ランチラッシュのサイドキックは正義の味方 作:アイン_BD’sR
いやー……前回の投稿日から少し空いちゃいましたね。えーっと前回は……7月28日!?2ヶ月経ってたの!?時間の流れって早い………
というわけで第8話です。楽しんでいただけますと幸いです!
「緑谷に飯田、轟……全員無事でよかった。飯田には後遺症が残るそうだが、ちゃんと受け入れて成長に繋げていた。」
「ええ……!私も安心しましたわ!」
クラスメイト3人の安否について病院からの帰路につきながら八百万と衛宮が話す。
ステインを気絶させたあの後緑谷が翼の生えた
「ステインに命中させた『鶴翼三連』の出来も良かったし、次からは他の戦い方を教えよう。自分なりに再現するやり方は空いた時間に自主練習をしておいてくれ。」
「……今更ながらなのですが、アーチャー様の戦い方……遠距離からの狙撃にはあの『鶴翼三連』を使う事があるのでしょうか?」
指を頬に当てながら首を傾げる八百万に「そういえば話していなかったな」と呟き、その手に普段よく使用する黒い洋弓を投影する。
「確かに俺の主な戦い方はこの弓を使っての遠距離攻撃だ。八百万もこれからチームを組んだり複数人を味方に戦う時は主に遠距離かサポートに回ることが多くなるだろう。」
「だが、だからこそ一番重要にするべきなのは『近距離』かつ『確実に相手にダメージを与えられる』そんな技なんだ。」
そう言うと衛宮は手に持つ洋弓を八百万に差し出す。八百万は少し困惑したかのように差し出された洋弓を受け取り前を向くと
職場体験に何度も見た剣を自分に向けて振り下ろす衛宮の姿がそこにあった。
「っ!?アーチャー様!?一体何をっ!?」
振り下ろされた剣を渡されていた弓で何とか受け止め声を上げる八百万。何の前触れもなく殺されかけた様なものだ。対する衛宮はニヤリと口角を上げ鍔迫り合いの状態のまま話し始める。
「不意打ちを受け止めるとは流石だ!それじゃあ八百万、この『超近距離に
「………!近距離戦の経験が少ない状態で勝つことはほぼ不可能でしょう。仰られた場面も決してあり得ない事はない……寧ろ敵に探知系の個性がいたら遠距離個性のヒーローが狙われるのは当然の事。だから一番最初に近距離の戦い方と相手を手負いにすることができる技を練習したのですね?」
「そういうことだ……っと悪かった。突然切り掛かって。一応切れることはない模造の剣だったから問題無いと思っていたけど……」
剣を弓から離しその剣先に指を当てると話していた通り切れることは無くそれが模造品だという事はよくわかった。しかし突然斬られかけて何事もない人はそうそういないだろう。先程まで何故近距離戦闘を学んでいたのかを理解して話をしていた八百万も突然スイッチが切れたかの様にへなへなと地面に膝をつき
「だからって突然襲わないで欲しいですわぁぁぁぁ!!!!!」
大きな声で何処か誤解されそうな言葉を叫んでいた。
時は流れて職場体験最終日。
学校施設であるトレーニングルームの一室は静寂に包まれていた。誰も使用していないかと思い近づく1人の男子生徒。しかしそのドアに付いた窓が暗くなっていない事から使用中だと理解すると同時にその男子生徒は考える。
では何故こんなに静かなのだろうか。
他の部屋は様々な個性を使用する音がしているのにここだけ何も聞こえない。
もしかしたら退出する際に電気を消し忘れたのではないだろうか。
その思考回路は世間一般的には正しいだろう。誰でも似たようことを考えるのであろう。だが、現実はその予想を大幅に超えてきた。
そこに居たのは胡座をかき、空を見つめ静止している制服を着ていない青年。そしてその周りに敷き詰められた大量の電化製品と工具。
数分しても一向に動きがないその部屋の風景は最早窓に写真が貼ってあるのではないかと思う程だった。
「……………帰ろ。」
男子生徒は当初の予定を無かった事にしてその場から離れた。
「…………………困ったな。やる事が無くなってしまった。」
腕を組む衛宮は静寂をようやく破るかの様に独り言を口にする。何故彼が職場体験最終日に1人で部屋にいるのか。それは八百万からの希望であった。
