「なんで、なんで本気で俺たちを殺そうとしなかった!俺たちを殺さなければ自分が消えることなんてお前がいちばんわかってたはずだろ!?」
俺の目の前で大粒の涙を流しながら少年がそう問い詰めてくる。
『そんなの、出来るわけないじゃないか。カルデアは唯一の俺の居場所だった。悠久の時を過ごしてきた俺にとってお前たちは希望だったんだ』
そうだ。ひとりぼっちだった俺に色彩を与えてくれたのも、感情を教えてくれたのも、全部全部ここだった。
でも気づいたんだ。自分のせいでこの世界が、カルデアが君たちが消えてしまうことを。
1番の異分子はゲーティアじゃなくて俺だった。俺が君たちの頑張りを無駄にしてたんだよ。
だから、また君が泣かなくて良いように、大切な人を失わなくて済むように、みんなが無事でいてくれるように方法を模索した。
その最善策がこれだったんだよ。
「なんで、なんでだよ。一緒にレイシフトもしたじゃないか。俺たちのことを家族だって言ってたじゃないか。なんで、なんで何も言ってくれなかったんだよ!」
『済まなかった。だがこれが最善で最高の一手なんだ。これしか無かったんだよ』
「そんな、、こと、、」
『俺は皆が、ここが、お前がこれからも元気に過ごしてくれることを願っている。じゃあな立香』
「まって、待ってくれ!行かないで、まだ何も返せてないのに」
もう喋る気力もない。でも、良かった。やっぱり家族が目の前で死ぬのはきついからなぁ。救えて良かった。
さあ立香、前に進め。困った時は周りに頼れ。俺はいつまでもお前の幸せを願っている。
視界が暗くなっていく中で最後に彼が俺の前で泣き崩れているのが見えた。
風を感じる。まるで高いところから落ちているような、そんな感覚がした。
それもそのはずだ。目を開けてみると確かに俺は空から落ちていたのだから。
いつかのレイシフトを思い出しつつ、冷静に状況を判断する。
魔術回路を起動させ、俺の周りの重力をいじり体を浮かせた。
『確かに死んだはずだか?』
目の前に広がる景色には見覚えが無く、全く知らない土地だとわかる。
『仕方ないな。あまり使いたくないが』
俺は根源からここの情報を取得する。この世界はどうやらあの人理焼却が行われた世界と違うようで、カルデアも魔術協会、ましてや魔術すら存在しない。
ただこの世界独自に魔法という技術が発達しており、それがこの世界の一大産業だ。
ただこの魔法とやらは奇跡よりも科学に似ており、科学で再現出来るものしか自称を引き起こすことができない。
さて、そろそろ集落に着く頃だが。先程根源から情報を取得した際にこの近くの集落についても調べていた。
森が開けると、随分と小綺麗な家が立ち並ぶ集落に出た。奥にはまるで城だと思えるほど大きな屋敷があり、その周りを家で囲っている形だ。地主か何かだろうか。
俺は散策するために道を歩いていると住民と見受けられる人を見つける。ただその人は俺を見つけた途端急いでどこかに電話し始めた。
何か事情があるのだろうか。まあいい、もう少し散策を続けよう。
数分すると数人のガタイのいい男がこちらに向かってくる。
「おい、なぜここにいる?」
『何故とは?ただ迷っただけだか』
「あくまでシラを切るか。まあいい、着いてこい」
そのまま俺は男に囲まれ、あの屋敷に連行された。俺が通されたのは書斎のような部屋で、ここで待つようにと男に言われた。
「あなたが侵入者さん?」
奥の扉から20代くらいの恐ろしい美貌をもつ女が入ってくる。
『侵入者?俺はただ迷い込んだだけなんだが』
「本当かしら?」
『まあ、証明する手立てはないわな』
「あなたをここに送り込んできたのは七草かしら?」
『七草?なんだそれ』
「十師族の七草を知らないわけがないでしょう」
『十師族?』
「あなた本当に言ってるの?」
『まあまず、俺はここの世界の人間じゃないしな』
「はい?」
目の前の女は目を見開くがすぐに冷静さを取り戻す。さすがだ。普通じゃないと思ってたがそういう事か。
「どういうことかしら?」
『言った通りだ。俺はここの世界の人間では無いし、あんたが言っていたように七草も十師族も知らん』
「へぇ、じゃああなたを調べてみたら面白そうね」
女は面白そうに笑うが別に恐怖などは感じない。
『やめておいた方がいいぞ。この世界の魔法程度で傷付けられるほど俺の体はやわでは無いし、まず発動しないのが目に見えてる』
「随分自信があるのね」
『事実だ。ただの科学技術如きが本物の魔法に勝てるほどこの世界は甘くない』
彼女はなにかの機械を操作するが魔法を発動する直前で目に見えないものが霧散した。
『ありがとう四葉真夜。君のその無謀な行動によって君たち四葉の情報は筒抜けとなった。あなたの光の分布を偏らせることで光が100%透過するラインを作り出し、有機・無機や硬度、可塑性、弾力性、耐熱性を問わず対象物に光が通り抜けられる穴を穿つ、通称
それにあなたの過去も含めてな。同情はしないよ。したところでなにか変わるはずもない。あなたが受けた苦しみも未来を閉ざされた絶望も全部全部あなたのものだ。
ただ1つアドバイスするなら、思ったより世界は広い。これに限るな』
俺は手にかけてあった拘束具を引きちぎる。その手を彼女の頭の上にぽんっと置いた。
『世界への復讐?そんなの辞めとけ。何も残らないんだよ。余計に虚しくなるだけだぞ?』
「あなたに、何がわかるんですか?」
『わかるさ。理不尽じゃ言い表せないことなんて死ぬほど、いやそれのせいで死んでるしな』
「どういうことかしら?」
『おいあんたらこの女を少し借りてくぞ。大丈夫、危害を加えたりはしない。俺の全てにかけて誓うよ』
俺は護衛の男たちにそう言って彼女ごと転移した。着いた先は大気圏を超えた先。宇宙だ。
空間魔術を使っているので酸素はある。宇宙自体微弱な重力は存在するので反重力魔術も忘れずにかけてある。
「綺麗、、」
『だろ?お気に入りなんだ』
俺は彼女を抱えたまま目の前に広がる星たちに目を向ける。
『あんたはまだやり直せる。まだ手遅れじゃない』
「なんでそんなこと言えるのかしら?」
『まだ手に残ってるものがあるんだよ。幸せ何てものは簡単で、失ったものばかり数えず手に今あるものを見れば案外楽になるもんさ』
彼女は自分の手を見つめる。
「あなたはなんで見知らぬ私にこんなに優しいんでしょう?」
『まあそうだな。頑張ってるやつが報われないのは悲しいじゃないか。頑張ってきたやつにご褒美がないなんて理不尽だ。
俺理不尽っていう言葉がいちばん嫌いなんだ。』
俺は視線は変えずにそうつぶやく。
「そうですか。恩返しをしたいのですが」
『別にそんなもん必要ないよ。気にすんな』
「いえ、四葉は他人に借りを作りっぱなしにしないので」
『うーん。じゃあ俺の戸籍を作ってくれないか?』
「そんなものでいいんですか?」
『ああ、それで俺は満足だよ』
俺は再び