どけ!!!俺は(姫様の)お兄ちゃんだぞ!!!   作:ジャギィ

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第8話

悲報ー天国が修羅場になっていました

 

「お兄様!!チッチェというものがありながら、ヨモギが妹とはどういう事ですか!?」

「わわっ、落ち着いてってチッチェ!別に本当に妹になった訳じゃなくて、妹分として可愛がってもらってただけだから!」

「それが問題なんでしょうッ!?」

 

6年間の資料、課題を1ヶ月間不眠不休で終わらせた俺は、最低限の睡眠だけとってからエルガドに来ていた。全ては愛しのチッチェと触れ合うために。シキとロンディーネとは、ガランゴルムの狩猟を終わらせた帰りだったらしく、せっかくなので一緒にエルガドに向かったわけだ

 

だというのに、地獄のような修羅場を終わらせた先に待っていたのは、また修羅場だった。何故かエルガドにヨモギがいて、急に抱きつかれたと思ったらチッチェが唐突にキレた。そして今、まるで出張先の浮気が妻にバレた夫のように、妹に問い詰められていた

 

とにかく、ここは冷静に対処しよう。何、なんだかんだ受付嬢になれるほどチッチェは賢い。状況の整理をすれば落ち着くはずだ

 

「チッチェ」

「なんですか!?」

「要するにチッチェは、お兄ちゃんがヨモギに取られるかもしれないと思って怒ってるのだろう?大丈夫だ、安心してくれ」

 

肩に手を当てて、膝を着いて目線を合わせ、妹が確実に安心するだろう言葉をチョイスする

 

「どこぞの誰がなんと言おうと……俺はお前“達”のお兄ちゃんだ」

「“達”だから怒っているんですッ!!」

 

なんで!?

 

ぷりぷり怒ってるチッチェは大変可愛くプリチーだが、状況は全然可愛くない。ふと後ろを見てみればまるで養豚場のブタでもみるかのように冷たく、残酷な目でフィオレーネがこっちの方を見ていた。『かわいそうだけど、明日の朝にはお肉屋さんの店先にならぶ運命なのね』ってかんじの!

 

「王子…まさかそのような目でチッチェ姫を見ていたなんて…心底軽蔑します」

「何を勘違いしている!?」

 

イカン、彼女の中の俺が妹系ハーレムを築こうとしているド畜生王子に変貌している。実妹と妹分に手を出すなんて人間のクズみたいな真似、この俺がするわけないだろう!

 

見れば周囲に集まってきた人達の目も、胡乱な目で俺を見ていた。このままでは俺の、ひいては王国の風評被害が大変なものになる!急いで撤回せねば!

 

「シキ!!」

「師匠、腹を切ってお詫びすべきでは?」

 

お前もかブルータス!お前カムラの里の人間なんだから事情知ってんだろうが!

 

「ローネェ!!」

「すみません王子、私に事態の解決は無理かと…」

 

そう言いながら巻き込まれたくないって風に後ずさってるぞお前!

 

ヨモギは…この状況を作り出した張本人の1人なんだから論外!現地の人達は俺とヨモギの関係をしっかりと把握してないからダメ!クソゥ!味方が1人もいない!

 

だが、あーでもない、こーでもないと無言で考えていたのが不味かったのか、とうとうチッチェは目尻に涙を浮かべ

 

「うぇ…うええええええええんっ!!」

「チッチェちゃん!!?」

 

感情のダムが決壊したかの如く、滂沱の涙を流しながら大声で泣き始めてしまった。これにより周囲の空気が一気に冷え込み、一部を除いたみんなの目が冷たくなって俺を貫く。き、きつい!俺は長男だけどこれには耐えられない!次男でも無理!

 

「お兄様に、お兄様に嫌われましたああああ!!」

「そんな事ないよ!!お兄ちゃんがチッチェちゃんを嫌うなんて死んでもありえないからね!!」

「チッチェはこんなにも、こんなにもお兄様をお慕いしてるのに…ひどいですー!お兄様は実の妹のわたくしより他人のヨモギを取るんですかぁ!?」

「お願いチッチェちゃん、そろそろ泣き止んで!!周りの人達がみんなゴミ屑を見る目で俺を見てるんだ!!俺王子なのにっ!!」

 

もはや絶対零度と言わんばかりの眼差しが老若男女、国民商人騎士問わず全方向から俺1人に集中していた。イヴェルカーナのブレスを食らってもここまで酷いことにはならねえぞ!?

 

そして、感情の昂りが最高潮にまで達したのだろうチッチェは、とうとう『悪魔の呪文』を口にした──

 

 

「お兄様なんて…お兄様なんて大っ嫌いですッ!」

「ぐばっはあああああああっ!!?」

 

 

兄属性即死系呪文「お兄ちゃんなんて大嫌い!」を唱えられた俺は、イヴェルカーナとの戦いですら負わなかった人生最大の大ダメージを喰らいながら、人の垣根の上を超えて大きく吹っ飛んでいく

 

浮遊感を味わいながら思ったのはただ1つ

 

(そうだ、今日死のう)

 

ドッボ─────ンッ!!!

