【完結】異世界TS少女はVtuberになってスローライフを配信したい   作:水品 奏多

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 暫く(5~6話)鬱展開が続きます、苦手な方はご注意ください。
 また一部現実の出来事を想起させる描写がございますが、本作はフィクションです。実在の団体・人物・サイトなどとは一切関係ありません。


第三十話 異世界リリストアルト

「あら、今日は学校に行かないの?」

 

「う、うん。ちょっと体調が悪くて……」

 

 上場企業に勤める父親、そして専業主婦として家事全般を担う母親。

 そんなごく一般的な家庭に生まれた()の人生が狂いだしたのは、中学生に上がった頃だった。

 きっかけは授業が嫌だとかそんな些細な事だったと思う。

 でも当時の俺はどうしようと本気で悩み、ずる休み(最悪な選択)をしてしった。人間、一度堕落してしまえば元に戻るのは難しい。

 一日、一週間、一か月と不登校期間はずるずると伸びて、やがてどうやって自分が学校に行っていったかすら忘れてしまった。

 

「ね、ねえ本当に危ないんじゃないかしら、これ。

 もしニュースみたいになったら……」

 

「……まあ好きにやらせればいいんじゃないか?  

 あいつだっていつかは理解するだろ。それと来週の土曜日だがーー」

 

 俺に苛めなど何か明確な理由があるわけではないのだ。事情を聴きに来た担任の先生にも、ただ「何となく行きたくなくて」とか「行けたら行きます」とかそんな言い訳を返すばかり。

 そんな俺の態度に困り果てたのか、いや実際どうすればいいかわからなかったのだろう。最初の方は甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた母親も、次第にパートなどで家を空けるようになった。

 

 年端もいかない子供に与えられた、消費つくせないほど膨大な時間。

 俺はその大半をリビングに設置された一台のパソコンの中で過ごしていた。

 ここじゃない何処か、顔も知らない誰かと繋がれるのは思いのほか楽しかった。その中には俺みたいな境遇の大人たちは沢山いたし、時たま同年代の子たちを見かけることもあったから。

 

「配信者……?」

 

 そんな折、一つのライブ配信サイトが人気を博してきた。

 視聴者との相互コミュニケーションが売りの一つだったそこでは、何十人という有名配信者たちが日夜生放送を繰り広げていた。

 凸待ち配信、歌ってみた、ゲーム配信。時にはリスナーたちや同業者と喧嘩したりながら、画面の向こうで楽しそうに話す彼らの姿はすごく輝いて見えた。特にやるべきこともできず、ただ無為な時間を過ごしていた俺にとっては。

 

 多分俺は何者かになりたかったのだ。

 引きこもりの自分から抜け出して、彼らのように周りに必要とされる存在になりたかった。そうしないと、ここ数年でわずかに残されたちっぽけな自尊心すら守れないから。

 

 だから、貯めていたお年玉をはたいて機材をそろえ、配信者になったのだ。

 

「えー、と俺の名前は××。

 きょ、今日はたまたま学校に行っていないから、暇潰しに配信でもしてみようかと思ったんだ」

 

 今思い返しても最初の配信は酷いものだった。どもりまくりで、無言多し。雑談配信と言いながら大した雑談も出来ていない。

 ただ当時は新規配信者というだけで注目を浴びる時代で、二回三回と繰り返せば固定ファンが何人かついてくれるようになった。

 

「うわあ。△△さん、それは相手の方が明らかに悪いわ。

 やっぱり社会はクソだよな。引きこもりの俺こそ最強よ」

 

【××、あんがとな ちょっと元気出たわ】

【△△さんはそれでええんか、、、?】

【現役中学生のありがたいお言葉だぞ、聞けよおら】

【社会云々の前に、お前はまず学校行けよww】

 

「うっせ。俺みたいな超天才にも出来ることが出来ないことがあるんだよ」

 

 イメージは昔の俺、根拠のない全能感に溢れていた小学生のころの自分。

 当時はまだネットが一般には普及していなかったゆえに、俺みたいな子供配信者は珍しかったんだろう。みんなの悩みに乗っているだけだけで、賑やかな時間が過ごせたものだ。

 

【お、○○さんも配信してるじゃん。ちょっと凸ってみてよ】

【いいね、楽しみ】

 

 それが崩れ出したのは、そんなコメントにのせられて、とある先輩配信者に電凸(配信中に電話を掛ける事)してからだった。

 

「あ、あー。いずれは○○さんを越える男だから、俺は。

 そこんとこよろしくぅ」

 

「ぶふっ。おう、そうか頑張れよ~」

 

【うわ、きっつ】

【なんだこいつ笑】

【○○、イタすぎて笑っちゃってるじゃんww】

【よろしくぅ!ww】

 

 当然配信者が違えば、ファン層も違う。

 そんなこともわからなかった俺は、いつもの通りのキャラでいってしまってーーそしてネットの玩具になった。

 

