ランチラッシュのサイドキックは正義の味方 作:アイン_BD’sR
ウマ娘も書かなきゃいけないのに……やること多過ぎっ!
というわけで第10話です!中華料理ということは………?
毎年どんどんと暑くなっていくと感じる日々。数時間かけてようやく目的地に着いたのに空調の効いた電車から降りたくないと思わせるほどにジリジリと強く陽の光が差し込む。そんな思いを振り切って男女4人が駅へと降り立ち、ふと1人が手で影を作りながら空を見上げる。そこには激しく光る太陽と青い空そして大きな雲が広がっており、彼は……緑谷出久はボソリと呟いた。
「夏……だね。」
その小さな声は幾十にも重ねられた蝉の声に掻き消されていた。
空気が歪んで見えるほどの暑さ。夏休みを迎えた彼らは大量の汗を滲ませ、鉄板のようなアスファルトの上を歩き始めていた。
「遠かったな……4時間程かかるとは……」
「あぁ……氷を作りたいが、仮免許もまだとってない俺らが外で個性を使うのは流石に不味いからな。」
「もう少し歩きそうだし、どこかで飲み物でも買った方がいいかもね………」
「でしたら!」
そんな少しどんよりとした空気を変えるかのように手を合わせて明るい声を上げる少女。八百万は目を輝かせて3人を先導するように前を歩く。
「お伺いする前にどこかで買い物しませんこと?今にして思えば手土産も無いのは少々お恥ずかしい事ですわ!」
くるりと軽く振り向いた彼女の笑顔はこの暑さに負けない程の強さを持っていた。
飲み物を買い、スーパーのクーラーにて体力を回復した3人はこれから行く目的地を思い出したのかワクワクした表情で歩き始める。
「ええと……この角を曲がって……道なりに行けば着くのかな?」
「うむ!その行き方で問題ないな!……しかしこんなにも買い込んでしまっていいのだろうか?常温保存可能なものはまだしも、アイスや飲み物は……」
両手に大きめのレジ袋を持った飯田が少し不安そうに呟くと、前を歩いていた轟が少し歩く速度を落とし隣で話し始める。
「それは問題ねェ。衛宮さんの許可さえ貰えば私有地だからな。俺の氷と八百万の創造でクーラーボックスを作れば持ち帰りもできる。」
「なので少し多めの方がいいかと思いましたわ!もし余りましたら帰りに食べてしまいましょう!」
雑談を交えながら目的の場所へ向かう4人。「もうそろそろで着く」と話題が変わると衛宮宅の外観について予想をお互いに交える。「一般的なマンションだ」「いやいや、プロヒーローなのだから一軒家かも」「勝手なイメージだけど、和風な家な気がする」とそれぞれの考察を言い合いながら歩いていたが、突然先頭を歩いていた緑谷の足が止まりその後頭部に飯田の胸が当たる。
「ム!緑谷くんどうかしたか!?こんな道の真ん中で突然止まってしまうのは危険だぞ!」
「どうした緑谷?」
「ね、ねぇみんな……住所って……ここであってるよね……?」
「?えぇ、確かにここ辺……り………」
携帯で位置情報を見ていた八百万は驚愕している様子の緑谷の目線を追い、その光景に目を見開く。
元々八百万はその生まれから世情に疎く、部屋の広さや一般常識などが少しだけズレている。とはいえ、極端な箱入り娘というわけでは無い。普段の景色に映る家の外観や大きさなどはごく一般的な常識を持っている。
だからこそ、住宅街の中で突然目の前に広がる長い外塀とその中で重々しい雰囲気を放つ屋敷には反応せざるを得なかった。
「本当にここなのか……!?」
「位置も合っているし、間違いねェだろ。行くぞ。」
普段の衛宮のイメージから想像できなかったのだろうか。1人無表情を貫く轟を除き全員が驚いていた。
3人を置いてその外塀をなんでもないかのように抜けようとする轟にこれまた全員が驚き、その身体を掴み静止する。
「ちょ、ちょっと!これってそのまま入っていいものなの!?」
「そうですわ!そもそも場所を間違えているかもしれません!」
「ん?塀の入り口に呼び鈴やインターホンが無ェだろ。そうなら、そのまま入って家の扉の方にあるインターホンを押す……最近じゃ珍しいけどな。間違っているんだったら、住所を間違えたと謝るだけだ。」
「そ、そうか!?いや……しかし……」
入り口で右往左往する3人はなんてことないように塀の中へ進む轟を見た後、互いの顔を見合わせるとおずおずと塀の中へ入って行くのであった。
「…………インターホンがないようなのですが。」
「そうだな。」
「どうするのだ……?もしかしてだが……」
「ああ、戸を叩くか呼ぶしかないな。」
「こ、これで間違えていたら……かなり恥ずかしいよ……」
「大丈夫だろ。」
塀という壁を乗り越えた先に更なる壁が待ち受けていた。この事実にまたしても1人を除き慌ててしまう面々。
そんな様子を見かねたかのように、誰も触れていない戸が突然ガラガラと音を立てて開く。そしてその先にいたのは彼らの知っている男ではなかった。腰あたりまでさらりとした黒髪が伸び、モデルと言われても違和感を感じないほど顔の整った美しい女性であった。
「あら?あなた達……」
そのきょとんとした顔を見て3人は血の気が引き、バッと冷や汗を全身にかいた事を感じた。
(((や、やっぱり違ったーーーーー!!)))
