【第一章完】三流声優の俺、特殊スキル【演技】で異世界の英雄になってみた   作:阿弥陀乃トンマージ

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第2話(2)傲慢な姉妹

「そ、そうは言っても、お金が無ければ、ご飯も食べれませんし、宿にも泊まれません……背に腹は代えられませんよ~」

 

「そ、それもそうだな、すまない……」

 

 俺は橙々木さんに頭を下げる。橙々木さんは手を左右に振る。

 

「い、いや、別に良いんですが……」

 

「……話は変わるのだが、橙々木さん」

 

「は、はい……」

 

「何故貴女がここに?」

 

「えっと、それがしは……」

 

「それがし?」

 

「え?」

 

「い、いえ、なんでもないです、続けて下さい」

 

「『デーモンファミリーリベンジ』の打ち上げパーティーに出席していたんです」

 

「ええっ! な、なぜ?」

 

「いや、作画スタッフで参加していましたから、呼んでもらえたんです」

 

 そうだった。この橙々木さんは、俺と年齢もそう変わらないはずだが、若手実力派アニメーターとして既にその名を知られている人だ。話題作の『デモリベ』にも参加していても当然である。俺は自らの推測に基づき、質問を重ねる。

 

「失礼ですが……」

 

「はい?」

 

「打ち上げパーティーのホテルで落雷のようなものがあったと記憶しているのですが……」

 

「ああ、ありましたね~」

 

「貴女はその時どこに?」

 

「お手洗いにいました~」

 

「!」

 

「そういえば近くの廊下で神桃田桜さんとお話しされていましたよね。まさに同期の桜って感じって、なんちゃって~」

 

「‼」

 

「ど、どうかしましたか?」

 

「い、いや……」

 

 どうやら俺の推測は当たっている可能性が高い。あの落雷のようなものの衝撃で、トイレの近くにいた者たちがこの世界に転移させられているのではないか? そうなるとやはり、桜もこの世界に……。

 

「あの~?」

 

「あ、ああ、失礼……」

 

「何かマズいことを言ってしまいましたか?」

 

「い、いえ、別に……それにしても……」

 

「?」

 

「俺と桜……神桃田が同期なんてよくご存知ですね」

 

 俺のような三流声優――自分で言って悲しくなってきた――無名声優のことをこの人はなんで知っているんだ?

 

「いや、それは知っていますよ。だって……!」

 

 橙々木さんのお腹が鳴る。橙々木さんが恥ずかしそうにお腹を抑える。俺はしゃがみ込む。

 

「……俺も腹ペコで参ってしまいそうです」

 

「は、ははっ……」

 

「絵は売れますか?」

 

「ボ、ボチボチですね」

 

「それなら食事には困らないのでは?」

 

「紙がこの世界では価値がかなりあるようなので……紙代でトントン、いや、若干赤が出てしまいますね……」

 

「そうですか……」

 

 若手実力派アニメーターでも、世界が変わればこうなるのか。どうにか稼げる方法はないものか……。俺は腕を組んで考え込む。

 

「お~い……」

 

「なんだ、ティッペ? 今考え事をしている」

 

「……手っ取り早く稼げる方法あるっぺよ」

 

「な、なんだと⁉ お前、エスパーか⁉ 人の心を読むとは……」

 

「そんな力はないっぺ……でも考えてそうなことくらい想像つくっぺ」

 

「……方法があるとは?」

 

「ああ、大金をな」

 

「!」

 

「ほ、本当ですか⁉ 妖怪さん⁉」

 

「妖精だっぺ!」

 

 ティッペが橙々木さんの発言をすかさず訂正する。

 

「その辺の定義はどうでもいい……」

 

「どうでもよくないっぺ!」

 

「いいから方法を教えろ」

 

「それは……あっ……」

 

「ほ~ほっほっほ! 頭が高いですわよ!」

 

 金髪の縦ロールの髪型をした、比較的小柄な女性が道を歩いてくる。

 

「……」

 

 その後ろに同じく金髪のロングヘアーをなびかせた長身の女性が歩く。

 

「さあさあ、“ご集金”の時間ですわよ!」

 

「⁉」

 

