「ケイネ先生、こちらです!」
「こちらもお願いします!」
アクセルには転生者にやられたりして負傷する冒険者も少なからずやってくる。
その中で、長い金髪で白衣を少女が不敵な笑みを浮かべながら患者が眠るベッドを歩く。
彼女の名はケイネ、医者だ。
「はい、全てわたくしにお任せくださいまし。
ここにいる方々は皆、わたくしが治して差し上げますわ」
ジャグリングするかのように次々と医療道具を使いながら治療を行っていく。
それも一人ひとり的確に、誤診など一切ない。
彼女が今いるのはアクセルにある冒険者ギルドに併設された救護室である。
本来なら専属の治癒魔法持ちの冒険者が治療をするのだが、他の国でもバグナラクによる負傷者が続出してることもあって病院でも溢れ返るので、転送魔法でアクセルに運び込まれるので、その助っ人としてケイネがいる。
ケイネはキングオージャーとして復活する前は魔王軍と戦う冒険者たちの前線の野外病院で来る日も来る日も負傷者の治療を行っていた。
その腕前は魔法を使わず、ただ純粋に自身の医療技術によるもので、むしろ治癒魔法を使うよりも彼女に治療してもらったほうが早いと評判だった。
彼女も転生者ではあるが、転生者としての特典で求めたのは武器や特殊能力でもない、ただこの世界における病気の知識だ。
何故なら彼女にとっての戦場は他でもない、怪我や病気で苦しむ患者たちがいるところなのだから。
「ふぅ……これでひとまず終わりましたわね」
そう言いつつ最後の一人の傷口に包帯を巻き終えたところで一息つく。
「先生、こちら手伝ってください!
痛みで暴れて、拘束もままなりません!」
悲鳴を上げながらベッドの上で暴れる患者を見て、やれやれといった感じで微笑む。
「あらあら、それだけ暴れられるなら大丈夫そうですわね。
ですが、この状態だと治療ができませんわね」
そう言うと首元に針を刺し、その瞬間に患者はそのままぐったりと動かなくなった。
「針でエンドルフィンを操作して、彼に麻酔を掛けましたわ。
時間にしてざっと8時間、あとは皆様の手でいけますわね?」
「お、おぉ…すごい!」
「あと、亡くなられた方の遺体の回収もお願いします。
輸血用の血液と臓器が欲しいので」
「えぇっ!?そういうの大丈夫ですか!?
その、倫理的に」
「倫理?
そんなものよりも、わたくしのほうが多くの命を救えますわよ。
…では軽症の方々にも麻酔を掛けていきますので、あとの処置は皆様にお任せします」
そんな頭のネジがぶっ飛んだことを言いながらも鼻歌感覚で患者に麻酔を掛けるケイネ。
あとは他の冒険者に任せ、自身は一人救護室を出て、他の怪我人の治療に向かおうとすると、一人の少年にぶつかりそうになる。
「あらごめんなさい。
大丈夫でしたの?」
「いえ、大丈夫ですよ。
それじゃ」
「ちょっとお待ちになって?
あなたに質問してもよろしくて」
「な、何ですか?」
ケイネは少年の顔を見据え、問いかける。
僅かな違和感を見逃さないとばかりに。
「あなた、見たところ怪我はないみたいですわね?
だけど怪我人がいる部屋から出てきましたわね」
「そ、それは、お見舞いに」
「違いますわね。
あなたからは、夥しい血の匂いがしますわ」
「ッ!!」
次の瞬間、少年の姿が掻き消え、いつの間にか背後に回り込んでいた。
だがケイネはそれを冷静に見抜き、後ろ回し蹴りを放つ。
「やはり転生者ですわね。
それもバグナラクの……。
お守りで確認するまでもありませんわね」
「…バレてしまっては仕方ない。
ここで始末する」
「始末?
いいえ、あなたはここで良い子になりますのよ?」
白衣からオージャカリバーを取り出し、逆手持ちしながらカマキリの鎌のリングに手を掛ける。
【カマキリ!】
続けてトンボ、カマキリ、パピヨン、ハチ、クワガタの順番に操作する。
「王鎧武装!」
【You are the KING, You are the You are the KING!】
【カマキリオージャー!!】
ケイネの体は黄色の結晶に覆われると同時にカマキリのオーラが激突、砕けて姿が変わった。
黄色の鎧に、カマキリを思わせるバイザー、そして左肩には黄色のマントを靡かせる。
その出で立ちはまさに、気品溢れる女王のそれだ。
「お前がキングオージャーの一人か。
ならば、その首を貰い受けるまで」
「先に聞きたいのですが、あなたが先程いた病棟にいた怪我人はどうなさいましたの」
「もう手遅れだ。
俺がさっき全員殺した」
鞘に収まった刀を居合の構えで殺気を放つ。
「まぁ!
つい先程ですの」
「…何が可笑しい?
もしかして怒りと悲しみのあまりに気でも触れたか」
怪我人を殺したというのに、何だそんなことかとばかりに肩を竦めるケイネに怪しむように睨みつける。
「いえいえ。
まだそんなに時間が経っていませんのでしたら、あなたを良い子にしてからわたくしが皆さんを蘇生してあげるから、そこまで気にしておりませんのよ?」
「正気か?