職場体験最終日の前日……つまるところ昨日衛宮は八百万に「明日は最終日だから八百万のしたい事をしてくれ。いつも通り訓練や食堂での仕事でも問題ないし、丸一日休みでも問題ない。」と話した。最終日を迎えるまで2人は休みが殆ど無かった。元々ハードスケジュールである衛宮の仕事に加えて八百万への訓練や指導が加わると朝から晩まで動き続ける事になり、ホワイト企業が見ると真っ青な顔をされるであろう時間を過ごしていた。……流石に完全なブラックという訳でもないが。
だからこそ最終日は自由にできる時間を設けて彼女のしたい事をさせてあげようと衛宮は考えていた。そして八百万は悩む事なく一つの提案をしてきた。
『でしたら明日は私が学び経験した結果を見ていただきたいですわ!ですので……準備もありますしお昼に雄英のトレーニングルームにて集合でも問題ないでしょうか?』
衛宮は二つ返事でその提案を了承した。しかし問題となったのは午前の時間である。衛宮はどんな提案でも対応できるよう元々一日休みを取っていた。そんな中、昼に集合と指定され半日空いてしまう事態になる。丁度に集まっても問題なかったのだが、トレーニングルームが空いてない時のことを考え早めに来るようにと行動した結果……
「時間を潰す為の修理依頼も終わったし、部屋も片付けるのに30分もかからない。それで今の時間が………」
独り言を呟きながら備え付けの時計を見るとそこには10時を指した短針と0分を少し超えた長針がゆっくりと動いていた。
「12時に集合とすると、だいたいあと2時間か………」
何をするか悩んでいると突然コンコンとドアを叩く音が聞こえる。八百万も早く来すぎたのか、と衛宮は考えながら立ち上がりドアを開けるとそこに居たのは八百万ではないよく知る人物だった。
「……………何でここにいるんだ?」
その問いかけに女性は意地悪そうに笑みを浮かべる。
「材料の準備もできましたし、レシピも問題ないですし……」
広く清潔感のあるキッチンに1人、食材と本と携帯を見ながらブツブツと呟く女性がいた。その表情は真剣そのもので、まるでこれから敵の基地に突入するヒーローの様な顔をしていた。
突然「よし!」と声を上げ腕捲りをすると、本を開いたまま端に寄せじゃがいもを一つ持ち上げる。
「始めますわ!私のアーチャー様に教わったものをここに全て詰め込みますわ!」
先ずは時間がかかる物を前日に作っておきます。牛もも肉のブロックを用意してそこに多めの塩、叩いたにんにくをすり込みラップをして30分程度置いておきますわ。これで味が馴染んで、お肉を常温に戻しておけますわ。
時間が経ったら表面にすり込んだにんにくを取り除いてそのにんにくを油を引いたフライパンで炒めて香りを出しますわ。この時にお肉にはなるべくにんにくがない状態にして、焦げて雑味を生まないようにするのですわ。
炒めたにんにくが焦げない程度に火を通したらにんにくを全て取り除きお肉を焼きますわ。全面に焼き目がつくように強火でドンドン焼いていきますわ!焼き目がついたらフライパンに蓋をして火を止めて予熱で中に熱を通しますわ。時々串をお肉の中心に刺して暖かく感じたら胡椒を全体に振って取り出しますわ。もし少し経っても串が冷たく感じたら極弱火で火を通し過ぎないように温めるといいですわ。
お肉を取り出したらラップ、アルミホイル、タオルの順番で包んでお肉の中の肉汁を全体に馴染ませるように待って完成。
次にじゃがいもの芽を取り除き、茹でて皮を剥きますわ。茹でて柔らかくなったらボウルでマッシャーを使って潰していきますわ。潰す加減はお好みで食感を残したいのであれば程々に、滑らかな方がいいのであればよく潰すようにするといいですわ。潰したじゃがいもに牛乳、バター、塩胡椒を混ぜてこちらも完成。
これら全て冷蔵庫で保管できるので作るまで冷蔵庫に置いておきましょう。もし余ったらそのまま食べてもいいですし、むしろこちらの方が余りを使う方法としていいと思いますわ。
最後に食パンをトースターで焼きながらソースを作りますわ。フライパンにすりおろした玉ねぎ、水、赤ワイン、みりんを加えて煮立たせますわ。その後醤油とお酢を加えてもう一煮立ち、そして塩胡椒で軽く味を整えてソースは完成。こんがり焼けた食パンをラップの上に置き、マッシュポテト・できるだけ薄く切ったローストビーフ・ソースを乗せてその上からさらに食パンを重ねます。物足りない時は水に浸した玉ねぎや薄く塩揉みしたきゅうりを乗せるとシャキシャキした食感がいいアクセントになりますわ。ラップで包んだらそのまま半分に切り、移動中に断面から具材が落ちないよう更にラップで包んだら完成!