 周囲の人々がざわざわとする。縦ロールが顔をしかめる。

 

「なんですの? 揃いも揃ってそのリアクションは……」

 

「シ、シルバ様!」

 

 中年男性が前に進み出る。

 

「なにかしら? 町長……」

 

「せ、先日、お支払いしたばかりでは⁉」

 

「そうね、ちょっと欲しい宝石とドレスが見つかったから、その分緊急でご集金ですわ」

 

「そ、そんな……」

 

「何? まさか払えないとでもおっしゃるつもり⁉ 一体誰がこの町を野蛮な野良モンスターどもから守ってやっていると思っているの⁉」

 

 縦ロールの一喝に怯んだ中年男性が慌てて跪き、呟く。

 

「シ、シルバ姉妹様です……」

 

「そう……だからあなた方はその見返りをわたくしとお姉様に納める必要があるのです、お分かりかしら?」

 

「む、むう……」

 

「……あれはどういうことだ?」

 

 俺は小声でティッペに尋ねる。

 

「前も言ったとおり、スキルを悪用してこの世界を支配しようとしている奴らだっぺ……」

 

「! ということは、奴らも転移者か?」

 

「ああ、『プライドのシルバ姉妹』だっぺ」

 

「プライド?」

 

「傲慢とも言い換えられるっぺ」

 

「なるほどな……」

 

 俺は頷く。縦ロールが中年男性に向かって声をはり上げる。

 

「聞いているの⁉ わたくしはお分かり?と聞いたのです! 答えは⁉」

 

「……」

 

「何を黙っているの⁉」

 

 中年男性が顔を俯かせ黙る。唇を噛んでいる。周囲を見回してみると、他の町民も皆、同じような顔をしている。それを見て俺は再びティッペに尋ねる。

 

「ティッペ、お前が言っていた手っ取り早い稼ぎ方とは……」

 

「うん?」

 

「あの姉妹を懲らしめるということか?」

 

「ほう、察しがいいっぺねえ……」

 

 ティッペが笑みを浮かべる。

 

「おい、お前ら」

 

 俺は傲慢な姉妹の前に進み出る。縦ロールが首を傾げる。

 

「? あなた、見ない顔ねえ……どちら様かしら?」

 

「俺か? この世界の英雄になる予定の者だ」

 

「! お~ほっほっほ! 何を言うかと思えば!」

 

「お前らのような悪い転移者をこらしめてな……」

 

「⁉」

 

 縦ロールの顔が変わる。後方に控えていたロングヘアーが前に出てくる。

 

「デボラ、私に任せろ……」

 

「ローラお姉様……」

 

「お姉様がお相手してくれるのか?」

 

「どうやら貴様も転移者か?」

 

「そうだと言ったら?」

 

「我々に服さない者は……必要ない!」

 

「ぐはっ‼」

 

 ローラと呼ばれた女が右手を軽くかざしただけで、俺は吹っ飛ばされ、建物にぶつかる。

 

「栄光さん!」

 

「ぐっ……へ、平気です」

 

 橙々木さんに対し、俺はなんとか手を挙げながら立ち上がる。ローラが呟く。

 

「ほう、立ち上がるとはな……」

 

「お姉様、遊んでいないでとどめを!」

 

「ああ……」

 

「ティッペ!」

 

「分かっているっぺ!」

 

 ティッペが前足を振ると、一枚の紙が現れる。俺はそれを掴む。

 

「絵を見て……念じる!」

 

「妙なことを……させん!」

 

「‼」

 

 建物が吹き飛ぶ。デボラと呼ばれた女が笑う。

 

「お~ほっほっほ! お姉様にかかれば……なっ⁉」

 

「ふん……そんなものなの? って、あ、あれ⁉」

 

 俺は自らの姿を確認する。女の姿になっているではないか。ティッペをキッと睨む。

 

「い、いや、かつてこの世界の危機を救った伝説の『虹の英雄たち』の一人、『橙髪の武道家』を描いた絵を渡したっぺ!」

 

「せ、性別が変わっているじゃないの⁉」

 

 俺は橙色のショートボブの髪をかき上げながら愕然とする。

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