自由インド太平洋諸国召喚 作:自由で繁栄した海洋国家
インド太平洋。
それは、21世紀になって新しい戦略概念として確立された地域である。
インド洋から太平洋にかけての地域・暖流域を指し、北は日本から南はオーストラリア、西はインド、東はオセアニア諸国までを含めた大きな区分である。
21世紀になってから、アジア太平洋の代わりに生み出された言葉であり、二つの海を一体として見る戦略は『自由で開かれたインド太平洋』とも呼ばれている。
それからインド太平洋諸国は、提唱国である日本の強い呼びかけにより協調し、連帯を強めた。
そして時は過ぎ、2025年。
そんな経緯から結びついたインド太平洋地域も、今では危機的状況にあった。
ロシアによるウクライナ侵攻以降、ロシアへ賛同し、増長を続ける中華人民共和国。彼の国が抱える問題やタイムリミットを受け、中国国家主席は重大な決断を行った。
東アジアにおける軍事行動の準備。
かねてより国と認めず、侵攻を計画していた台湾に対して圧力を仕掛ける。海峡を挟んだ中国沿岸部に艦艇や部隊を集め、上陸戦を計画。
さらには東南アジア方面の国境にも部隊を配置、さらにはヒマラヤ山脈を挟んだインド方面にも部隊を配置し、攻撃の準備を行なった。
さらには朝鮮半島でも北朝鮮が韓国への侵攻準備を開始し、日本に対しても沖縄を狙っての準備行動が開始されていた。
その様子はアメリカや日本の偵察衛星を通じて確認され、インド太平洋諸国のみならず、世界各国に共有された。ウクライナ侵攻以降、水面下で燻っていた世界大戦の危機がインド太平洋諸国に向けられていた。
そんな時だった。
危機的状況にあったインド太平洋諸国が地球から消えたのは、あまりにも突然だった。
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2025年1月15日
インド 首都ニューデリー
この日、広大なインド西部の地域を大地震が襲った。
インド時間午後9時30分、日本時間で言う深夜0時頃に夜空が昼のように光ったかと思えば、その数分後に地震が発生したのである。その地震の余波は、インドの首都ニューデリーにまで届いた。
地震計測器によれば、震源地はインド西部のパキスタン方面。その方向から来た地震により、地震対策が行われていなかった地域の建物は崩壊、都市部でもインフラが麻痺するなど、大混乱であった。
「状況を説明してくれ」
地震に見舞われた首都ニューデリーの中心部、サウス・ブロック政府合同庁舎の建物。その地下会議室にて、インド政府のナンドラ・モルナディ首相は幹部たちに状況の説明を求めた。
ちなみにインドの国家元首は大統領だが、実際には大統領に実権はなく、内閣の助言に従い国務を行うのがこの国の行政方法である。
「現在、西部のヒマーチャル・プラデーシュ州、ハリヤーナー州、パンジャーブ州、ラージャスターン州、グジャラート州などの地域が地震により大きな被害を受けています。同じく西部のチャンディーガルでも、停電や水道管の破裂などのインフラ被害が多発しており、現在被災者と地震の被害を集計中です」
閣僚の一人が地震に関する報告を行う。モルナディ首相はそれを静かに聞き入れ、少しの間だけ頭を抱えた。
「……まさかこんな事態の最中で地震が発生するとはな」
「はい。中国の侵攻に備えていた軍の方も、街道の土砂崩れなどで少なくない被害を被っているようで、しばらく我々の行動は制限されます」
中国との国境線で緊張状態が続いている中、このような大きな災害が発生するとは思っておらず、インドの首脳部は大きな危機感を覚えていた。
「……あの国なら災害の隙を突くような非道も、無くはありませんからね」
「そう言う事だ。だが、災害救助にも軍の人員を割かなければならない。まさに最悪のタイミングだ」
モルナディ首相がタイミングの悪さに頭を抱えている中、今度は外務省の官僚が恐る恐る手を挙げる。
「首相、その地震の件も重大なのですが、こちらではさらに不味いことが起きています」
「なんだね、外務省?」
「地震発生の直後から、東南アジア諸国以外との外交連絡が全く繋がらない状態にあります。近隣のパキスタン、中国方面はもちろん、アメリカやヨーロッパへのインターネット回線も全くつながりません」
外務省の官僚が報告してきた事態に、会議室はざわついた。このような一大事の中、各国との連絡が取れないと言う不幸が、連続したのである。
「なんだと?いつの間にそんな事態が起こっていのだ?」
「申し訳ありません、確認の最中に地震が発生したため、この場まで報告が遅れました」
「……そうか、では今連絡が取れるのは何処の国までだ?」
「東南アジア方面の各国から、オーストラリア、オセアニア諸国までは連絡が取れました。他にも日本、韓国、台湾に関しても、海底ケーブルでの国際電話回線のみですが、連絡が繋がっています」
「なるほど、とりあえずは東アジア諸国とは連絡が行き届いているんだな……それで、原因は?」
「それが……未だ不明なのです。先ほど上げた範囲以外の国とは、ケーブル回線ですら連絡が取れない状況にありまして、現在確認を進めております」
