ブルアカの短編とかいろいろ   作:一生ホームアローンマン

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メイドユズのダンボールを見て3秒くらいで思いついてうろ覚えのMGSの記憶と混ぜて作ったやつです。ややキャラ崩壊。花岡の良さが分かってるのは俺だけだったのに……。


おヒゲギアユズット3 プリンイーター

 ジジッ……。暗闇の中にノイズ音が走り、聞き覚えのある声が続く。

 

「聞こえるだろうか、ユズ……いやTHE YUZU」

「ウタハ先輩*1……? えっと、どうして?」

 

 花岡ユズはとあるテーマパークでアルバイトをしていた。ゲーム開発費のために先生から紹介された様々なアルバイトを経験した彼女だが、着ぐるみのバイトが一番性に合っていると感じたのだ。そのため以前とは別の場所で着ぐるみの短期バイトに励んでいた。しかしその最中急に今から休園になるという放送が流れ、途方に暮れていたところだった。

 

「YUZU、本名で呼ぶのはマズイ。緊急事態だ。コードネームで頼むよ。そうだな、ハミングバード……は長いか。ええと、脱獄王……ハリーとでも呼んでくれ」

「私のはほぼ本名なんですけど……」

「YUZU、さっきも言ったが緊急事態だ。今君のいるレッドウィンター連邦学園で戒厳令が発令された。自治領境界は封鎖され外部との連絡は遮断されている」

「ええっ!?」

 

 レッドウィンター版ご当地ペロロ様、立派なカイゼル髭のついたおヒゲペロロ様がビクリと跳ねる。ここはチェリノ記念公園、通称おヒゲランド。ど田舎の寂れた遊園地感満載のテーマパークであった。ユズはおヒゲペロロ様の着ぐるみで風船を配るアルバイトをしていたのだった。

 

「戒厳令の原因は伝説の生物、ツチノコの自治領内での発見報告だ。レッドウィンター事務局書記長チェリノはツチノコにプリン100個の懸賞金をかけ、捕獲されるまで戒厳令が解かれることはないと宣言した」

「ツチノコ? プリン? え、あの、ウタ「ハリーだ」……ハリー先輩、冗談ですよね……?」

 

 すがるような震える声で、おヒゲペロロ様内部のインカムに呼びかけるユズ。しかしウタハはあくまで平坦に否定した。

 

「YUZU、ツチノコ騒ぎだけなら勝手にやってくれという所だが、今は状況が悪い。つい先日納品されたばかりの最新兵器、OHIGE GEAR……新型レールカノン搭載二足歩行戦車が使用される可能性がある。キヴォトス北部で大規模な環境破壊が起これば、事はレッドウィンターだけの問題にとどまらない。この状況に干渉できるのは今レッドウィンター内部にいる君しか居ない。YUZU、君の手にキヴォトスの未来がかかっている。チェリノ書記長が飽きておヒゲギアを起動する前にツチノコを発見するんだ」

「むむむ、無理ですっ! というかツチノコと兵器となんの関係があるんですかぁ!?」

 

 意味不明な状況、しかし事実を淡々と述べるウタハにユズは叫んだ。そこに紅茶のカップを置く音とともに第三者の声が差し込まれる。

 

「外交上の重要人物として彼女のパーソナリティはある程度把握しておりますが、ツチノコを探すためにタイガ地帯……北部針葉樹林帯を焼き払う、そんな本末転倒なやり方をする可能性が十分にある。私が保証しましょう」

「え、誰……ですか?」

「名乗ることはできませんが、私もあなた方にならって、そうですね……ダージリンとお呼びくださいYUZUさん」

「今我々はシャーレにいる。先生は残念ながら不在だったが、何人かの生徒の協力を得ることができた。大丈夫だ、YUZU。我々が全力でサポートする」

 

 ダージリンことトリニティの桐藤ナギサは偶然シャーレを訪れていたためこの作戦に参加することとなった。もちろんキヴォトスの平和を守るためというのも無くはないが彼女自身の目的があった。が、ひとまずそれは置こう。黙って成り行きを眺めていた3人目の参加者が声を発したからだ。

 

