【完結】異世界TS少女はVtuberになってスローライフを配信したい   作:水品 奏多

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第一話 【初配信】はじめまして! 異世界で防人やってます!【新人VTuber】

 ざあ、ざあと静かに波打つ夜の海岸。

 そこに打ち上げられた黒い箱を見た瞬間、私は何故だか理解した。

 

 この機械の用途。そして私が()だったことを。

 

 堰を切ったように流れ込んでくる昔の記憶。私ではない過去。

 ああ、そうだ。俺は立派な日本男児として生まれたんだ。確か配信者として活動していてーー

 

 ……何だっけ、うまく思い出せない。

 

「どうしたんだ、カタリナ? 調子でも悪い?」

 

「……ううん、何でもないよ、お父さん」

 

 心配そうにのぞき込んできたのは、そう、この世界のお父さんだ。

 地球と隣り合う異世界、リリストアルト。私はそこの防人(さきもり)、カタリナ・フロムとして生を受けた。父の名前はマルク、母の名前はエレーヌ。

 うん大丈夫。記憶はなくなっていないし、自分が変わってしまった感覚もない。思い出しただけだ。

 

 多分私は異世界転生者ってやつなんだろう。

 神様的存在との遭遇もチートスキルとかなかったと思うけど、まあいいや。

 

 剣も魔法もあるファンタジー世界、目の前に転がる配信機材。そしてーー超絶可愛い私。

 

 胸の奥の誰かが叫んでいた。

 これは伸びる。それはもう大注目間違いなしだ、と。

 

 拝啓 前世の俺。

 あなたがどんな人生を送ったかはよく分かりません。

 それでも女として二度目の人生を許されたからにはーー

 

「ねえお父さん。

 私、配信者になりたいっ」

 

「へ?」

 

 激情の赴くまま、小学生みたいなことを言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 202×年、3月初旬。

 空が茜色に染まる頃、某大手動画投稿サイトに一つの生放送告知がされた。

 

 チャンネルの名前は「異世界系VTuber カタリナ・フロム」

 生放送のタイトルは「【初配信】はじめまして! 異世界で防人やってます!【新人VTuber】」

 

 SNSアカウントも存在せず、どこの企業にも属していない彼女の配信は人知れず電子の海に消えるはずだった。

 しかし、「異世界と現実を繋いだ生放送」という唯一無二の特性から次第にネットの注目を集めていくことになる。

 

 手始めはライブ配信の待機画面だった。

 どこかの森を背景に金髪の少女が控えめな笑みを浮かべるイラスト。まるで異世界の一風景を切り取ったかのようなそれに、住民たちが集まってくる。

 

【わこつー】

【ばんわー】

【イラストに惹かれて見に来たけど、、誰これ?】

【さあ?】

【めっちゃ綺麗な3Dイラストだよな】

【どっかの箱所属とか?】

【調べたけど、どこの事務所も告知してなかった。SNSアカウントもないし】

【ま? 個人でこのクオリティ?】

【お、はじまた】

 

 切り替わる出力、一面に広がるは茜色の空。

 手ブレで揺れる中、高く透き通った声が響く。

 

「現実と空想の狭間にある世界、リリストアルト。

 そんな不思議な世界に絶世の美女たる私、カタリナ・フロムが生まれました」

 

【エッッ】

【多分マイクに口が近すぎて、音割れてるw】

【これは良いぱちぱちですねえ】

 

「……こほん。現実と空想の狭間にある世界、リリストアルト。

 そんな不思議な世界に絶世の美女たる私、カタリナ・フロムが生まれました」

 

【やり直すんかいw】

【絶世の美女(ここ重要)】

【これは大型新人の予感】

 

「自然と戯れながら14歳になった私は、初めてこの配信機材と出会い、あなたたちが住む向こう側へと繋がる方法を知りました。

 そして色々と調べていくうちに思ったわけです。

 あれ、私がVTuberになれば天下とれるんじゃね? と」

 

【あー、そういう感じね。なる】

【ここら辺の説明もテンプレになったよなー】

 

「ふっふ。当然こんな話、信じませんよね。ですから一番異世界らしいことを最初に紹介しようと思ったんです。

 まずはこの空をご賞味ください」

 

 その言葉と共に画角が動き、空に浮かぶ白色の何かが映る。

 満月に似た形と大きさの何か。それを一言で表すならーー

 

【月、、じゃないな】

【巨大な歯車?】

 

「そう、地球の魂の生まれ変わりを司る輪廻の歯車です。

 私たち流者(ながれもの)はみんなそこから生まれてきました」

 

