自由インド太平洋諸国召喚 作:自由で繁栄した海洋国家
今回から話が大きく進みます。
西暦2025年1月15日夜明け前
日本国 首都東京
インドから遠く離れた地、日本国の首都東京にて。有事に備え、不眠不休で危機管理センターに篭っていた武田 実成 日本国総理大臣は、首相官邸のテレビ会合に出席していた。
この時、日本でもアメリカやヨーロッパ各国との連絡が途絶え、混乱に陥っていた。さらにはGPS衛星等とも音信不通となり、各地のインフラに被害が出始めている。
そんな事態の中、日本政府は連絡の付いたインド太平洋の各国と情報共有を行うべく、緊急でテレビ会合が行われる事となった。テレビ会合に各国が集まったのを受け、会合が始まる。
「それではこれより、インド太平洋諸国による緊急会談を行います」
と、日本側の通訳が言葉を発したその時、各国の首脳が首を傾げた。武田総理はそれを見逃さず、共通言語とされている英語で聞いてみる。
「どうかなされましたか?」
『いや……勘違いでしょうか?今英語通訳を交わす前に言葉が通じたような……』
『奇遇ですね……私も何か、自動で翻訳されたような気がします』
確かに言われてみれば、インド太平洋諸国の首相らが話している言葉が、手に取るようにわかった気がしている。いや、間違いなく通じている。言葉も言語もバラバラにも関わらず、意味が通っていた。
このテレビ会合の機器に、言語を自動で翻訳して音声を流す機能などなかったはずであるが、何が起こっているのだろうか。会議が始まるよりも先に、武田首相は嫌な予感を感じてしまう。
『まあまあ、何か不思議な現象が起こっているようですが、今は各国の方針をすり合わせるのが先決です。会談を続けましょう』
『そうですね……続けましょう』
シンガポールの首相が会談を続けるように促すと、各国は一旦その問題を置いておいて、先に本題に入り始めた。
まず議題として、インド北西部において発生した巨大地震についてが挙げられた。その中でモルナディ首相は日本やオーストラリアなどに衛星で偵察してもらうよう要請してが、武田首相はそれは難しい理由を説明した。
『……つまり、日本でも偵察衛星は音信不通になっていると?』
「はい。申し訳ありませんが、我が国も衛星に関しては同じ状況なのです」
武田総理はインドのモルナディ首相に、日本の衛星状況を伝える。
「貴国の方で衛星が音信不通になったのと、ほぼ同時刻でしょうか……我が国が管理していた気象、GPS、偵察情報衛星の全ての更新がシャットアウト。現在、衛星を確認することすらできておりません。なので申し訳ありませんが、こちらも地震被害の確認はできない状況なのです」
『なんと……貴国もですか?』
武田首相がそこまで言い終えると、頭を抱えるモルナディ首相に代わって、オーストラリアのダグラス大統領が言葉を発した。
「となると、オーストラリアも?」
『はい。我が国の偵察衛星も同じような状況でして……さらに言えば、天文観測所からは"星の位置が違う"などの報告も上がっております』
「なんと……それは我が国も同じです」
と、日本とインド、そしてオーストラリアの首脳が頭を抱える中、韓国こと大韓民国の仁西門 大統領が挙手し、発言を求めた。
『韓国です。ただ今入った情報なのですが、かなり大変なことになりました』
「……何が起こったのですか?」
『それが……』
仁 大統領は手に持った資料に目配せをすると、咳払いを挟んで話を続けた。
『この会談が始まる前、北朝鮮との国境警備隊から不可解な連絡がありました。なんでも"北朝鮮の方角に海が広がっている"と』
「海、ですか?」
『はい。そして空軍の偵察機急いで調査に向かったところ、たった今北朝鮮が消滅していることを確認したとのことです』
どういうことだと、会合に出席した各国首脳は大きく動揺した。今までアメリカやヨーロッパ諸国と連絡が取れないことは確認されていたが、ここに来て国境を接する国までもが消えているとは、大きな衝撃である。
そんな動揺が広がる会合の最中、今度は台湾の蕭 語彤 総統が挙手をし、発言を求めた。
『台湾です。こちらでもたった今、金門島をはじめとした中国との国境線地帯が消滅していることを確認しました。陸地が完全に消えているとのことです』
「まさか、中国までもが消えたと?」
『はい。しかし、近海にて活動を行っていた中国軍艦艇などは未だ健在な為、警戒は怠るべきではないかと』
台湾の言葉を受け、東南アジア諸国の国々も挙手し、半信半疑だった国境線の状態を報告してきた。
『それに関しては、我がベトナムも同様です。中国との国境線がなくなり、海が広がっておりました』
『我がタイに関しては、ミャンマーが確認できておりません。おそらくですが、中国、北朝鮮と同様に消滅したと思われます』
「となると、インドの方は?」
武田首相は、再びインドのモルナディ首相に向けて問いかける。
『……我がインドでは、中国、パキスタンとの国境線にて大規模な地震があった後、国境線の確認ができておりません。夜が続いていましたし、地震の被害への救助に人員を充てておりましたので』
