どけ!!!俺は(姫様の)お兄ちゃんだぞ!!!   作:ジャギィ

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第21話

今回の訓練は、かつてカムラの里でシキの奴にもやらせたナルガクルガ無被弾縛り、あれの1乙アイテム縛りver.ジンオウガだ

 

本当は回避しやすさと危険度を考えてナルガクルガでやらせたかったんだが、メル・ゼナの件があるからエルガドひいては城塞高地から離れることが出来ない。そして城塞高地にナルガクルガは基本生息していない。だから妥協案としてジンオウガを訓練相手に採用したわけである

 

妥協したと言ったものの、ジンオウガもナルガクルガ同様戦いやすい部類のモンスターだ。絶えまない連撃と雷属性やられにさえ気をつければ、後は攻撃を躱しながら後隙に反撃すればいいだけだ

 

それにしても…最初の頃とは見違えるような動きの変化だ

 

最初見た時はホント酷いもので、ハンターになる前のシキですら攻撃を躱す素振りは見せるのに、あいつはマジでなんも避けれないのである。どれだけ危険な攻撃でも、どれだけ躱しやすい攻撃でも、だ

 

いや、正確に言えば多少は避けようとしてるのだ。だがそれは全部ギリギリのギリで回避しようとしたり、相手とかなり密着した状態だったりと、ハッキリ言って滅茶苦茶な立ち回りだ。多分アルローが言ってた、チャージアックスで俺の動きを真似た結果こうなったのだろう。当たった攻撃の殆どがガード出来る状況だったし

 

見たことはないが、少なくともこうなる前のジェイは、ガード出来る時はキチンとガードしていたのだと思う。イビルジョーから助けた時も盾がひしゃげてたからな

 

こいつの未来を捻じ曲げたのはある意味俺だ。ならば、その責任を取るのも当然俺なのだ

 

『グォオオン!!』

「ふっ!」

 

ガキャァン!

 

ジンオウガの雷チャージしたお手(前脚叩きつけラスト)が“エスプリ”の盾を殴るが、盾強化状態で受けてるため、盾も、盾を構えた本人も難なく受け止める。そして盾が受けた衝撃を即座にビンのエネルギーに変え、流れるような動作で剣と盾は合体して巨大な斧になり、眼前に叩き落とす

 

「うおおおっ!!」

 

バギャァァ!

 

『グォォォン!?』

 

超高出力属性解放斬りがジンオウガの顔面を捉え、榴撃ビンの中身が頭部で何度も炸裂する。衝撃の連続に頭部ごと脳を揺らされ続けたジンオウガは眩暈を起こして転がり倒れる

 

その隙に剣モードで切りつけてビンを溜め、再び属性解放斬りの一撃を狙おうとするジェイ。だがジンオウガも伊達に『無双の狩人』と呼ばれているモンスターではない。倒れた姿勢のまま強靭な左前脚を基点に全身を回転させ、太い尾でジェイを吹き飛ばそうとする

 

「ぐう!?」

 

しかし、身の危険を感じたジェイも超高出力属性解放斬りの予備動作から即座に変形斬りに派生させ、それにより素早く構えられた盾でギリギリ攻撃を防ぎ切る

 

「おお、いい判断だ」

 

少し前までのジェイならば被弾も構わず攻撃を続行しただろうが、ジンオウガの予備動作から反撃を予測して、すぐさま防御に移ったのはあいつが状況をしっかりと把握している証拠だ。“カウンターフルチャージ”の使い所もいい

 

これならば…

 

ヒラッ……

 

そんなことを考えていた時だ。俺の目の前に紅く、小さな『それ』が大量に飛来したのは

 

「ッ!」

 

即座に俺は翔蟲で戦闘中のジェイを回収し、即座にその場から離脱する

 

「王子!?何するんスか!?後もう少しで…」

「周りを見ろ!!」

「周りって…っ!?な、なんスか!?この数のキュリアは!?」

 

城塞跡地から離れている今も尚、周囲には数多くの紅い蟲…キュリアが飛び交っていた

 

そのキュリアを振り払う速度で飛翔し続け、約20秒程でメインキャンプに到達する。しかし、城塞跡地から大きく離れているにも関わらず、肉眼で視認出来るほどのキュリアが廃城の上で激しく舞っている…まるで上等な獲物を見つけたように

 

背筋に冷たい感覚が走る。背負ってるエルサルカの冷気によってではない。恐ろしい予感が俺の中で大警鐘を鳴らしている

 