「予定よりも少し早かったでしょうか……?」
少し大きめな手提げ袋を持ち不安そうに廊下を歩く八百万。ふと立ち止まり携帯を開き現在時刻を確認する。
「11時……もしアーチャー様がまだ到着していなかったら個性の練習をしたいですわね。結局あの剣そのものの力は再現できませんでしたが……」
そもそもあの剣の素材と互いを引き合う性質は関係あるのか。素材が磁石でもあそこまで動きに現れる事はできないはず。アーチャー様は何処であの剣の存在を知ったのか。
この職場体験中常に考え続け、その答えを今も出す事ができない。そんな『この世界に正解が無い』ような疑問を八百万は考え続けながらトレーニングルームの空き部屋、もしくは衛宮が既にいる部屋を探し回る。
既にこれらの疑問は職場体験が始まると共に何度も衛宮に聞いていた。しかし衛宮はそれに答える事は決してなく、いつも申し訳なさそうな顔をしながら『まだ言えない』と返される。その内八百万はその疑問を聞く事はなくなり、『まだ』という言葉を信じて自分の内に秘めていた。
そんな正解が見つからないまるで哲学のような思考は突然止まる事になる。
「アーチャー様………?」
八百万の探していた人は見つかった。見つかったのだが、その光景は八百万自身目を疑うようなものであった。いつもとは違う無難な白とネイビーの服にデニムとまさに普段着であるような衛宮に背中から抱きつくような形で1人の女性が寄りかかっていた。白い髪をしたその女性は和やかな表情で衛宮と会話をしている。
八百万の頭の中には色々な思考が駆け巡っていた。自分と集合する前に誰かと会っていたのか。あんなにも親しげな様子だと仕事関係でも無いし、友人関係も中々ない。だとするとあの女性は恋………
「あれ?誰かいるの?」
「っ……!?」
気づけば八百万は後退りをして壁に背中をぶつけていた。その音を聞いたのか部屋の中から可愛らしい声が聞こえてくる。トットッと軽い足音が近づき扉が開くと、先ほど見た白く長い髪をしたとても綺麗な女性が縮こまっている八百万を見て
「貴女は………」
「ん?八百万か。意外と早かったんだな。」
「!貴女が八百万さん!ずっと会ってみたかったんだぁ〜!」
………赤い瞳をキラキラと輝かせながらズンズンと近づくのであった。
疑念、思考、予測。それに加えて歩み寄るその対象……八百万の頭はパンク寸前まで陥ってしまう。
「きゅう………」
そして自分の手をその女性に握られた所で八百万は目を回し遂に気絶してしまうのであった。
「………ほぇ?や、八百万さん?八百万さーん!?」
「…………なんでさ。」
「……んぅ……あれ?私は……」
「あ!目が覚めた!よかったぁ……突然気絶しちゃうんだもん。びっくりしたよ〜!」
目を覚ますと目の前には倒れた原因である女性が様子を伺うかのように顔を覗き込んでいた。冷静さを取り戻したかのように八百万はゆっくりと起き上がり、すぐ近くに衛宮もいる事を確認した。
「ごめんなさい……少し驚いてしまって。私は八百万百と申しますわ……といっても名前を呼んでいたという事は私の事を知っているのですわね?」
「そうなんだよ〜!ずっといい後輩ができたって話してもらっていたからね。お兄ちゃんがそんなに気にいるなんてわたしも気になっていたんだ〜!」
「………………『お兄ちゃん』?」
聞き捨てならない言葉に八百万が反応し衛宮の方を見る。衛宮は困ったように苦笑いをしながら「言ってなかったか……」と呟いた。
「紹介するよ。俺の妹のイリヤだ。まさかあんなに驚かれるとは思わなかったけどな。」
「初めまして!イリヤスフィール・フォン・アインツベルンです。八百万さんよりか歳下だからもっと気軽に話して欲しいな〜。……ってわたしもしかしてずっと敬語使っていなかった!?」
呆然とする八百万の前で「ご、ごめんなさい〜!」「イリヤもうちょっと落ち着いて……」「だって〜……」とまるで漫才をしているかのように話をしていた。
そんな様子を見ていた八百万は突然肩をプルプルと振るわせ蹲ってしまう。何処か具合が悪いのかと衛宮とイリヤは八百万の元へ寄るが、問題ないと表現するようにニヤついた顔を上げる。
「だ、大丈夫ですわ……ふふ……お、お二人のやり取りが面白くてつい……」
息を整えながらイリヤの方を向き、さっきとは違くしっかりと目を見ながら笑顔で八百万は話し始める。
