成り代わり真依は姉のために死にたい   作:トートロジー

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これにてメカ丸勧誘編というプロローグは終わりです。
後書きでちょっとした本誌ネタバレがあるますので注意。




なんか青春してる4話目です。


青春アミーゴ

 そこからはもう怒涛の質問攻めだった。

 

 『未来はどうなっているのか』『夏油達の目的はなんなのか』『京都校のみんなは生き残っているのか』『未来人ならば何故それを今俺にだけ明かしたのか』

 

 当然の疑問の数々、もちろんそれに答えられるだけの用意はしてある。

 そもそも僕が死んだのは2023年、そして今は2018年。

 間の数年で変わった世界情勢を上手く脚色しながら、そこから推測できる未来像を出来るだけ矛盾のないように、ゆっくりゆっくり回答していった。

 

 「確かに未来の情報の価値は計り知れない、あの魑魅魍魎の総監部共に伝わらないように隠してたのも納得が出来るが……」

 

 「そーいうこと、例え恩師の五条悟にだって言えるわけがないよ。だって僕12年前には既に五条家のクソガキにコンタクトとってたんだからね?夏油傑の末路を知っていて黙っていたなんて口が裂けても言えないさ」

 

 頭を傾けながら唸るように幸吉は思考している、あまりに非常識で非科学的で非呪術的なことを僕が言ったんだから戸惑うのも当然だろう。

 僕は五条悟という人間をあまりに知らなすぎる。

 前世での原作知識なんて本人を前にすれば意味を成さない、紙に記された属性の羅列や過去など今を生きる人間相手に通じるものではないのだ。

 

 人は大なり小なり隠し事をしている、性格を取り繕っている。

 僕が『ノリよく明るく純粋で嫌味にない真衣ちゃん』というペルソナを被っているように、彼もまた『特級術師にして高専の教師であり生徒を導く者』という仮面を被っている。

 

 そんな彼相手に「あ、夏油さん闇堕ちするの知ってたけど言わなかったよゴメンゴメン」なんて言えるはずがない、もしそんなことを口に出そうものならその時こそ天上天下唯我独尊にして素を隠そうとしない彼の本音が見れるだろう。

 その時僕がどうなるかなんて想像したくもない。

 

「前世が未来の術師、信じがたくはあるが嘘と言い切るにはあまりにオマエは知りすぎている」

 

「そうそう、だから信じてくれない?僕のこと」

 

 これは、賭けだ。

 常に天与呪縛、即ち先天的な『縛り』に囚われている彼ならばそこに行き着くはずだという賭け。

 

「……オマエは俺にとって初めて出来た友達だ、疑いたくはない。だが俺も術師だ、もちろんイタコのことも知っている」

 

「イタコ?……あぁ、つまり魂をあの世から引っ張り出してくるイタコが存在するってことは()()()()()()()()()()()()()()()()ってこと?」

 

「そうだ、しかもそれ以前に呪術的には輪廻転生は否定されている」

 

「まあそれに関しては僕がイレギュラー中のイレギュラーとしか言いようがないんだけど……どうしたら納得してもらえるか……」

 

 わざとらしさが出ないように悩むフリをする。

 僕らにはこの状況を打破する決定的で最高の策が一つある。

 その存在は常に幸吉の身近にあった、気づけるはずだ。

 浴槽のようなそれの中で、幸吉は沈黙を破り言葉を吐いた。

 

「それなら俺に一つ案がある」

 

「……それは?」

 

「縛りだ、これより少しの間互いに嘘をつけない縛りを結べばいい」

 

 勝った。

 にやけそうになるのを必死で抑え込み平常の顔を保つ。

 もし幸吉が言い出さなくても僕が頃合いを見て提案していたが、疑われないためには彼から言い出してくれるのが一番。

 

「成る程ね、それはいい。でも少しの間ってのは曖昧すぎる。十分にしよう」

 

「十分か……真偽を問うだけならそれで充分か」

 

 縛り、その存在に対する研究は多くの術師が行っている。

 そして落ちこぼれとは言え禪院家の人間である僕は、歴代の禪院の人間の縛りに関する研究成果を閲覧することが出来るのだ。

 もちろん生物学上の父親である扇の許可は出なかったが、僕は現当主の直毘人にそこそこ気に入られているためそっちから許可が降りたのだ。

 

「よし、じゃあ『これより十分の間、()()()()は与幸吉の問いに嘘偽りなく答えることを誓うよ』」

 

「言質は取った、縛りは結ばれただろう………こんな縛りを結んだ時点でオマエが嘘をついている可能性はこの上なく低いがそれでも一応聞く」

 

「なんなりと」

 

「────オマエの前世は未来の術師か?」

 

 もちろん僕の前世は単なる一般男子中学生だ、呪術になんて触れたことのない一般人だ。

 未来のことなんて知るはずがないし、姉さんが直哉呪霊を倒した後のことも全く知れない。

 だからこそ、こう答える。

 

「答えはYESだよ」

 

 あり得ないほどに嘘、信じられない程に虚実、そこに一切のホントウは存在しない。

 だが、だがこれにより僕はペナルティを受けることない。

 何故なら僕の名前は禪院真依ではなく、■■・■■■だからだ。

 

「……わかった、信じよう。オマエは確かに未来人だ、疑って悪かった」

 

「謝る必要はないよ、誰だってあんなこと言われたら疑うのも当然だ」

 

 幸吉はふぅと息を吐くと全身からダランと力を抜いた、緊張の糸が解けたようだ。

 そんな幸吉を見ながら、僕は禪院で見た書物の内容を思い出していた。

 縛りには一つ興味深い事実がある、それは縛りの内容は結んだ者の認識によって左右されることだ。

 今まで結ばれた事例には、名前の偽装によるペナルティからのすり抜けなども存在する。

 

