「やあやあ。よく来てくれたね。風見くん、隅田川くん」
「……」
ある日の放課後のトレセン学園。トレーナー科の風見天智、隅田川琴美はウマ娘科のマッドサイエンティスト、アグネスタキオンに呼ばれていた。ここはアグネスタキオンが勝手に自分のラボとしている理科準備室である。
「ア、 アグネスタキオン先輩…」
「まあ、そんなに畏まらずに気楽にしたまえ。お茶だ」
タキオンがそう言うが天智はタキオンをずっと警戒していて、隣にいた琴美が落ち着かせる。天智は元から心を開きにくい傾向があり、女性関連だと琴美が介入しないと中々心を開かないという状態だった。まあ、彼女持ちの男が気軽に女性と話しかけると…アレですもんね。
「君たちを呼んだのはほかでもない。君たちにある実験を手伝って欲しいのだ」
「実験…」
タキオンの実験に天智が紅茶を飲みながら反応したが、この時天智が世話になっている先輩・マンハッタンカフェの言葉を思い出した。
『いいですか。私の同期にアグネスタキオンという女性がいるのですが、彼女はとんでもないマッドサイエンティストなので、絶対に薬を口にしないでください』
という言葉を思い出して天智はどうしようか考えていたが…。
「どうせカフェから私の薬は絶対に飲むなと言われているんだろう?」
「!!?」
タキオンに心の声を読まれて天智が酷く驚くと、琴美はまた天智を落ち着かせようとした。
「全く彼女も失礼だと思わないかね?」
「えっと…」
「変なものばかり作るからでしょう」
そう言ってマンハッタンカフェが現れたが、不機嫌そうにしていた。
「タキオンさん。この2人を実験台するなとアレほど言いましたよね?」
「まあ聞きたまえよカフェ。今回の実験は比較的一般人向けだ」
「比較的って何ですか」
タキオンのサイエンティストとしての力は本物なのだが、あまり人の為にならないものばかり作っているので煙たがられており、タキオンもそれなりに自覚はあったようだ。
「薬を飲んだ人間に愛してると言うと、身体能力をパワーアップさせるというものだ!」
タキオンの言葉にカフェが酷く困惑し、天智と琴美が驚いた。
「実験台は誰でも良いという訳ではなく、トレセン学園でも希少な存在と呼ばれている『カップル』であるこの2人に来て貰った! まあ、本当は比較的仲が良さそうなフラワーくんとスカイくんに頼もうと思ったのだが、どういう訳かスカイくんからは嫌われていて、フラワーくんに近づかせてくれないのだ!」
「前にあんな実験したら怒りますし、現状で済んでるだけ有難いと思ってください」
とにかくタキオンに対して否定的で嫌な顔をするカフェに天智と琴美は困惑していた。いつもはクールで無表情なのだが、こんな顔するんだなって…。
「実を言えば、その紅茶に既にその薬を仕込んでいるのだ!」
「な、何ですって!?」
タキオンの言葉に天智と琴美が驚くと、カフェはやられた…! という顔をして表情をゆがめた。
「風見くん。君も座長(※ダシマ式における主役)なら分かるだろう? このまま何も起こらなけば物語としては面白くない!」
「そ、それはそうですが…」
「安心したまえ。君と琴美くんの仲を引き裂くような真似はしない! で、次は琴美くんの出番だ!」
「え?」
タキオンが琴美の顔を見ると、タキオンはこう言い放った。
「…彼に『愛してる』と囁いてみたまえ」
タキオンの言葉に琴美は顔を真っ赤にした。それを見て天智がまた驚くと、カフェはタキオンを睨みつけた。
「え? あ? え?//////」
「琴美さん。あの、無理しなくていいので…」
琴美は恥ずかしさでパニックになっていて、今度は天智が落ち着かせた。今ではため口で話す天智だが、付き合う前は敬語で話していた為、たまに敬語になる。
「ちょ、ちょっと待って! 心の準備だけさせて…////」
琴美は琴美で恥ずかしいけど、言わないと天智がまた余計な心配をして、本当は自分の事を嫌ってるんじゃないかと思うんじゃないかと思っていた。そして琴美の意図を理解した天智は申し訳なさそうにしていると共に、何故こんな自分を選んでくれたんだろうと不思議に思っていた。
「受けた愛に理由をつけるんじゃないよ」
