それはある日の事だった。
「太一。アンタ、休日はちゃんと遊んどるんか?」
「……」
白い稲妻・タマモクロスは目の前にいた男子生徒に話しかけた。男子生徒の名前は黒島太一。180㎝を超えているトレセン学園トレーナー科の4年生である。タマモクロスだけではなく、スーパークリーク、オグリキャップ、イナリワンもいた。
「…遊んでいます」
「ほう。何して遊んどるんや?」
自分の問いに間が空いていた事で、ウソをついていると踏んだタマモクロスだったが、あえて何をしているか質問することにした。
「商品へのシール張りをしています」
「内職やんけ!! あと、ウソつくの下手か!!」
思った他内職している事をカミングアウトすると、タマモクロスがツッコミを入れた。
「内職もいいが、たまには息抜きもしないといけねーぞ?」
イナリワンも困った様子に太一に話しかけるが、太一の表情は変わらなかった。
「…まあ、お互い生活には苦労するけどなぁ」
そもそもの出会いはこうである。今年4月に入り、今後のレースについて河川敷で話し合っていた所、河川敷で太一が野草を探していたのを目撃したのがきっかけであった。
その時の太一の様子からただ事じゃないと感知したスーパークリークは太一の面倒を見る事を決意し、タマモクロスも太一たちの事が心配だったので賛同し今に至るのだが、彼女たちを巡って太一は度々トラブルに見舞われているが、それはまた別の話…。
「もしかしてアレか。学校の遊びとかも知らんのか?」
「遊び?」
太一の反応を見て、タマモクロスがやっぱり…という表情を浮かべると、他の3人も心配そうに太一を見つめた。
「例えば…せやな。カラオケとかは知らんのか?」
「……」
タマモクロスの言葉に太一は考える仕草をした。
「…人が入っていく姿は見た事ありますね」
「行った事ないんやな。てか、そら流石に見た事はあるわな」
カラオケボックスを知らないならまだしも、カラオケボックスに一体何のイメージを持っているんだとタマモクロスは突っ込みたかったが、太一の性格を考えたら長くなりそうなのでやめることにした。
「太一。今度の休みはどうするつもりでい?」
「また内職を入れる予定です」
「隠さへんな!!」
タマモクロスがツッコミを入れたが、イナリワンは何か考えているようで、クリークとオグリが気になっていた。
「イナリちゃん。どうするの?」
「太一。今度の土曜日…あたいに付き合え」
「?」
イナリの言葉にタマモクロスも驚いていたが、太一は無表情のままだった。
「…トレーニングをされるんですか?」
「いいや。カラオケだ!」
イナリの言葉に太一は少し驚いたが、すぐに彼女の意図を読み取ろうとした。
「…分かりました。少しばかり出費をしても問題は」
「ああ。一応あたいがバイト代出すから」
「!?」
イナリワンの言葉に太一だけでなく、タマモクロス達が驚いていた。ちなみに原作のイナリワンの一人称は『あたし』であるが、あたいの方がしっくりくるのであたい。また、このようにダシマ作品での独自の設定を『ダシマ式』と呼ぶ。
話は戻って、バイト代を出すというイナリワンに太一は少し複雑そうにしていた。
「…お気持ちは有り難いのですが」
「まあ、聞いてくれ太一」
「はい」
「カラオケに行った事がないというのは別に恥ずかしい事じゃねぇ。だが、このトレセン学園はお前さんも知っている通り、『ライブ』があるんだ。歌ったり踊ったりするアレだ」
イナリワンの話を太一だけでなく、タマモクロス達も真面目に聞いていた。
「まあ、トレーナー科に在籍するからには、『ライブ』を勉強する事も大事で、カラオケがうってつけって事よ!」
「そういう事でしたか…」
イナリワンの言葉に太一は少し考えるそぶりを見せた。
「…そういう意味では、授業料だと思えば」
「あたいが出すよ」
「?」
イナリワンの言葉に太一が驚いて彼女を見ると、イナリワンはニカっと笑った。
「その代わり、あんたはしっかりと勉強すんだよ。これからの為にもね」
「…分かりました。ありがとうございます」
イナリワンの意図が分かった事と、自分を気遣ってくれるイナリワンの心意気に太一は彼女に頭を下げた。
「それやったらうちも行くで!」
「皆で行った方が楽しいですもんね~」
「ああ。私も参加せて貰おう」
と、5人でカラオケに行くこととなったのだが、それを陰からとある男子生徒数名がやってきていた。