「YUZUさん。体調管理とサバイバルについてサポートします。……THE Body、ボディとお呼びください。現地での経験はありませんが資料は用意しました。お役に立てることもあるかと」

 

 ボディこと氷室セナもまたシャーレに訪れていたため流れで参加することになった人員である。彼女だけは特に他意もなく純粋なボランティアだった。しかしYUZUが作戦行動を行うことを前提とした冷徹な声は、押しに弱い人間だったら黙って流れで出発させていたかもしれない。しかし花岡ユズはいかにも気弱そうな普段の態度に反して嫌なことは嫌とキッパリ言える人間であった。

 

「……」

 

 沈黙が降りる。ユズは考えた。彼女の仲間たちであればどうするか。アリスやモモイであれば一も二もなく走り出すだろう。勇者として世界のために。いかにもアリスの喜びそうなシチュエーション。

 

 モモイは楽しそうだと笑うだろう。そして誰かのためになるならばと迷わない。ミドリはノリ気にはならないかもしれないが、きっと行くだろう。後で先生に褒めてもらうために。ちょっぴり打算的、でも姉と同じく正義感はある。

 

 私は、どうだ。そんな仲間たちのようになりたい。勇気が欲しい。……踏み出すならば、それが勇気になるだろうか。

 

「……分かりました。私にできることがあるのなら」

 

 例えば、アイドルになってステージで踊れ! なんて言われていたらユズは全身全霊で拒否していただろう。しかし事はシンプルに言えば動物を捕まえるだけだ。それはそれで大変だろうし、インドア派の自分に慣れない野外活動は難しいかもしれないとユズは思う。でも一人で地道にやるような作業は得意だし、きっと頑張れる。ユズは自分の意志で戦うことを決めた。

 

「ありがとう、YUZU。ではまず目撃情報のあった227号特別クラスというところに向かってくれ。位置は……ええと、どこだ?」

「ここです。YUZUさんの現在地からかなり北上したところですね。停学処分を受けた生徒が暮らしているそうです。かなりの僻地ですね」

「ああ、ありがとうダージリン。聞いた通りだYUZU。ともかく北へ向かってくれ」

「はい!」

 

 やる気に満ちたユズは気炎を上げ、ぺたぺたぺたーっと駆け出していく。おヒゲペロロ様スーツは高性能であった。

 

 

 

 

 

「あの……」

「はい、なんでしょうYUZUさん。道はあっていますよ。しばらくはその線路沿いに進めば間違いありません。途中で途切れてしまうのでその先は気をつける必要がありますが」

「あっ、はい。わかりましたダージリンさん」

 

 ペタペタじゃりじゃりと足音だけが響く。おヒゲランドを出てからしばし、あっという間に文明の気配がなくなり、森の中をざっくり切り開いた線路の上を進むばかりだ。ミレニアムでは既に初夏の陽気だったが、ここレッドウィンターではまだまだ遅い春、地面は見えているが日陰にはわずかに雪が残っている。ふふ、と笑い声が漏れた。

 

「……? ダージリンさん?」

「いえ、すみません。なんでもないのですが、少し楽しくて」

「楽しい、ですか?」

 

 正体不明の人物の発言に、ちょっぴり不謹慎さを感じるユズ。これは世界を救うための戦いなのだから、真面目にやらなければ。

 

「ほとんど初対面方たちと、秘密のあだ名で呼び合って、スパイ映画のような作戦を実行する。わくわくしませんか?」

「……それは、まあ、はい」

 

 正直な所なんでコードネームで呼び合っているのかとか、連絡が封鎖されているという話なのになんでこんな気軽に通信できるんだろうとか色々あったが、ダージリンの言うように客観的に見れば中々面白い状況かもしれない。ゲームの主人公的と言ってもいい。

 

「時間は限られている、とはいえ作戦の性質上長丁場にならざるを得ません。遥か北の地にお一人というのは寂しくなることもあるでしょう。雑談でも気軽に連絡していただいて構いませんよ。ああ、それと私はレッドウィンター連邦学園の情報についてお伝えできます。外交上必要な情報を概ね把握している、というだけで現地に行かなければ分からないようなことはレッドウィンターの生徒に聞いていただくしかありませんが」