その叫びをなんとか心の中に押し込め、平静を保つ。……尤も数秒間完全に固まってしまっているのだから、その虚勢も意味が無い。
「ど、どうするの!?住所間違ってた!?」
「まぁ、しょうがねェだろ。」
「しょうがないって……」
小さな声で全員がおそらく有識者の轟に詰め寄る。これまた目の前での相談なので小声が全く意味を成していないが。そんな4人を見定めるかのようにじっと見つめると、戸から出てきた女性は全員に声をかける。
「えっ……と。緑谷君に飯田君、轟君と八百万さん……で合っていたかしら?」
「え……?あ、はい!」
「士郎から話は聞いてるわ。さぁ、上がってちょうだい。」
「あ、あの。あなたは一体……?」
飯田がそう言うと赤い服の女性が振り返り、同じ疑問を持っている4人を見る。なるほどと納得した表情をし、そしてなんてこともないように軽々と自己紹介をする。
「私のこと言ってなかったのね……私は『衛宮 凛』。士郎……衛宮士郎の妻と言ったら分かりやすいかしら?」
「え……」
「「「えぇーーーーーーーーーっ!!!???」」」
今度の叫びは胸の内に押し込む事ができず、そのまま口から勢いよく発された。
「アーチャー様の………アーチャー様の………」
「ね、ねぇ……八百万さんだっけ……?大丈夫かしら……?」
「ええ!大丈夫だと思いますよ!好きなヒーローの知られざる秘密………僕だって驚いて色々と考え込みますから!」
「……そうなのか。」
「いや、轟君。それは何か間違っている気がするぞ……!」
魂が抜けたようにブツブツと呟く八百万を引き連れ玄関から廊下へ移動する。外見に則したように内装もとことん和装であった。現代では使われる事がほとんどない固定電話を珍しく見送る緑谷達は居間へと通される。
「士郎ったらみんなが来るのに他ヒーローの応援要請が来たからって飛び出して……ここで待っててくれるかしら?」
「あ、はい!お邪魔します!」
そこは6人ほど座っても問題ないくらいには大きい机と6つの座布団が用意されていた。凛はそこに座るように促すとカウンターを挟んだキッチンへと足を運ぶ。玄関で受け取った手土産のアイスや飲み物を冷蔵庫にしまうためだろう。
手土産の飲み物と元々沸かしていたであろう麦茶を机に並べ、凛は4人分の氷が入ったコップをトレーに乗せて4人の元へ歩きながら話しかける。
「あー……そういえばお昼は士郎が作るって言ってたわね……みんなお腹空いたでしょ。」
「い、いえ!お気遣いなく!」
そう問題ないように力強く返事をする飯田だったが、長距離の移動が響いたのだろう。その言葉とは正反対に腹の虫が鳴り始めてしまった。
「……よろしい!士郎帰ってくるのもう少し後になりそうだし、私が作るわ。ちょっとだけ待っててね。」
「申し訳ございません………」
消え入りそうな小さな声で飯田が話す。プルプル震える肩に優しく緑谷の手が添えられるのであった。
「士郎も食べるだろうし、確か飯田くん?だったかしら。辛いのが苦手って士郎が言ってたわよね……それなら!」
生姜は皮付きのまま粗みじん切りに、長ねぎも粗みじん切りにして長ねぎは白い部分と青い部分に分けておく。そしてしょうが、長ねぎの白い部分、豚ひき肉を入れて炒める。ひき肉が油をたくさん出すので、ここでは油を引かなくても良い。(焦げ付きやすいフライパンを使う時は軽くごま油を引く。) 炒めている間に、ナスのヘタを切り落として縦半分に切り、食べやすい幅の斜め切りにする。この時、余裕があったら皮目を格子状に少し切り込みを入れると油とあじが染み込みやすく、おいしく仕上がるけどここはお好みで。 炒めている豚ひき肉の色が変わってきたらナスを入れ、中火で炒める。
炒めている間に、ボウルに水と味噌、みりんと出汁に醤油(めんつゆでもOK)を入れて混ぜ合わせておく。水溶き片栗粉と各調味料をそのまま入れてもいいけど……こっちの方が味が均等になりやすいしバラバラに入れると入れる時に分量間違える事があるからおすすめ。……私は直接入れるやり方でもできるけど士郎から止められてるから、しょうがないけど先に混ぜ合わせておく。 豚ひき肉に火が通り、ナスがしんなりと柔らかくなってきたら少し火を弱めて、混ぜ合わせていた調味料を回しかけゆっくりと煮詰める。火を弱めるのは片栗粉が焦げ付いてしまうのを防ぐためで、火力を強くし過ぎたか少量を作る際は一度火を止めて温度を下げてからの方が作りやすくなる。 全体に味がなじみ、とろみが付いたら長ねぎの青い部分と香り付けのごま油を少し入れて混ぜ合わせる。 味を見て問題無ければ火から下ろし、器に盛り付けて完成!
