調査を任せなければならないな。ツキトの都と同じ地方であるカムラの里が危ないし、海を渡って王国に来襲する恐れもある

 

「前途多難過ぎる…」

 

今頃、弟子の狩猟も佳境に入っている頃だろう

 

何事もなければいいが…

 

 

 

城塞高地“氷山エリア”の中腹にあたる場所…そこに『黒い風』が舞っていた

 

否、それは風ではなく鱗粉だ。より正確に言うならば“狂竜ウイルス”と呼ばれる極めて危険な病原菌が形となって現れたものだ。それをばら撒くのもまた『黒い影』

 

『ギュアアアアアッ!!』

 

それはまさに異形の竜だった。暗黒に包まれた体躯、瞳のない頭部、巨大な腕が翼とひとつに纏まった両翼。それが黒い風を撒き散らす光景の、なんと悍ましいことか

 

「ぐぅ!」

 

体当たりによる衝撃を呻きつつも受け流しながらシキは“ローゼンフェーダー改”を握り直す。フィオレーネと一緒に命懸けで捕獲した棘竜の素材で造られた太刀は“夜刀【尖影】改”以上の斬れ味があり、おまけに毒属性も付与されているシキの新たな得物だ

 

その“ローゼンフェーダー改”で竜の黒翼を切りつける。ボロボロのマントのような翼膜が浅く傷つき、同時に狂竜ウイルスを散布する。翼を部位破壊された事で激昂したその竜は、咆哮と共に黒い風をさらに周囲に撒く

 

吸い込んだ事で体内で蝕む狂竜ウイルスを必死に抑え込みながら…英雄は“黒蝕竜ゴア・マガラ”を強く睨んだ

 

(おかしい…)

 

それは、シキが感じていた違和感の1つだった

 

黒蝕竜はその特異な生態故に、飛竜種でも古龍種でもない謎の分類に区分された特殊なモンスター

 

ゴア・マガラ特有の狂竜ウイルスは人間を蝕むのみならず、モンスターが吸引したならば理性を奪い、戦闘マシーンと揶揄される“イャンガルルガ”以上にひたすら暴れ狂う怪物と化す。小型の肉食モンスターが群れで自分達のボスを襲って喰らうと言えば、その異常さが理解出来るだろう

 

しかし、それでもウイルスを撒くのは自身の周囲だけであり、古龍レベルの脅威がゴア・マガラには存在しない。シビレ罠も落とし穴も効くことから、強さも一般のモンスターから大きく逸脱しない程度のはずなのだが…

 

ギャリィ!

 

(エスピナス程じゃないが、少なくともディアブロス並に硬い。翼爪に至っては“ローゼンフェーダー改”ですら弾かれる…情報と食い違っているぞ)

 

狂竜ウイルスが塊となった球状のブレスが不規則な動きで地を這うのを、居合による防御で無理やりすり抜けながら攻撃。何度も攻撃を当てていく内にシキの体の細胞が活性化し、体内のウイルスを逆に克服し、己の力に変えて黒蝕竜に向かっていく

 

その戦闘の最中、ゴア・マガラはまるでもがき苦しむかのように翼の腕で自分の体を掻き毟る

 

(それに、このゴア・マガラ…何か『変』だ…)

 

所々変な挙動をするのもそうなのだが、ハンターとしての第六感が大きな警鐘を掻き鳴らしていた

 

このままコイツを野放しにすれば大変な事になる。そんな根拠のない予感を感じたシキは、初めて自分で判断して目の前のモンスターを討伐すると決めた

 

『ギュォオアアア!!』

 

咆哮。同時に体内の狂竜ウイルスが限界まで高まった事で、翼膜は青から紫に変色し、翼腕が5本目・6本目の脚として大地に下ろされ、感覚器官として作用する軽く曲がった触覚が2本展開される

 

もはや竜と言うより悪魔と言った方がいい姿に変貌を遂げたゴア・マガラは、その両翼腕を空高く掲げ、シキに向かって叩きつける。これを事も無げに回避するシキだが、先程まで立っていた地面が剛腕によって割れて(めく)り返る様を見て「パワーはメル・ゼナ並か!」と認識を改める

 

ウイルスの克服により増幅した力を存分に込めて太刀を振るう。頭と前脚が柔らかいことに気づいたシキは攻撃を避け、流し、返し、重点的に弱点を切りつける

 

そして30分が経過…

 

突き出た角が片方折れ、全身がボロボロになり動きが緩慢になったゴア・マガラ。シキも消耗しているがまだ余裕があり、そろそろ限界かと予想をつけ、右翼の腕を切ったその時だった

 

ガキン!

