ある日のトレセン学園。この日は上級生と新入生との交流会が行われていた。ただ、上級生は6年生であり、新入生たちは緊張していた。
「えー…。君たちも事前に話があったと思うが、今日は6年生と交流を深めてもらう」
黒の短髪で無精ひげを生やした40代の男性トレーナー・荒垣大助が新入生に説明をしていたが、ウマ娘達は大助を見て緊張していた。大助も緊張している事を察していた。
「まあ、いきなり最高学年かつ最前線のウマ娘と話をしろなんて言われても緊張するだろうが、これからトレセン学園の生徒としてやっていくなら、こういった場にも慣れていく必要がある」
「それもそうだけど、トレーナーにも緊張してるんじゃない?」
「横槍を入れるんじゃねぇ」
6年生の一人であるミスターシービーが茶々を入れると、大助が少し苛立ったようにツッコミを入れた。
「もっとスマイルよ! スマイル!」
「こういう時は踊るのが一番よ!」
「思い思いに喋ってんじゃねぇ!」
同じく6年生のマルゼンスキーとシーキングザパールが茶々を入れると大助がまたツッコミを入れて、新入生たちがポカンとしていた。
「まあ、荒垣トレーナーも言っていたが、緊張するのは最初だけだ。そこを乗り越えれば恐れるものはない。教学相長、自由に交流を試みてくれ」
と、ルドルフが上手い事纏めて、交流会が始まった。
***
「それじゃお近づきのしるしに、近場のトレンディ―スポットを教えてあげるわ! 知りたい子はこの指と~まれ!」
マルゼンスキーが早速新入生たちに対して話しかけると、少しキョトンとしていた。
「あ…。交流会なのでレースや学校以外の事でも大丈夫ですよ!」
と、金髪の女子生徒が話しかけた。彼女は荒垣紬という少女で大助の娘である。
「そ、そうなんですか…。そ、それじゃ教えてください! マルゼン先輩!!」
そう言って後輩たちがマルゼンスキーの元に集まると、別の後輩たちがミスターシービーの方を向いた。
「それなら私はシービー先輩とお話したい!」
「シービーせんぱーい!」
と、シービーの元に集まってきて、打ち解けていった。
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「あの時のシービー先輩のレースを見ていつか一緒に走ってみたいって思ったんです!」
「へぇ…」
後輩の声を聴いたシービーは返事をした。
「それじゃ、今から早速走ろうか」
「え?」
シービーの言葉に話しかけた後輩は勿論、他の後輩たちもキョトンとしていた。大助やルドルフもまたシービーが何かしようとしていると判断して、彼女の方を向く。
「今からですか? でも、まだ先輩と走れる程じゃ…」
後輩の言葉にシービーはやれやれと言わんばかりに一息ついた。
「そうだろうけど、チャンスを見送るなんて感心しないな。二度目なんて必ずあるとは限らないよ」
「そ、そうですよね…」
シービーに注意されると後輩は俯いて落ち込んだ。
「そうでしょ? ミスター」
「オレに話を振るのかよ…」
「トレセン学園の現No.1トレーナーからも言ってやってよ。これからの為にもさ」
シービーの言葉に大助がめんどくさそうに頭を掻きむしったが、ごねると秘書のたづなにも小言を言われそうだったので、後輩たちに対してアドバイスをする事にした。
「まあ、確かにシービーの言う通りだ。無理にとは言わねぇが、必ず二度目があるとは限らねぇ。ましてや『あの時こうしてればよかった』なんて事になっても、どうする事も出来ない。ましてや…」
「?」
大助が冷徹な目で後輩たちを見つめていた。
「これから君たちはレースに出ることになるが、その中にはどう考えても勝てない奴が現れる。今のシービー達みたいな化物がな」
「化物って失礼ね」
大助の『化物』という言葉にマルゼンスキーが頬を膨らましながら言うが大助は無視した。
「勿論そんな奴に負ければ大抵は心が折れて、レースに対して恐怖を抱くようになる。そういうウマ娘をずっと見てる」
