【完結】異世界TS少女はVtuberになってスローライフを配信したい   作:水品 奏多

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 ごめんなさい、遅れました。
 


エピローグ 或る少女の物語

「ねえ、あなたのお名前はなんて言うの?」

 

 それはまだ稀人の家が街中にあった頃の話。少女がナキア村の村長になって「マハタ様」と呼ばれる前の記憶。

 少女が暮らすナキア村に一人の稀人がやってきた。

 彼女の名前はリーズ。4歳前後の見た目をした彼女は、防人を司るフロム家に引き取られ、すぐにその才覚を発揮することになった。

 明朗快活な笑顔、例え危険があろうと迷わず突っ込む無鉄砲さ、相手がどんな姿や態度であろうと話しかける人懐っこい性格。そんな彼女に村の住民たちは瞬く間に虜となり、村長の娘として育てられていた少女もまた彼女に惹かれていった。

 

「リーズは……ずっとここにいるんだよね?

 わたしの前からいなくなったり、しないよね?」

 

「あ、あはは。

 どうしよっかなあ。勿論マハタちゃんとの日々も吝かじゃないんだけど……」

 

 だから彼女に稀人の真実が告げられて尚、そう願ってしまった。向こうに待たせている人がいると聞いていたのに、だ。

 

 自身が最悪な過ちを犯したのだ、と気付いたのは帰還の儀を行うはずだった彼女が当日の朝に意を翻したからだった。

 「やっぱり私はこっちの方が大事みたい」と恥ずかしそうに笑うリーズ。

 少女はそんな彼女の顔をまともに見ることが出来なかった。罪悪感に襲われて、どんな態度で接すればいいかわからなくて、家に引きこもるようになった。

 

 それから何十年も経つとリーズも亡くなり、ナキア村の村長を受け継いだ少女は稀人と村人たちの生活を出来るだけ切り離すことを決めた。

 三役の住居を村の外れまで移動し、稀人は獣に襲われやすいという迷信を流して、子供の稀人が村民たちとあまり交流を持てないようにした。子供の稀人と村人たちとの時間が重なるのは祭りや成人間近、または彼ら自身が望んだ時くらい。

 それもこれも全ては稀人たちのためーー彼らの選択に少女たちの存在が極力影響を与えないようにするため、だった。

 

 少女が村の形を変えてからは目に見えて成人になる稀人が減った。度々大陸から人員を補充する必要性も出来てきた。

 ただそれでも少女は構わなかった。もう二度とあんな悲劇を繰り返したくはなかったから。

 

 

「おおお、ケモミミ&ケモしっぽキターーーッ」

 

「こら、女の子がそんな言葉遣いしないのっ」

 

 そんな時だった、今代の防人が一人の少女を連れてきたのは。

 彼女の名前はカタリナ・フロム。男っぽい口調で話しては母親にどやされるーーリーズの生き写しのような女の子だった。

 

「えいっ」

 

「っ!?」

 

 初対面でいきなりこっちの尻尾を触ってきたカタリナ。その表情がどこまでも生き生きとしていて、その爛々と輝く瞳がリーズを思い起こさせて、つい少女は彼女を吹き飛ばしてしまった。

 それからはカタリナにかき回されてばっかりだった。

 再三の注意に関わらず夜の森に脱走したり、会うたびに人懐っこい笑みで近づいくるカタリナ。彼女に手を焼く度、どこか楽んでいる自分もいたりしてーー

 

「あいつら、ちゃんと帰られましたかね?」

 

「……当たり前じゃろ。

 帰還の儀はそう難しいものではない。のじゃ、」

 

 ーーでもそれも今日ですべて終わりだ。

 花火師の言葉に頷いて、マハタは桜の木の幹に埋まったリーズの墓へと目を向けた。

 

 

『私、死んだらここに埋まりたいなあ。

 ほら、何百年も生きる木になれば村のみんなを守れる気がするから』

 

『……』

 

 

 他でもない彼女の願いによって作られたそれ。

 遥か昔に交わした約束を、リーズと過ごしたささやかな記憶を思い出して、マハタは小さく息を吐いた。

 

 やはり、だ。自分は間違ってなかった。今度は間違えなかった。

 胸の中に安堵と寂寥感、そして大きな罪悪感が広がっていく。

 

 やがて、儀式を遂行していたエレーヌたちが返ってきた。

 それもここにいないはずの少女を伴って。

 

「ほら、カタリナ。みんなにあいさつしなさい」

 

「え、え~と……みなさんさっきぶりです。

 リリストアルト一の美少女防人、カタリナ・フロム、戻ってまいりましたっ。これからもどうぞよろしくです」

 

 泣きはらした目のエレーヌに促され、ぎこちない敬礼をかますカタリナ。

 その表情があまりにいつも通りで、目の前の光景が信じられなくて、マハタは勢いよく彼女に詰め寄った。

 

「な、んでっ、ここにいるのじゃっ。

 だってお主、地球に帰るんじゃとそう言ってっーー」

 

「いやあ、ちょっと私のファンたちに予想外の方向からぶん殴られまして……。

 うん、よく考えたら折角超絶可愛い私としてファンタジー世界にいるんですから、もっと有効活用しない損ですよねっ」

 

「そん、なことで……?

 わたしが、今まで何のためにここまでやってきたと思ってるっ。わたしはただ、お前たちがちゃんと自分の意思で考えられるようにってっ」

 

 零れ落ちる後悔と慟哭。

 感情のままに彼女の胸を力なく叩けば、カタリナはマハタの手を優しく包み込んできた。

 

「……な、なんでマハタ様が泣いているかは分からないですけど、少なくとも私は自分の意思でここに立っていますよ?

 確かにあの花火とかリスナーからの贈り物とかはグッと来ました。

 でも結局、今までの考えを捨ててこっちを選んだのは自分自身なんですよ。彼らの期待に応えたいという感情を優先したのは他でもないこの私です」

 

 

『どうしよ。村長さん。

 多分マハタちゃん、自分のせいで私が残っちゃってすっごい気に病んでるよね……?』

 

『ふ。大丈夫じゃろう。

 あやつだっていつまでも子供ではないのだ、いつかきっと理解するさ。人心はそう単純なものではないと。

 もし相手に自分の言葉が届いたのだとしたら、それは相手が聞きたいと思ったからなのじゃ。相手がその思いに応えたいと思ったからじゃ。

 であるならば感謝こそすれ、どこに悔やむ道理があろうか? ……そもそもお主がこちらを選んだのは全く別の理由じゃしの』

 

 

 脳裏によみがえる、錆びついていた記憶の断片。

 

 ああ、どうしてそんな大事なことを忘れていたんだろう。後悔に痛む胸を押さえて、空を見上げる。

 その時不意に、桜の木の下に立つ彼女の姿を見た気がした。

 

 数十年前と変わらない、悪戯っぽい笑みを浮かべたリーズ。

 成人になった稀人の魂は、リリストアルトを構成する要素となる。

 であるならば、リーズは本当に桜の木になってマハタたちを今も見守っていたりするのだろうか?

 なんて、流石に都合がよすぎるか。

 

 涙に滲んだ視界のまま、少女は晴れ晴れとした表情で辺りを見渡した。

 

「カタリナが見事成人になった祝いじゃ。

 ほらお主ら酒じゃ、酒を飲めっ」

 

 

 桜色に彩られたナキア村。

 一人の少女を迎えた彼女たちの日々はどこまでも続いていった。

 

 




 これにて本当におしまいとなります。
 最後までお付きいただき、ありがとうございました!
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