ランチラッシュのサイドキックは正義の味方 作:アイン_BD’sR
前回のラストで結構シリアスな雰囲気出していましたがしばらくは日常回が続きます。……たぶん。
というわけで第13話です。楽しんでいただけますと幸いです!
衛宮と遠坂が寮の管理人として紹介され、質問攻めをしていたA組の面々であったが、その中の1人が放った何気ない言葉でムードが一気に変わった。
「あ、俺シフォンケーキ焼いてたんだった。みんなで食うか?」
「「「食う〜〜!!」」」
砂籐のその言葉に生徒達は食い付く。峰田や上鳴など一部の男子達は女子に囲まれる砂籐を恨めしく見るが、持って来たシフォンケーキの甘い香りには抗えなかった。全員でシフォンケーキを取り分けるための皿を準備し始めると、衛宮の更なる一言が炸裂する。
「あれ、ホイップは無いのか?ちょっと食べるの待ってくれ、厨房にあった筈だから。」
まさかの援護射撃に全員が息を呑む。……いやごくりと喉を鳴らす。これは最早ただのおやつでは無いと。そしていち早くその事を理解した八百万は我慢ならないと席を立つ。
「私っ!部屋にありますお気に入りの紅茶を取って参りますわ!!」
「うっそ!ヤオモモのお気に入りの紅茶!?」
止めと言わんばかりの最終奥義。そう、彼女がお嬢様である事はその場の全員が把握していた。そんな八百万が自らのお気に入りの紅茶を出すなんて……
そして出来合いのホイップが無いからと生クリームと砂糖、そしてボウルに泡立て器を持って帰還した衛宮を見て確信した……そう、これは完璧なるティータイムであると全員が理解したのだ。
「美味っしい〜〜!」
「ボーノボーノ♪」
芦戸と麗日が満面の笑みで頬に手を当て味わう。周りのクラスメイトも同じような反応でその美味しさに唸っている。
「この香り……もしかして『ムーンライト』かしら?」
「はい、その通りですわ!やはりダージリンのセカンドフラッシュは合うと思いましたの!!」
「流石ね八百万さん。とっても美味しいわ。」
ティーカップを片手に頬に手を当て嬉しそうに紅茶について語る八百万。遠坂も元々詳しいのか、八百万の話に耳を傾けながらケーキと紅茶を味わう。
「おぉ……レモンの香りにこのしっとりふわふわな生地………簡単にはできないな。砂籐は普段から料理するのか?」
「あ、ありがとうございます。甘いもんは個性も相まって良く作るんすよ。普通の料理もできますが。いや……あの衛宮さんに褒めて貰えるなんて……!」
衛宮の存在を知っているのか砂籐はケーキの出来を褒められ、照れながら喜ぶ。そんな佐藤の元には女子達が集まり「作り方を教えて欲しい」やら「また作って欲しい」やら当人達はなんて事ない話をしているのだが、一部の男子から見ると圧倒的に『モテている砂藤の姿』が映っていた。
「くそぅ……ヤッベェコレうんめぇ……」
「うめぇ……さすがシュガーマンを名乗るだけあるな……」
そしてそんな砂籐を恨めしくもケーキを食べる手を止めることはできない上鳴と、そんな彼の肩に手を置き慰めながらも砂籐の力量を舌で感じ取る瀬呂であった。
女子に群がられている砂籐にそういやと轟が語りかける。
「衛宮さんの事知ってんなら、砂籐はよく食堂に行くのか?俺は見た事ねェが……」
「いや行く事は無いな。俺も自炊をするし、あんま行かねぇんだ。ただ、衛宮さんの事は良く聞くし食堂の厨房も興味あるけどな。」
そんな砂籐にさらりとした顔で衛宮が反応する。
「それじゃあ明日厨房来るか?放課後の忙しい時間じゃなければたぶん問題ないけど。」
「へ?い、いいんすか!?」
「ここが俺の持ち場。っても寮に入り浸ることになるからしばらくは別の人の持ち場になるけどな。」
「こ、ここがっすか。広ェ……」
キッチンに並び立つ衛宮と砂籐。やはりこの場所に生徒が入ることは珍しいのか、陰から数人の視線を感じる砂籐である。故に驚きであった。