 

「えっ!?」

 

切れ味の状態は良好()、狙った箇所も固くも柔らかくもない部位にも関わらず、“ローゼンフェーダー改”が弾かれた。仰け反った隙にゴア・マガラが翼腕を横に薙ぐが、倒れるように転がって腕を躱す

 

思わず自分が弾かれたゴア・マガラの翼腕を見た

 

ポロ…ポロ……

 

切りつけた箇所の黒い鱗が剥がれ落ち……その下から覗かせた『()()()()』が太陽の光で光り輝く

 

 

ゾァ!

 

 

()()を見た瞬間、とてつもない怖気がシキの背中に走った

 

一見すると、まるでメランジェ鉱石のように真っ白に輝く美しい竜鱗。しかしシキの目には、その()()がこの世の何よりもドス黒く、悍ましい物質にしか見えなかった

 

(ダメだ…あれは、あの下(黒蝕竜の中)にいる奴は、絶対に殺さなくてはダメだ…!!この世に存在してはいけない生き物だッ!!)

 

考えるや否や、桜花鉄蟲気刃斬の糸をゴア・マガラの頭部に付け、そのまま切り抜こうとするシキだが、恐怖で竦んだ僅かな隙がゴア・マガラに逃げるチャンスを与えてしまった

 

『ギュァァアアア!!』

 

四肢と翼脚で体を地に固定し、一瞬の溜めで放たれたのは…遥か彼方まで届きそうな闇の柱の如き息吹(ブレス)

 

「しまっ…ぐわあああ!!」

 

鉄蟲糸技の途中だったシキにこれを躱すは出来ず、狂竜ウイルスの濁流に飲み込まれていき、地面に勢いよく転がる

 

ウイルスのブレスという性質上、凄まじい衝撃だけで済んだのが不幸中の幸いであった。これが直接肉体を損傷させる火や雷、生物そのものを蝕む龍属性エネルギーのものであったならば、シキは生きていなかったに違いない

 

もっとも、ゴア・マガラのブレスが直撃してもその程度のダメージしか食らっていないのは、シキもまた英雄たる非凡な才能の持ち主だということの証明でもあるのだが

 

「ぐ…うっ……!?」

 

即座に起き上がろうとするも、狂竜ウイルスを全身に浴びてしまったことで発症した“狂竜症”の症状がシキの体の操作を妨げる

 

それを触角で知覚したゴア・マガラは、しかし眼下の敵にトドメを刺そうとはせず、まるで何か焦るように急いで翼を翻し、その場から飛び去って行った

 

「ま……て……!」

 

殺意の籠った言霊も黒蝕竜には届かず、そのままゴア・マガラは空の彼方へ消えていった…

 

 

 

弟子がクエストから帰ってきた

 

しかし物凄く思い詰めてる様子で、ゴア・マガラの狩猟に失敗したことが理由かと思ったが、反応を見る限りそれだけではないらしい

 

帰還してから3日経った日の晩、俺は、らしくもない硬い表情をずっとしている弟子をどうにかしようと食事に誘った。エルガドから少し離れた町にある、ハンターに大人気の酒場だ。ワインよりビール派な俺だが、王族という立場故に酒場とかにはあまり来れないことが多い。騎士達にも止められるし

 

その点ここはハンターの休憩所的な側面もあるから騎士達にも止められないし、マナーもクソもなく飯をかっ食らう事が出来る良い場所なのだ。(尚、転生前が元々日本人だったことから、テーブルマナーを差し引いても恐ろしく礼儀正しい所作でハンター達から注目されてることに本人は気づいていない)

 

「……師匠…」

「むぐむぐ…何?」

 

打ち身で青くなった肌にガーゼを付けてるシキが、出された飯にも手を付けず小さくつぶやく。俺は黄金芋のポテトを咀嚼し、口の中の油を達人ビールで洗い流しながら返事する

 

「俺…分からないんです…」

「何が?」

「ハンターになってから、今まで色んなモンスターと戦いました。中には討伐しなければ故郷(カムラの里)が危ないから、色々思うところがあるモンスターもいました。マガイマガドとか、イブシマキヒコとか…。でも、ゴア・マガラから白い鱗が見えた時、思ったんです。「こいつは殺さなければならない」「存在してはいけない生き物だ」って…師匠から教わった事を考えれば、こんな考え、傲慢でしかないのに…」

 

…なるほどなぁ。滅多なことでは悩まないこいつが考え込んでると思ったらそういう事か

 

