「この能力を知ったものを操る」能力 作:こんぺいと
「──あ、会長じゃないですか! どうしたんですか?! わざわざこんなところまで来て!」
トコは流れるようにくるりと振り向いた。その瞳は細められながらも全く笑っておらず、半ば会長を睨みつけているようにすら見える。
そして、それを見て慌てたのはクラブのメンバーだった。
「お、おい!」
「トコちゃん?!」
立ち上がる2人の生徒。それを手で制したのは会長だった。
「いや、いいよ。当然の反応だからね。だけど、原田くん、今回は一度抑えてくれないかい?」
「……そうですね! 私も過剰に変な反応しちゃいましたし、では会長からお話しお願いします」
トコはゆっくりと後ろに下がりながら、ニコニコとした笑みを浮かべ続けていた。クラブのメンバーはそれを気味悪そうに見ながらも、会長の方へと視線を向ける。
そして静まり返った部室を前に会長は一息入れると話し出す。その顔は先ほどと違い、笑みは浮かんでなどいなかった。
「今回は、僕の方から連絡があってきたんだ。そう、君達も勘づいているだろうけど、クラブ長くんの事についてね」
──場に緊張が走った。トコだけが動じてはいないようだったが、残りのメンバーは凍り付いたように止まる。
1人の生徒がそれから抜け出すと、すぐに謝罪をしようと立ち上がり──そこで、会長がそれを押し止めるように話を続けた。
「……クラブ長くんが行方不明になった。もちろん、君達なら気が付いていただろうがね。
生徒会長として、この学園の優秀な生徒が消えたことは本当に残念に思う」
『え?』という空気が一瞬辺りを包んだ。それを努めて無視して、そして会長はゆっくりと頭を下げる。
「……なにか要因があったんだろう。生徒会にも、そして特に生徒会長である僕にはその要因を取り除くことが出来なかった責任がある。本当にすまなかった」
「えっ、その、えっ?」
男子生徒が周りへ視線を向ける。それに返されるのは同じく困惑の感情だった。
クラブの解散でも求められるのでは、と思っていたのだ。あまりの落差に対応が分からない。
そして、そこで動いたのはトコだった。
「はい、承知しました。その謝罪を受け入れます……それで、会長が来たのはその原因捜査と言うことですか?」
「そう言ってくれると助かるよ。それで、うん。そうだね、それもある。実は2つほどお願いがあってね。
その1つ目。クラブ長が消えた原因に心当たりがある人は、好きなタイミングで生徒会室に来て欲しい。言いにくい事もあるかもしれないから、ここでは言わなくて大丈夫だよ」
「なるほど。それで、2つ目はなんでしょう?」
促すようにトコは視線を向ける。
「2つ目は、出来ればクラブ長が消えた事に関してあまり外で言及しないで欲しい、言うことだ。
生徒会としては、あまり不安を広げたくないと考えている。勿論強制ではなく任意だから、そこは安心して欲しい」
「……なるほど、分かりました。広報クラブとして善処します。
……それでなのですが、こちらからも1つお願いしてもよろしいでしょうか?」
「勿論だよ、なんでも言ってくれ」
向けられた笑みに、トコはそれ以上の笑顔で返す。メンバーは勝手に進んでいく話に戦々恐々していた。
「ありがとうございます。では話すに当たってまずこちらを見て欲しいのですが……これはクラブ長が遺したものなのです。
私達で話し合ったのですが、なにかは全く見当が付かず……恐らく情報媒体だと考えているのですが、なにかお知りでしょうか?」
その言葉に会長は流れるように返した。
「君達の推測は正しいよ。それは100年程前に使われていた情報媒体だね。異能技術を活用した製品が増えた事や、純粋な技術発達によって時代遅れになった製品……たしかビデオテープ、だったかな」
それを聞き、花開いたようにトコは笑った。
「そうなのですか! ありがとうございます、私達では気が付きませんでした! それで、これが情報媒体だと言うなら、是非会長を交えて内容を確認したいのです」
「なるほど、構わないよ。日程調整は後ほど行おう」
あまりにも剛速球で様々な事が決まっていく。それにメンバーが目を白黒させていると、いつの間にか会長が背を向けていた。
「──では、今日はありがとう。僕の謝罪を受け入れてくれたこと、本当に感謝しかないよ。
日程などはこちらから遣いを出すから待っていてくれ。それじゃあ、また会おう」
「はい、ありがとうございました!」
笑顔で会長が消えるまで見送るトコ。メンバーが固まっていると、やがてふう、とトコは椅子へ座り込んだ。
「……お、おい。どういうことなんだよ」
「……あの白々しい会長さんは、どうやら『噂』を広めたがっているってことと、それをこっちが受け入れざるを得なくなったってこと」
トコの回答に再び皆が停止していると、トコは勢い良く叫び出した。
「──あー! もう!! このビデオテープの同時視聴も受け入れられたってことは、多分今回クラブ長はなんっっっにも出来てない!! もう、もうっ! 全部振り出しだよ!」
トコの叫び声だけが、部室内に虚しく反響していた。