「ここからなら食事中の皆様の様子も見ることができますの!私も以前はここでお手伝いしていましたわ!」
隣に何故かいる八百万の存在とそのはっちゃけぶりに驚きであった。彼女の発言通り以前の職場体験で衛宮の元にいた事は知っていたが、まさか料理も手伝っていたとは知らなかったのである。
「それで、せっかくここに来たし何か作ろうか。」
「そうですわね!砂籐さんは何か作りたい物ありますの?」
「お、俺っ!?えぇ……っと、俺の個性的に甘いもんだと嬉しいっす。」
砂籐の個性『シュガードープ』は糖分を摂取すると筋力が一時的に増大するモノである。合宿中の訓練時に隣で共に爆食していた八百万も元々そのつもりだったのだろう。その時に食べていたショートケーキを思い出し「ケーキ系にしましょうか」と提案するが砂籐に却下されてしまう。
「確かに訓練の時はケーキを食ってたけど、あれは個性を伸ばす為でさ。実戦の時には難しいんだよ。作るのも時間かかるし、持ち運びにも向いてない。」
「それは確かにそうですわね。失念していましたわ……」
「実際問題持ち運びできる甘くて早く食べれるモノってあんまないんだよな。角砂糖とかは持ってるけど衝撃に弱くって簡単に崩れちまうし……」
「スティック状の粉砂糖とかラムネとかは使わないのか?素早く食べれて携帯性も高いと思うが。」
「見栄え的にあんまりしたくないんす。側から見たら白い粉か錠剤っぽいの沢山食べてムキムキになるヒーローって事になりますし……」
「あぁ……なるほど……」
その回答を想像し衛宮は納得する。確かにそれではヒーローとは言えない。一歩間違えれば薬物中毒者に見受けられてしまう光景である。
「それなら琥珀糖はどうだ?」
「琥珀糖……っすか。」
「まぁ!」
衛宮の提案に砂籐はポカンと八百万はキラキラした瞳で声を上げる。
「私何回か食べたことありますわ!宝石のように綺麗で繊細な味わいでしたわ!」
「俺も何度か食べたことありますけど……作れるんスか?」
「ああ、結構簡単だぞ。それに今日中は難しいけど結晶化すれば角砂糖より固く、砂糖の塊みたいなモノだから個性にも合ってると思う。」
そう言うと衛宮は「それじゃ、材料持ってくる。」とそそくさとその場を離れるのであった。
材料は粉寒天とグラニュー糖、そして水。これが基本で加えて味、香りを出したい時はフルーツ等を、着色をしたい時は食紅や色が付いている茶葉等を用意する。
今回は柚子とバタフライピーという鮮やかな青色を出すハーブを用意。
事前に柚子を切る。皮を主に使うため痛んでいない部分を包丁で剥ぎ取り、一緒に食べるため細かめに切り分ける。水でよく洗ったらしっかりと水気を切り置いておく。また、果肉も中に入れるため小さめに切り分け、残った果肉から果汁を絞っておく。バタフライピーも熱湯に浸けて色が濃く出るまで待つ。
鍋にバタフライピーを出したお湯を注ぎ寒天を入れヘラで混ぜながら煮詰める。バタフライピーは柚子などの酸性が加わると青から紫、多く入れるとピンク色になる面白い茶なので柚子を入れない鍋と入れる鍋の2つに分けている。
2分ほど煮詰め寒天が溶けたら火を止める。そしてグラニュー糖を入れて混ぜ、ある程度溶かしたら火を再び付け煮詰めていく。やがてとろみが出てくるので、ヘラで持ち上げた時に糸を引く程度になったら火を止め柚子の果汁を片方に入れ軽く混ぜる。グラニュー糖が多いので焦げ付かないようにゆっくりと混ぜる。
クッキングシートを引いたバットに入れ果肉と皮を散らす。果汁を入れていない青い方にも乗せて動かさないようにすると置いた部分のみが色が変わり青から紫の綺麗なグラデーションができるのでおすすめ。
冷蔵庫で2時間ほど冷やし食べやすいように切り分けたら乾燥前の琥珀糖の完成!