大助が重い話をし始めた事でザパールやマルゼンが困惑し始めて、止めようとしたがシービーとルドルフが待ったをかけた。
「君たちがこのトレセン学園やトゥインクル・シリーズに対してどういう目的があって、何がしたいかは分からないがこれだけは言っておく」
「!」
大助が新入生のウマ娘達を見つめる。
「出来ないからやりませんは通用しねぇ。レースに出る以上、格上と戦う事も避けて通れない。新入生とはいえ、この上級生たちももう既に『ライバル』なんだ」
ライバルという言葉に新入生たちの目が大きく開いた。
「トレーナーとしても、出来ないからやらないってのはやる気がないようにしか見えないし、やる気のない奴は成長しないんだよ。脳や体が教えた事を覚えようとしないからな。はっきり言って時間の無駄なんだよ。そんな奴はいらない」
大助の言葉に空気が静まり返った。
「ありがとうミスター。もう十分だよ。さて、どうする?」
「!」
シービーが後輩のウマ娘に話しかけた。
「無理強いをしたらパワハラになるからしないけど」
シービーの問いに後輩ウマ娘は迷ったが、意を決した。
「お願いします!!」
「!」
後輩ウマ娘の力強い言葉にシービーが笑みを浮かべた。
「良く言った! それでこそトレセン学園のウマ娘だね! さ、行こうか!」
そう言ってシービーは後輩ウマ娘を引き連れて1対1で勝負した。勿論大差でシービーが勝った…。
***
「どう? 本気の走りを体感して貰えたかな?」
「ハァ…ハァ…」
負けた後輩ウマ娘は息を切らしながら地面と膝を両手につけていて、シービーはそんな後輩ウマ娘を見下ろし、他のウマ娘達は心配そうに見つめていた。
「や、やっぱり強いです…。遠く及びませんでした…でも…」
後輩ウマ娘はシービーを見つめた。
「やっぱりシービー先輩の走りは凄くて、今度はもっといい勝負が出来るように…」
「勝ってよ」
「!」
シービーが涼しい顔で後輩ウマ娘を見て言った。
「私と良い勝負が出来るようになるのは、私に勝てるほどの実力を身に着けるくらいじゃないと」
「先輩…」
シービーが静かに目を閉じた。
「ミスターも言ってたけど、私たちは先輩後輩であるけど、それと同時にライバルなんだから。レースをする時は先輩に気を遣っちゃダメだよ」
「は、はい!」
「ん! それじゃ皆の所に戻ろっか」
**
こうして交流会は終盤を迎えていた。シービーとの練習試合をきっかけに話が盛り上がり始め、それこそ先輩後輩の垣根を超えられていた。
「皆、ちゃんとお話しできてるね」
「まあ、結果オーライか…」
荒垣親子もその様子を見守っていたが、新入生たちが大助の所にやってきた。
「どうした?」
「あの…。荒垣トレーナーにも質問って出来ないんですか?」
まさかの大助宛に本人は面食らった。
「悪いな。キリがねぇ…」
「トレーナーくん。トレーナーの話を聞くのも大変良い事じゃないか」
と、ルドルフが圧をかけてきたが大助は呆れていた。
「お前…。こいつらが何を聞こうとしてるのか、分かってて言ってんのか?」
「というと?」
「お前らの恥ずかしい秘密とかだよ」
大助の言葉にマルゼンやシービーも反応した。
「ちょ、ちょっとナニ!? ナニ話そうとしてるの!?////」
「過去のメモリーね。私に恥ずかしい事なんてないからノープロブレムよ!」
「あー…。そういや新人の頃は皆はっちゃけてたからねー」
「今も十分はっちゃけてるけどな」
シービーが苦笑いして言った発言に大助は皮肉気味に突っ込んだ。すると新入生たちが震えていた。
「あ、えっと…。トレーニングの話とかを聴こうと思ったんですけど…」
「ルドルフ会長達の新人の頃の話は聞いてみたい!!」
「お願いします!!」
「腐るほどあるからな…」
「いや、ちょっと待って! トレーナー!!」
マルゼンスキーの悲鳴がトレセン学園中に響き渡った。
おしまい