【第一章完】三流声優の俺、特殊スキル【演技】で異世界の英雄になってみた   作:阿弥陀乃トンマージ

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第8話(2)色欲の襲撃

「……それで、あのパウルを追いかけつつ、トーマを探すという方針で良いのだね?」

 

「ええ」

 

 監督の問いに御者になった俺が馬車を進ませながら答える。

 

「さて、心当たりはあるかい?」

 

「……この先にもそれなりの規模の町があるぜ」

 

 静の指差した方向を見て、監督が頷く。

 

「パウルが走り去った方角とも合うね……上手くいけば両取り出来るというわけだ」

 

「……森が見えますね」

 

 海が呟く。監督が俺に尋ねる。

 

「迂回するかい?」

 

「どうだ?」

 

「迷いの森というわけではないぜ。モンスターが出没したという話も聞かねえな」

 

 俺の問いに静が答える。

 

「ふむ……直進します」

 

「了解だ」

 

 監督が再び頷く。馬車は森に入る。さほど道も荒れていないので、走り辛いということもない。まだ日中で光も射してきている。さっさと通過してしまおう。そう思った矢先……。

 

「あっ⁉」

 

 別の馬車がコウモリたちに襲われている。声に気付いたコウモリたちがこちらにくる。

 

「くっ、モンスターか!」

 

「栄光さま、お助けします!」

 

「青輪さん! 無理をしないで!」

 

「大丈夫です! 橙々木さん! ……を描写して下さい!」

 

「わ、分かりました! ……出来ました!」

 

「ありがとうございます! それっ‼」

 

 青輪さんが荷台から勢い良く飛んで、バットを振りかざし、コウモリたちを追い払う。

 

「おおっ……」

 

「ははっ! 目には目をバットにはバットをです!」

 

「バットの意味合いが違うと思うけど……」

 

 海が小声で呟く。一度は追い払ったコウモリたちがまた戻ってくる。

 

「また栄光さまに手を出すなら拙者が承知しませんよ!」

 

 青輪さんがバットをぶんぶんと振り回す。

 

「……」

 

「⁉」

 

「あ、青輪さん⁉」

 

 コウモリたちが羽をはためかせたかと思うと青輪さんがその場に倒れ込む。

 

「あ、あれは超音波だっぺ! あれを聞くと気を失ってしまう恐れが……」

 

「そういうことは早く言え、ティッペ!」

 

「超音波ね……」

 

「それならば……」

 

「ボクらの出番だね!」

 

「【演奏】!」

 

「【歌唱】!」

 

「【舞踏】!」

 

「~~~♪」

 

「‼」

 

「コウモリたちが撤退していく!」

 

「三姉妹の音楽が超音波を凌駕したんだっぺ!」

 

「ふふん、ざっとこんなもんだよ!」

 

 ロビンさんが胸を張る。

 

「あんまり調子に乗らないことね……」

 

「だ、誰⁉」

 

 瑠璃さんが声を上げる。木々の間から褐色の豊満な肉体をバンドゥビキニで包んだ、黒髪に緑のメッシュを入れたドレッドヘアーの女性が現れる。

 

「ワタシはセル……」

 

「セル? な、なんという恰好だ……」

 

 俺はセルと名乗った女の胸元などをチラチラと見てしまう。男の悲しい性だ。

 

「スグル! 何を鼻の下伸ばしているっぺ!」

 

「う、うるさい! いちいち言わなくても良いだろう!」

 

「あの女はスキル持ちの転移者だっぺ!」

 

「なに⁉」

 

「『ラストのABC』だっぺ!」

 

「ラスト……色欲か。なるほど、ああいう恰好も頷けるな……」

 

「マジマジと見て頷くなんてイヤらしいっぺ!」

 

「う、うるさいな! か、確認だ、確認! あくまでも!」

 

「……とにかく、一気にいくわよ、瑠璃! ロビン!」

 

「分かった!」

 

「オッケー♪」

 

「ふん……」

 

 セルが左手をかざすと、いつの間にか鶯さんたちの後ろに回り込んでいた。

 

「なっ⁉」

 

「ふん! ふん! ふん!」

 

「「「!」」」

 

 セルのキックを喰らい、鶯さんたちが崩れ落ちる。俺は戸惑う。

 

「な、なんだ⁉ いつの間に⁉」

 

「時を巻き戻させてもらった……」

 

「なっ⁉」

 

「ワタシのスキルは【時戻し】……」

 

「えっ⁉」

 

「先ほどまで身を潜めていた所に戻ったのだ……」

 

「そ、そんなことが……」

 

「ならば……【憑依】!」

 

 静が骸骨兵士の姿になり、槍を持って襲い掛かる。セルがため息交じりで呟く。

 

「無駄なことを……⁉」

 

 セルが左手をかざしで時を戻したが木々の間に張り巡らせた蜘蛛の糸に引っかかる。

 

「天さん、上出来だよ」

 

 監督が天に向かって親指を立てる。セルが舌打ちする。

 

「ちっ、時戻しを先読みしたのか……! くっ! 動けん!」

 

「もらったぜ!」

 

「はっ!」

 

「がはっ!」

 

 横から強烈なパンチが入り、静が吹っ飛ぶ。パンチを放った、褐色のたわわな体を眼帯ビキニで包んだ、黒髪に黄色いメッシュを入れた女性がコーンロウの髪型を触りながら呟く。

 

「念のため、【時進み】で来て良かったわ……」

 

「ベリ姉さん……」

 

「こいつらも転移者? 素直に従わないようなら痛めつけちゃおう……」

 

 ベリと呼ばれた女性がこちらに向き直る。御者から本来の顔に戻った俺が前に進み出る。

 

「そ、そうはさせん……!」

 

「……あんた誰?」

 

「この世界の英雄になる予定の者だ。お前らのような悪い転移者をこらしめてな……」

 

「はっ、ジョークにしても笑えないわね、時を操るわたしらに勝てるとでも?」

 

「ティッペ!」

 

「分かっているっぺ!」

 

 ティッペが前足を振ると、一枚の紙が現れる。俺はそれを掴む。

 

「絵を見て……念じる!」

 

「むっ⁉」

 

「うおっ⁉」

 

 ベリだけでなく俺も驚いた。赤髪の男になっていたからである。

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