「ジェイ、お前はここで待機だ」

「っ……王子1人で行く気ッスか!?危険ッスよ!一緒にエルガドに戻りましょう!」

「城塞高地はエルガドに近い場所だ。すぐに異常を聞きつけたフィオレーネとシキがやってくる。それまでに奴をここに縫い付けておく必要がある」

「なら俺も…」

「ダメだ」

 

家臣の頼みを切って捨てる

 

「どうして!?」

「足手まといだからだ」

「っ……それでも、俺を盾にして王子を守る事くらい…!」

「ダメだと言っているッ!!」

 

しつこく粘る新米騎士に、俺は一喝した

 

「自惚れるなっ!今の貴様1人加わったところで古龍相手に出来ることなど何もない!!それともなんだ!?未熟なくせに前に出て、俺に庇われて、守るべき俺の命と引き換えに生き残って、そして悲劇の騎士として敵討ちするとでも抜かす気か!?」

「そッ!?…んな、こと…」

 

俺のあまりにもあんまりな言い草に、言葉にならない呟きを洩らすジェイ

 

だが、俺が騎士を庇ってイヴェルカーナに右目を奪われた話は、騎士達の間でよく知られている話だ。そもそもジェイの事を本当にどうでもいいと思っているのなら、2週間も付きっきりで修行を見たりなどしないし、例え話とはいえジェイを庇うなんて言ったりはしない

 

それほど古龍の狩猟は苛烈極まりないのだ。酷い事を言うが、ジェイはまだ弱い。死ぬと分かりきった戦いで有望な若い芽を摘むなど冗談じゃない。せめて隣を預けられるくらい強くなってからにしてくれ

 

しかし、そこまで言ってもどこか納得いかないのか、絞り出すような声音で呟いた

 

「…でも、それじゃあ、何の為に騎士になったのか分からないじゃないッスか…」

 

…おんなじセリフを6年前にも聞いたな…

 

「……フゥー……」

 

俺としちゃあ、自衛手段を持っている俺よりもチッチェやお母さん、国民達を優先的に守った方が効率がいいと思うのだが、そう言ってハイと頷く家臣達ではない

 

彼ら彼女らは純粋に心配してくれてるだけなのだ。そこに勝利や生存への打算は存在してない。あれだ、我が子が大人になっても心配する親のような心境なのだろう…それはそれでどうかと思うが

 

「…お前は王国騎士としてもハンターとしてもまだ新米なんだ。焦るな。自分の出来ることをやれ」

「自分の…出来ること…」

「それでも納得しないというのなら」

 

懐から取り出した小タル爆弾を手渡して言う

 

「そいつは花火だ。フィオレーネとシキが来たらそいつを打ち上げて俺に知らせろ。今ここにいるお前だけが出来る仕事だ」

「わっ! お、王子!!」

「ヤバいと思ったら俺も逃げる!頼むぞ!!」

 

再び翔蟲で古城の方に飛翔する。距離が近づけば近づくほどキュリアの密度が増し、濃密な殺気が感知できる。そして辿り着いた先で見たのは、先程まで暴れ回っていたはずのジンオウガが倒れ伏して絶命している姿、その死体に群がる夥しい数の紅い蟲(キュリア)

 

 

…その生気を吸い取って、妖しく輝くキュリアを前脚や胸元、尾の先端にくっつけ…瓦礫の上からこちらを睥睨する、黒い霧に包まれた吸血龍

 

 

直後…その龍が霧と一緒に眼前までワープしてきたかと思うと、飛び上がって槍尾を地に突き刺し、大地を抉りながら俺に迫ってきた

 

ガギャアァッ!!

 

それを即座に抜刀したエルサルカで受け流した。鉄同士が擦り合ったような不快な金属音が開戦の狼煙となり、俺は返しの太刀で尾に密集するキュリアに振り下ろした

 

ガガガ!

 

しかし、古龍の剛殼すら傷つけられる一太刀が芯を捉えてもキュリアは真っ二つにならず、羽虫のように叩き落とされる。流石に絶命はしたのか小規模の爆発を起こしてヒラヒラ落ちていくが、キュリアのあまりの頑強さに驚きを隠せなかった

 

(想像を遥かに超えて硬い!?フィオレーネを庇った時、何となく重い手応えだとは思っていたが、この硬さ!キュリアに群がられたら吸血以前に体へのダメージで死ぬ!)