『でしたら、今すぐ確認に向かった方がよろしいかと思います。まずは何が起こっているかの把握が必要です』
『そうですね……分かりました。被害を受けていない空軍基地から偵察機を発進させます。それで何かわかったなら、再び報告させていただきます』
インドのモルナディ首相は偵察機の派遣を決意すると、すぐさま隣に控えていた官僚にそのことを伝え、軍へと指示を送った。
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中央暦1639年1月15日早朝
パーパルディア皇国南東部
この頃、パーパルディア皇国の陸軍では南東部で発生した大規模な地震を受け、援軍が派遣されていた。
南部の都市とはいえ、この後に応じて蛮族達が攻めてきてもおかしくない状況であるため、各地の無事な駐屯地から戦力を移動させて警戒に当たっていたのだ。
もちろん、彼らは自国民の救助という任務も帯びている。そのため戦闘体制のワイバーンロードの後方には、荷物運びの火食い鳥などが随伴しており、そこには大量の物資などが詰め込まれている。
「なるべく急がなければな……」
ワイバーンロード隊の隊長は、伝令から伝えられていた被災地の状況が、とても深刻であることを知っていた。なのでなるべく多くの火食い鳥を動員し、急いで被災地に物資を届けようとしている。
おそらくだが、現地の橋は地震で崩れて被災地への救援が滞っている可能性もある。そうなれば、頼りになるのは自分たち空輸部隊だけであった。
だが、そんな時。
彼らの行軍を混乱に陥れる、ナニカが近づいていた。
「隊長、南東の空に何か見えます」
「ん?」
副官が指を刺す方向を見て、隊長は目を凝らしてそれを確認しようとする。日が登ったばかりの朝靄の中、何かの黒い影が近づいてきている。
「なんだあれは?」
隊長がそれの正体を確認しようと思ったその瞬間には、その物体は猛スピードでこちらに近づいていた。
「ッ!散会しろ!!」
隊長は咄嗟の判断でそう伝えると、部下達はそれに従って左右に避ける。
そしてその左右に分かれた真ん中を、突っ切るようにナニカが高速で飛行し、すれ違った。その爆音と風圧により、竜騎兵の隊列は乱れ、ワイバーンロードも驚いて暴れてしまう。
「とうどう!どう!」
相棒のワイバーンロードを落ち着かせると、そのナニカを目で追う。
「なんだあれは!?」
その物体は、羽ばたきもせずに猛スピードで空を駆け抜け、後方の火食い鳥の方向へと迫る。
「避けろっ!!」
思わず大声で叫ぶ隊長。
荷物をぶら下げていた火食い鳥部隊は、咄嗟にその荷物を捨てることで身軽となり、その物体を避けることに成功した。
しかし物資は地上に向けて落下していき、そのまま地面に衝突。中身は粉々に砕け、散乱し、無駄になった。
「ぶ、物資が……」
本来なら被災者を助けるはずだった物資は、届け切る前に無駄になってしまった。その怒りを込め、竜騎兵隊長は拳を握りしめる。
「くそっ、なんなんだあれは!」
「追いますか!?」
「いや、あれは追いつけん……飛行場に連絡しろ!」
「はっ」
この機体の情報は即座に魔導通信によって共有され、近くのワイバーンロードの飛行場にスクランブル発進が掛けられた。
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西暦2025年1月15日早朝
インド空軍 Su-30MKI 戦闘機
時を少し巻き戻して……
パーパルディアの上空を進む、一機の戦闘機がいた。轟々と空気を切り裂き、濃い灰色の塗装にオレンジのラウンデルが目立つこのカラーリングの機体は、インド空軍のSu-30MKI 戦闘機である。
この機体は元々、ロシアで開発されたSu-30のインド向けライセンス生産型であり、インド空軍の主力でもある戦闘機だ。
元々インドは中国に対しては対立姿勢を見せていたが、ロシアに対しては中立姿勢を見せていた国である。そのためこの機体に関しても、ウクライナ侵攻後もライセンス生産が続けられていた。
この機体は、インド内陸部の被害を受けていない地域から発進し、偵察任務を完遂するべくEL/M-2060P偵察ポッドが搭載されている。
「チェックポイント・タンゴを通過……これより先は中国があった場所だ」
パイロットが操縦を担当し、コパイ席が現地の地形情報を確認しつつ、データに蓄積していた。しかしそのデータを過去のものと照らし合わせると、かの中国の地形とは全く異なっていることがわかる。
「これは……港町か?しかし、海が干上がっている」
「ああ、俺にも見える。とても中国の街並みとは思えない」
上空2000mほどの比較的低い高度を飛び、中国が存在していたであろう地域を飛び続ける。しかしその地域は、中国内陸部の様相とは全く違っており、地形や建物のデザイン、さらには干上がった海岸線など、どう見てもおかしな点がいくつもあった。