 そこで僕は今回の作戦を思いついたんだ。

 禪院という家に帰属意識を感じることもなく、今世の親から愛情を注がれることもなく、未だに前世の記憶をイチイチ思い出す人間は本当に禪院真依なのかという疑いが始まりだった。

 とんちのような作戦だが、実際に今までの縛りの歴史が今回の策が有用であることを証明している。

 

 まあ、一度実験的に棘とこの縛りを結んだ時は少し悲しくなりはした。

 未だに僕の自意識は『禪院真希の妹である禪院真依』ではなく『〇〇中学に通う男子である■■・■■■』であるいうことが証明されたのだから。

 姉さんの妹ではないと、そう言われているような気がしたから。

 

「それじゃあこっからはこれからの事を話し合いたい、僕の目的は君の生存とそれによる五条悟への伝達……」

 

「その前に、少し聞いていいか……今回の件とは全く関係ないんだが」

 

「別にいいよ、何?」

 

 少し気恥ずかしそうに、尚且つ重苦しそうに、幸吉は問いかけてきた。

 こんな時になんだと思ったが、とりあえず続きを促す。

 

「オマエには感謝している。堅苦しいメカ状態の俺と友達になってくれた、京都校に頻繁に来ては俺とくだらない話をしてくれた、メカ丸越しでしか喋る勇気がない俺とも電話で話してくれた、三輪が好きだと言った時も恋愛相談に乗ってくれた。全部の時間が楽しかった。オマエのお陰で今まで一線を引いていた京都校の術師たちの距離が縮まっていくのを肌で感じる」

 

 初めは打算ありきだった、五条悟に僕から直接羂索のことを伝える『プランB』ではあまりに総監部や五条か警戒されると踏んだ僕の打算だった。

 幸吉が生き延びることで五条羂索関連をあちらに任せられるという打算だった。

 

 でもいつからか、普通に話していた。

 天与呪縛故に動けず、そのため映画がアニメを人より多く見ている幸吉の話は面白かった。

 歓声もなかなかに合っていて、前世で友達としていたような感覚を味わえた。

 メカ丸越しに電話で喋っている時も、なかなか新鮮な体験で面白かった。

 

「だからこそ、差を感じてしまう。美しく、明るく、多くの術師や窓に好かれるオマエはまるで太陽のようだ。それに比べると俺にあるのは強さだけ、それも中途半端な準一級。成長も見込めない」

 

 過大評価だ、なんて言いたくなるのを抑えて彼の言葉を最後まで一言一句残さず聞いていく。

 これが幸吉の本音だともう既に理解しているからだ。

 

「こんなことを聞くのは単なる俺の自己満足だろう、それは理解している。それでも聞かずにはいられない」

 

 ただ、聞く。

 聴き続ける。

 

「俺は……オマエの友達足り得ていたか……?」

 

 嫉妬、劣等感、何もかもがぐちゃぐちゃに入り混じった言葉が彼の口から放たれる。

 こんな感情を幸吉が抱えていたなんて、僕は全く知らないった。

 なら、返す言葉はもう決まっている。

 

「楽しかったのは、僕もだ。今の僕を見てる幸吉からは信じられないだろうけど、前世は結構インドア派だったんだよ?」

 

 一息に、全部出し切る。

 

「最初は打算だった、けど話が合うのも、君の話が面白いのも、君との会話が楽しかったのも全部本当だ。だから、今日こそははっきり言うよ」

 

 しっかり目を見て、伝えたいことを全部全部言葉に乗せる。

 

「幸吉との時間は楽しかった、まだ会って一年少ししか経ってないけど、それでもあの思い出たちは嘘じゃない」

 

 これは縛りをすり抜けた嘘じゃない。

 

「僕は、幸吉の友達だ。僕らは友達だ」

 

 虚実じゃない。

 

「君がどう思おうと、君がどう思おうが僕は君のことを大切な友人だと思ってる」

 

 だからこそ、危険のあるプランを選択してまで生き延びて欲しいと願ったんだ。

 

「だからさ、一緒に真人から逃げようよ」

 

 その後僕は死んじゃうけど、君は五体満足で人生を生き始める。

 

「幸吉の心は、自分で思うほど醜くないし弱くないよ」

 

 むしろ僕よりずっとずっと強い。

 だから僕は君の幸せも願っている。

 

「……なんかちょっと恥ずかしいな。こんなこと本人の前で言うのは」

 

「本当に、オマエは眩しいな……『僕らは友達」か」

 

 幸吉は言葉を紡ぐ。

 

「やっぱりまだ差を感じる?」

 

「あぁ、少しな。だが」

 

「だが?」

 

「悪い気分じゃない」

 

 そう言った彼は、確かに気の抜けた笑みをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




補足

Qイタコの降霊術式はあくまで魂の情報だけを取り寄せてるんじゃないの?

A呪術界で好き好んで自分の術式を開示するやつはいません、イタコという存在は認知されていてもその術式の精細まではメカ丸は知りません。
イタコのパブリックイメージで二人は話しています


Q 縛りであんなことできる?

A だ本誌で呪いの王と羂索が見事な縛り活用してるからこれくらいはできるんじゃない?という感じです


Qメカ丸あんなこと言う?

A 生まれてこの方あの体故のコミュニケーション経験の不足
 そのため相手の本音を絶対引き出せる縛り状態だったら言っちゃうかなって


Qメカ丸ちょろくない?

A 絶対本音しか言えない時間(大嘘)にあんな直球の言葉ぶつけられたらね…

Qあんなこと言ってるけどオリ主普通にメカ丸相手に嘘つきまくってるよね

A はい

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