「ありがとうございます、ダージリンさん」

 

 いつもの仲間は居ない。一人ただ走っている。でも頼りになる先輩や、顔も名前もわからないけれど仲間がいる。離れていても、仲間だ。

 

 

 

 

 

「線路の上を進んでいますね、YUZUさん」

 

 やる気を出したもののあまりにも景色が変わらず疲れてきたユズは再び無線連絡をかけていた。今回出たのはザ・ボディことセナである。そのあまりに冷たい声に怯むユズ。何か怒らせてしまったかな、ダージリンさんは雑談でもいいって言ってたけど不真面目だったかな、とか考えているがセナは平常のテンションである。退屈で連絡してきたのだろうと的確に把握し、黙るユズを気にせず話し始める。

 

「スタンドバイミーという古い映画があります。ご存知でしょうか」

「……? いえ、わからないです」

「小さな町に住む4人の少年が、線路を辿って死体を探しに行くという物語です」

「……ホラー映画ですか?」

 

 キヴォトス人にとって死というものは日常から遠く、ほとんどフィクションの中だけに存在するものである。ユズはゲームで倒せるタイプのゾンビとかは得意だったが、どうにもできずにやられてしまうようなホラー映画は嫌いだった。

 

「いえ、青春、友情、冒険……そのあたりが主題でしょうか。死体は一種のマクガフィン*2に過ぎません。ただ、幼い頃にこの映画を見た私にとって死体はとても重要なものになりました」

「青春や友情の象徴……ということでしょうか?」

「はい、まさしく。線路をたどり、死体を探しに行く。そんな冒険をしたいとずっと思っていました。直接でないのは残念ですが、あなたの目を通して共に行かせていただきます。無事に死体が見つかるといいですね」

「は、はい……探してるのは死体じゃないですけど」

 

 ユズはセナを変な人だと思った。だけど最初の印象より冷たい人でも、悪い人でもなさそうだとも思った。

 

 

 

 

 

「装備の調子はどうだろうか、YUZU」

「あ、ウタ……ハリー先輩。装備?」

 

 さらに先へ先へと進んでいるとウタハから無線連絡が入る。普通にバイトをするだけのつもりだったユズは特に特別な装備などは持っていないはずだった。いつもの愛銃と、おやつのお菓子くらいだ。

 

「ああ、そのおヒゲペロロスーツはエンジニア部で作ったものだからね。試作極地対応型パワードスーツだ。インカム部分だけ持っていってくれてもよかったんだが……気に入ってくれたようで嬉しいよ」

「えっ……」

 

 園内放送やスタッフ向けの連絡を受け取ることができる通信機が着ぐるみの頭についており、ウタハがそれを通じて連絡してきたことからユズは着ぐるみを着ていないと通信できないと思っていた。

 

 しかし実は通信機能はペロロスーツのアホ毛部分についており取り外し可能だった。着脱式のアホ毛をもげば着ぐるみでペタペタダッシュなんてアホなことをする必要は一切なかったのだ。

 

「……脱ぎます」

 

 特に見ていた人もいないが、羞恥で顔を赤くしたユズはスーツを脱ごうとする。

 

「いや、待って欲しい。それは本当に高性能なんだ。生体電流で稼働して内部の温度を快適に保ち、動作を強力にサポートする。各種センサーも付いているから任務にも役立つはずだ。市街地では目立ってしょうがないかもしれないが、真っ白な体は雪の残るレッドウィンターでのカモフラージュ効果も非常に高い! なんの不満があるというんだい?」

「見た目です」

 

 端的に告げるユズにウタハは黙った。白いおヒゲの生えたキモい鳥が雪道をペタペタと進む。遅い時間帯ならそのまま都市伝説になりそうな絵面である。しかしユズは思う、ずっと走っている割に疲れていない。

 

 エンジニア部の能力に疑問はない。しょっちゅう変なものも作るが、性能に関しては折り紙付きだ。コレも確かに高性能なのかもしれない。着ぐるみの中という狭くて暗い空間もユズ好みであるし、さらなるセールスポイントを色々とまくし立てるウタハの前で脱ぎ捨てていくというのも薄情だろう。

