「新作のお団子を作ろうと思うの!」
そう言ってきたのは可愛い2人目の妹であるヨモギだ。隣には同じ茶屋で働く妹のチッチェがいて、悩ましい表情で臼の中の団子餅を見つめていた
実際は違うが、まるで双子のように仲の良さげな2人を見ているだけで浄化されていく。これは…まだガンには効かないが、そのうち効くようになるな
「どうしたらいいのかしら…お兄ちゃんは何がいい案があったりしますか?」
「ん〜…兎にも角にも新しい素材が必要だろう」
「やっぱりそう思うよね!」
いつもの光景だ。ヨモがうさ団子の新作を提案し、チッチェが補完し、そして俺が手伝う。シキの奴がハンターになっていればもっと楽なのだが、今のあいつは授業期間中だからな
「欲しい素材は、これとこれとこれと──」
「ちょっとヨモちゃん?“爆鱗竜の爆腺”とか書いてあんだけど…何に使うのこれ?」
「団子餅を焼く時の火力上げに!」
「ヨモ!あまりお兄ちゃんに負担になる無茶な注文はしないようにってあれほど言ってるでしょ!」
ぷりぷりと怒るチッチェに、ヨモギが不満そうにぶーたれる
「だってお兄ちゃんじゃないと頼めないもん」
「ヨモっ!!」
「まあまあチッチェ、この程度負担にもならんからそう怒らなくていいって。あの爆撃機くらい簡単に墜としてくるさ」
チッチェを宥めながらヘビィボウガンでも使おうかと思案する。2人は「爆撃機?」とこの世界にはない単語に首を傾げていた。ラブリー♡
「ようし!それじゃあうさ団子開発開始〜!」
「ええ、頑張りましょう!」
「じゃあちょっくら狩ってくる」
そして1週間が経過し……
「ダメだった〜……!」
「こんがり焼けすぎちゃったわね…」
「あの食材なら耐えられると思ったのに…何がダメだったんだろ〜…」
結果を言えば、新作開発は失敗した。食材、素材を集めたところまでは良かったのだが、そこからが難航。食材が上手く混ざらないわ、感触が明らかに団子から離れるわ、極めつけに火力の調整が異常にシビアで、数少ないちゃんと混ざった団子餅が生焼けになったり、真っ黒に焦げるまで焼けてしまったのであった。そこで食材も素材も尽き、失敗という形に終わった
「う〜ん、う〜ん…」
「もうっ」
そう呟くとチッチェはヨモギの手を引っ張って立ち上がらせ、飛びっきりの笑顔で言う
「わっ!」
「ほら、クヨクヨするのはもうおしまい!ご飯を食べましょ?ヨモの好きな物を作ってあげるわ」
そう言って自分を慰めてくれる姉の姿に、ヨモギは感極まって抱きついた
「お姉ちゃん大好き!!」
「ええ、わたくしもヨモが大好きよ」
互いに抱き合う姉妹を、テッカはただただ優しい笑みで静かに眺めていた…
「…お兄ちゃん?」
「お兄様?」
「…ああ、そうだな…」
脳裏に駆け巡る過去の虚像に、天を仰ぐ顔から涙と鼻水が溢れて止まらない。この尊い宝を壊そうとする輩は、例え黒龍だろうと塵も残さず消し去ってくれようと決意させるのに十分過ぎる眩しさがあった
「安心しろ…お兄ちゃんがお前達姉妹を必ず守る」
「「姉妹じゃない(です)よ!?」」
キレのある突っ込みが響き渡った。おっと、まだ
「それで、今日シキが動けないんだけど」
「えっ、先程のご自身の発言をスルーするのですか?」
「諦めた方がいいよチッチェ。やりたい放題になったお兄ちゃんは止められないから」
HAHAHA!ヨモギちゃん、それだとまるでさっきまでの俺がふざけてた風に聞こえるよ?あとチッチェちゃんも「昔のお兄様はもっとキリッとして真面目でしたのに…」なんて言い方しないで?お兄ちゃん泣くよ?