 

『王子ぃ────!!?』

「ししょぉぉ────!!?」

「お兄ちゃぁ────ん!!」

 

大海原に落ちた直後、そんな叫びが響いた気がした

 

 

 

「やってしまいました…」

 

全身びしょ濡れで痙攣しつつ喀血する兄が担架で医務室に運ばれたのを見送った後、チッチェは自分が仕出かした浅はかな発言を悔いていた

 

大嫌いだなんてとんでもない、チッチェはテッカの事が大好きだ。テッカがハンターになってからめっきり会う機会は減ったが、まだ訓練をしていた頃はよく遊んでもらって、絵本を読んでもらって、稀にだが一緒に寝たりもした

 

チッチェが7歳の時、城のみんなに内緒で兄にお願いして城塞高地に行ったこともあった。兄が「まるでピクニックだな」なんて言った時はまさにピクニック気分だったし、唐突に小型肉食モンスターのオルギィに囲まれた時は怖くて泣いてしまったが、兄が鎧袖一触でやっつけた時はヒーローのようでカッコよかった

 

城に帰ると2人して母に泣いて怒られて、兄はアルロー教官に追加でゲンコツをもらっていた。締まらない最後だったがまるで大冒険のような出来事で、チッチェにとってはまさに黄金の思い出だった

 

…だから、兄をお兄ちゃんと慕っているヨモギには悔しいと思ったし、お兄ちゃんと呼ぶことを許している兄がちょっとだけ許せなくて…悲しかった

 

「どうしたら、お兄様はわたくしのことを見てくれるのでしょうか…?」

 

考えて、考えて、考えて……ふとヨモギとの会話を思い出す

 

 

『私、お兄ちゃんにヘビィボウガンの使い方をたくさん教えてもらったんだ。ババババババー!ってね!』

 

 

「あ!」

 

そう言えば、カムラの里の百竜夜行に対抗する為、そこに住む住人総出でモンスターと戦うと噂で聞いた事がある。そして王国最強のハンターである兄が直々に教えるということは、ヨモギも屈指の実力者なのでは?

 

兄の弟子であるカムラの英雄シキという前例もあるのだ、あながち間違った推論ではないはず

 

「これです!これならお兄様も!」

 

もし、チッチェのこの様子を家臣達が見ていたならば、天を仰ぎながらこう嘆いたことだろう

 

ああ、やはり王子の御兄妹なのだな…と

 

 

 

一方その頃、王子は医務室のベッドの上で体育座りしながらみっともなく泣きじゃくっていた

 

「うえっぐ…ひっぐぅ…!!」

「王子…いい大人なのですから、いい加減泣き止んでください」

「ぐぞ…う”づだ…じの”う”…」

「…ハァ……」

 

思い立ったら即行動するところといい、好きな相手に嫌われたと思ったら泣きじゃくるところといい、本当にそっくりな御兄妹だとフィオレーネは思わざるを得なかった

 

この状態で既に3時間は経過しており、医務室を独占し続けるのもそうだが、いい加減王子を慰め続けるのも面倒になってきたので、フィオレーネはテッカに言う

 

「王子…チッチェ姫が何故お怒りになられたのか、貴方様は分かりますか?」

「ぐずっ、ぐず…」

 

王子はすぐ側にあったシーツを掴み、涙を拭いて鼻をすすりながら答えた

 

「分かっている……多分チッチェは、俺に『自分だけのお兄ちゃん』でいてほしかったのに、そうじゃない答えを言ったから怒ったんだろう…」

「そこまで分かっていながら、何故あんな答えを?」

 

目元を擦り、充血した目でシーツを眺めながら呟く

 

「俺は…ハンターになってから、まともにチッチェに構ってやれなかった…12歳の時にチッチェを連れて勝手に城塞高地に行った事、覚えてるか?」

「ええ、アルロー教官に厳しく絞られていましたね」

「あれ以降、チッチェとは城で軽く話すくらいしか接してやれなかった。カムラの里で再会した時、俺が旅に出たからチッチェが寂しがってたとお前は言ったが…きっと王国に残っていても、俺はチッチェを孤独にさせていたと思う」

「…………」

「でも、俺にはやらなければならない事が山ほどあるから傍にいてやれなくて…だから、あの子が寂しがらないようにしてあげたかった。笑いあって、怒りあって、泣きあって、自分の悩みも打ち解けられるような、姉妹も同然の友達がいればって…」

「だから、あのヨモギという子を妹分に?」

「思いついたのは後でだけどね」

 

自嘲気味に笑う王子の姿に、フィオレーネは呆れたように微笑む

 