「待たせちゃったわね。今日のごはんは『和風麻婆茄子』よ!」
麻婆茄子と白米が各人の前に並べられる。空いている席に置かれたラップのかけられたそれは帰ってきていない衛宮の分であろう。
「それじゃあ、みんな遠慮せず食べちゃって!ごはんのおかわりもあるから!」
「はい!ありがとうございます!」
「「「「いただきます!」」」」
4人が手を合わせてそう言うと、ごま油のいい香りを前に待つことができなかったのか勢いよくレンゲで麻婆茄子を取り、口に入れる。
「ん!これすごく美味しいです!ナスがトロトロで味をとっても吸っていて、どんどんごはんが欲しくなる!」
「全然辛くない…‥どころか寧ろ甘いくらい!俺のためにありがとうございます!」
「これは……中華というより寧ろ和風ですの……?出汁の味わいがとても強く出て美味しいですわ!」
「ねぎがいいアクセントになっている……ごま油の香りも食欲が湧いてくるな。家でもよく出てくるが、だいぶ違げェ。こんな麻婆もあるとは……驚きだ。」
「士郎も辛い中華は少し苦手意識あるみたいで、この料理もよく作ってるのよ。おかげで前までよく作ってた辛めの料理の回数が減っちゃって……とっくに回数追い抜かれちゃったわ。」
「前から気になっていたんですけど衛宮さん…‥っえと士郎さんって………」
いつのまにか立ち直っていた八百万含め5人で食べながら話をする。大体がオフ……家での衛宮士郎の話が中心となっていた。馴れ初めから普段の衛宮士郎の日常までとことん質問攻めをされる遠坂であった。
そんな中ふと思い出したかのように轟が緑谷に声をかける。
「緑谷、そういや麗日はどうしたんだ?今日は用事でもあったのか?」
「麗日さんってみんなといつも一緒にいる子よね?士郎に聞いたことあるわ。」
「うん。誘いはしたんだけど……
『……う、麗日さん!』
『お!デクくん!どうしたの?』
『夏休みのこの日って空いていたりする?飯田くん、轟くん、八百万さんで……』
『みんなで遊びに行くの!?私も行く〜!それでどこ行くの?』
『えっとね、衛宮さんのお家に誘われて……って麗日さん!?』
『あ、あーごめんね。思い出してみたらその日用事あったんだった!ほんとごめんね!』
……って感じでそそくさと行っちゃって。」
「あの麗日さんが……珍しいですわね。」
「フム!用事があったのなら仕方がないな!」
「あぁ、そんなこともあるだろ。」
納得している飯田に轟だったが、いつもの人懐っこい麗日の様子から少しズレていると思った八百万と実際に断られた緑谷はその違和感に首を傾げてしまう。
「………」
「……凛さん?」
関係ない話をしてしまっていた事に気付いた緑谷は慌てて凛の方を見ると、その表情は眉を顰め何か難しいことを考えているかと見受けられた。緑谷はついつい声をかけ、かけられた凛は我に返ったようにハッと表情を崩し今度は困ったように笑顔へと変わっていく。
「あ、あぁ……大方士郎のやつがその麗日さんに変なことしたんでしょ。アイツ結構女性にそういうデリカシーない事するから。」
「そ、そうなのでしょうか……」
小さな違和感に続き更なる違和感に八百万が反応してしまう。しかしそんな疑問は玄関から聞こえたガラガラと扉が開かれる音と「ただいま」と少し焦っているのか早口の声に遮られてしまうのであった。
背中に手を当て、彼女は目を閉じる。
その手の当たった背中から幾つもの光の線が走り、腕や腹部、そして顔まで広がり全て胸の中心へと繋がる。光が少しずつ明るさを増し、それと共に顔から身体にかけて広がった火傷のような浅黒い肌が徐々にその範囲を狭め健康的な肌の範囲が広がっていく。