言わんとしてることは分からんでもない。ゴア・マガラは()()()()()()()()()()だ。脱皮し、そして成体になったその『龍』が齎す被害を考えれば…優秀なシキの事だ、本能で危機を察知してそう思ったのだろう

 

俺から言えることはひとつだけだ

 

「まあ、あんま気にすんな」

「…………え?」

 

叱責されるとでも想像していたのか、俺の言葉に顔を上げて唖然とする

 

「そうやって色々考えまくってドツボに嵌るのはお前の悪い癖だ。程々に考えてから目標に向けて突っ走るのがちょうどいいくらいだ。それともなんだ?自惚れるな、とでも言って欲しかったか?」

「いや、でも…それくらいは言われると…」

「お前はもう一人前のハンターだ。それはつまり、これからどうしたいのかを自分で考えていかなければならないという事だ。今はフゲン殿の指示でエルガドにいるわけだが…キュリアの件が片付いたら、お前はどうしたい?」

 

ハンターとして俺より上の…頂点を目指すべく邁進するのか、それともカムラの里で悠々とした人生を過ごすのか。軽い指針だけでそれなのだ。それこそ未来の可能性は無限大にある

 

「…どうしたい、のか…」

「まっ、どうせ逃げられたゴア・マガラに関しちゃ今俺達に出来ることはない。でも、次出会った時にどうするかくらいは考えときな」

 

伝えるべき事を伝えた俺は、給仕アイルーが運んできたたてがみマグロの刺身に舌鼓を打つ。うーむ、美味

 

「食え食え、食えるうちに食っとけ。明日にゃ死んでるかもしれんのだし」

「ちょ!?さっきと言ってる事が違いません!?」

「だって、次の瞬間には樹海の養分になる可能性の塊が俺ら(ハンター)だろ?」

「言い方ァ!!」

 

よしよし、いつもの調子に戻ってきたな

 

それでいいんだよ。未来のことなんか考え過ぎてもどうにもならない。そんな暇があるなら力をつける、後悔しないようにやるべき事をやる…未来を変えるってのはそういう事だ

 

やけっぱちにツマミを食す弟子を尻目に新しい注文を追加し、食べ続けながら時間が過ぎていった…

 

 

 

翌日…

 

「うーん、うーん…」

「オイオイ、英雄が二日酔いとか何やってんの?」

「誰のせいだと…」

 

シキが二日酔いになった

 

こいつ、カムラの里で宴会をやった時も酒なんか殆ど飲んでなかったからなぁ。まさか度数の低いエール2杯でこのザマとは思わなかった。でもこの世界にノンアルとかあるのかな…?また暇な連中でも集めて造らせてみるか

 

俺?俺はアルコール耐性がかなり高い。いや、高いというかもはや「アルコール無効」ってスキルがついてるのかってレベルで全然酔えない。さっき言ったカムラの宴会では酒樽2つ分チャレンジ精神で飲んじゃったのだが、ほろ酔いにすらならなかった。ちなみにすぐハモンさんに見つかって怒られた

 

仕方ない。自分で蒔いた種だし、今日はあいつの代わりにクエストを受けておこう

 

「チッチェちゃ〜ん!今日シキのやつ体調悪そうだから俺が代わりに…あれ?」

 

クエスト受付口に向かってみると、我がマイシスターの姿がなかった。どこに行ったのか周りを見渡してみると、茶屋にヨモちゃんの後ろ姿が…2つ?

 

「あ、お兄ちゃん!オハヨー!」

「お…おはようございます、お兄様…」

「なん…だと…?」

 

そこにいたのは普段通りのヨモギと、ヨモギと全く同じ装いを着て、眼鏡を外したチッチェの姿だった

 

ダメだ、あまりに似合い過ぎる妹の眩しい容姿に直視すら出来ない。心なしか後光すら背負ってる気がする。ウチのチッチェはいつから仏様になったのか…いや、妹は神同然の存在だけどね

 

「ダメダメ!ちゃんと教えた通りにやらないと!」

「で、でも、恥ずかしいです…!」

「もっとお兄ちゃんと仲良くなりたいんでしょ?」

「ううっ…」

 

はっ!イカンイカン、せっかくイメチェンしたチッチェを無視するなど何たる極悪非道な所業か!ここは紳士的に褒めねば!

 

「おはよう、2人とも。チッチェはヨモに服を貸してもらったのかな?とてもよく似合って」

「あ、あの」

 

褒めている最中、チッチェは俺の服の端をちょこんと摘み、そして上目遣いで見つめながら

 

 

「お、おはよう…お兄ちゃん」

 

 

「────………ッ!!」

 

 

 

瞬間、テッカの脳内に溢れ出した

 

 

 

()()()()()記憶

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