 

言ってしまえば、野球ボール大のダイヤモンドが四方八方、縦横無尽に飛来してくるようなものだ。並のハンターならこれだけで全身滅多打ちになって死ぬだろうし、仮に生き残れても劫血(ごうけつ)やられでトドメを刺される

 

しかも絶命時に小爆発を起こす性質のせいで、キュリアが集まった部位に攻撃すれば炸裂装甲(リアクティブアーマー)のように攻撃の勢いを減衰され、キュリアの硬さも相まってメル・ゼナ自身にはかすり傷一つ付けられない

 

かつて戦った古龍の狩猟でも思ったが、ホント古龍ってチートばっかだよな!古龍武器でも部位によっちゃ傷一つ付けられないとか、マジでどこ攻撃すればいいんだよって話だよ!

 

とにかく、ゲームと違ってこの世界のメル・ゼナは、キュリアが集まってる部位に攻撃してもロクにダメージを与えられない。もしくは密集してるキュリアを殺し尽くせば大爆発を起こしてダメージになるのかもしれないが、それを検証する為だけに一部位に固執するのは、ソロではあまりに危険だ

 

『ギュォオオ!!』

「ふ、くっ……オオオッ!」

 

ギィィン!

 

振り向いたメル・ゼナが器用に靭尾を動かしこちらに突き刺す。当然躱すが、本命の攻撃は薙ぎ払いだ。地面を擦りながら振り払われた龍尾を太刀の切り上げで打ち上げる

 

その際に尾に集まったキュリア達が爆裂するようにバラけ、その一部が頬を掠めた。同時に襲ってくる体内の異常から劫血やられになったとだと察するが、体力の削りはかなり緩やかに感じられた。恐らく毒未満のスリップダメージを無視出来るものと判断し、俺は戦闘を続行する

 

キュリアがダメな以上、狙う部位はやはり顔!尾の振り払いの反動で180°転回したメル・ゼナの左眼に、太刀の一突きを放つ

 

ギャリィ!

 

しかし、やはりと言うべきか硬い。相手が頭部を振るったせいで狙いが逸れた上、咄嗟に綴じられた瞼を掠めたというのに、甲高い音と軽い手応えがどれだけ致命打から程遠いかを如実に語っていた

 

「クソ!」

 

イヴェルカーナの時でさえ、氷の鎧の下を、バリスタと大砲で入念に削ってからの全力の一撃で部位破壊するのが精一杯だった。こいつの甲殻は純粋に硬く、厚い。そこにキュリアの能力が合わさることで、非常に攻めにくい状態となっていた

 

しかしほんの少しだが、攻撃を当てた時体力が回復した。理屈は分からんが劫血やられを使った回復は出来る。加えてキュリアを除けば、こいつの攻撃は殆どが近接攻撃。受け流すことに徹すれば致命傷を受けることはない

 

ならば翼だと翔蟲で飛び翼膜めがけて攻撃するが、メル・ゼナは翼を武器のように変えて戦う龍。甲殻で覆われた尺骨でこちらの連撃を何度も防いで、そして反撃の一突きを太刀の防御と空中で脱力する事で何度も回避する。時にはキュリアを足場に跳んで逃げることもする

 

そうした攻防の中…

 

(体感からして30分は経ったか?2人はそろそろ来るはず。防戦一方だがあと2日は戦えるか…?このまま決定打だけは貰わないよう──)

 

グラ…

 

(──は…──?)

 

突如、凄まじい虚脱感と同時に脚が止まってつんのめる。当然それを見逃さないメル・ゼナは倒れ込もうとする俺に翼槍で穿とうとし

 

「バゥ!」

『ギュォ!?』

 

 

──“ディアブロ”装備をつけたガルクが、メル・ゼナの鼻先に噛み付いて怯ませた

 

 

(レッカ…!?)

 

それは、かつて王国の脱走に一役買い、6年間カムラの里で共に過ごした俺の唯一のオトモ、ガルクの“レッカ”だった

 

古龍戦においては如何に生存能力が高いオトモと言えど命の危機があると考え、エルガドに待機を命じてたはずなのだが…どうやら命令を無視したらしい。俺のオトモらしいと言えばらしいのだが、勝手しやがって

 

でも、正直助かった。エスピナZシリーズは鎧タイプの装備ではない。それでも並の装備と比べれば圧倒的に防御力は高いが、あのままでは内蔵を潰されて死んでいた可能性もあったのだから

 

アイテムポーチを漁りながら戦いを見れば、レッカはメル・ゼナの視界を遮りながら鼻先を噛み続けるという嫌がらせを繰り返している。メル・ゼナは頭部を近くの壁面に擦り付けるのだが、その時には既に翼に移動していて、噛み千切るように翼膜に食らいつく

 

業を煮やしたのだろう、メル・ゼナはキュリアをレッカに向かって飛ばそうとするが、そうはさせん!