やがてその光が胸部へ収まるように身体の外側から消え、そして胸の光も消えると月明かりに照らされた薄暗い部屋が戻ってくる。
「はい、ひとまず今日はこんなところね。」
「……ん、ありがとう。遠坂……じゃなくて凛。身体が軽くなった気がするよ。」
「『気がする』じゃなくて『なった』の!………まったく。それに、ここでなら遠坂でいいって何度も言ったでしょ。」
少し顔を青くして汗をかきながらも腰に手を当て強気に応える。
期末試験についてや今後の学校行事の話に相談事、終いには道場での少しの稽古や実践練習など。招待した学生4人と様々な時間を過ごした後少し早めの夕飯を振る舞い、駅まで見送った後だった。街灯のせいか夜空に月しか見えない帰路を歩き、玄関まで辿り着くと衛宮の隣にいた遠坂は突然手を掴み早歩きで部屋に戻る。そして無理矢理衛宮のシャツを剥ぎ取り、今に至るのであった。
そんな彼女は突然静かに話し始める。
「……あんた、今日だいぶ無茶したでしょ。『
「凄いな。そんな事までわかるのか。」
「……わからないとでも思ったかしら?はぁ……あなたからは見えないかもしれないけどその背中ね、誰が見たって異常にしか思えないわ。」
息切れを起こしながら遠坂は淡々と話す。その視線の先にある衛宮の背中は先ほど収めた筈の浅黒い筋肉質な肌に埋め尽くされていた。首の途中から肌色に筋肉量が変わっている所を見ると、まるで生首を違う身体に無理矢理くっつけたような気味の悪さを思わせるほど不自然であった。
「いい?この仕事が少ない夏休みの期間は『絶対に』投影をしない事。今日みたいな緊急のも含めてヒーロー活動もできる限りしないで、そして毎日必ず今日と同じ私の治療を行う事。」
「いや……それは………」
彼の中の信念が「ヒーロー活動をしない」という言葉に言い淀んで返事をしてしまう。
息を整えた遠坂は、ばつが悪そうに目を伏せると背中から腕をまわし衛宮を抱きしめる。
「絶対にダメ。その力に呑まれたらどうなるかなんて私以上にあなたがわかっているでしょ。それにそんなことになったら私達は……」
「……………わかった。わかってる。この夏休みは1人ではこの家から出ないし、投影もしない。だから……そんな顔をしないでくれ。」
背中に当てている頭がピクリと動き、腕の力がより強くなる。その優しい声に含まれた彼の真意……それを理解し、歯を食いしばる遠坂の表情は彼にバレないようにかその変わり果ててしまった背中に押しつけた。
「……夜食でも食べるか。遠坂もお腹すいたろ?夕飯の残りで簡単な物でも作るよ。」
「……………」
「遠坂……」
「……ええ、そうね。そうしましょう。」
その言葉を聞き彼女の腕の力が抜けるのを感じると、衛宮は立ち上がり部屋を出る。その背中を追いかけるように遠坂も遅れて立ち上がる。
「このままじゃ……………救うことなんて……」
その言葉を誰にも聞かれないよう小さく呟いた。
最後まで読んで頂きありがとうございました。今回はこの物語の根幹がかなり明かされて来ましたね。
この凛の設定には賛否分かれるかと思いますが、とりあえず今は暖かい目で見て頂けますと幸いです。
4人と衛宮とのやりとりはくどくなってしまいそうでしたので省きましたが、次回くらいに書けたらなぁ……と。
最後に、この作品はとりあえず12話(あと2話)で一区切りとしますが、そのあとの物語の構想が今の料理メインが続かない感じになってしまいました。(設定念入りにし過ぎた影響がこんな所に……)
大体の予想ですが料理・日常:シリアス・バトルが3:7くらいかなと……
そんな行き当たりばったりなこんな作品ですが、引き続き読んでいただけますととても嬉しいです!