それはある日のトレセン学園で起きた。
「それでトレーナー。午後のトレーニングの事だけど…」
自称・一流のウマ娘…。
「自称じゃないわよ!! 通称よ!!」
…一流のウマ娘、キングヘイローはトレーナーと呼ばれる男子生徒と午後のトレーニングについて会話をしていた。キングヘイローのツッコミを聞いて、オレンジ色の髪の男子生徒である風見天智は苦笑いしていた。
そんな時だった…。
「あーっ! キングちゃんだー! こっちだよみんなー!」
というとても明るい声が聞こえてきて、キングと天智の前にピンク色の髪をしたウマ娘・ハルウララが後輩を数人引き連れてやってきた。
「ウララ先輩。この人が耳かき名人の…?」
後輩ウマ娘の言葉を聞いて天智とキングは驚いていた。というのも、耳かき名人というのは初耳だったからだ。
「耳かき名人…?」
キングが疑問に思いながらそう呟くと、天智は何故そう言われているのかについて、大体察し、何とも言えない表情をしていた。
「そーだよ! キングちゃんはね! 耳のお手入れがじょーずなの!」
そんなキングと天智にお構いなしにウララは後輩に自慢していた。
「耳をしゅしゅしゅーってしてくれて、ホワー、ふにゃ~んってなっちゃうの!」
「わぁああああ…」
「私もして貰ってもいいですか!?」
後輩たちがはしゃぐと、キングは困って天智の方を見た。
「そんなの普通の手入れよ! そうでしょトレーナー!!」
「えっ…」
キングの問いに天智が困惑していると、
「そんな事ありませんわ!!」
と、また一人ロングヘアーのウマ娘・カワカミプリンセスが現れた。キングヘイローの事をとても慕っている。
「私もしたことはありますが、もうあれは癒しですわ!!」
「ちょ、ちょっとカワカミさんまで…!!」
「……」
カワカミの力説に後輩たちが盛り上がると、キングヘイローがオロオロして天智は困惑していた。
「本当に普通の手入れなのよ? 軽くブラシをかけて、堅く絞ったタオルで軽く擦るの」
「いえ、結構繊細だと思います…」
「そう言うのは良いのよ! で、まあ…ウララさんもカワカミさんも冷たい水でやると飛び起きるから、温めのお湯で…」
人によってやり方を変えてるあたり、普通ではないと天智は思っていたが、突っ込むとキングが怒るので黙っていることにした。
「全体的に拭いたらやわらかめのタオルで水気を取って、今度は耳の中の綿棒を使ってやるのよ…」
「流石です」
「だから普通だって言ってるでしょ! まあ、ウララさん達は順序を覚えてくれないし、飛ばそうとするから何度も教える羽目になっているのだけど…」
キングの言葉に天智は改めて感心したが、これは男性トレーナーがやったらセクハラなんだろうなと思っていた。
「…あとで琴美さんとも話し合う必要があるわね」
「!!?」
自分の心の中の声をキングが聞いていたので、天智が驚いていたが、
「ま、まあ…。耳は聴覚もですが、バランス感覚を担うのでウマ娘にとっては手入れは欠かせませんね」
「その通りよ。その手入れも出来なくてレースに勝つなんて100年早いわ」
天智とキングの会話を聞いて、後輩ウマ娘達は二人を見て感嘆していたので、二人はそんな後輩ウマ娘達を見てぎょっとしていた。だが、ウララもカワカミも後輩も早く耳かきをしてほしくて、目を輝かせていた。
「…し、仕方ないわね! 道具を取ってくるから全員そこで待っていなさい!」
「はーい!」
「ちなみにトレーナーもキングのアシスタントをしなさい!」
「あ、はい。分かりました…」
そんなこんなで天智の力を借りてキングはウララ達に耳かきをしていた。
「冷たいのは大丈夫かしら。それとも温くする?」
「冷たいので大丈夫です…」
「分かったわ。堅めの冷タオル頂戴」
「はい」
あとからやってきた琴美という女子生徒も一緒になってキングは耳の手入れをしていた。天智はタオルを絞り、琴美はタオルを人数分用意していた。
***
「ふーっ! 耳がすっきりしたー!!」
ウララがご機嫌な表情でそう言うと、後輩たちもどこかすっきりした表情をしていた。
「ウララ先輩が言った通りだ…!」
「今度また頼もうかな…」
「ありがとうございましたー!!」
と、後輩たちはキングにお礼を言ってそのまま去っていくと、キングは耳の手入れはまめにするように伝えて天智達と一緒に見送った。
**
「お疲れさまでしたキングさん」
「ええ…」
天智、琴美がキングを労うと、キングは二人をそう返事をして二人を見つめた。
「そういう意味じゃ、あなた達もウマ娘の耳のケアを勉強する必要があるわね…」
「そ、そうですね…」
キングの言葉に天智が気まずそうに視線を逸らすと、琴美が苦笑いした。
「そーだ! ウララの耳を触らせてあげる!」
「ありがとうございます。ウララさん…」
ウララの優しさに天智が苦笑いすると、カワカミがある事に気づいた。
「そういえばトレーナーさんと琴美さんって耳かきはどうされてるんですの?」
「え?」
カワカミの言葉に琴美は驚いたが、天智は何が言いたいかすぐに察して困惑した。
「カ、カワカミさん…」
「やっぱり琴美さんがトレーナーさんに耳かきをしてるんですの?」
「カワカミさん!!////」
カワカミの言葉に琴美が顔を真っ赤にすると、キングが慌てて止めた。そういう気遣いもできるのがキングヘイローのいい所である。天智は苦笑いしていた。
「いえ、ちゃんと自分でやってます…」
「何ですの…」
天智の回答にカワカミプリンセスがつまらなさそうにしていたが、天智は琴美にこれ以上恥をかかせないようにして、何とか話題をそらそうとしていた。
「じゃあトレーナーが琴美ちゃんに耳かきしてるの?」
「おばか! どうしてそうなるの!!」
だが、ウララがとんでもない事を言いだしたのでキングがまた突っ込むと、琴美がモジモジしていた。するとカワカミが衝撃を受けていた。
「お、乙女の耳の中を…!!?」
「カワカミさん。そんな事してたら僕はとっくの昔に警察に捕まってます」
「捕まらないわよ!!////」
天智も頓珍漢な事を言いだしたので、キングヘイローはツッコミを入れた。
「あ、あの…天智くん…////」
「?」
琴美が天智を見ると、琴美が上目遣いで天智を見つめた。
「…私が耳かきするのはいいよ…?/////」
琴美の言葉に天智の汗からは大量の汗が流れた。ライトノベルの主人公のようにフラグを壊したり、女の子の気持ちを汲み取れないという事はなかった。寧ろそんな奴がトレーナーなんて出来る訳もないが。
「え? トレーナーが耳かきするのは?」
「ダ、ダメです!!/////」
「当たり前よ(ですわ)!!」
ウララの言葉に琴美が回答すると、キングとカワカミがツッコミを入れた。
まあ、そんな訳でトレセン学園のとある一日であった…。
おしまい