「……ふぅ。改めまして八百万百と申しますわ!アーチャー様の職場体験実習生で将来はアーチャー様のサイドキックになる事が夢!敬語は必要ありません。これからよろしくお願いしますわ!イリヤさん!」
「……!うん!よろしくね八百万さん!」
「そういえばお昼は八百万が作ってきてくれたんだよな?」
互いの事を話すイリヤと八百万。そんな中ふと思い出したのか衛宮が声を上げる。時計を見てみると丁度12時辺り。新しい友人ができ、話に夢中になっていた八百万も空腹感を思い出したのか持ってきていたバッグを手に取りその中の物を取り出す。
「本日はアーチャー様から学んだ事をお見せしようと私が作ってきましたわ!イリヤさんも召し上がってください!」
「ほ、ほんと!?八百万さんありがとう〜!!」
取り出した2つの容器の蓋を開けて衛宮とイリヤに差し出す。容器の中を見るとそこにはサンドイッチがあった。しかし、ただのサンドイッチではなく挟まれているそれはピンク色の綺麗な色を見せ存在感を放っていた。
「おっ!これは……」
「はい!本日のご飯は『ローストビーフサンドイッチ』ですわ!」
「おいしそう〜!!」
容器からサンドイッチを取り出すとこんがりと焼かれた表面がラップ越しに見え、焼いてからあまり時間が経っていないのかカリッとした手触りを少しの暖かさと共に感じる。
「作って直ぐに家を出たのでまだ暖かいと思いますわ。冷めちゃう前に食べましょう!」
「そうだな。それじゃあ……」
「「「いただきます!」」」
サクッとした音と共に全員がサンドイッチを一口齧る。衛宮はゆっくりと頷きながら味を確かめ、八百万は味付けが大丈夫だったか咀嚼をしつつ2人の様子を伺う。そしてイリヤは目を輝かせ2口目3口目とどんどん食べ進めていた。
「ん〜〜〜〜!!とっても美味しいよ八百万さん!お肉の味が口いっぱいに広がって……なんというか肉汁がずっとお口の中で踊っているみたい!!」
「……うん!ローストビーフはいい火加減でパサつきも無く柔らかい。ソースも肉汁を引き締める酸味があってしつこさを感じないな。それにマッシュポテトがあるおかげで一口の満足感もちゃんとある。」
「本当に凄いな。少し前まで料理の経験があまり無いなんて嘘みたいだ。成長したな。」
「!はい!ありがとうございますわ!」
衛宮の評価に満面の笑みで八百万は答える。その後戦闘についても職場体験での訓練の成果を見せた。遠距離、近距離、援護に救護全てを衛宮に見せ、所々アドバイスを貰いながらも『合格』と評価を貰っていた。
戦闘を褒められている最中も八百万はずっと頭の中には笑顔で自分の作った料理を食べるイリヤと衛宮の姿が映っていた。それだけではなく、今まで忙しくあまり考えることのできなかった食堂で自分の料理を食べる生徒の表情も共に映る。そして八百万は一つの結論に辿り着いた。自分の力で周りの人を笑顔にすることができる。そんなヒーローになりたいのだと……
夕方になり、やることも無くなったのでイリヤと八百万を帰し1人部屋に残った衛宮士郎。その手にはそこそこに大きめな箱が乗せられていた。両手で持たないと少しキツくなる程の大きさだ。
『……………何でここにいるんだ?』
『実はママと
『これは……じいさんからの荷物か?』
数時間間の会話を思い出しながら箱を見る。その蓋には『必ず士郎に渡すこと。イリヤは中を見ちゃいけないよ。衛宮切嗣』と文字が書き記されていた。重量はそれなりにある。
「………もしかして」
箱の中身に覚えがあるのだろうか。予想し一言だけ呟いた衛宮はゆっくりとその白い箱の蓋を開く。
「………………………」
その中には黒く鈍く光る本体に木の装飾が施された1丁の銃。そしてのその下には手のひらに丁度収まるような他に比べると大きめな銃弾が10発以上と別の場所に厳重に保管されている2発。
内容を確認すると衛宮は蓋を閉め、その箱を鞄に入れて帰路につく。沈みゆく太陽は衛宮を、辺りの風景を赤く染め上げる。それはまるでこの街全てが燃えているかの様であり、その光景に衛宮は顔をしかめ歩き続けた。
最後まで読んでいただきありがとうございました!これにて職場体験編は終了です!……といっても八百万さんはこれからもガッツリ出てきますのでそこまで変わらないかな?
何やら不穏な終わり方をしましたが、次回はめちゃくちゃ普通の日常回に戻ります。ですので投稿も早めにできるのかなー?と思いますので待って頂けるととても嬉しいです!
10月2日追記:職場体験とインターンを間違えて書いていたので変更しました。何故こんな間違え方をするんだ……