ブルアカの短編とかいろいろ   作:一生ホームアローンマン

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エデン条約後のちょっと丸くなったコハルとエ○同人作家と化したミドリです。


ミドリとコハルと同人即売会

ミレニアムサイエンススクールの生徒、才羽ミドリは同人作家である。3DアクションやVRに体感型ゲームなどが主流な昨今、それに反して2Dレトロゲームを主に作っているゲーム開発部に所属し、メインの肩書としてはそのイラストレーターなのだがそれとは別で絵も描くし漫画も描く。

 

ミレニアムという学校自体、方向性に差はあれどいわゆるオタク傾向の強い学生の集まる所であり、その手のイベントも豊富だ。今はネット上のやり取りだけで完結するクリエイター支援サイトのようなものだけで活動することもできるし、そういう作家も増えてきているが、やはりイベントの空気感というのは他に代えがたいものがある。

 

同好の士がウジャウジャ集まった空間の熱は創作に新たな活力を与えてくれる。そういう思いもありミドリはわりと頻繁に同人イベントに参加していた。大規模なものではないが今日もそんなイベントの日だ。

 

「それじゃ、ちょっと出かけてくるね」

「んー」

「頑張ってね」

 

時間調整にちょっと顔を出していたゲーム開発部の部室から出発する。匿名掲示板でレスバに励んでいるモモイは気のない返事。前日に準備を手伝ってくれてせっかくだし売り子もやってくれないかなと思っていたけど、人が多いところは無理だと全力で断られたユズはいつものようにロッカーからくぐもった声。

 

「ミドリ、どこか行くんですか?アリスもお出かけしたいです」

「あ~……えっとねアリスちゃん、今日はちょっと」

 

ブラウン管テレビのゲーム画面を見つめながらひたすらゴミを釣りあげていたアリスがポーズボタンを押してくるりと振り返る。

 

ミドリは困った。ミスったなと思う。いつものように家から直接出るべきだったか。ニコニコしながらこちらを見上げるアリスは純粋で、ある意味生まれたての赤ん坊のような存在だ。様々な経験を経て精神的に成長したとはいえ、まだまだ情緒的に触れさせるべきではないところもある。

 

ぶっちゃけて言えば今日のイベントは普通にかなり際どいのを扱うのでアリスを連れて行く訳にはいかない。ガタンと音を鳴らすロッカー、固まるミドリに首を傾げるアリス、スマホを握ってクッションに寝転がっていたモモイもスッと姿勢を正し、部室に謎の緊張感が満ちる。

 

時折、通りすがりの知らないミレニアム生がお菓子で餌付けしながら流行りのネットミーム語録を教え込もうとするように、アリスはどんなものでも偏見なく受け入れる、受け入れてしまう。するとエッッッな薄い本など読ませればどうなるか。その日の夜には先生に夜這いをかけるアリスの姿が目に浮かぶようだ。

 

ただでさえ貧弱な先生ではアリスのハイパーアンドロイドパワーになす術もないだろう。先生がパパになるんですよ、と先生の上でお腹をさすり微笑むアリスに、涙で枕を濡らす先生。一瞬でそこまで想像したミドリは顔を青くしながら解法を探した。

 

「えっと、その……」

 

しかし無言のロッカー、役に立たない。ポーズを解いてセーブしてゲームの電源切ったアリス、お出かけする気満々だ。マズイ。藁にもすがる思いで姉を見る。

 

当意即妙に返されるグッと力強いサムズアップ。流石だ。普段は大概ぽんこつだが、いざという時ほど意外な爆発力を発揮するのがモモイだ。なにか上手い方法を思いついてくれたのかとホッと一息ついた瞬間モモイの立てた親指がひっくり返る。

 

口元がひきつる。アリスがいなかったら銃撃戦が始まっていた。この姉、役に立たねえ!モモイに言わせればあんたがエ口本なんか書いてるからでしょ!というところでなにも反論できないのだが、しかし情熱は止められないのである。そしてアリスも止まらない。

 

ヘアブラシで床まで届く長い髪を軽く整え、ミレニアムの指定コートを羽織り、ハンカチやティッシュもポケットに詰め込んで準備万端だ。万事休すか。天を仰いだミドリの背後でやや乱暴にドアが開く。