(この人は、本当に度を越したシスコンで…しかしそれで妹の為に王国すらも救ってみせるのだから、我々でしっかりと支えてやらねばならぬ人だ…)

 

ガチャ

 

そうして王子のぐずりもある程度落ち着いてきた時、医務室の扉が開いた。入ってきたのはロンディーネだ

 

「ムッ、すまないロンディーネ。そろそろ泣き止んだからすぐに医務室を出る」

「いえ、そうではなく…すみません姉上、王子、こちらにチッチェ姫が来られませんでしたか?」

「チッチェ姫?いや、来ていないが…」

「実は、チッチェ姫の姿がどこにも見当たらないのです」

「何!?エルガドのどこにもか!?」

「はい。なので、急いで騎士達に捜索を…」

 

そこまで言った時、ロンディーネは俯いている王子の異変に気づく

 

「チッチェが急に居なくなった…?エルガドは港町な上、陸地は起伏が激しいから誰にもバレずに1人で移動出来るわけがない…船も夕暮れ時だから殆ど出ていない…ガルク、いや、ガルクとそれを操れる人間…」

「王子…?」

 

ロンディーネが声を掛けるとテッカは顔を上げて立ち上がった。そこにはもう泣きじゃくっていた情けない兄の姿はなく…全ての騎士が忠誠を誓う王国の王子の姿があった

 

「フィオレーネ、ガレアス提督とアルロー教官に通達!エルガドの全騎士を直ちに招集して点呼を取れ!ロンディーネはチッチェ姫のいた受付窓口から受注されている城塞高地のクエスト、探索ツアーの参加者欄を全て精査しろ!」

「はっ!ただちに!」

「王子、何を…!?…いえ、分かりました!ただちに確認してきます!」

「俺は装備を整えてからシキを連れてくる!お前達も準備を──」

 

直後、医務室の扉が勢いよく開き、騎士の1人が顔を真っ青にして叫ぶ

 

「王子、大変です!観測隊より緊急連絡!城塞高地に…」

 

そしてその名を聞き、テッカは心臓がキュッと締め付けられたような感覚に陥った

 

「………の出現を確認したとの事です!!」

「ナニィ!?」

 

それを聞いて振り向いたテッカは、もはや一刻の猶予もないと騎士を押し退けて走り出した

 

 

 

夜の城塞高地の森の中を、チッチェ姫と1人の騎士を乗せたガルクが全速力で駆け抜ける

 

「ハァ、ハァ、ハァ…!」

「だいじょうぶ…ッスか…?チッチェひめ…」

「わたくしは平気です!でも貴方が!」

「へいきッスよ…めいよのふしょう、ってやつ…ッス…」

 

どんどん顔から血の気が引いていく騎士の顔を見て、チッチェはどれだけ自分が愚かな行動を取ったのかと心から後悔した

 

チッチェがモンスターを狩ろうにも、ハンターライセンスを持たないチッチェにクエストや探索ツアーの受注権利はない。しかし最近になって、ハンターの資格を持つ者の同行者としてなら、ライセンスを持っていなくともクエストに参加することが出来るようになっていた

 

エルガドの騎士達は全員マスターランク(G級の別称)のハンターライセンスを持っているが、フィーネやローネ、或いは彼女らに近しい者達にクエストの同行をお願いしても決して首を縦に振らぬだろう

 

故に、チッチェは王国騎士の中でも1番の新人である“ジェイ”に無理を言って頼み込み、城塞高地の比較的簡単なオルギィの、しかも下位の討伐クエストに同行したのであった

 

下位の小型モンスターであらば比較的に弱いし、マスターランクの武具を装備したジェイならばどんな攻撃を受けても平気だ。仮にマスターランクの大型モンスターと出会したとしても、片手剣の盾で防げば大怪我をすることはまずないだろう

 

──だからこそ、一撃で盾ごと防具を粉砕し、ドス黒く変色するほど左腕をグチャグチャに砕き折ったモンスターが尋常であるはずがないのだ

 

バキィ! メキャァ!

 

「ああっ!」

 

チッチェは振り向きながら、迫り来る巨大な影に恐怖の表情を浮かべる

 

頑丈で太い木々をへし折るのは、木の幹より太く、長く、大きな尻尾

 

見上げる巨体には赤い筋肉の筋がくっきりと浮かび、さらに刻み込まれた多くの傷跡を爛々と赤く輝かせる

 

そして…顔面を覆い隠すほど龍属性エネルギーを口元から溢れ出させるその姿は、チッチェに『悪魔』という言葉を連想させた

 

まさしく貪食の恐王。まさしく健啖の悪魔

 

 

 

『ゴガァアアアァァァッ!!』

 

 

 

“恐暴竜イビルジョー”が、チッチェ達のすぐ後ろにまで迫ってきていた

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