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王国の危機はなんとか乗り越えられた
戦闘が終わった直後に王子は気絶したが、薬師のタドリ殿が言うには極端な疲労と緊張から倒れただけで、命に別状はないらしい
それを聞いて私はホッとした。もし最後の最後で死んでしまおうものなら、私は絶望のあまり
王子…今は都市の復興に人手がいる為、こうして生き恥を晒していますが、全てが終わったあとに責任を取るつもりです
許しは乞いません。ただ…不甲斐ない家臣であったことを、心からお詫び申し上げます
タドリの的確な処置もあって、城に連れていかれたテッカ王子はすぐに目を覚ました
その報告を聞いて真っ先にテッカの元にやってきたのが女王とチッチェであり、ボロボロ涙を流して泣くからさあ大変。もう危険なことはしないようにと2人に頼まれてもバカ正直に答えてしまうから、泣いて、宥めて、また泣いてという流れを何度も繰り返したのだった
途中でフィオレーネとロンディーネ、ガレアスの分までとアルロー教官がやってきて、ようやく2人は泣くのを止めました
全身から水分がなくなってしまうのではないかと心配するほど泣いた2人が喉を潤しているうちに、フィオレーネが片膝をついて謝罪した
「今回の王子の怪我は、全て私の不徳と失態によるものです。今は街の復興の為生き恥を晒していますが、全てが終わったあとには責任を取るべく」
「死ぬつもりか」
「っ!」
「え!?」
「……」
王子の問い掛けに小さく反応するフィオレーネ。女3人はそれに驚き、アルローは黙って、静かにその様子を見ていた
真っ先にチッチェがフィオレーネを止める
「ダメよフィオレーネ!死んじゃうなんて!」
「…例え姫様や女王陛下の願いであろうと、こればかりは譲れません」
「フィオレーネ!」
「チッチェ、落ち着きなさい」
「お母様、でも!」
その王国騎士は、命令であろうと聞き入れないと言った。頑固で、融通が利かないほど職務に忠実な彼女が。それは一体、どれほどフィオレーネが責任を感じていたのか、どれほど決意が固いのかを如実に表していた
「フィオレーネ、お前は真面目だ。そして誠実だ。王子のお守りなんて面倒な事も投げ出さないんだからな…ストレスだったか」
「そういう訳ではございません…」
「ハンターをしていれば、いずれこういう時が来るとは思っていた。そしてお前とロンディーネは臣下であると同時に狩り仲間でもある。だから、お前が右目の事で責任を感じることは…」
「違いますっ!!そうではありません!!」
堰を切るようにフィオレーネが叫ぶ
無論、右目を奪ってしまった責任もある。だが1番は、何より彼女が重いと感じていたのは…
「私は王子の才能に嫉妬していました!!王子が強くなればなるほど、王家を守るという王国騎士の役目を果たせなくなってしまう…それが恐ろしくては私は!王子がいなければと!姫だけいたならばと!貴方様の存在を憎んですらいたっ!!」
「あ、姉上…!?」
「フィオレーネ…お前…」
清廉潔白なフィオレーネが初めて人前で吐き出した衝撃的な本音に、全員が黙りこくって彼女を見る
王家に忠誠を誓っておきながら、その王家の人間を妬み、僻み、挙句の果てに憎む。それは、誰よりも正しい騎士を目指していたフィオレーネにとって、王家に対しても自分の理想に対しても、最も最悪な裏切りでしかなかった
その結果王子を傷物にしておいて、一体どの面を下げて騎士であれと言うのか?王家に仕えると言うのか?もはやフィオレーネに生きる目的はなく、だからせめて、死んで償うべきだと考えていた
「王子…私は、自ら誓った王家の忠誠を裏切った最低の騎士です…どうか、どうか、責任の処罰を」
国の為などと言ったが、怒れる王子からすれば延命の為の言い訳にも聞こえるはずだ。だから、もし今ここで首を刎ねられてもフィオレーネは文句を言わない
長い沈黙が続く。そして王子は寝そべっていた姿勢からベッドに腰をかける姿勢を変えると、テッカ王子は跪いて顔を俯かせるフィオレーネに告げる
「…
言葉に従って、フィオレーネは顔を上げ
パァン!