【○○から来ました~】

【ねえねえ、××中学校の人って本当なの~?w】

【あれやってよ、よろしくぅってやつ笑笑】 

 

 今までのいじりとは違う純粋な悪意に染め上げられるコメント欄。どこから広まったのか、学校や両親の勤め先など晒される個人情報。

 

 そこからはあまり思い出したくもない。

 アカウントを消してもネット上に広がった情報は消えない。まだそこら辺の基準が曖昧だったこともあるんだろう。粘着行為は次第にエスカレートし、しまいには自宅などにまで押しかけられるようになった。

 周囲や近所に広まっていく根も葉もない噂、ネット文化に無理解な両親、当時異常なまでに強かった「引きこもり」に対する風当たり。

 それら全てが合わさり、世界全てが敵に回ったかのような感覚に襲われて、俺は首を、首をーー

 

 

 

 

 

 

「っ」

 

 目が覚める。

 視界に広がるのは、朝日に照らしだされたマハタ様の部屋。

 

「あ、ああっ」

 

 胸の奥にこびりついた絶望を剥がすように、嗚咽を漏らす。背中が、気色の悪い汗でびっしょりと濡れていた。

 

 酷い、夢だった。最悪な人生だった。

 ……いや、本当にあれは夢だったのか?

 日本人として生まれた俺が、些細な理由で不登校になって、それから配信者として活動してーー

 

「ふむ。やはり二人とも思い出したようじゃな」

 

 見れば部屋の中には私とマハタ様、そしてアネットがいた。

 タニア達の布団は片付けられていのを見るに、他の二人はすでに起きているらしい。と、それはともかくだ。

 

「マハタさま、どういうことですか? 何か、知っているんですか?」

 

「……その前に顔でも洗ってくるとよい、お主ら二人とも酷い表情じゃぞ?

 なに、儂は逃げも隠れもせんよ」

 

 マハタ様の提案にゆっくりと頷き、家の外に設けられた井戸で顔を洗う。

 ついてきたアネットも涙目で黙るばかりで、二人の間に会話らしい会話はなかった。普段を考えれば俺ーーじゃない、私の様子がおかしければすぐにつっついてくるだろうに、本当に珍しい。

 でも……よかった。正直、普段通りにふるまえる余裕なんて全然なかったから。

 

 私達が二人でマハタ様の前に座ると、彼女は「ふむ、どこから話そうか」と居住まいをただした。

 

「まずはお主たちに嘘をついていたことを詫びねばならんな。

 稀人はただ人間の姿を模しただけの流者、といったな。あれは間違いじゃ。

 稀人とは客人(まれびと)のこと。輪廻の歯車から零れ落ちた人間の魂が姿を変えて転生した存在、それが稀人じゃ。

 そしてお主たち稀人がここを訪れる目的はただ一つ、魂の穢れを癒すためじゃ。ここでの日々は全てそのために存在している。

 特にカタリナには身に覚えがあるのではないか?」

 

「……そういう、ことですか」

 

『ねえお父さん。

 私、配信者になりたいっ』

 

 マハタ様の話は衝撃的ではあるものの、意味不明というわけではない。

 

 温かい家族、そして摩訶不思議なタブレット、そして今までの配信活動。

 それら全ては穢れーーつまりは前世の後悔や絶望を解消させるものだった。

 そう考えれば今までのほとんどに納得がいくし、稀人それ自体が私と同じ転生者かもしれない、という部分まではある程度予想していたのだ。

 

 何とも言えない感傷に浸る中、マハタ様は一瞬だけ息を吐いて続ける。

 

「さて、ここからが本題じゃ。

 また稀人を語るのにもう一つ大事な要素として、依代という流者がある。カタリナにとってのタブレット、アネットにとってのキーホルダーじゃな。えてしてそれらは前世と深く結びつきのある形で現れるらしい。

 稀人と同時に流れてくるのか、あるいは数年たってからか。それは当人によってまちまちじゃ。じゃが、いずれにせよそれを受け取って一か月ほどが経つとその稀人には二つの選択が与えられる。

 輪廻の輪に戻るか、それともここーーリリストアルトに骨をうずめるか、じゃ」

 

「……」

 

「ただし後者には一つだけ条件がある。

 ここを選んだ時点でその魂は輪廻の歯車からは完全に外れ、死した後はリリストアルト存続のためのエネルギーとなる。

 つまりもう二度と地球の地を踏めなくなるのじゃ」

 

『このまま成人化が進めば、カタリナは近いうちに選択を迫られることになる。

 永遠の模索か、刹那の安寧か、自分で決めることになるのよ』

 

 蘇るのはアネットをお披露目した日のタニアの言葉。

 

 輪廻の歯車に戻るか、リリストアルトに残るか。

 なるほど、そういう意味だったんだ。

 

「ここまでは良いか? 

 では問おう。お主たちはどうしたい?」

 

 どこか寂しげな色を含んだ視線が私たちを射抜いた。

 

 

 

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