自由インド太平洋諸国召喚 作:自由で繁栄した海洋国家
西暦2025年1月15日昼頃
日本国 首都東京
インド太平洋諸国の会談の最中、インドのモルナディ首相の回線が突然途切れた。ビデオが突然オフラインになったことを受け、一時会議は騒然としていた。
しかしその後、インドから各国に対して連絡があり、どうやら大規模な余震が発生した為に回線が途切れてしまった、ということを伝えられた。
今はその回線を復旧している最中であり、ビデオ会談は中断されている。そして回線切れからしばらく経つと、再びインドのモルナディ首相が回線に入り、ビデオが映った。
「おお、ご無事でしたか?」
『大丈夫ですか、相当大きな余震だったようですが?』
日本の武田首相を含め、各国から心配の声が上がる中、インドのモルナディ首相は汗をハンカチで拭うと、深妙な面持ちで言葉を発した。
『……ええ、大丈夫です。一部シャンデリアなどが落下するなどしましたが、政府関係者に怪我人は居ませんので』
『そうでしたか……』
『……それよりも皆さん、回線切れの最中、我が空軍の偵察機が帰投したとの報告が上がりました。その旨について、改めて報告させていただきます』
モルナディ首相が資料を新しく手に取り、再びハンカチで冷や汗を拭いつつ、報告を始めた。各国の首相や大統領らも、その報告に対して固唾を飲む。
『……まず結論から言えば、偵察機は中国大陸を発見できませんでした』
『なんと……!』
『やはり、ですか……』
『しかもパキスタン側にも偵察機を飛ばしていたのですが、こちらもパキスタンは発見できず、広大な海が広がっていました』
『パキスタンも……ということはつまり──』
『はい、おそらく他の国も同じような状況にあると思われます』
各国の首相、特に中国と国境を接していた国々の首相らはその報告を聞き、確信を受けた。
彼らとて中国が消えているのは確認しており、それらのみならずアメリカやヨーロッパ、中東地域まで消えているだろうという予測も立てていた。情報が集まってくるにつれ、薄々そんな感覚が芽生え始めていたのだ。
『……どうしますか?ここにいる国々の中には、食料自給率の低い国もあります。主要な輸入先が無くなった以上、時間的猶予もなくなっていきます』
『一応、食料に関しては我がオーストラリアが食糧を輸出できない事はないです。ですが、燃料に関してはこの地域のみですとさらに時間的猶予が少ないです』
各国の首脳がタイムリミットの懸念する中、インドのモルナディ首相はそれに繋がる報告を行う。
『その件に関してです。実は旧中国国境線の方面に、地図に載っていない謎の大陸が出現しているとの報告を、偵察機より受けています』
『謎の大陸、ですか?』
『はい。現地の建物や地形を見るに、中国の本土とは全く違います。地図に載っていない新大陸かと思われます』
インドからのその報告を受け、各国の首脳らは大きくどよめいた。それもそのはず、中国大陸が無くなったかと思ったら地図に載っていない新大陸が現れた、という情報が舞い込んできたのだ。一体何が起こっているのか、各国の首脳らに不安が広がる。
「……まさか、ここは別の惑星なのでは?」
『タケダ首相、それはどういう?』
「私自身も荒唐無稽であり得ないことだと思いたいのですが……やはりこの一連の消失現象は、何かの転移現象かと」
その言葉を受け、各国の首脳らは息を呑む。武田首相は詳しい憶測を語るため、言葉を続ける。
「アメリカやヨーロッパなどが消えたのではなく、我々インド太平洋諸国が別の惑星に転移したと考えるべきです。中国大陸の消失も、新大陸の存在も、そう考えれば繋がります」
『た、確かにその可能性は無きにしも非ずですな……』
『我々が地球から消失したのなら、衛星網が全て消失したのも頷けます。となると、事態は相当まずいですな……』
各国の首脳らが頭を抱える中、武田首相はインドのモルナディ首相に対して語りかける。
「モルナディ首相、私としては早急にその新大陸への調査を行うべきだと思われます。もしその地域に新しい国が存在するならば、すぐにでも国交を成立させ、各種資源の供給を安定させるべきです」
『そうですな……確かに、事態は急務のようです。我が国としても新大陸への調査隊を編成して現地入りさせます。また報告があれば、その時に』
こうして各国の状況を鑑みて、インド政府は軍に対して新大陸への調査隊を編成。ヘリコプターなどを用いて旧国境線を渡り、新大陸への調査に向かった。