 

「おい、大丈夫か!?なにがあったッ!」

「あ、ネル先輩」

 

ふりむけば、ミレニアム最強とも名高い「C&C」のリーダー、美甘(みかも)ネルが血相を変えて突撃してきたのだった。

 

「ネル先輩よく来たね!アリスが新作の格ゲーでネル先輩ボコボコにしたいんだって!もちろん受けて立つよね!」

「あ?あぁ……?おいお前ピンチで大至急とかなんとか……」

 

全力ダッシュで来たらしく、軽く汗をかいた額を拭うネルにまくし立てるモモイ。

 

「アリスもネル先輩と勝負したいよね!」

「えっ?えーと、はい!アリス勝負からは逃げません!」

 

そうしてモモイは首を傾げるネルとアリスをまとめて押し出していった。バタンと部室のドアが閉まる直前、ビッと背後にピースサイン。事態を察した瞬間スマホでネル先輩を呼びつけていたらしい。姉、やはりできる女であった。

 

お土産になにか甘いものでも買ってきてあげよう。そう決めたミドリは鉢合わせないように少し待ってからようやく会場へと出発するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

会場についたミドリは慣れた様子で関係者入り口から中に入り、スペースの設営や知り合いへのあいさつ回りを終え、イベントの開始を待っていた。最初の頃は手間取ることも多かったが、今や百戦錬磨のサークル参加者である。さらに途中で着替えたため普段の面影もない。

 

トレードマークの猫耳ヘッドホンを外し、ロングヘアのウィッグにアンダーリムの伊達メガネ。私服も普段はあまり着ないコーディネートだ。まあ知り合いがじっくり見ればバレる程度の軽い変装だが、姿を変えることに意味があるだろうと思っている。

 

しばし待てば開場のアナウンスが告げられ、どやどやと一般参加者が入ってくる。この瞬間の、買う側でも売る側でもわくわくするような一体感、みんなでなにかを作り出すという感覚に似たそれがミドリは好きだった。

 

今回は中規模のイベントで、参加サークルも有名所がそれなりに、企業ブースも少し、その中でミドリのサークルは中堅どころといった感じだ。早速やってくるのは常連さんとも言うべきなんとなく何度も顔見てるな、という人や、SNS上でも軽い付き合いがあり声をかけてくる人、スケブを求める人。どう考えても特定不可避なのに顔に謎の落書きを貼り付けて変装している明らかに見覚えのある謎の成人男性。謎の落書きの人にも営業スマイルで対応し、新刊やグッズを全部お買い上げになる彼を見送った。他のところでも大人買いをしては生暖かい笑顔で見られている彼になんともむず痒い気持ちになる。

 

 

いろいろな人がいる。アホみたいな陽キャ、というかアホの姉とは違っておよそ社交的とは言い難い性格のミドリだが、大体こういうところに来る人はみんな似たような感じなので知らない人ばかりでも案外余裕があった。

 

「……!」

 

だから、イベントも終盤になって、挙動不審な様子でやってきたかと思えば見本誌をガン見し、似合わないデカいサングラスとマスクの隙間から覗く顔を真っ赤にしている、なんとなくどこかで見たことがあるような気がする少女。そんなのを眺めても、ああ、イベント初参加なのかな初々しいなあとか思う余裕があった。

 

「エッチなのはダメ、死刑……!」

「!?」

 

唐突にボソボソっと呟かれた物騒な言葉に戦慄が走る。もしやどこかの風紀委員の内偵か。こういったイベントはなんとなく暗黙の了解というか、版権モノの二次創作だとか、一般向けと言い張れるギリギリのエロスの追求だとか、それ明らかにアウトでしょでその場で黒塗りするだとか、様々な方面でグレーゾーンを綱渡りする危ういバランスで成り立っている。それを崩そうと言うなら、抗わなければならない。

 

イベント会場では同担拒否やカップリング論争で銃撃戦が始まるのもそう珍しいことではないのだ。それに見せかけて始末するべきか……?ミドリは机の下に置いていた愛銃に手を伸ばしかける。