**
タマモクロス達と別れ、太一は自分の教室に戻ろうと廊下を歩いていたが歩を止めた。
「おい、待てよ貧乏人」
「……」
後ろから嫌味が聞こえてきたが、太一は無視していた。
「おい! 聞いてんのか!!」
「無視しやがって…!!」
「待ちやがれコラァ!!」
と、太一に嫌味を言ってきた男子生徒達が回り込んで通せん坊をしていた。
「貧乏人とは…オレの事を仰っていたんですか?」
「てめえ以外に誰がいんだよ…」
「舐めやがって!」
男子生徒たちはとにかく太一に突っかかっていたが、太一の表情は変わらない。
「お前さっきタマモクロス達とカラオケに行く約束をしていたな」
「ええ。あくまでライブに関する課外学習みたいなものですが」
「オレ達も混ぜろや」
男子生徒達が自分達も混ぜるように太一に言うが、太一はあからさまにタマモクロス達に危害を加えるつもりだと判断した。
「タマモクロスさん達に仰れば宜しいのでは?」
「それが出来たら苦労しねえんだよ!」
「てめえのせいで、タマモクロス達だけじゃなくて他の6年連中にも相手にされなくなったんだぞ!」
「金持ってないくせに学校に来るなって言う事のどこが悪いんだよ!」
自分たちのやった事をちっとも悪い事だと思っていない男子生徒達に、太一はもうどうしようもないと考えていた。
「人を育成する人間が…」
「人じゃないですぅ。ウマ娘ですぅー」
「そんな事も分かんねーのかよ」
と、男子生徒たちはとにかく太一に嫌がらせしようとウザがらみしていた。周りの生徒はそんな男子生徒達を恐れているのか、はたまた自分は巻き込まれたくないからか知らんぷりで、誰も太一を助ける気配はない。
自分に絡む理由が分かった太一だが、ウマ娘達に相手にされないという時点で、トレーナーを目指す人間としてはほぼ致命傷を負っている事にも気づいていない男子生徒達を憐れむしかなかった。いくら自分が推薦しても不毛なだけだと考えていた。
「とにかく貧乏人の分際で、オレ達より良い思いをするのは許さねーからな!」
「それからタマモクロス達に関わるんじゃねーよ!」
「そもそもオレ達が狙ってたんだぞ!」
そうギャンギャン騒ぎ立てていたが、
「やっぱりこうなったわ。ホンマに懲りんやっちゃのう」
「!?」
タマモクロスの声がしたので、その場にいた生徒がタマモクロス達を見たが、そこにはタマモクロスだけではなく、イナリ、クリーク、オグリ、そして彼女のクラスメイトらしきウマ娘達がいたのだが、全員怒っていた。
「あんたらの視線…気づいてたぜ? 相変わらず卑怯な奴らだなァ?」
「イナリさん。顔が怖いので抑えてください」
イナリワンが男子生徒達にメンチを切っていたが、あまりにも怖すぎたので太一が冷静にツッコミを入れた。
「ひ、ひぃいいいいい!!」
「ゆるしてぇえええええ!!」
男子生徒たちはタマモクロス達がくるやいなや青ざめ、涙を流しながら許しをこびていた。強い者には媚びて弱い者にはあたり散らす。クズの所業である。
「…行ってしまいました」
あまりにも呆気ない結末に太一も少し困惑したが、これで男子生徒達が改心してくれることを祈っていた。前回も同じことを考えて叶わなかったが…。
「太一くん! 大丈夫ですか!?」
「ええ。オレは大丈夫です…」
クリークとオグリが太一に近づくと、太一は話しかけてきたクリークに返事をしていた。
**
この後、男子生徒たちはタマモクロス達のクラスメイト達の密告により、教師達から怒られて、午後から行われるトレーナー研修に参加させて貰えなかったそうだ。
そして休日、太一たちは予定通りカラオケに行くこととなったのだが…。
「太一くん! 今日はおねーさん達といっぱいたのしもーね!」
タマモクロス達のクラスメイトもついてきて、カラオケボックスは大所帯用のものを使用することとなった。
「本日はよろしくお願いします」
「キャー♡」
「よろしくねー♡」
「本当にうちの学年だったら良かったのに…」
太一は高身長に加えて、顔も整って男前だったため、元からウマ娘達からの人気は高かった。
「最初の曲言うたら『大阪パレード』やろがい!」
「何言ってんだい! 『お江戸音頭』に決まってんだろォ!?」
「2人ともはしゃいじゃってかわいい♪」
「どの料理を頼もうか…」
「……」
とまあ、思い思いに楽しんでいる姿を見て、太一はウマ娘達を研究することにした。
「いや、歌わんかいっ!」
おしまい
出演
黒島 太一
タマモクロス
スーパークリーク
オグリキャップ
イナリワン