 

「……わかりました。ひとまず今回のミッション中はこのままで」

「ああ、良かった。じゃあついでなんだが、レッドウィンターには光るキノコがあるらしいんだ。それを食べると生体発電の効率を高めて、バッテリーの回復を早くしてくれるという話があってね。せっかくだから事実か確かめてみてくれないか」

「えぇ……?」

 

 そんなゲームの回復アイテムみたいなことがあるだろうかとユズは訝しんだが、ウタハが言うならそうなのかもしれないと思った。彼女はエンジニア部の部長で、英才集うミレニアムの中でもトップクラスの頭脳の持ち主のはず。

 

「生物発光のエネルギー変換効率の高さはよく知られていますが、それはあくまでタンパク質と酵素による科学反応。電力とは何ら関係ありません。そして野生のキノコの判別は非常に難しく、致命的な毒を持つものも多いため推奨しません」

「あ、やっぱりそうですよね……」

 

 ちょっと騙されかけたユズだがセナにぶった切られたウタハを見て正気に戻る。

 

「……ボディ、科学の発展に犠牲はつきものでね」

「ハリーさんご自身でお試しになるならどうぞ。あなたの死体は私がしかるべき所に運搬しましょう。YUZUさん、そういうことですから、食料の採取は野鳥や野ウサギ、クマなどの狩猟を推奨します。しっかり焼けば寄生虫などの心配もありません」

「栄養バーやお菓子があるので、それを食べますね……」

「……そうですか」

 

 ユズは鳥さんウサギさんクマさんを自分が撃ち殺して食べることを想像して顔を青くし、セナは冒険らしいサバイバルな食事を楽しんでもらえなさそうでちょっとガッカリしていた。ウタハは端末でヒカリダケに似た毒キノコを自分が食べた場合の致死率について計算し始めていた。

 

 

 

 

 

「あ、あの……人がいっぱい居ます」

 

 線路を進み、その先の悪路を進み、そろそろ227号特別クラスまで後少しというところで、ユズは森の中をうろつく多数の人影を見つけた。

 

「ふむ……あれはレッドウィンター連邦学園の事務局保安部、工務部、知識解放戦線。主要な勢力が勢ぞろいしているようですね。仲良く協力、というようなことはないはずですが。ああ、戦闘をはじめましたね。クーデターの頻発する政情不安な自治区ですからそうもなるでしょう」

「となればYUZU、まともに相手をする必要はない。スニーキング・ミッションだ。互いに争うことに夢中な彼女らの横をすり抜けるのは、君なら容易いことだろう」

「……そうですね、こっそり行きます」

 

 そうして小競り合いを続けるレッドウィンター生から隠れて進んでいくユズ。茂みや木の影に隠れ、雪の塊のふりをし、捨てられた人形に見せかけ、わりと節穴な……というよりはツチノコ探しや他勢力との戦闘でキモい鳥なんか気にしてる暇がない彼女たちを切り抜けていく。

 

 しばらく進むと、前方に何人かの生徒が固まっているのが見える。樹上を指さしながら何か喚いている。ユズは不審に思い様子をうかがうと、その生徒たちがバタバタと倒れていく。

 

 何者かに銃撃されたらしい。全員が倒れ、残雪に全ての音が吸い込まれるような静寂の中、細く呪詛のような女の声をユズは確かに聞いた。

 

「ぷ~り~ん~……!」

「!?」

 

 

 

 

 

「YUZUさん、止まってください。今聞こえた声、あれは恐らく227号特別クラスの天見ノドカ……“至高の甘味”ザ・プリン」

「え? あの、ダージリンさん?」

 

 異様な雰囲気にアドバイスを求めようと通信を繋いだユズにナギサがなんだかトチ狂ったことを言い出し困惑するユズ。しかし当然知ってますよねという感じで話を続けられどうしようもない。

 

 

「普段はさほどでもないそうですが、特定の状況下では異常な戦闘力を発揮するレッドウィンターの秘密兵器と聞いています。おそらく今がその状態なのでしょう。迂闊にこの先に足を踏み入れれば、YUZUさんと言えど……」