 

しかし相手に動きはない。ぷしゅうと頭から煙を上げたまま、ゆっくりと新刊の見本誌を読み進めている。ただの独り言だったらしい。読み終えたピンク髪の少女は財布から500円玉を取り出し、新刊を1冊買い求めた。

 

「ありがとうございます。じっくり見てくれてましたけど、どうでしたか?」

「うぇっ!?えっと、その……

そんなの言えるわけないでしょ!」

 

マスク越しのボソボソ声から一転、ドでかい声で叫ぶ謎のグラサンマスクピンク髪、というかコハル。遠くでそれに気づいた落書きを顔に貼り付けた怪人物がちょっと現場に近寄ると、ハラハラした様子で柱の陰から見守りはじめる。

 

「……大丈夫ですよ。ここに来てる人はみんなこういう本を買いに来てるんですから。なんなら私が描いてるんですから」

「……ぅあ。……ごめんなさい、いきなり大きい声出して」

「いいえ、こちらこそ急に声かけてごめんなさい」

 

イベント初心者の子に嫌な思い出を作らせるわけにはいかない。表情、声音、態度、ミドリは全力で気にしてませんよアピールをしかける。その甲斐あってかすぐにコハルは落ち着き、買ったばかりの薄い本を大事にカバンにしまった。

 

「よければSNSで感想呟いたりしてくださいね」

「あっ、えっと……既刊も読んでて、オリジナルの方」

 

あまり引き止めてもなんだろうと、話を切り上げようとすれば、コハルの方から話し出す。サークルチェックはしてから来ていたらしい。ミドリの本を読んで、思ったことはあったのだろう。

 

ミドリは基本的に版権モノをメインに出していたがここ最近はオリジナルも書いていた。妹系の控えめな女の子とちょっと抜けたところもあるけど頼りになる大人の男性の恋愛モノだ。言うまでもなく妄想大爆発である。しかしだからこそ熱の籠もったものでもあった。現実の人物、いわゆるナマモノを扱うのは色々とリスクのある行為だし、それでエライことになってるような人もいる。しかしそれでも溢れ出るものを抑えるには足りなかったのだ。

 

「我慢できなくなった男の人にムリヤリされちゃって、でも優しくて流されちゃうみたいなのがすごく良くて……」

「そこはとてもこだわりました。駆け引きのバランスと言うか、強引さと優しさの天秤をちょいちょい揺らしながら進んでいくような」

 

お互いにやや人見知り気味の性格であったが、一度スラスラと流れるようになれば共通の話題もあり案外と話に花が咲く。二人はしばし作品談義、薄い本談義にふけった。

 

「……ふぅ、こんな変なこと人とたくさんしゃべったの始めて。エッチなのはダメなのに」

「ふふ、まあこういう場だからこそというのはありますよね。普段だったら絶対できない。……でも、好きな人とそういうことをしたいって思ったりするのは本当にダメなことなのかな、なんて思ったりすることもあります」

 

わりと危ういことを言うミドリにコハルは目をむく。そんなのダメに決まってる。またもや叫びそうになったが、流石に今度は我慢して咳払い。普通のトーンで言う。

 

「ダメに決まってるじゃない。特に私たちは子供だし」

「……まあ、そうですよね」

 

常識的に同意して、しかしあったばかりの相手になぜか本音が漏れた。

 

「子供だからダメ。子供だから、相手にされない……そういうの、すっごくヤダ」

「うぇっ?……ええと、なんかごめんなさい」

 

ポツリと独り言のように呟いた言葉は思いの外ガチのトーンを含んでいて、それを引き出してしまったコハルは焦る。自身に失言癖があることをうっすら理解し始めていた彼女は、普段それで自分が恥をかいたりするだけだからそんなに気にしていない……いや、気にしてはいたがそこまで深刻に考えていなかった。

 

けれど、他の誰かを傷つけてしまうとなれば話は別だ。それは全く、彼女の信じる正義にもとる。

 

「あの……その、そう!確かに世間的には、ダメなんだけど絶対ダメかって言うと違って……自分が信じる正しいことのために頑張るのは、きっと悪いことじゃないと思う。もちろんその、他人を傷つけたりするようなのは別として」