「これで後は乾燥させれば結晶化してよく見る琥珀糖になる。大体3日から1週間くらいかかるかな。」
「本当に簡単っすね。ゼリーの作り方とあんま変わんなかった……」
「そりゃあ乾燥してない今のは甘い寒天だからな。」
そう言うと衛宮は切り分けられた琥珀糖を一つ摘み、持ち上げ揺らしてみせる。寒天と言っていた通り程よい硬さでプルプルと揺れ動く。
「せっかくだし少し食べてみるか」と言う言葉に2人は頷き一つずつ手に取り、一口かじる。
「この状態の琥珀糖を食べることなんてなかなか無いですわね!貴重な体験ですわ!」
「おぉ……ただの寒天じゃなくて柚子の香りがしっかりと感じられて幾らでも食べられそうっス!」
「うん、これなら乾燥させてもいい味が出そうだな。」
満足そうに衛宮は頷くと八百万と砂籐を見る。自分で作った物という事もあるのか余程美味しそうに食べるが一切れだけだった事もありすぐに無くなってしまう。
物足りな気にチラチラと乾燥させる用の寒天を見る二人に衛宮はニヤリと笑みを浮かべるとゆっくりと冷蔵庫を開く。そこには見た目が同じ柚子の皮と果肉が入った透明なカップが3つ存在していた。
「あの……これは……?」
「手順はほとんど同じで寒天とゼラチンの違いだからな。ついでに作っておいたんだ。」
「ゼラチン……っという事はまさか!!」
驚く八百万に相変わらず「テンション高ェ……」と若干引き気味の砂籐であったが、それもしょうがない話と納得してしまう。空き時間に外を歩きながら話をしていた事もあったからか、夏の暑さを一身に受けた体がしっかりと冷えて甘いそれを必要としていたからである。
「ああ、柚子ゼリーだ。ついでだから簡単なものだけどな。」
「頂いていいんスかっ!?」
「ありがとうございますわ!アーチャー様っ!」
数日後、衛宮からキープフードネット……食品を埃や虫から守るネットを貸して貰った砂籐は自室で新しく作った琥珀糖をボーッと眺める。机の上に置いてある1回目の衛宮と作った琥珀糖を手に取り一口かじると、シャリっとした食感と内側のぷるっとした口触りに鼻から抜ける爽やかな柚子の香りに酸味を含んだ強い甘味を感じる。
「やっぱすげぇな……俺もこんくらいできるようになれっかなぁ……」
自分で作った2回目の琥珀糖。乾燥中のそれは見た目からして切り口が歪み、色も手にあるそれと比べると不恰好と見て取れる。自分の感じ方なのか、自分を卑下しているのか。このシンプルな菓子から少なくとも砂籐本人は圧倒的な差を感じていた。
「衛宮さん、時間ある時は相談乗ってくれるって言ってたよな……納得できるもんできたら持ってってみるか……」
そう考えた砂籐は2回目の琥珀糖を処理するためか披露したかったからか、クラスメイトに振る舞う。当然のように女子からは歓喜の声が上がり、一部の男子からは「コイツ……また……」と負の視線を受ける事となっていた。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
今回は砂籐君回でしたね。大丈夫かな……キャラ崩壊していないかな……
あと今までの話読み返しましたが、もう八百万はレギュラーメンバーとなりましたね。日常回に大体出てくる……
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