「えぇ……?」

 

 よく見ればさきほどやられていた生徒たち以外にもあちらこちらに倒れ伏すレッドウィンター生の姿が見える。危険なのは間違いない、間違いないのだろうが……。

 

「私が補足します」

「ボディさん、ザ・プリンの秘密について何かわかるのですか?」

「はい。彼女は恐らく甘味欠乏症を発症しています」

「なんですって!? ……あの!?」

 

 どの? ユズは首を傾げた。

 

「甘味欠乏症はキヴォトスの女学生に特有の疾病であり、長期間好みの菓子類を接種できなかった場合に発症し、凶暴化・特定の菓子類への異常な執着を見せます。彼女は恐らくなんらかの理由でプリンを摂取できない状態が長く続いたのでしょう。しかも慢性化の兆候が見られる。このままでは彼女はプリン・モンスターになってしまいます」

「プリンさえあれば倒すことができる、ということですね。しかしこんな森の中にプリンなんてあるはずが……」

「周囲の死体の荷物を漁ってなんとか材料をかき集めれば……」

「カン○リーマァムの焼きプリン味なら持ってますけど」

 

 おやつとして偶然持っていたお菓子ついて言及すれば、それだとばかりにナギサがパチンと指を鳴らす。長年の練習の後が感じられるやたらといい音だった。

 

 

 

 

 

「ザ・プリ~ンッ!」

プリンプリンプリンプリン……

 

 ザ・プリン、天見ノドカは背後からのグレラン急襲で爆散した。断末魔の叫びがエコーで響き、ちょっと前髪チリチリになって倒れたノドカはそれでも焼きプリン味を手放さなかった。

 

 ダンボールの上に焼きプリン味を置き、物陰に隠れて待つこと十秒、周囲を警戒しながら野生の獣のような仕草でやってきたノドカは獲物を発見すると目を輝かせ、いそいそと座り込むと手を合わせ、個包装を剥がし一口、至福の表情を浮かべたその瞬間を狙い撃った恐るべきエージェント、THE YUZUの仕業であった……。

 

 称賛の声を飛ばす無線の音を聞きながら、ユズは微妙な顔。別に死闘がしたかったわけではなかったが、こんなんでいいのだろうか。にへらと口の端を歪め、なにやらいい夢をみているらしいノドカを置いて先へと進んだ。

 

 

 

 

 

 いよいよ227号特別クラスの旧校舎にたどり着き、流石にペロロ様では目立つのでダンボールに着替えて潜入を開始するユズ。頭にはペロロ様から引っこ抜いたアホ毛通信機をつけている。

 

「YUZU、そこには間宵シグレ大佐という人物がいるはずだ。彼女がツチノコの第一発見者で、最も多くの情報を握っているはずだ。彼女がSNSに投稿した写真はやや不明瞭だが確かにツチノコのようだった。彼女に話を聞くんだ」

「了解です」

 

 廃墟のような隙間風吹きすさぶ旧校舎をダンボールに隠れたまま探索するユズ。すると校舎の一角から甘い匂いが漂ってくる。不審に思いそこに向かえば、なにやら部屋の中からかちゃかちゃと怪しい音が。そっと扉を開け、覗き込む。

 

 そこには赤ら顔でポケットボトルをあおる明らかな酔っ払いが居た。

 

「ようこそ、我が城、我が校舎へ。歓迎しよう、トリニティの工作員」

 

 呆然とするユズにシグレは語る。ダンボールに入ったままであることなどお構いなしだ。

 

「ツチノコを捕獲しに来たんでしょ? ゲヘナの美食研は自治領境で戦闘中、ミレニアムはチェリノ会長と組んだ。ならあとはトリニティだ。戒厳令をすり抜けてここまでくるなんてのは他の中小の学校じゃ無理だろうからね……」

 

 再びボトルをあおり、たらりと口の端を伝うアルコールを腕で拭う。ゲヘナ、ミレニアム……なんのことだ? この作戦には何か自分の知らない裏があるのだろうか。ユズは沈黙したまま、ダンボールの取手の穴からシグレを見つめた。

 

