それはある夕方の事。屋上でウオッカがある人物に頭を下げていた。
「先輩! 弟子にしてください!」
「……」
ウオッカが頭を下げている相手の名前はナリタブライアン。ウマ娘科に所属している4年生であるが、昨年の『クラシック三冠』である皐月賞、日本ダービー、菊花賞を制覇した正真正銘のスターウマ娘で、生徒会副会長も行っている。ただ、生徒会の仕事はあまり真面目にやっていない。
一匹狼な性格であまり人となれ合わない性格なのだが、そういう所がカッコいいと感じ、そんなブライアンから『カッコよさ』を学びたいとウオッカがやってきたのだった。
実を言えばこういう事は初めてではなく、過去にウオッカのように自分から学びたいというウマ娘が沢山来たのだが、勿論ガラではない。
ブライアンはしばらく考えた後、ウオッカにこう問いかけた。
「弟子になってどうするつもりなんだ?」
「それは…」
「お前は私になりたいのか?」
ブライアンがそう言うとウオッカが質問の意味が分からず、キョトンとしていた。
「えーと…先輩になりたいというより、先輩のようにカッコ良くなりたいです!」
ウオッカの答えを聞いたブライアンは一息ついて目を閉じた。
「カッコ良くなるのは良いとして、私の弟子になって具体的にどうする気だったんだ?」
「そりゃあ先輩の振舞い方を真似したり…」
「私の真似をしたところで、それはお前のカッコ良さじゃない」
「!」
ブライアンの言葉を聞いて、ウオッカは目を大きく開いた。
「カッコ良くなりたいのなら、振る舞いだけを真似するのではなく、結果で示せ。そうじゃなきゃ人は認めん」
そう言ってブライアンが去っていったが、ウオッカはそういう所もカッコいいと思っていた。
「や、やっぱカッケー…! ブライアン先輩!!」
一旦ブライアンの弟子になるのはやめにして、ウオッカはブライアンが言っていた通り、結果で示すことにした。
後日
「…で、レースで結果を示すことにしたって訳か」
「ああ! そういう訳だから稽古をつけてくれ! 飛鳥!」
ウオッカは飛鳥の所に来てトレーニングを見て貰うように依頼した。ウオッカはまだ1年生で、トゥインクル・シリーズ(ウマ娘達が出場することになる本番のレース)に出る為に必要な担当トレーナーも不在なのだ。
とはいえ、ウオッカは地味な練習や他のウマ娘と同じ練習を嫌っており、知り合った飛鳥が仕方なしに面倒を見ているという訳だ。
「まあ、その姿勢は肝心だけど、その前に結果を出さなきゃいけないものがあるんじゃないか?」
飛鳥の言葉にウオッカが露骨に視線をそらした。
「まず苦手な小テストから逃げずに頑張る事から始めな」
「う…う~~~~~~~~~~~っ!!」
ウオッカの唸り声が教室中に響き渡った。
***************
また一方で、ブライアンはというと一人のんびりしていたが…。
(全く。どうして私に声をかけてくるんだか…)
ウオッカをはじめ、数多のウマ娘が弟子にしてほしいなどの声をかけてきたことに対し、理解できないでいた。
満たされない事で起きる『渇き』を潤すためにレースで走り続け、気が付けばクラシック三冠という偉業を成し遂げた。だが、勿論それが彼女にとってのゴールではない。ブライアンはストイックに走り続けていた。
(師匠なら他の奴らでも十分だろうに…)
と、ブライアンはチームメイトを思い浮かべていた。
そんな時だった。
「あんた、生意気なのよ」
という女子生徒の声が聞こえてきたので、ブライアンがもめ事だと判断してその場に近づいた。近くまで行くと紬が女子生徒数名にいちゃもんをつけられていた。
「な、生意気って…?」
「アンタ、あの荒垣トレーナーの娘だかなんだか知らないけど、調子に乗ってんじゃないわよ」
「パパがトレーナーだから楽でいいわね」
「どうせパパの力でトレーナー科に入れたんでしょ?」
女子生徒達が嫌味を言うと、紬が首を横に振った。
「ちゃんと自分の力で入りました!」
「どうだか」
「そんな事言ってパパが口添えしたんじゃないの?」
「まあ、どっちみちアンタの意見なんかどうでもいいから」
と、あからさまに紬の言い分を聞かずに好き放題を言おうとする女子生徒達にブライアンは眉をひそめた。
「とにかくアンタもアンタのパパも鬱陶しいのよ」
「トレセン学園から出てってくんない?」
「そういえばあの陰キャオレンジの彼女もウザいわよね…」
見るに見かねてブライアンが飛び出した。