それとも蘇生魔法でも使うのか。
まぁいい、この街のやつらを皆殺しにすることが俺の役目だが、ここでお前を殺す」
『シィィィィー…』という呼吸音と共に刀を構える少年。
その瞬間にまるで雷が落ちた音と共に消え、ケイネも何か来ると察してオージャカリバーを構える。
するとガキン!!と音がしてオージャカリバーが弾かれるも何とか持ち直した。
「…っと、速いですわね」
「チィッ!!」
「あらあら、女の子相手に随分な舌打ちですわね」
いつの間にか背後に回った少年はもう一度刀を構えて攻撃を仕掛ける。
「雷の呼吸 弐の型 稲魂!!」
「あらあら」
ケイネは、まるでどこを斬られるのかわかってるかのようにオージャカリバーの剣の腹で受け止めていく。
「くっ、なぜ当たらない!」
「わたくしは医者ですのよ?
あなたの特典は雷の呼吸、つまりは速度を重視した居合。
素早く斬って死なせるのなら、出血しやすいところを狙ってくるのは目に見えてますの」
オージャカリバーで、斬りかかる少年をいなしつつ、どうして当たらないのかを説明するケイネ。
少年が攻撃するたびにケイネはオージャカリバーで防ぎ、少年の攻撃が当たる直前にオージャカリバーで弾き返すといった攻防が続く。
「遠雷!聚蚊成雷!熱界雷!
くっ!」
攻撃が当たらないことに焦って、少年は息を切らし始める。
「いくら速くても、攻撃する場所がわかってるならそれに合わせて防ぐまで。
やるならば、それ以上の速さで攻撃するしか、あなたがわたくしに勝つ方法はありませんわよ?」
「舐めるな!」
少年はケイネから距離を取り、居合の構えを取る。
「雷の呼吸 壱の型…」
キンッ!と、指で鞘から刀を引き抜き。
「霹靂一閃」
雷が鳴り響く勢いで加速した。
「あらあら」
少年の最速技を前にしてもケイネは余裕そうに微笑んでいる。
「う、嘘だろ? これを避けるなんて……」
「えぇ、確かに速いですわ。
ですが、わたくしの聞いた雷の呼吸とは少し見劣りしてましたので」
「何だと」
「確か、鬼滅の刃、というものでしたかしら?
そこには鬼になった人間を、元に戻そうと頑張る人たちがありましたので少しばかり読んだことがありましたの。
その中でも、雷の呼吸と呼ばれる技を極めた者たちがいらしてましたわ。
一人は今のあなたが放った技だけを極限まで鍛え上げて、様々な応用の効く技にしたり、一人は先程の遠雷や熱界雷といった牽制向きの技にデバフが掛かる能力を追加した方もいらしてましたの。
…ですが、これは経験不足でしょうか?
どうも見劣りがして、拍子抜けしてしまいますわね」
「くっ、だったら今度はより早く!
霹靂一閃!!」
「ふふっ」
キングズウエポンの側面の刃を展開し、鎌のように持ち、間合いを詰めた少年の刀を絡め取り、そのまま宙へと放り投げた。
「しまっ…!?
馬鹿な、か、片足が、動かない…!?」
「あら失礼しましたわ。
さっきの攻撃のときに、足に麻酔針を打たせてもらいましたの。
さて、わたくしは優しいですから、悪い子なあなたを良い子に治して差し上げますわ」
「…片足の感覚が失くなったところで見くびるな!」
感覚がある方の片足に力を込めて、凄まじい速さで掴みかかろうとする少年。
しかし。
【オージャチャージ!
オージャフィニッシュ!!】
自然な仕草でオージャカリバーを操作した上で、少年を斬り伏せた。
「がっ……ば、かな……」
「おしまい、ですわね」
少年はそのまま地面に倒れ伏して消えた。
「…あら、いけませんわ。
良い子にするつもりが、殺してしまいました」
医者は人を殺す職業じゃないのにと、軽く肩を竦めるケイネ。
「でも、これもキングオージャーの宿命なのかもしれませんわね。
…さて、早いところあの子が殺した怪我人の皆さんを蘇生してあげませんと」
ポンポンと白衣を軽く叩きながら、少年が皆殺しにしたという病棟の怪我人たちの元へと急ぎ、無事全員を蘇生した。
本来ならば一生に一度しか使えないであろう蘇生魔法が必要だが、ケイネの医療技術があれば、そんなものを使わなくてもそんなに時間が経ってないのであれば3分で蘇生させられる。
同じキングオージャーの一人のカズマからはそのスタイルの良さからいやらしい目で見られることはあるものの、その異常な医療技術と破綻した倫理観から『頭のネジがぶっ飛んだ医者』とも呼ばれている。
だがそれでも命を救おうという医者としての矜持が、彼女をキングオージャーにしたのも事実である。
何故なら彼女にとって医者というのは、死と病への叛逆者なのだから。