その報告により、モルナディ首相はさらに頭を抱えた。いきなり特定の国意外との連絡が取れない事態など、常識的に考えてあり得るのだろうか、とモルナディ首相は思う。
しかし、この状況下で他の国と連絡が取れないと言うのはまずい。もしかしたら地震の影響で、各国につながるケーブルが途切れているのかもしれない。それにしたってインターネットですら連絡が取れないと言うのは、おかしな話だが。
「首相、軍の偵察衛星に関しても地震発生直前から音信不通の状態になっております。偵察衛星に留まらず、気象衛星などすべての衛星も含めてです」
「衛星も音質不通なのか?」
「はい。そのせいで地震が発生した地域における被害状況の確認が取れず、被害確認が遅れているのです」
「なんて事だ……」
衛星が音信不通と言うことは、被害地域の状況を確認する事もできず、迅速な対応ができないことになる。対応が遅れれば、被害はさらに膨れ上がる可能性もある。
それだけでなく、国境付近に集結していた中国軍の動向も分からなくなり、初動対応も遅れてしまう。そうなれば、インド側は大混乱に陥る。それだけは防がなければならなかった。
「……外務省、こちらの事態を東アジア各国に共有してくれ。インターネットに障害が出ている以上、各国は我が国の地震を知らない可能性がある」
「了解です」
「ああそれから、各国に衛星を貸してもらうように伝えてくれ。我が国の保有する衛星が使えないなら、他の国を頼るしかない」
「了解しました。衛星に関しては日本やオーストラリアを頼ります」
「ああ、頼む。とにかく衛星を借りて偵察情報を集めなければならない。北から中国軍が侵攻してくる可能性も、無きにしも非ずだからな」
そうして閣僚達が方針を決めたその最中、サウス・ブロック政府合同庁舎を小さな地震が襲った。その地震は少し小さいが、天井の装飾を揺らしていた。
「余震か……?」
「だろうな……今回は小さそうだが、しばらく机に隠れておこう」
その数分後に余震は収まり、また対策会議が再開された。
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中央暦1639年1月15日
フィルアデス大陸 パーパルディア皇国南部
フィルアデス大陸南部の大国、列強国でもある巨大国家、パーパルディア皇国。第三文明圏の南半分を支配する広大な国家も、この日大地震に見舞われていた。
パーパルディア皇国の南東部、特に沿岸部の地域にて地震が発生し、多くの人が被災した。
「瓦礫の下にまだ人がいるぞ!」
「助け出せ!早く!」
「丈夫な木材持ってこい!」
被災した人々が懸命に救助活動を行い、中には近くの駐屯地の軍人まで出動し、救助に加わっていた。
パーパルディアでは活断層などはほとんど存在せず、地震などは滅多に発生しない。そのため耐震技術が未発達であり、建物の多くは崩れ、中にいる住民を巻き込んでいた。
「よし、出てきたぞ!」
「瓦礫を持ち上げるぞ、せーの!」
軍人が角材を手に、梃子の原理で瓦礫を押し上げ、幼い子供を瓦礫の中から助け出す。地震で倒壊した建物の土煙が港町を覆う中、彼らは懸命に救助活動を続けていた。
「担架持ってこい!」
「胸の骨が折れてる!急いでくれ!」
岩壁に築かれた美しい港町は、地震の被害により地獄のような場所に変わっていた。幸運にも大きな津波は無かった為、救助に時間をかけられたのは幸いだった。
住民の多くは、倒壊しなかった教会などに避難所を作り、そこから街を見下ろしていた。辛く苦しい状況の中、ある住民が崖の上から何かを見つける。
「なぁ……海の方に何か見えないか?」
「ああ……見間違いか?俺も何か見えるぞ」
住民達は南の海の方向を見て、何か陸地のようなものを確認した。海の方角はまだ朝靄に隠れており、詳しくは見れない。だが何か異様なものが港町に迫っているのは、住民達も感じていた。
この時、フィルアデス大陸南部のパーパルディア皇国では大変なことが起こっていた。
かつて広い海があり、かなり南に進まなければ辿り着けないロデニウス大陸しか、陸地がないこの海域。見渡す限り一面海だった、その港町に大陸が出現したのである。
そう、フィルアデス大陸の南部にインドの国土が出現したのだ。
それだけではない。
この日、フィルアデス大陸の東部にて、多数の国がいきなり出現した。
北は日本、韓国、台湾。東南アジアやオーストラリア、そしてオセアニア諸国。そしてスリランカとパキスタンを除いたインド地域。
それらは第三文明圏の近くに同時多発的出現し、それが地殻変動を起こし、地震を引き起こしていた。
これは偶然にも、かの地球で『インド太平洋』と呼ばれた地域であった。
いかがでしたか?
というわけでインド太平洋諸国召喚でした。
今回の作品ではインド太平洋地域の国々がフィルアデス大陸の東部に召喚された他、インドがフィルアデス大陸と地続きになります。
その他、日本、韓国、台湾、オーストラリアや東南アジア諸国に関する動向もいろいろ書きますのでお楽しみに。