「どうせトリニティらしい上から目線で希少生物を保護してやろうという腹だろ? チェリノ会長はどうせペットの世話なんかできやしない。逃げられてしまうのがオチだ。ふふっ、その見識は正しいよ」

 

 図星を指されたナギサは目を伏せ、素知らぬ顔で紅茶を飲んだ。ウタハはまあそう見えるよねと冷や汗をかく。

 

「ツチノコのことはどうでもいい。そちらに譲ろう。私の目的は、配給を減らされ苦しむ友人にお腹いっぱいプリンを食べさせてやりたいだけだよ。私たちは協力できると思うんだ。まず私たちでチェリノ会長を倒し、レッドウィンターの全権力を掌握し、然る後レッドウィンター生を効率的に動員しツチノコを捕獲する。どうだい?」

 

 ユズは立ち上がり、ダンボールから出た。なんとなく事情が見えてきたからだ。彼女とは相容れない。戦うしかない。

 

「あてが外れたな。ミレニアムの刺客だったか……そちらが会長に与えたおもちゃのせいで、レッドウィンター内部のバランスが崩れた。もはや外部勢力の協力なしに会長を打倒することは不可能だ。そして私のような反抗勢力を潰せば、チェリノ会長を傀儡にした間接統治の完成というわけだ。……でもそうはいかないよ」

「違う、と言っても信じてもらえないですよね」

 

 怒りに震えるシグレはボトルを投げ捨てた。床に叩きつけられ、ガシャリと割れ破片が舞う。

 

「当たり前だよ。そう簡単に思い通りになると思わないで。私は呼気に火がついたその日から、炎を自在に操るファイアーボルト。まずは、ノドカの苦しみを償ってもらおうッ!」

「くっ……!」

 

「YUZUさん、まずはCQCの基本を思い出してください」

 

 可燃物だらけの狭い室内で、お互いグレネードランチャーは使えない。しかしそんなことを気にしていないのか、拳に炎を纏わせ肉弾戦を仕掛けようと素早く突撃するシグレ。しかしユズは目がいい。しっかりと見えている。そして、声に導かれるまま、掴み、極め、投げる。

 

「ぐぅっ! ……まだだっ!」

 

 巧みにフェイントを混ぜ、ユズを翻弄しようとするも惑わされない。全て見えていた。吹き上げる炎のゆらめきの奥にある筋肉の動き、動作の起こり、視線、その真偽まで。幾度もの攻防を経て、決定的な隙をさらしたシグレはぶん投げられる。

 

 壁にずらりと並べられた酒瓶を巻き込み、ガシャンガシャンと盛大に叩き割りながら倒れた。どろりとした液体に沈み、ついにシグレは力尽きる。そして燃える体が浸されたアルコールの池に火がついたかと思うと、教室全体がメラメラと燃えはじめた。

 

「酔っ払いの鎮圧も、救急救命の基本です」

「ありがとう、ボディさん。そしてハリー先輩……。お話を聞かせてもらいますよ」

「うっ、は、はい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 普通に消火器で火を消して、ちょっと焦げたシグレを回収。外に出て一息ついたユズはウタハの尋問をはじめた。思えば最初から怪しかったのだ。なぜレッドウィンターの謎の兵器のことなんか知っていたのか。

 

「私が、おヒゲギアを作ったんだ……」

「……なぜそんな危険な兵器を」

「アーマード○アの新作が発表されて、エンジニア部全員テンションが振り切れてた。ちょうどその時レッドウィンターからカッコイイ乗り物が欲しいと依頼があって、つい」

 

 予算も潤沢だったから、これでもかと高性能にしたんだ。そう供述するウタハにユズは頭を抱えた。

 

「そういうことだったんだ。……なんてアホらしい」

 

 前髪チリチリで、同じくチリチリで眠るノドカを膝枕したシグレがぼやく。そしてスマホを取り出し、一枚の画像を見せる。

 

「こっちもアホらしい話。分かる?」

 

 SNSに投稿されたものよりかなり鮮明な画像。ヘビなんかに詳しくないユズでもなんとなく違和感を覚える。

 

「ただのアミメニシキヘビですね、これは……」

「正解。会長や事務局を動かして隙を作るための、ただのフェイクさ。酒瓶飲み込んだただのヘビ」

 

