【第一章完】三流声優の俺、特殊スキル【演技】で異世界の英雄になってみた   作:阿弥陀乃トンマージ

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第9話(3)金髪の女神

「旦那! こいつ、さっさとやっちまってくれ!」

 

「ああ……」

 

 用心棒の男は長髪をかき上げながら、剣を鞘から抜く。

 

「くっ、ティッペ……いない⁉」

 

 俺は周囲を慌てて見回す。さっきまでこの近くにいたと思ったのに、どこに行ったのだあいつは……。というか監督たちもいない? おいおい、逃げたのか? いや、まさかな……。

 

「……」

 

 用心棒がゆっくりと迫ってくる。俺は仕方なく剣を抜く。貧相な剣だ。絵を見て念じないと、勇者などになることが出来ないし、武装も体力も貧弱なままだ。しかし、やるしかない。

 

「くっ!」

 

 俺はへっぴり腰で剣を構える。用心棒がため息交じりで尋ねてくる。

 

「なんだ、やる気がないのか……?」

 

「やる気はある! ただ実力が伴っていないだけだ!」

 

「わけのわからんことを……おちょくっているのか?」

 

「至って真面目だ!」

 

「なおさら質が悪いな……まあいい」

 

「?」

 

「終わらせる!」

 

「うおっ!」

 

 用心棒があっという間に俺との距離を詰めてきて、剣を振るってきた。俺はなんとかそれを剣で受ける。用心棒が顎を軽くさする。

 

「ほう……よく受けたな」

 

「ふ、ふん……」

 

 俺は虚勢を張ってみた。完全にまぐれだ。はっきり言って死を覚悟した。

 

「ならば……!」

 

「む!」

 

「はっ! はっ! はっ!」

 

「くおっ! ぬおっ! むおっ!」

 

 用心棒が素早い連撃を繰り出してきたが、なんと俺はそれらをことごとく防いでみせた。

 

「……今の連撃も防ぐとは……」

 

「はっ、その程度か?」

 

 俺はまたも虚勢を張る。しかし、我ながらよく防ぐことが出来たな……ひょっとして……これまでの戦いは素の俺自身にもそれなりに経験が蓄積されているのだろうか?

 

「旦那! 何を遊んでいるんだ!」

 

 スキンヘッドの男がいら立ちながら叫ぶ。

 

「慌てるな、次で決める……」

 

 用心棒が少し俺と距離を取る。

 

「……?」

 

「これが防げるか?」

 

「なに?」

 

「はっ!」

 

「⁉」

 

 用心棒が振るった刀から斬撃が飛ぶ。なんだそれ、そんなのありか。俺は防きれず、その斬撃を喰らって、膝をつく。用心棒が再び長髪をかき上げる。

 

「……終わりだ」

 

「ぐうっ……!」

 

「なに……?」

 

 うつ伏せに倒れそうになった俺だったが、剣を地面に突き立ててなんとか踏ん張る。

 

「こらえただと……?」

 

「む、むう……」

 

 用心棒が信じられないといった様子で呟く。俺も自分で信じられない。

 

「これは大変な屈辱だな……今度こそ終わりだ」

 

 用心棒が近づいてきて剣を振りかざす。動けない。本当に今度こそまずい……。

 

「スグル!」

 

 ティッペの声がする。俺はそちらに視線を向けて声を絞り出す。

 

「お、お前、どこ行っていた……?」

 

「優くん!」

 

「え⁉」

 

 俺は驚く。ティッペの側に桜がいたからだ。ティッペが声を上げる。

 

「すまん! 救出にちょっと手間取ったっぺ! 鎖で繋がれていて……」

 

「天さんにチェーンカッターを【描写】してもらったんだけど、扱いに慣れてなくてね……」

 

 監督が後頭部をポリポリと掻く。俺はティッペに声をかける。

 

「と、とにかく、早く絵を!」

 

「それ!」

 

 ティッペが投げた絵を俺は受け取る。

 

「絵を見て……念じる!」

 

「む⁉」

 

「ま、間に合った……」

 

 俺は『赤髪の勇者』に変化する。用心棒が驚いた様子で呟く。

 

「そ、その姿は……」

 

「ご存知かな?」

 

「ああ、よく知っている……!」

 

「むぐっ⁉」

 

 用心棒が剣を振り下ろしてくる。俺は受け止めるが、押し負けそうになる。勇者に変化したのに何故だ? ダメージが蓄積されているからか?

 

「この……忌々しい!」

 

「ちいっ!」

 

 俺は剣を跳ね返し、立ち上がって距離を取ろうとする。

 

「逃がすか!」

 

「うおっと!」

 

 用心棒が先ほどよりも速い連撃を繰り出してくる。俺はなんとか受け止める。勇者が圧倒されている……こいつの力が増しているのだ。監督たちの声が耳に入ってくる。

 

「栄光くん、だいぶ足にきているようだね……」

 

「……チャトパさん!」

 

「ティッペだべ! 一文字も合ってないっぺ! どうした、サクラ⁉」

 

「私にもスキルがあるのじゃない⁉」

 

「え⁉」

 

「この世界に転移してきて色々聞いたわ! 私たち転移者は珍しいスキルを持っていることが多いって! 妖精さんがスキルを鑑定出来るという話も聞いた! 私のスキルは何⁉」

 

「ちょ、ちょっと待つっぺ!」 

 

「早く! このままじゃ優くんが危ない!」

 

「わ、分かったっぺ! こ、これは……?」

 

「どうしたの⁉」

 

「こ、この絵を見て、さっきのスグルみたいにやってみるっぺ!」

 

「……何やらやかましいが、終わりだ、勇者!」

 

「! ……?」

 

「なっ⁉」

 

 俺と用心棒が驚く。純白のドレスに身を包んだ、長い金髪の美しい女性が俺たちの間に立っていたからである。ティッペが叫ぶ。

 

「サクラのスキルは【芝居】! 他の人物になりきることが出来るっぺ!」

 

「な、なんだって⁉ この姿は⁉」

 

「伝説の『虹の英雄たち』ととともに、かつてこの世界の危機を救った、『金髪の女神』!」

 

「はあ!」

 

「ぐはっ!」

 

 桜が手を突き出すと、用心棒が派手に吹き飛ばされる。俺は感嘆の声を漏らす。

 

「す、すごい……」

 

「くくくっ……これは僥倖だ……」

 

 倒れ込む用心棒が笑いながら呟く。

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