さて、そんな昔語りもほどほどにして俺のこれからの立ち位置についてだ。
真夜に頼んだ通り、戸籍や個人情報についてはあちらに任せて欲しいとの事だ。
ああそれと、真夜の亡くなった妹の子供がどうやらこの家にいるようで、できる限りでいいから気にかけて欲しいと真夜から頼まれている。
と、前から高校生くらいの男が歩いてくるのが見える。真夜から事前に教わっていた容姿とそっくりなので彼が司波達也なのだろう。
『少しいいか?』
「はい、なんでしょうか?」
そこで初めて視線が合うと俺は彼に強い疑念を抱かざるを得なかった。
『君が司波達也君であっているね?』
「ええ、確かに私は司波達也ですが」
『コーヒーは飲めるかい?』
「ええ、飲むことはできます」
『じゃあ少し、遠くへ行こうか』
俺は指を鳴らして空間と空間を繋げる。
繋げた先は上空8849m。エベレストの山頂だ。山頂の真上に魔術で地面を創り、椅子とテーブルを置く。
『座るといい』
司波達也は一瞬動揺するも、瞬時に冷静さを取り戻し、状況を分析し始めた。
『別に取って食おうって訳じゃない。ただ話がしたかっただけだよ』
俺は亜空間からコーヒーが入った、コーヒーサーバーを取りだしステンレスのカップについでいく。
片方を司波達也の方に差し出して、1口コーヒーを含んだ。
俺がコーヒーを飲んだのを確認してから彼は飲み出す。すると、驚いた顔をしてコーヒーを見つめていた。
「美味いな」
『それは良かった。丁寧に淹れているからな』
「なぜ私を『喋り方』」
『君の喋り方、本当はそんな堅苦しい感じでは無いのだろう?』
「まあ、それはそうですが」
『なら本来の形に戻すといい。俺と君は大して歳も離れていないしね』
「そうか、ならそうさせてもらおう」
『それで結構だ』
しばし無言の時間が流れる。司波達也に関してはちょくちょくこっちを観察しているが俺は自分の淹れたコーヒーを楽しんでいる。
そして、この時間に耐えきれなくなったのか司波達也はこちらに質問をしてきた。
「俺をなんでこんなところに呼んだんだ?まさかコーヒーを飲みたかったからって訳じゃないだろ?」
『真夜に言われたんだ。司波達也と司波深雪をよろしく頼むとね』
その言葉に少し驚くがすぐに冷静さを取り戻し質問をしてくる。
「叔母様が。本当なのか?」
『ああ、にわかには信じられないか?』
「まあな」
『そうか。それで司波達也、君は司波深雪を愛しているね?』
「ああ、当たり前だ」
『そうか、逆に君にはそれしかないのか?』
俺のその言葉に司波達也は今度こそ動揺を隠しきれなかった。
「どういう意味だ?」
『そのままの意味だよ。君には兄弟愛以外存在していないのか?とね。君の行動原理、存在理由それの全てに司波深雪が位置づけられていることは君の目を見たらわかる』
「だからなんなんだ?」
『端的に言うと君は司波深雪以外興味が無いんだ。真夜もこの屋敷にいる執事やメイドもましてや自分さえも死んでも別にどうでもいい。司波深雪が生きて幸せにしてくれているのならね』
「確かに俺は深雪の為なら死んでもいいと思っているがそれは悪なのか?」
『正義か悪か。そんな話をしているんじゃないんだ。前提を履き違えているんだよ君は』
「どういうことだ?」
『君が司波深雪のために死んだとして、それで司波深雪は幸せにはならない。絶対にだ』
「なぜそう言い切れる?」
『司波深雪は君のことを愛している。それも君が司波深雪を思う気持ちと同じくらいに。そんな彼女が君が自分の為に死んだとして嬉しいと思うだろうか?
いや、思わない。絶対に。司波深雪は君が、司波達也が幸せにならないと幸せにはならないんだ』
「何故だ?」
『君を愛しているからだよ。もし君が彼女を本当の意味で幸せにしたいのなら、まずは君が幸せを見つけることだ』
彼は俺の言葉をまだ理解できないだろう。それでいい。でも少しでも今の言葉が頭に残っていたのなら、君の世界は広がる。
だって俺もそうだったのだから。