「…で、結局どうしてチッチェが
「今日はわたくしお休みでして。しかし、この非常事態に何もしないというのも気が引けますから…」
「今日だけ私達のお手伝いをする事になったの」
なるほど。受付嬢もハンターと同様、モンスターの脅威と綿密に関わっている。その関係上、仕事内容は非常にハードだ。チッチェはまだ見習いだからクエスト受注くらいだが、それでもひっきりなしにやってくるハンターの対応に忙しくなりがちだ
チッチェは受付嬢だが王族でもある。俺もおんなじ立場ではあるが、約10年狩り場で生き抜いた、まあベテラン枠程度のハンターではある。キュリア毒も乗り越えた今、並大抵の事じゃ死にやしないだろうが、妹は最近まで城で過ごしてきた子だ。体力も考えれば休みを挟むのは当然と言ったとこか
ちなみにこれが熟練の受付嬢だと、クエスト受注の合間にハンターズギルドから送られる膨大な資料を片手間で片付けてしまうのだ。しかも汗を流さず笑顔も絶やさずでだ。陰で『モンスター』なんて不名誉極まりない通り名で呼ばれてる俺だが、俺からすればあいつらの方こそがモンスターだよ
「でもチッチェ、休むのだって大事なことだ。メル・ゼナを気にしてるのも分かるけど、いざって時に倒れる方が困るだろう?」
「言われてみれば、確かに…」
「だいじょーぶ!出来るだけゆっくり出来るようにさせるから安心して!」
ヨモが見てくれるなら大丈夫か。彼女も茶屋の仕事に関してはベテランなのだ、心配はない
心配はない……が……
「俺の妹達にセクハラでもしてみろ。全員そっ首刎ねて“サン”に放り込んでくれるぞ…!」
「お客さんを怖がらせちゃダメだからお兄ちゃん!」
とびっきりの殺意を、いつもテーブルで大量の団子をかっ食らってる凄腕ハンター“赤鬼”“黒鬼”や、その他周辺にいる男ども全員に浴びせた
殆どが俺を見ながら慄いて、赤鬼黒鬼ですらデカい声を上げてビビっている。唯一、竜人族の歴史学者“パサパト”の爺さんだけが何食わぬ顔で本を読んでいる。殺気を飛ばす相手を選んだとはいえ、それでも多少は洩れた殺気を感じるはずなのだが…これが年の功って奴か
尚、チッチェとヨモギに殺気が微塵も伝わってないのは俺が意図的に洩らさないよう気をつけているからだ。…方法?愛です。愛ですよ
とにかく、チッチェが受付を休むとなると俺も出来ることが限られてくる。もちろん緊急時の装備は着けてるからいつでも出発出来るが…何をしようか
「お、王子!?どうしてここに!?」
「見舞い…見舞い?」
「なんで疑問形なんでぇ」
というわけでやってきました騎士訓練所。そこには多くの王国騎士、騎士候補生達が武器を手に訓練している様子があった。目の前には、少し前にあった「チッチェ姫失踪事件」に巻き込まれて大怪我をしていた新米騎士ジェイがこれでもかとしごかれていた。相手していたのは教官のアルローだ
「前にお前には迷惑を掛けたからな。見舞いの品の渡しついでに様子を見に来た」
「そんな…あれはよく考えなかった俺が悪いんッスよ!迷惑だなんて!」
「そう言うな。ほれ受け取れ」
「わっとっとっ……あっ!角竜の燻製肉!俺の好物ッス!ありがとうございますッス!」
受け取った品の中身を見た途端元気になるジェイ。現金なヤツだが、こういった裏表のない性格を俺は結構好ましく思っている。…ラパーチェとか見てると特に、な…
見舞い品を自室に置きに行ったジェイを尻目に、アルローに聞く
「どうよ?調子は」
「体力とスタミナは戻りつつある。リハビリで動きも戻ってきたんだが…少し問題があってなぁ」
「なんだ、問題って?」
「戻りましたッス!訓練再開するッス!」
「…まあ見てりゃ分かる…」
よく分からんことを呟くアルローだが、とりあえず訓練用の大砲を相手に回避訓練する様子を見ていく。そしてチャージアックスを振るうジェイがギリギリになって回避行動をとる姿を見て、俺は気づく
「…俺の動き?」
「ああ…どうも王子に助けられた時に見た戦いが忘れられないらしくてな。何度も注意してるんだがなかなか直らないんだよ…どうしたもんか…」
ため息を吐くアルローに内心同情する
そもそもチャックス(チャージアックスの略称)は太刀と戦い方や運用方法がまるで違う。剣形態の攻撃でビンを溜め、剣強化状態や盾強化状態を維持していき、隙を見せたところに斧形態の高出力属性解放斬りをぶち込んで一気に大ダメージを稼ぐ…というのが一般的なチャックスの使い方
錬気ゲージを溜め、錬気強化状態を維持し、大技をねじ込む太刀と似ているように思えるが、太刀はチャックスのように斧形態に変形する必要などがない。つまり終始身軽なまま攻撃出来るし、変形時の隙も存在しない
何より現実的な話をさせてもらうと、実はチャージアックスの剣と盾は、それぞれ太刀と同じか、少し軽いくらいの重さがあるのだ。総重量が太刀の倍近くあると考えれば、それで太刀と同じ感覚で回避など出来るわけがない
もうひとつ理由がある。太刀は異常なほど鋭い斬れ味を持つ代わりに細く薄い刃という特性上、力ずくで斬ることが難しい。刃を対象に押し当て、素早く刃を引く。この工程を守って、初めて太刀は『もの』を斬ることが出来るのだ
そして、太刀は力ずくで斬ることが出来ないと言ったが、言い換えればそれは斬るのに余計な力が要らないとも言える。だから適切な部位に刃を当てれば、逃げや回避のついでに斬る事が出来るし、モンスターの攻撃の重みを上手く流すことが出来れば、受け流しと同時に斬りつける事が可能なのだ。まさに太刀の鋭さあっての芸当と言えよう
…つまり、ジェイの訓練はチャックスの特性と致命的に合ってないという事だ。このまま訓練を続けさせても、ぶっちゃけ時間の無駄だと思う
「もったいないなぁ」
ジェイの才能には目を見張るものがある。攻撃的過ぎるのが少々玉に瑕だが、そこさえ修正すれば、こいつの騎士としての力はフィオレーネにも並べるレベルになるはず
「…よし!アルロー!」
「なんだ?」
「
「………なんだって?」
さあ、第二回テッカ式ブートキャンプの開幕だ