 

「レッカ、来い!」

 

その言葉と共に俺は気力を振り絞って閃光玉をサイドスローで投げる。レッカは既にジャンプで俺の方に跳んでいる。閃光玉は綺麗な弧を描くスライダーでメル・ゼナの眼前まで飛び、直後龍の視界を真っ白に染め上げる

 

『キュァアア!?』

「サブキャンプまで行け!一時撤退!」

「ワゥ!」

 

メル・ゼナ自身が混乱していることでキュリアの統率も取れていない。この隙にレッカに指示し、俺はメル・ゼナに背を向けて逃げ出すのだった

 

 

 

なんとかサブキャンプに帰還出来た俺は、キャンプ内に充満する回復薬を気化したお香で体力しつつ、アイテムボックス内にあった強走薬グレートを手に取る。レッカはあの攻防だけで相当体力を持ってかれたのか、だらけるように寝そべっている

 

「うくっ、うくっ、うくっ……ぷはーっ!!」

 

身体中に沁み渡る感覚に思わずガッツポーズ!更に白い粉(生命の粉塵)をキメる事で、我が肉体はまさにハイテンションな状態にまで持ち直した。キクぜぇこれは!

 

コンディションが元に戻ったことで余裕が出来た俺は、先の戦いで唐突に起きた異常事態について考える

 

(強走薬グレートで回復したことから、急激なスタミナ不足によるものだと考えられる。だが2日間はもつと断言出来る量のスタミナをあんな短時間で消費し切るなんてまず有り得ない。一体何故…)

『分かり切ってるのでしょう?お兄様』

「っ──チ…」

 

キャンプの内装が、我が王城の廊下の景色に切り替わる。そして聞こえてきた声を、俺が聞き間違えるはずがなかった

 

「チッチェちゃん!!!」

 

俺の脳内を震撼させるその(ボイス)はまさしく、チッチェ姫のものだった。しかも成長した姿では1度も見たことがないロングヘアーのドレスver.!

 

『原因はメル・ゼナよ、間違いないわ』

「分かっているさ!しかしメル・ゼナの劫血やられはあくまで体力を奪うもので──」

『それはゲームの話でしょう?』

 

この世で俺しか知り得ない情報を平然と出しながら、いつも天真爛漫な彼女では有り得ない色気と冷静さで答えを指し示していく

 

『キュリアは生物の生気を吸い取る生態を持っているわ。生気と言えば生きる上で欠かせない体力の方を想像させるけど違うとしたら?体力はキュリアの毒で減ってるならば?本当に吸い取っているものは?』

 

チッ チッ チッ チッ チッ

 

パチコーン!!

 

「スタミナ!!」(この間0.01秒)

 

俺は指を鳴らしながら妹の聡明さに唸った

 

しかしなんて事だ。もしそうだとするならば、この世界での劫血やられは体力のみならずスタミナも大幅に奪う極悪な状態異常だということになる。これを今知っているのは俺とチッチェちゃん(空想上)だけだ。早く他の奴らに…

 

ドォォ───ン…!!

 

「っ!今の音は!」

 

廊下の景色がキャンプの内装に戻る。キャンプを出て岩山の外を出てみれば、海の方面から小さい花火が上がっているのが見えた。まずい、2人が到着したのか!このまま会敵したらフィオレーネとシキが危ない!

 

「バゥ!」

「レッカ!……行けるのか?」

「わふっ!」

 

そう吠えて頭を脚に擦りつけてくる。ディアブロ装備のゴツゴツゴリゴリした感触が癒し値を半減してる気がする

 

「無理はするなよ…」

 

硬い背中に跨り、後ろに振り向いて手を振る

 

「ありがとうチッチェ!行ってくる!」

『勝ってね、お兄様』

「よぅし!!行くぞ!!」

 

装備で見えないが、我がオトモガルクが胡乱な目でこちらを見上げてることに気づかないまま、俺は再び狩り場に赴くのだった

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