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中央暦1639年1月15日
パーパルディア皇国 皇都エストシラント
一方、地殻変動が起こりインドと地続きになったパーパルディア皇国では、それは相当な大騒ぎになっていた。
皇都エストシラントの政府中枢であるパラディス城では、常に文官や幹部らが駆け足で廊下を駆け回り、様々な報告が流れてる。
皇都エストシラントへの地震の影響もあり、このパラディス城も無傷ではない。それなりに頑丈に建築されているが、柱やアーチなど所々にヒビが入り、それを木の張りで補強をしている状況だった。
「陛下、工業都市デュロにおける設備の無事が確認されました。先程の余震の影響はなさそうです」
「分かった。引き続き報告を頼む」
「陛下、どうやら南部の沿岸部を中心に被害が多いようです。中には魔信が音信不通になっている場所もあります」
「……わかった。現地の被災状況を、軍を用いて確認させてくれ」
「はっ」
そんな危ない状況の中、パーパルディアの皇帝ルディアスは被災地の情報収集に努めていた。とにかく部下たちに情報を集めさせ、それを集約していた。
地震計測器などが存在しないパーパルディアでは、震源地がわからない問題があったものの、断片的な情報から南東部が一番被害が大きいということは把握していた。
「ルディアス陛下、大丈夫ですか?」
「……ああ、レミールか」
地震発生から半日ほど、飲まず食わず休まずで事態への対処を行うルディアスを心配したのか、皇国皇女のレミールが横から語りかける。
「しばらくは大丈夫だが……また余震がないか心配だな。特に、さっきの余震は大きかった」
「地震は一度治っても、しばらくは警戒が必要な災害ですゆえ、仕方のないことです」
「そうだな、全く神も意地悪なことだ」
皇女レミールはそんなルディアスの様子を見て、疲れ気味の彼の隣に立ち、そっと寄り添う。
「……レミール、属領の様子はどうだ?」
「今の所目立った反乱や、その兆候はありません。被災地域以外は食料が不足しているわけではありませんので、しばらくは問題ないかと」
そう、彼らが抱える問題は何も地震だけではない。そもそもこのパーパルディアは、内外に多くの問題や不満を抱える国であるのだ。
ルディアスらがこれほどまでに地震への対策に注力するのは、この混乱の隙にパーパルディアが保持している属領が反乱したり、反旗を翻したりしないかを警戒しているからに他ならない。
そのため彼らの対策としては、地震への対処、自国民の救出のみならず、属領の反乱防止なども含まれている。とにかくこの国は、土台が崩れたら終わりに雪崩れ込んでいく危険性があるのだ。
「だとしたら、安定してきた頃に被災地への資金支援を強化しなければならないな。他の属領からは不満が出るだろうが、仕方あるまい」
「そうですわね……我が国の足元で反乱を起こすわけにはいきませんからね」
「特に南部は海軍の拠点が多く点在する土地だ。あそこが反乱されては、我が国の安全保障に関わるからな」
ルディアスとレミールがそんな会話をしている最中、幹部の一人であり、臣民統治機構長のパーラスが二人の目の前に駆けつけてきた。息を切らしながら、報告を行う。
「陛下、申し上げます!」
「どうした?」
「かねてより交信を試みていた南部の港湾都市のいくつかと、通信が完全に途絶したことを確認しました。どうやら近隣の街によると、近くで大規模な地殻変動が発生した模様で……」
「なにっ、地殻変動だと?」
ルディアスはその報告を聞き、王座から立ち上がる。
「はい。地殻変動に巻き込まれた街は壊滅し、通信が取れない状態にあるとのことです」
「……街の状況は?」
「現在確認中ですが、街へ続く街道や河川が氾濫し、安易には近づけない状況です」
その報告を受け、ルディアスは顎に手を添えて考える。地殻変動がどれくらいの規模かはわからないが、街の一つと通信がつながらないとなれば、相当大規模な地殻変動だと予測される。
となると、早急に現地の状況を確認しに行ったほうがいいかもしれない。そこまで素早く考えると、ルディアスは皇国軍最高司令官のアルデを呼ぶことにした。
「……アルデ、こっちに来い」
「はっ、なんでしょうか?」
アルデは素早くルディアスの下へ移動すると、片膝で跪いた。
「被災地にて大規模な地殻変動が発生したようだ。被災地の状況は深刻なようで、道が崩れている。ここは、悪路に慣れている軍人らに調査を任せたい」