「一体どこなんだここは……どこの国なんだ?」
「さぁ……俺もこんな土地は初めて見る。建築物はヨーロッパ風か?全部倒壊してて詳しく分からんな……」
二人のパイロットがこの不可解な現象に首を傾げ、頭を抱える。いきなり中国が消滅したと思ったら、見たことのない土地が出現したのだ。困惑するのも無理はない。
しかしそんな風に首を傾げていた時、レーダーに新しい目標が映ったことを示すアラートが鳴り響く。コパイは気持ちを切り替え、レーダーの画面を確認した。
「レーダーコンタクト、ボギー16、速度160ノット、扇状に展開。距離は……近いぞ」
「何、飛行物体だと?」
コパイの言葉を受け、パイロットが詳細を確認する。
「この速度はヘリか?いや、だとしたら目標が小さすぎる……」
「ビジュアルコンタクトまでは何秒だ?」
「およそ50秒。どうする?」
「目視で確認する、それからだ」
「了解」
パイロットの決断を受け、Su-30MKI 戦闘機は機首の方向を転換。その不明目標が向かってくる方向に向け、真正面から対峙するように機首を向けた。
「そろそろ見えるぞ……真正面!」
「くっ……!」
パイロットが直進を選択した結果、謎の飛行物体の方から避けてくれたおかげで、空中衝突は避けられた。コパイはすれ違った目標を見て、目を見開かせて驚いた。
「そんなっ……ドラゴンだ!ドラゴンとすれ違ったぞ!」
「まだだ、真正面!」
謎の目標とすれ違った後、真正面の新たな目標に急接近する。そこでパイロットは機首を急上昇させ、その目標との衝突を避けた。
その際、コパイはまたも不明目標の詳細を目にして、今度は口をあんぐりと開けて塞がらなくなった。
「人を乗せた、巨大な鳥だと……」
「あれは……何かわかるか?」
「いや、俺が知りたいくらいだ。なんなんだあれは?ドラゴンみたいな巨大な飛行生物に、人を乗せた巨大な鳥……俺たちは神話の世界に来ちまったのか?」
「分からない……ただ、もう少し調べてみる価値はありそうだ。少し高度を上げるぞ」
「了解した……」
そうしてインド空軍のSu-30MKI 戦闘機は高度をさらに上げ、パーパルディア国内の偵察を続けた。
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中央暦1639年1月15日早朝
パーパルディア皇国南東部 陸軍駐屯地飛行場
一方のパーパルディア皇国軍は、謎の飛行物体の出現により大騒ぎになっていた。
地震への対応にもかなり混乱しているのに、そんな最中に所属不明の飛行物体が出現したのだ。混乱するのも無理はない。
「急げ急げ!もっと飛ばせろ!」
「次だ、次のワイバーンロードを上げろ!!」
遥か上空、それこそワイバーンロードですら届かないような超高高度を飛ぶインド空軍のSu-30MKI 戦闘機に対し、パーパルディア陸軍のワイバーンロード隊はなんとか迎撃を行おうと必死になっていた。
とにかく高い高度を飛ぼうと工夫を凝らし、近隣の山から出撃したり、段々ロケット方式で息継ぎをしたりなどしているが、それでもSu-30MKI 戦闘機の陣取る高度には届かず、何騎かは墜落しかけていた。
「くそっ……いいように見下ろしおって……」
基地司令はそんな状況を憂い、苦虫を潰したように空を見上げた。
「地震の最中を狙って偵察とは、なんと卑怯な……」
「ですが、我が軍にはあの物体を撃ち落とすことはできないようです。悔しいですが……」
「そうだな……今のところ攻撃はしてこないのが幸いか」
そうしてしばらくワイバーンロード隊の努力が続いたが、それも虚しく、未確認飛行物体は高速で南の空へと帰って行った。その後ろ姿を見て、基地司令はため息をつく。
「帰って行ったか……よし、そろそろワイバーンを引き上げて──」
そうして基地司令がワイバーンロード隊を帰還させようとした、その時であった。
足を掬われるような大きな地揺れと共に、地面が激しく地割れを起こした。
「な、なんだ、余震か!?」
「危ない!!」
副官が基地司令を庇おうとしたその瞬間、基地の宿舎を構築していたレンガの壁が崩れ、二人は生き埋めとなった。
この時、再び巨大な地震がこの地域一帯を襲った。
しかも、ただの地震ではない。
この地揺れにより地殻変動が発生し、インド北西部とパーパルディア皇国の南東部の海域の地面が隆起した。
その影響で両地域では天変地異もかくやの地形変化が発生し、多くの街で土砂崩れや建物の崩壊、さらには地割れなどが発生した。
その地殻変動の結果、インドとパーパルディアの両大陸の海域が完全に干上がり、陸地が出現する。
インドとパーパルディアが、地続きになった瞬間であった。
いかがでしたか?
というわけで、今回の話の肝になるインドとパーパルディアの地殻変動でした。
原作ではこういう天変地異はありませんでしたが、今作ではインド太平洋という大きな物体が転移したわけですから、そりゃ大変なことになりますよね、という感じです。
次回からはさらに変革が進むと思うので、お楽しみにです。