―――とある日の正午、E市にて
「おい!! 見ろ!! キング様だ!!」
「またキング様が怪人をやっつけてくれたぞ!!」
「………」
怪人がやられたと聞いて集まる市民を尻目に、それとおおよそ5メートルにもなろう巨大な怪人の死体を目の前に、S級ヒーロー『キング』はその場で立ち尽くしていた。
「さ、流石キング様だ!! こんなでっかい怪人を始末するなんて!!」
「しっ……しかもなんだこれ!? 八つ裂きにされてる!? 一体どんな拳法を使えばこんな風になるんだ!?」
「おまけによく見たらこれ……血が出てねぇ……。 まさか身体の細胞が切られたとすら認識できてねぇのか……!?」
「キ、キング様マジヤベェ……!!」
「………」
しばしの沈黙の後、キングはやがて後ろを向き、群衆のいる方向へと歩みを進めだす。
「キ……キング様がこっちに来るぞ!!」
「キング様!! ぜ、是非ともサインを!!」
「………」
こちらに向かってくるキングに対し、群衆の方もまたここぞとばかりにキングの方へ駆け寄る。すると、今まで寡黙を貫いてきたキングは、初めて彼らに対して言葉を発した。
「………すまない、急ぎの用があるのだ。道を開けてくれないか」
「なっ……!! こ、これは失礼致しましたキング様!!」
「おい皆!! 道を開けろ!! キング様がお帰りだ!!」
群衆の内の一人がそう言うと、後ろの方に居る彼らまでもが、まるで訓練された軍隊かのようにキングが進む方向への道を開いた。
「どうぞキング様!! 気を付けてお帰りで!!」
「怪人退治!! 頑張って下さーい!!」
声援を後にし、帰宅路につきながら、キングは考える。
――自分でも先程言った、【急ぎの用】について。
(ついさっき買ったゲームの新作、楽しみだなぁ……)
◇◇◇
「はぁ……、やれやれ。今日ももやし生活か……」
自らが手に持った財布の中身を見て、おおよそ高校生くらいであろう少年は、哀愁を漂わせながらそう呟いた。
「今日は結構体力使ったからなぁ……。偶には肉を食べたいものなんだが……」
グーグーと鳴るお腹を抑えながら、少年は商品棚にあるもやしを手に取る。そしてレジへと向かおうとした矢先、栗色の髪をした特徴的な人影が少年の側を横切った。
(……サイボーグか、随分と珍しいな。)
顔立ちや着ている服装だけ見れば、彼はただの一般的な人間なのだが、袖から見えるその両腕は、いかにも機械ですよと言わんばかりの鋼鉄で覆われていた。
(――ん? あっ、あの人財布落としてる。)
足元に落ちていた財布を拾い、少年はサイボーグの男の方へと速足で近寄って行った。見たことのないサイボーグに話しかけるということで、未知から来る若干の恐怖心というものもあったが、道徳心に比べればそれほど気になる程の物でもなかった。
「あっ、すいませんそこの方。」
「――――!?」
少年が声を掛けた瞬間、男はすぐさま後ろを振り向きながら両腕を構え、彼を睨みつける。
「……何者だ」
「えっ? あ、あの……財布落としましたよと……」
「……財布…?」
サイボーグの男は構えを解き、すぐさま自身の鞄の中を漁り出す。そして、確かに現物が無いことを確認したのか、少年の方へと深々と頭を下げた。
「……すまない、拾ってくれたにも関わらず、これは失礼した」
「い、いえ……どうも」
ちょっとした会釈を垂れながら、サイボーグの男は顔をあげると、瞳を下にしながらまるで観察するかのような目線で少年を見つめた。
「……」
「……あの、他に何か?」
「………いや、それがつい先程そちらからただならぬ者の気配がしてな」
「……えっ?」
「いや、すまない、忘れてくれ……。って、むっ!? もうすぐ博士が帰ってくる時間じゃないか!? 少年。財布を拾ってもらえて助かった。また、どこかで。」
そう言い残し、男は目にも止まらぬ速度で人の居るレジの方へと向かって行った。
(………)
「はぁ……」
――取り残された少年は眼鏡を外し、世界を見る。柱、壁、棚に食物、そして人。紅色の線と点が至る所にある、歪んだ、壊れた世界を。
(ただならぬ者……ね……)
ポケットからナイフを取り出し、柄の部分を見つめる。そこに記されているのは『七夜』という文字。
「……ほんと、なんなんだろうね。これ」
少年は自嘲を含む、複雑な感情でそう呟いた。
「………」
【
今は高校に行きながらバイトをして生活しているが、前程を見ての通り、生活は芳しくない。
「………」
彼にはいくつか常人とは違う所があった。一つは限定的な箇所で発揮される、常人とは一線を画す異様な身体能力。そしてもう一つは、彼の両眼。
「……いっ!?」
――直死の魔眼。雅景の父、『
”死”を直接視覚情報として捉える眼。そこら中に蔓延る赤い線と点、そこを刃物でなぞれば、その物を概念的に、存在そのものを終わらせる事が出来る。もっと端的に言えば、生命などではなく、その物の存在自体を消すとでも言えばいいだろうか。
「いってて、流石に長時間外しすぎたか……」
物の死である、人や生き物にも平気で憑いている赤いヒビのような線を、長時間見続けるのは脳や精神に多大な負担がかかる。
初めて物の死が見えた頃、雅景は脳に来るあまりの激痛に、自殺未遂を起こすまでに至った事があった。それ故、雅景は父から貰った眼鏡を、視力は全く問題無いにも関わらず常時かけるようにしている。
彼の父曰く、この眼鏡は雅景と同じ直死の魔眼を持つ曽祖父がかけていた特別な物で、しかもそれは稀代の魔術師から貰ったものだとか。
「……ほんと、今考えても傍から見れば胡散臭い話だよなぁ……」
しかし、掛けている本人からしてみれば確かに納得できる話でもある。全く曇る事がない上に、落としてもヒビが入る事すら無い。そもそも、普通の眼鏡では試してみたが、赤い線が見えるを遮ることすら出来ないのだから。
「……そういえば父さんも爺ちゃんも、自分が曽祖父によく似ているって言ってたなぁ。」
父、幻光はかつて、雅景にこういった事があった。
『お前は俺の爺さんに本当によく似ている。顔立ちも、性格も。』
「……もし遺伝だとしたら、こんな物まで遺伝してきたのはちょっと勘弁してほしかったと言いたい所だけど……怪人から身を守る時とかには役に立ってるからね……。踏んだり蹴ったりだな。」
実際、何故かは知らないが、何かと怪人に襲われやすい雅景にとって、この能力が無ければ命を落としていた場面はいくつもあっただろう。先程出会った怪人を八つ裂きにしたのも、その内の一つだ。
「……っておっといけない。また耽てしまったいた」
一つの事をきっかけに長時間その場で長考に耽けてしまう。良くも悪くも、それが遠野雅景、彼の一つの癖であった。
「曽祖父もよくこんな事してたのかなぁ……。ってね……」
買い物籠をレジで通し、店を出て、雅景は橙色に染まった夕方の帰宅路を歩く。
――これは後々にヒーローとなって紆余曲折を迎える少年の物語。その序章に過ぎない。
ワンパンマンの二次創作を書いてみたいという事で投稿してみました。小説ってやっぱ想像以上にむじぃ……。感想、批評等良ければ書いていってください。主の励みになります!!