【第一章完】三流声優の俺、特殊スキル【演技】で異世界の英雄になってみた   作:阿弥陀乃トンマージ

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第1話(4)黒髪のモブ

「なんでそんな初歩的なミスを……」

 

 ティッペが頭を抱える。俺は釈明する。

 

「い、いや、普通は絵の中央にいる者が勇者だと思うだろう! なんで端っこにいるんだ⁉」

 

「謙虚な人柄で知られていたらしいっぺ」

 

「だからって、絵まで遠慮することはないだろう!」

 

「正しい性格を後世に語り継ぐ必要があるっぺからねえ……」

 

「せめて肖像画とかを持ってこい! 紛らわしい!」

 

「シャイな人だったらしいから、そういうのは残ってないらしいっぺ……」

 

「世界の危機を救ったんなら、もうちょっと自信を持ってくれ、勇者!」

 

 俺は絵に向かって叫ぶという空しい行動をとる。

 

「ま、まあ、武器もあるし、多少はマシだっぺ!」

 

「いや、勇者になれば良いだろう! コツは掴んだ! イメージして……あれ、なれない⁉」

 

「恐らくだっぺが……」

 

「なんだ⁉」

 

「一度その者になってしまったら、一定以上の時間が経過しないと、元には戻れないんではないんだっぺか……」

 

「そ、そんなことあるか⁉」

 

「スキルは便利な反面、なんらかの制約がかかっているケースが多いっぺ……」

 

「ということは……」

 

「そのモブキャラで戦うしかないっぺねえ……」

 

「マジかよ!」

 

 俺は愕然とする。異世界転移してまで掴んだ役がモブキャラかよ。

 

「! 連中がそろそろ仕掛けてくるっぺ!」

 

「ちっ、こうなったらこれでやるしかないのか!」

 

「繰り返しになるが、槍もあるから、モブキャラでもそれなりに戦えるはずだっぺ!」

 

「分かったぜ!」

 

「! 見事なモブ声だっぺ……」

 

「モブ声って言うな!」

 

「そのモブ顔と言い、完全にモブキャラになりきっているっぺねえ……」

 

「感心するな!」

 

「シャー!」

 

「くっ!」

 

「ギャッ⁉」

 

「シャー‼」

 

「えい!」

 

「ウギャッ⁉」

 

「……シャー!」 

 

「シャシャー!」

 

「そらっ! そらっ!」

 

「グギャ!」

 

「ブギャ!」

 

 俺は槍を器用に扱い、飛びかかってくるトカゲのようなものたちを次々と退けていく。

 

「おおっ! 思ったよりやるっぺねえ! モブオ!」

 

「適当な名前を付けるな!」

 

「まだ残っているっぺ!」

 

「分かっている!」

 

 俺は槍をどんどんと突き立てていく。俺たちを取り囲んでいたトカゲのようなものたちはすっかり動かなくなった。

 

「おおっ、やったっぺ!」

 

「ふん、ざっとこんなもんだ……」

 

 俺は髪をかき上げる。

 

「モブ声で言ってもいまいち決まらないっぺ」

 

「う、うるさいな!」

 

「ん?」

 

「どうした?」

 

「い、いや、まだモンスターの気配が……」

 

「なんだと⁉ ‼」

 

 いつの間にか、トカゲのようなものたちを一回り大きくしたようなトカゲのようなものが姿を現す。ティッペが叫ぶ。

 

「お、親玉の出現だっぺ!」

 

「くっ、デカいな……」

 

「…………」

 

「あの目つき、子分たちがやられて相当怒っているっぺ!」

 

「それくらいは雰囲気で分かる!」

 

「ここは撤退するっぺ!」

 

「いや、逃げても追いつかれるだろう!」

 

「それはそうだっぺが……そのモブオの姿ではあまりにも荷が重い相手だっぺ……」

 

「ティッペ、ひとつ良いことを教えてやる……」

 

「ん?」

 

「世の中なんて大半がモブだ! でも、モブがいなきゃ物語は成立しないんだよ!」

 

「……‼」

 

「うおおっ!」

 

 俺は大きいトカゲのようなものに向かっていく。

 

「ジャー!」

 

「行くぞ! って⁉ どわあっ⁉」

 

 俺は槍を突き立てようと振りかぶったが、足元にあった石につまづき、転んでしまう。

 

「ゲギャア!」

 

「え?」

 

 俺は顔を上げると、俺の手から離れた槍が大きいトカゲのようなものの喉を貫いていた。大きいトカゲのようなものは少し苦しんだ後、動かなくなる。

 

「まさか近距離で投擲とは……その発想はなかったっぺ……」

 

「あ、ああ、まあ、狙い通りだ」

 

 俺はとりあえず取り繕う。単にコケただけとか言えない。

 

「しかし、モブオの姿でもこれだけ戦えるということは、勇者になればどれほどの……」

 

「うん?」

 

「……モブオ」

 

「モブオじゃねえよ、スグルだ」

 

「ああ、これは失敬……頼みがあるっぺ」

 

「頼み?」

 

「さっきもちょっと言いかけたっぺが……実は何人かの転移者がスキルを悪用してこの世界を支配しようとしているっぺ……」

 

「! なんだと?」

 

「その演技という珍しいスキルならきっと奴らにも対抗できるはずだっぺ!」

 

「い、いや、悪いが俺は一刻も早く元の世界に戻りたいのだが……」

 

「それはなかなか難しいっぺ」

 

「えっ⁉」

 

「方法は探してみるっぺ、だがその前にこの世界を救って欲しいっぺ」

 

「簡単に言うけどな……待てよ?」

 

 俺は最悪の事態を想定した。転移者が結構いるということは、あの時の落雷の衝撃で転移したのは俺だけではないんじゃないか? もしかしたら、桜もこの世界に……。

 

「どうかしたっぺか?」

 

「い、いや、なんでもない……」

 

「スグル……この世界の新たな英雄になってくれないっぺか⁉」

 

「‼」

 

 三流声優だった俺が英雄にならないかだって? まずありえないオファーじゃないか。

 

「ど、どうだっぺか?」

 

「面白い、英雄役、全身全霊を賭けて演じてみせよう!」

 

 俺は高らかに宣言する。モブ顔で。

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