「!!?」
タキオンにまた心の中を読まれて天智は驚いたが、カフェもこの発言に関してはタキオンに同感だった為、何も言わなかった。
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そして心の準備が出来た琴美は天智の顔を向いて言う事にし、タキオンとカフェが見守っていた。
「あ、あのっ! 天智くんっ!//////」
「は、はい…」
「その…」
琴美は顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしていたが、意を決して言い放った。
「愛してますっ!!/////」
琴美がそう言い放った次の瞬間、天智の身体が光り始めたが、その光は一気に強くなって理科準備室はおろか、そのフロア全体を光らせた。勿論大事になった。
********
時は流れ…。
「さあ、走ってみるんだトレーナーくん!」
ここはトレセン学園のグラウンド。タキオンが観戦スペースからそう言い放つが、エアグルーヴに正座をさせられていた。
「天智さん…。走れる範囲で構いませんので…」
「わ、分かりました…」
マンハッタンカフェが併走の相手をしていたが、光り輝く天智を見てカフェは何とも言えなさそうな顔で見ていた。琴美も心配そうにして、ウララ達と一緒に観戦していた。
「トレーナー、すっごいキラキラしてるね!」
「うん。物理的にキラキラしてるね…」
そしてスタートの合図で二人が走り出したが、いい勝負を見せていた。
「!?」
タキオンがまた変な発明をして、どうせ大したものではないんだろと観客たちは期待していなかったが、天智がカフェと同等に走れているのを見て唖然としていた。
(これだけ早く走ってもペースが落ちていない…)
「……」
カフェも天智の走りを見て驚きを隠せずにいたが、現役のウマ娘として負ける訳には行かないので彼女も本気を出した。
最終の直線でカフェが天智を追い抜き、カフェが勝利した…。
*******
「実験は大成功だねぇ」
「……」
タキオンが満足そうに見つめると、天智は不思議そうにタキオンを見つめていた。カフェは天智の底知れない潜在能力を感じ取っていた。今回はただウマ娘と同等に走れるか試しただけで、脚質や適性距離なども考えずに走らせたが、きちんと対策を立てていれば天智が勝てたんじゃないかと思い始めていた。
「しかし天智くん」
「は、はい…」
「最終の直線、琴美くんを想って走るべきだったろう」
タキオンの不満そうな表情と言葉を聞いて、天智は気まずそうに視線をそらした。確かに言われてみればそうであるが、そんな余裕はなかったのだ。
「カフェも途中から負けると思っていただろう?」
「…そうですね」
タキオンの余裕そうな笑みにカフェはイヤな顔をしつつも、今回は得るものがあったので、大人しく言う事を聞くことにした。
「まあ、良い収穫になったよ。これで…」
「中々いい勝負だった」
と、生徒会副会長のエアグルーヴがやってくると、皆が反応したが天智は察した。
「だが…」
「ええ。騒ぎを起こしたことに変わりはありません。僕を連行してください」
天智がタキオンとグルーヴの間に入ってそう言うと、エアグルーヴは困惑した表情を浮かべていた。
「男だからという理由でしょっぴいたり、ペナルティを与えるからだろう」
「グルーヴさん。遠慮はいりません」
そう言って天智が正座もし始めて緊迫した顔でこう言い放った。
「僕を連れて行ってください…」
「話を聞けこのたわけ!!」
「はい! 僕はたわけです!!」
「グルーヴさん。彼に罵声は逆効果なので早くタキオンさんを連行してください…」
「わ、分かった…」
「天智くん。大丈夫だから落ち着いて…?」
とまあ、ひと悶着はあったが最終的にタキオンの実験は成功し、エアグルーヴにしょっぴかれた。
「スズカ…。私ってそんなに怖いか…?」
「えっと…」
天智がやたら自分を怖がっているのを見て、グルーブは友人のサイレンススズカに相談していたが、彼女も心当たりがありすぎて困った顔をしていた。
「と、とりあえず笑顔で接してみるとか…?」
「……」
おしまい