【第一章完】三流声優の俺、特殊スキル【演技】で異世界の英雄になってみた   作:阿弥陀乃トンマージ

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第11話(4)光と映像

「オタク、もとい……タノシは大丈夫だっぺか……」

 

 ティッペが心配そうに後ろを振り返る。俺は口を開く。

 

「大丈夫だ、信じ……」

 

「信じろだっぺ?」

 

「……そうだ」

 

 俺は頷く。

 

「まあ、そうするしかないっぺねえ……」

 

「ああ、しかし……魔王の居城は遠いな。そろそろ見えてきてもいいと思うのだが……」

 

「もうちょっとかかるっぺ」

 

「はあ……んおっ⁉」

 

 俺は馬車を緊急停車させる。

 

「な、なんだっぺ⁉」

 

「い、いや、ゾンビが地中から……」

 

「あらら、勘が鋭いのね、面白くない……」

 

 向こうから深いスリットの入ったロングドレスを着た小柄で切れ長の目をした少女がゆっくりと歩いてくる。それを見てティッペが呟く。

 

「『ラースのモーグ』……」

 

「まあいいわ、おもちゃには事欠かないから……」

 

 モーグが指を鳴らすと、地中からゾンビが何体か這い出してくる。それを見た俺は呟く。

 

「スキル【死者蘇生】……!」

 

「ここら辺一帯も古の戦場だったみたいだからね……さあて、あの馬車を横転させなさい」

 

「……」

 

 ゾンビたちが馬車にゆっくりと近づいてくる。

 

「マ、マズい!」

 

「ふん!」

 

「!」

 

 馬車の荷台から大きな火が噴き出し、ゾンビたちは後退を余儀なくされる。

 

「栄光くん、ここは自分に任せてもらおうか」

 

 監督がゆっくりと荷台から降りる。

 

「一人で大丈夫ですか?」

 

「そこは監督を信頼してくれよ」

 

「分かりました。ただし、無理はしないで下さい」

 

「ああ、そらっ!」

 

「今だ!」

 

 監督がライターと酒瓶を使って、火を噴く。ゾンビたちがたじろいだ瞬間、俺は馬車を走らせ、その場から離れる。

 

「ふむ、離れられたようだ……」

 

「ちっ、英雄気取りめ、逃がさないわよ!」

 

「ちょっと待った、悪趣味なお嬢ちゃん」

 

「はあ⁉」

 

 モーグが顔だけ振り向かせる。

 

「君とはこの黄恵秋が遊んであげよう……」

 

 秋が両手を広げる。モーグが思い出したように頷く。

 

「……そういえば、いつぞやはアンタにも世話になったわね……」

 

「ほう……自分のようなモブまで覚えていてくれるとは光栄だね」

 

「口から火を噴く間抜け女をそうそう忘れるわけがないわ」

 

「その間抜け女に痛い目を見たのは忘れたのかい?」

 

 秋が肩をすくめる。モーグが舌打ちをしながら体も振り向かせる。

 

「ちっ、良いわ。まずはアンタを痛めつけてあげる……」

 

「その気になってくれて嬉しいよ」

 

「アンタのスキルは……【演出】だっけ? そんな妙なもので本当に勝てるとでも?」

 

「やってみなくちゃ分からないだろう?」

 

「ふん……取り押さえなさい!」

 

 モーグがゾンビたちに指示を出す。ゾンビたちが秋に群がる。

 

「だから、それは通用しない……って!」

 

「‼」

 

 秋が火を噴き、ゾンビたちを燃やす。秋が呆れたように話す。

 

「流石にワンパターンな展開過ぎるよ……ヘタすりゃネットが炎上だね」

 

「ふふっ、ここら辺はね……」

 

 モーグがゆっくりと付近を歩き回る。

 

「古の戦場だったんだろ?」

 

「そう、ひときわ大きい戦が行われたみたいよ」

 

「大きい戦……」

 

「総力戦ってやつね、よく知らないけど」

 

「歴史の授業ありがとう。良いロケハンになったよ。もっとも使うことはないと思うけどね」

 

 秋が頭を軽く下げた後、首を傾げる。

 

「話はまだ終わっていないわ」

 

「え?」

 

「こういうのもいるのよ!」

 

 モーグが指を鳴らすと、黒く背の高いゾンビが何体か地中から現れる。

 

「む! って、結局ゾンビじゃないか……火をかければ……!」

 

「………」

 

 火をかけられても黒いゾンビたちは平然としている。秋が驚く。

 

「なんだと⁉」

 

「あはっ! このゾンビは特別よ!」

 

「特別⁉」

 

「ええ、なんて言えば良いのかしら……そう、デーモンのゾンビだからね!」

 

「デーモンのゾンビ……」

 

「常人ではないってことよ」

 

「普通のゾンビよりも強力ってことか……」

 

「そういうこと。さあ、その女を取り押さえなさい!」

 

「…………」

 

 黒いゾンビたちが秋に近づく。

 

「くっ!」

 

「あははっ! 酒を直接ぶっかけてみたら?」

 

 慌てる秋を見て、モーグが笑う。

 

「こ、これなら!」

 

「⁉」

 

 強い光が放たれ、それを浴びた黒いゾンビたちはその場に崩れ落ちる。

 

「ひ、光ですって……?」

 

「この三日間、スキルを磨いた結果だ。光の使い方も演出には大事になってくるからね。念の為、天さんにライトを【描写】してもらって良かったよ」

 

「ちっ! 小賢しい真似を! それならコイツよ!」

 

 モーグが指を鳴らすと、どこからともなくドラゴンが飛んでくる。モーグがそれに跨る。

 

「この間とは違う、より大きなドラゴン!」

 

「英雄気取りに目を潰されちゃったからね……アイツの仇を取ってやるわ!」

 

「死者を弄ぶ人間が、仇討ちとは片腹痛いね……」

 

「うるさいわね! 踏み潰しても良いのよ⁉」

 

「ならば……これだ!」

 

 ドラゴンの倍以上に巨大な獣がその場に出現する。

 

「なにっ⁉」

 

「ギ、ギャアア‼」

 

「ちょ、ちょっと! あ、暴れるな、ぐはっ……!」

 

 巨獣に恐れをなしたドラゴンがパニックになり、モーグを振り落とす。地面に落下したモーグは頭を打ち、気絶する。操り手を失ったドラゴンも大人しくなる。

 

「これこそ【演出】を磨き上げた結果、映像演出さ……ちなみに出典は『襲撃の巨獣』……助監督を務めた経験がここで活きたね……」

 

 巨獣を消して、秋は笑みを浮かべる。

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