【第一章完】三流声優の俺、特殊スキル【演技】で異世界の英雄になってみた   作:阿弥陀乃トンマージ

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第4話(3)スキルへの嫉妬

「そうだよ……」

 

「な、何故、監督がここに……?」

 

「それは自分が聞きたいよ……ホテルで打ち上げパーティーに参加していて、気がついたらいつの間にかこんな異世界に来ていたんだからね……」

 

「……あの落雷のような光を覚えていますか?」

 

「ああ、あったね……」

 

「あの時どちらにいましたか?」

 

「トイレに行っていたと思うけど……それが何か?」

 

「あの時、トイレ付近にいた面々がまとめて異世界に転移しているようなのです」

 

「本当かい?」

 

「か、監督~!」

 

「天さん……⁉」

 

 手を振って走り寄ってくる天を見て、黄恵監督は驚いた顔になる。

 

「……彼女もその一人です。そして……」

 

 俺が視線を向けた先に、緑谷三姉妹の姿があることを確認し、監督はさらに驚く。

 

「ラヴィの面々まで……確かにあの時、トイレ付近に揃っていたような……なるほど、集団転移というわけか……」

 

「そういうことです。それにしても……」

 

「うん?」

 

「何故、超有名アニメ監督さんが俺なんかの名前を知っているのです?」

 

「言っただろう、声を聴けば分かると……何度もオーディションで聴いているからね」

 

「!」

 

「もっともそんな顔だったかね? あれか? 事務所の方針かなにかか?」

 

「事務所の方針……?」

 

「いや、整形でもしたのかと……」

 

「ち、違いますよ!」

 

 俺は声を上げる。馬車の御者っぽい顔に整形するってどんな方針だよ。監督は笑う。

 

「ふふっ、冗談だよ」

 

「これはスグルの持つスキル【演技】の成せる業だっぺ!」

 

 ティッペが監督の前に顔をにゅっと出す。監督は面食らう。

 

「うおっと! ……なんだい、この珍妙な生き物は?」

 

「珍妙とは失礼な! 妖精だっぺ!」

 

「ほう、妖精……」

 

「そうだっぺ!」

 

「さらにスキルで顔も変えられると……」

 

「ああ、スグルのスキルはなかなか珍しいものだっぺ」

 

「なんでもありだな、どうやら本当に異世界に来てしまったようだ。こんなことなら異世界アニメを一本監督して予習でもしておくべきだったよ」

 

 監督が苦笑交じりに肩をすくめる。俺が尋ねる。

 

「監督はどうしてこんなところに?」

 

「ああ、実は逃げてきたんだよ」

 

「逃げてきた?」

 

「断片的にしか情報を得ていないのだが……どうやら、我々の世界からこちらに転移してきたものたちはスキルを有していることが多いらしいね?」

 

「ああ、ほとんどの転移者がそうだっぺ」

 

 監督の言葉にティッペが頷く。監督が話を続ける。

 

「こちらに転移してきて、保護してもらったかと思いきや、狙いはスキル持ちの人間を抱え込むことだったみたいでね……軟禁されていたんだよ」

 

「な、軟禁⁉」

 

 天が驚く。

 

「このままだとロクな扱いを受けないと思ってね、隙を見て逃げ出してきたのさ」

 

「そうだったのですか……」

 

「まったく、手間を取らせやがって……」

 

「⁉」

 

 そこにはゴブリンたちを従えた、褐色の屈強な男性が立っていた。コーンロウの髪型が印象的である。ティッペが驚く。

 

「あ、あいつは『エンヴィーのディオン』!」

 

「転移者か⁉」

 

「ああ……」

 

 俺の問いにティッペが頷く。

 

「エンヴィーとは……」

 

「嫉妬とも言い換えられるっぺ」

 

「嫉妬……」

 

「困るねえ、恵……服も着替えさせてやって、風呂も入らせて、飯まで食わせてやったのに逃げ出すとは……恩知らずにもほどがあるんじゃねえか?」

 

 ディオンが首を傾げる。監督が応える。

 

「これも聞いた話だけど……アンタはスキル持ちを従えて、この世界の支配に乗り出そうとか大層なことを考えているらしいじゃない」

 

「なにか問題あるか?」

 

 ディオンが首を捻る。

 

「大ありだよ、なんでアンタの支配者ごっこに付き合わなけりゃならないんだよ。フィクションと現実の区別くらいつけなよ」

 

「こんな異世界まで来て、随分とナンセンスなことを言うんだな」

 

 ディオンが大げさに両手を広げる。監督が右手の人差し指を立てる。

 

「それともう一つ……」

 

「?」

 

「自分は監督だ、人の指示で動くなんて真っ平ごめんだね、自分の生きざまは自分で決める」

 

「ふん、生意気な……仕方ねえなあ、ちょっとばかり痛めつけるか……」

 

 ディオンが首をコキコキとさせながら、こちらに向かってくる。俺が声を上げる。

 

「来るぞ!」

 

「監督は守ります! 皆さん!」

 

 天が鶯さんたちに目配せする。鶯さんたちが頷く。

 

「ええ! ~♪」

 

「~~♪」

 

「~~~♪」

 

「! 演奏に歌に踊りか? なかなか面白えスキルだな、気に入った……ぜ!」

 

「‼」

 

 ディオンが地面を豪快に殴ると、地面が砕かれる。砕かれて出来上がった土塊が飛び散り、鶯さんたちに当たる。予期せぬ攻撃を喰らった鶯さんたちは倒れ込む。

 

「行き掛けの駄賃だ……お前らも俺の配下にしてやるよ」

 

「くっ……」

 

「天さん! 大丈夫⁉」

 

 監督が天を抱きかかえて声をかける。

 

「ちっ、まだ二人残っていやがるか……」

 

 ディオンが再びこちらに向かって歩いてくる。

 

「な、なんだ、あの強さは……」

 

「あいつのスキルは【物理強化】! 肉弾戦では最強クラスだっぺ!」

 

「マ、マジかよ……」

 

「……るせえな」

 

「え?」

 

「うるせえな! なんでせっかく異世界までやって来て殴る蹴るなんだよ! 俺にも不思議なスキルを寄越せよ!」

 

「な、なるほどそれで嫉妬か……はっ、姿が戻った! ティッペ!」

 

「ああ!」

 

 ティッペが前足を振ると、一枚の紙が現れる。俺はそれを掴む。

 

「絵を見て……念じる!」

 

「ああん⁉」

 

 ディオンは驚く。俺は黄色の髪をした青年の姿になったからだ。

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