 

あとは露出とか変態みたいなのも別で、とかだんだん支離滅裂になりながらもなんとかフォローしようと言葉を連ねるコハルに、ぽかんとするミドリ。

 

「とにかく!常識とかに縛られすぎて落ち込んだり思い悩んだりするのはダメってコト!いい!?」

 

なにがなんだかわからなくなった後、先生に言われた(人から借りた)言葉を自分自身でなんとなく噛み砕いた決めゼリフで締める。つい口をついて出てしまった愚痴のような言葉に、すごく真面目に応えてくれて、慰めてくれる。コンビニでエ口本を買おうとする思春期の中学生みたいな最初の印象とあまりに違って、ミドリはつい笑ってしまった。

 

「な、なによ!」

「ええと、謎のグラサンさん、ありがとう」

 

元気が出ました、と手を握り軽く振る。こういう偶然の出会いもまた、イベントの醍醐味だろう。そして落ち着いたところで柱の陰でうんうんと頷きながら後方腕組み先生面をしている謎の不審者の姿に気づき、ちょいちょいと手を振って呼び寄せる。

 

「もうちょっとしたら閉会ですし、片付けしたらどこかでご飯食べて帰るつもりなんですけど、あなたもどうですか?この人の奢りです」

『!?』

 

唐突にご飯をタカられ困惑する落書き男性を完全に無視してコハルに問いかける。こっそり見ていたことにムカついたのと恥ずかしかったのでその仕返しである。落書きの男性はこのイベントであらかた軍資金を使い果たしていたらしく、空の財布を振った後、大人のカードを見つめて少し震えた。

 

しかしがっくりしつつも断る様子を見せない先生に、笑顔のミドリ。コハルはそんな二人を交互に見て少し迷った後、こくりと頷いた。

 

 

 

 

 

しばし後、近場のファミレスに集合した3人は思い思いに料理を頼み、イベントや作品の感想会となる。イベントにいっつも顔を出す先生とミドリがこうして食事会をするのは始めてのことではないし、本の感想を聞くのもわりと恒例になっていたりする。自分と相手のそういう本描いてるの知られて、見られて、ましてや感想聞くとかちょっとヤバすぎない?と思わないでもないというか、最初に知られた時はもうこの世の終わりのような惨状になったが、現在では両者ともに高度な見なかったことにする、をすることで落ち着いている。

 

今のミドリは知らない同人作家だし、先生は謎の落書き男性で、コハルはどこかのグラサンマスクなのだ。頼りない建前に過ぎないが、秘密が守られる限りはそれが真実となる。そしてそういう秘密の関係は酷くドキドキするものだし、先生にとっても同じなのではないかと思えば悪くない。

 

やや屈折した、でもこれもきっと青春。

 

夜遅くまで盛り上がった食事会を終え、コハルと連絡先を交換し、今夜自分の本を読むであろう先生にスッと体を擦り付ける。ドギマギした様子の先生に手を振り、コハルにまた別のイベントで会おうと約束し解散となった。帰り道の途中、24時間営業のお店で甘いものをいくつか見繕って購入。ゲーム開発部のみんなとネル先輩へのお土産にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばミドリはどこかにお出かけしてたんでした。ケーキ屋さんに行ってたんですか?」

「うーん……秘密、かな」

 

翌日の部室。上機嫌な様子でそう言うミドリにアリスは首を傾げ、ユズはビクリと震え、モモイはケーキをパクパクしながらも苦虫を噛み潰したような顔で応じた。

 

「アリスはミドリみたいになっちゃダメだからね。ちょーヤバイよ、こいつ」

「???」

 

特別な誰かの特別になりたい。そのためには色んな特別を積み重ねるべきだよね。迷うことも多かったけれど、今はいつもより少し前向きだ。どこかで見たのと似たようなデカいグラサンを戯れに顔にかけて、ミドリはニヤリと笑った。




淫夢汚染されたミレニアムでホモガキになったアリスとそれにツッコミ続けるモモイとか書きそうになりましたが流石に方向転換しました。
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