 資料と見比べたセナが答えを出し、シグレは頷いた。死体はフェイクだったというわけだ。セナと、ついでにナギサはすごくがっかりした。結構本気でツチノコが欲しかったのだ。

 

「ふぅ、まあしかし朗報ではあるね。ミレニアムが本気で会長をバックアップする気がないなら、勝機はある。ともかく、YUZUだっけ、領外まで送っていくよ。抜け道には詳しいんだ。こうなった以上は帰るしかないだろ君は」

「……いえ。おヒゲギアを破壊します」

「なんだって?」

 

 ユズは決然として宣言する。身内の恥は雪がねばならない。普段からアリスが世話になっていることもある。しかしシグレは訝しみ、ウタハは通信で叫ぶ。

 

「ユズ! 無茶を言わないでくれ! C&Cだってきっと苦戦するような代物だぞ! 冷酷な算術使い式高出力プライマルアーマー、マルチプルロケット、30ミリ機関砲2門、超高出力大口径レールカノン! 一人で相手にできるわけがない!」

「でも、弱点はあるんですよね?」

 

 だってそれがロマンだから。技術的な限界ももちろんある。その上小綺麗にまとめるよりは何かを尖らせ何かを削る、そういったものを彼女たちは好んでいた。そしてユズはそれをよく知っている。

 

「ある、あるが……主砲発射時のほんの一瞬、バリアが解けて無防備になる。それだけだ。やはり……」

「タイミングゲーは得意です。フレーム単位の隙間でも、差し込む時があるなら問題ない……です!」

 

 ユズは遠く南の空を睨んだ。折しもそこでは美食研究会がおヒゲギアと対峙し、給食部の車がレールカノンでスクラップにされ撤退するところだった。チェリノはおヒゲギアのてっぺんで高笑いを上げ、イズミはツチノコが食べれなかったことに泣き、フウカは涙も枯れ果てやさぐれていた。

 

「ふふっ、OK YUZU。あれ相手じゃ大した役には立てないだろうけど、弾除けの一人二人いるといないじゃ大違いだ。一緒に行こうじゃないか」

「いいんですか、シグレさん」

「元はと言えば私たちの問題だよ。ほらノドカ、起きて」

 

 ぺしぺしと頬を叩かれうぅんと呻くノドカ。プリン欠乏症がおさまっていないのか指先が震えている。

 

「さあ、会長を倒して、プリンをお腹いっぱい食べよう」

「プリンッ!?」

 

 飛び起きたノドカとともに、3人は歩き出す。鋼の咆哮を上げる狂気の兵器OHIGE GEAR。それを討つために。

 

「頼んだよYUZU、いやUZQueen……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、記録に残ることのないスニーキング・ミッションは終わった。

 

 レッドウィンター連邦学園では謎の巨大な爆発が起こり、しかしまあこんくらいよくあるよね、と誰もがすぐに忘れ去っていった。

 

 シグレとノドカはアフロになって気絶したチェリノを担いで帰り、ボロボロのユズも、同じくボロボロになったおヒゲペロロ様を着てシャーレに帰る。

 

 セナの治療を受け、せめてこれくらいはと、もらえなかったバイト代を立て替えてくれたナギサに礼を言い、すごい勢いで謝るウタハをチョップ一発で許した。仮眠室で一晩ぐっすり眠り、そして翌朝。

 

「あ、ユズ。珍しく出かけてたみたいですけど、どこに行ってたんですか?」

「ちょっとアルバイト。バイト先でプリンいっぱいもらったから、みんなで食べよ」

「わーい、やったー!」

「わ、ほんとにいっぱい。ありがとね、ユズちゃん」

「んー! プリン美味しいです!」

 

 後にユズのこの経験を元にして作ったステルスゲーは、敵兵がガバガバ過ぎるとか、逆にボスが鬼畜すぎるだとか色々言われたものの概ね好評を博したようである。

*1
白石ウタハ。ミレニアムサイエンススクール3年。エンジニア部部長。

*2
物語のキーになるようなもの、だがそのもの自体は特に重要でなく代替可能なもの

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