──瞬間、テッカの平手打ちが頬を張った
「え……?」
「お、お兄様!?何を…」
テッカは両手でフィオレーネの顔を掴んで、無理やり視線を合わせながら一喝した
「逃げるなぁっ!!」
「…生きることから、逃げるな!」
「これは…命令だ!!」
そう言い切った王子に、全員が息を呑んだ。14の子供とは思えない覇気と意志が込められた言霊であり、死を望んでいるフィオレーネも思わず目を丸くするほどだった
「フィオレーネ!お前は死んで楽になろうとしているだけだ!そんな事で本当に責任が果たせると思っているのか!?」
「そ、それは…」
「俺の目が黒いうちは勝手に死ぬなんて絶対に許さない!生きろっ!生きて償えっ!!」
「で、ですが…わ、私は、取り返しのつかない過ちを…」
「間違えない人間なんてこの世に居ない!それに、俺はこうして生きている!取り返しがつかないなんてことは絶対にない!!」
凄まじい気迫だった。絶対に彼女を死なせてなるものか、死んでいいわけがないと全身で体現しているような王子の姿に、ロンディーネは思わず膝をつきそうになった
王子は小さくため息を吐きながら、フィオレーネを見つつ言う
「フィオレーネ…お前、仮にも将来の主君に嫉妬して、挙句怪我を負わせるとは……とんでもねェバカ家臣だ」
「ッ…!はい…王子の言う通り」
「バカな家臣を──それでも愛そう…」
そして、テッカは膝をつくフィオレーネに抱擁した
「お、王子…!?」
「お前の事が嫌いなら、どうでもいいなら、例え失うものが何もなくても助けなかったよ。お前が大切な部下だから俺はあの時動いたんだ」
優しく、ただただ優しく抱き締めながら、テッカは死のうとしていた彼女に告げる
「目玉の1個、お前の命に比べれば安いもんだ……無事でよかった、
「お、おうじ…!うっ…うあっ…!ああああっ!!うあああああああっ!!」
「フィオレーネ…!よかったですね…ぐすっ…!」
「立派になったわね、テッカ…ぐすっ…!」
「姉上…!うっ、うう…!」
「チクショウ、俺も歳をとったなぁ…涙腺が緩くて仕方ねえや…」
フィオレーネは、泣き続けた
自分の過ちも、醜い心も、全てを許し、受け入れてくれた小さな王様の胸の中で泣き続けた
そして、改めて誓った。この未来の主君に相応しい騎士になろうと…誰よりも強い騎士になろうと
「──その後、姉上は女王陛下の命で王子の騎士として任命されてな。1ヶ月間、何かと奇行の目立つ王子のストッパーとして働いてくれてたよ」
「…それ、フィオレーネさんの監視に耐えられなくて城を出たんじゃ?」
テーブルを挟んでそう言うシキに、ロンディーネは頭を振る
「いや、元々王子はこれと決めたら即行動する癖があるからな。書き置きの武者修行というのもあながち嘘ではないのだろう」
「そっかぁ…」
そう呟きながら、シキは隣を見た。正確には、フィオレーネと彼女によって正座させられている情けない
「王子!暇だからと言って船の中で小タル爆弾を使った花火を作ろうとしないでください!!船が燃えたらどうするのですか!?」
「待て待てフィオレーネ、この打ち上げ花火が完成すればチッチェの良いサプライズになるんだよ。大丈夫だ、カムラの里じゃボウガンを主軸に使ってたから調合には自信が…」
「そういう問題ではありません!!」
「分かった分かった。じゃあせめて甲板で…」
「そういう問題ではないと言ってるのですっ!!」
「…信じられない…」
「貴殿の気持ちは痛いほどよく分かるが本当だ」
「…王国でもああだったの?」
「いや、あそこまで酷くは…そもそも振り回し方のジャンルが変わってるというか…」
ロンディーネはカムラの里で王子と再会した時、一体どんな旅をしてきたのだと戦慄したほどである
「「不安だ…」」
2人は故郷でもやりたい放題やるであろう王子の姿を幻視して、仲良くため息を吐くのだった