「ここで何をしている」
「!!」
ブライアンに見つかって女子生徒達がブライアンの方を見て、取り巻きが青ざめた。だが、リーダー格はひるんでいない。
「ブ、ブライアンさん…」
「…なに? 担当トレーナーの娘だから助けに来たんでしょ?」
「お前と一緒にするな」
ブライアンが挑発した態度をとると、リーダー格の女子生徒が青筋を立てた。
「と、とにかくアンタには関係ないでしょ! どっか行ってよ!」
「そういう訳に行くか。生徒会室まで来て貰うぞ」
そう言ってブライアンが女子生徒達に近づこうとすると、リーダー格の女子生徒がポケットから香水のようなものを取り出して、ブライアンに吹きかけた。
「こ、この匂いは…!!」
「ふん! あんた達ウマ娘は身体能力が高い分嗅覚とかも人間より敏感なのは知ってるのよ!」
強烈なにおいがする香水を顔に拭きつけられたブライアンは鼻を両手で覆った。
「ずらかるわよ! あんた達!」
「あ、待って…」
そう言ってリーダー格が逃げようとした先にテツマがいた。
「あ、あんたは…」
「…ハァ。ヒシアマに何言われるか分かったもんじゃねぇな」
テツマはリーダー格の女子生徒を見るなり、露骨に嫌そうな顔をしていた。
「こ、こいつ…!」
「邪魔よ! どいて!!」
そう言ってリーダー格の女子生徒はテツマを突き飛ばそうとしたが、テツマは瞬時にリーダー格の女子生徒の腹に一撃を食らわせた。
「がっ…あ…!」
リーダー格の女子生徒はなすすべもなく倒れ、取り巻きは青ざめて震えた。
「訴えるなら好きにするがいいさ。だが、そんなことすりゃあ自分の悪事をばらすもんだ。よく考えるんだな」
「ひ、ひぃいいいい~~~~!!!!」
「ごめんなさ~~~~~い!!!!」
そう言って反対側から逃亡していったが、テツマは追いかける事はしなかった。
「は、縹くん…」
「女に手を上げるなんて最低だ。って言いたいんだろ?」
「!」
テツマの言葉に紬は驚くが、
「いや、最低とまでは行かないけど、やり過ぎだよ!」
「生憎だがそうやって甘くしたら人が死んだんでね。そういう訳には行かねぇよ」
「えっ…?」
「まあ、そんな事はどうでもいい。おい、あんた大丈夫か?」
テツマがブライアンにそう聞くと、ブライアンはまだ鼻を押さえていて、言葉が喋れずにテツマと紬を見た。
「ブ、ブライアンさん! 大丈夫ですか!?」
「保険医に見て貰え」
「!」
「それでダメそうなら病院に行ってこい」
「わ、分かった…。行きましょう」
そう言って紬がブライアンを介抱してその場を去ると、テツマは女子生徒のポケットから落っこちた香水の容器を回収した。
(…恐らくあの成分が入ってる可能性があるな。調べて貰うか)
***
翌日…。
「ブライアン先輩! 聞きましたよ! トレーナー科のいじめっ子達から女子生徒を守ったって!」
「…ああ」
ナリタブライアンが学校に来ると、ウオッカをはじめ後輩ウマ娘達がやってきて、怪我の具合を聞いてきた。
「大丈夫なの!? ブライアンさん!」
「どんな悪党だったんだ!?」
自分を心配してくれている事は理解していたが、何故ここまで自分は後輩に囲まれているんだと、苦悶の表情を浮かべていた。そんな中ウオッカはこう言った。
「やっぱりブライアン先輩カッケーよ…。自分の危険を冒してまで自分のトレーナーの娘さんを助けようとするなんて」
「いや、あれは…」
「いえ! 何も言わなくて大丈夫です! オレには分かってますから!」
いや、全然わかってないと思いながらもブライアンはこの後も質問攻めにあい続けた。
「……」
それを遠くから見つめるテツマだったが、その後ろには増田がいた。
「彼女は大丈夫そうですね」
「大丈夫じゃなかったら困るぜ」
「それはそうと縹くん。例のあれは…」
「博士に渡した。警察に渡すと間違いなく揉み消すだろう」
「ええ。揉み消すでしょうね」
増田の言葉を聞いて、テツマは理解できなさそうな顔で増田を見ていた。
「もし何かあればまた連絡をください」
「ああ。ヒシアマやエアグルーヴを大人しくさせれたら教えてやるぜ」
「勿論、あの件に関しては極力僕たち大人がやらなければなりませんので」
そう言って増田が去っていくと、テツマは自分に喧嘩を売ってきた女子生徒達や、ムカつく七光りの生徒達を思い浮かべるのだった。
おしまい
出演
ナリタブライアン
ウオッカ
一丈字 飛鳥
縹 テツマ
荒垣 紬
増田