【???】

【はえー、変わった設定やな】

【独自路線系か。おい、その先は(設定を守るのが)地獄だぞ?】

 

「……それでは今回の真骨頂を見ていただきましょうか」

 

 不満そうに声のトーンを落とした彼女が今度は別の風景を移す。

 

 水平線に沈みゆく太陽。

 オレンジ色の光が海にきらきらと反射して、幻想的な光景を編み出していた。

 

【うーん、綺麗な夕日】

【何が始まるんです?】

【みんな普通にスルーしてるけど、さっきのどういうこと? あんな光景、現実じゃありえないよね?】

【多分事前にCGとかで作っておいた映像で世界観を説明しようとしてるんだと思われる】

【なる。めっちゃ手が込んでるのね】

 

 暫くすると、海と空の境界が陽炎のように揺らめき始まる。

 

【お、何か来た】

【黒い、、靄?】

【何かこんな感じの怪談があったような……】

 

「あれが”穢れ”。夕暮れ時に流れてやってくる悪いものです。

 そして私たち防人(さきもり)の仕事は、それを浄化すること」

 

 画角が動き、今度は海辺に佇む二人の男女の後ろ姿が映る。

 華やかな和服に身を包んだ彼ら。その体が白く発光すると同時、遠く彼方の穢れが群れる場所に巨大な光の柱が落ちる。

 

【何か白いビーム出たあああ】

【天光 満つる処に 我は在り……】

【はえー、すっごい映像】

【あれ、まさかこれ新作アニメのPV?】

【↑どゆこと?】

【アニメのキャラがVTuberになって番宣する手法があるんよ。

 見た感じかなり金がかかってそうで、しかも大手所属じゃないなら、そういうことかなーって】

 

 細かな光の粒まで再現された異常なグラフィックに、視聴者たちの困惑が広がる。

 その様子を見かねたのか、少女のかすかな吐息が入った。

 

「全く、皆さんかけらも信じてませんね。

 それではこれでどうでしょう?」

 

 切り替わるカメラ。

 少女の精巧な顔が画面いっばいに広がった。透き通るような青色の瞳がぱちくりと瞬く。

 

【!?】

【ガチ恋距離キター!!】

 

「やべ、近すぎたっ……こんな感じ、ですかね?

 どうも、皆さんの美少女、カタリナ・フロムです」

 

 逆光の中、浜辺の二人が後ろに収まる画角で不愛想に手を上げる少女。

 空に光が走る度、その端正な顔が照らしだされた。

 

【かわeeeeeee】

【?? 普通に口とか違和感なく動いてるけど、全部CG?】

【お、恐らく】

【ま? 某事務所の3Dモデルは軽く超えてないか?】

【というか現実と見分けがつかん。後ろの映像もモニターに映ってるようには見えないし】

 

「だから言ってるじゃないですか、ここは異世界だって。

 ともかく、こんな感じで私たちは日々仕事に励んでいるわけです」

 

 眉を吊り上げ、不敵に微笑む少女。

 その雰囲気に圧倒されて、コメントは現実逃避の方向へと進んでいく。

 

【……ま、まあ最先端の技術なら、これくらい簡単なんやろ。知らんけど】

【受け入れるしか、ないかあ】

【可愛いは正義!! 

 それで、カタリナちゃんは何もやらなくていいの?】

 

「いえ、私も手伝わないとです。わりと本気で危険ですので、この配信もそろそろ落としますね。

 見にきてくれた人、本当にありがとうございましたー」

 

【おつでしたー】

【88888】

【はっや。テストも兼ねてって感じなんかな】

【次の配信は?】

 

「今後の予定なんかはチャンネルのコミュニティ欄でお知らせしようと思っています。SNSとか他のサイトは色々あって使えないので」

 

【りょ】

【チャンネル登録、高評価よろしくお願いしますってやつやな】

 

「お、××さん良いこといいますね。

 少しでも私が可愛いと思ったら、チャンネル登録、高評価お願いします。

 それでは。皆さんに素敵な幻想がありますように」

 

 ぱたぱたと手を振って、生放送を終了する少女ーー異世界の防人、カタリナ・フロム。

 初配信から強烈なインパクトを残した彼女の伝説はまだ始まったばかりである。

 

 






はじめましての方ははじめまして。旧作を見ていただいた方はお久しぶりです。
TSに脳をやられた男、水品奏多です。
今回は10万文字程度の分量で、ほのぼの路線(シリアス成分はかなり薄めました)になる予定です。どうぞごゆりとお楽しみください。


……おにまいの二期、早く来ないかなあ。
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