「南部の都市ですね、了解しました」
「頼んだ」
そう聞いたアルデすぐさま皇国陸軍の将軍らを呼び、すぐさま先程の命令を伝える。そんな様子を横目に見つつ、ルディアスは考える。
「一体、何が起こっているのやら……」
あまりにも突然に発生した災害は、列強国ですらも飲み込んでいた。
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西暦2025年1月15日
インド北部 旧中国国境線
インドと中国の国境線には、実効支配線という概念がある。これは1962年の中印国境紛争の後に制定された、インドと中国の支配地域を分ける実効支配線である。
1996年の協定では、「どちらの側の活動も、この実効支配線を超えてはならない」と規定されている為、不法侵入はおろか、線域内では武器の持ち込みすら厳しく制限されている。
いわば、冷戦期から現代にまで続く緊張地帯なのだ。その実効支配線の地域には、当然の如く国境警備隊の監視所が建てられ、24時間この地域を監視し続けている。
「……霧が晴れない」
国境付近での大地震の後、混乱から復帰したインド国境警備隊の監視員たちは、岩陰に身を隠して国境線の霧を見つめていた。
簡素な作りだった監視塔も壊れて倒壊した為、彼らは手頃な岩陰に身を隠すしかなく、さらに先ほどから霧が晴れない為に視界も悪い。コンディションとしては最悪、いつ奇襲を受けてもおかしくなかった。
「サーマルスコープを持ってきましょうか?」
「ああ、頼む。さっきの地震で壊れてないやつがあれば良いんだが……」
それでも彼らが警戒するのは、やはりこの地域が緊張地帯であるからだろうか。インドでの地震に乗じて中国が国境線を超えてくる可能性は、無きにしも非ずなのだ。警戒は怠れない。
しかし彼らは知らなかった。この霧の先に広がっているはずの中国は、転移によって消えているということを。
インド政府は中国消失の情報を掴んではいたが、混乱を避けるべく末端の兵士たちには伝えていなかった。
それが、大きな悲劇を生むことになる。
「隊長、前方700mほどに人影がいます」
「何っ」
隣で双眼鏡を覗いていた兵士の一人が、怪しい人影を発見したのを受け、国境警備隊の隊長も双眼鏡を持つ。
レンズを覗き込めば、まだ霧や靄が広がる国境線のラインに、数人の人影が見えた。人数的には十人ほど、しかも武器らしき長い棒を持っている。
真ん中の背の高い人物が、馬のような物体に跨って周りを見渡しており、何かを探しているようにも見えた。服装や人種などは、霧のせいでよく見えない。
「あれは誰だ?」
「分かりません。しかし、奴らは実効支配線を超えています」
部下が少し焦っているのか、ライフルを構えながら隊長に言う。
「まさか……中国軍の前哨部隊でしょうか?」
「この高所地域ならば、中国軍が馬を使うこともあり得なくはありません」
「焦るな。ここは警告を行う、拡声器を貸せ」
焦る部下を宥め、隊長は拡声器を手に取る。そしてスイッチを入れ、700m程先の人物らに警告を促す。
「そこの騎馬隊、止まれ!これより先は我がインドの国境線である!!直ちに退去せよ!!」
拡声器で相手に訴えると、言葉が通じたのか、一度行軍が止まった。そしてしばらく周囲を見渡すと、馬に乗った指揮官らしき人間が大声で何かを言い返す。
「〜!!〜〜〜ッ!!」
しかし、その声ははあまりに遠すぎてインド国境警備隊の陣地には聞こえなかった。
「……なんて言っているんです?」
「いやダメだ、遠すぎて聞こえん」
「相手はまだ退去してくれません、どうしますか?」
しばらく双眼鏡で相手の動向を観察するも、相手の馬に乗った人間は続けて大声で何かを訴える。しかし、しばらく経っても何も状況が一変しない。
隊長が再び拡声器で退去を命じようとしたその時、馬の指揮官らしき人物が部下をその場に置き、馬で近づいてきた。
「馬が走ってきた……!」
「くそっ、国境線を越えてきやがった」
隊長は相手の騎馬がインドの国境線を越えてきたと判断し、国境警備隊の規定に基づき、彼を射殺することを選ぶ。
「狙撃隊、相手の騎馬を我が国への不法侵入者として射殺する」
『了解、射殺します』
後方に控えていた狙撃隊が、インド国産の対物ライフルである"Vidhwansak"を構え、騎馬の人物に向けて狙いを定める。そして狙いをつけると、即座に迷いなく引き金を引いた。
対物ライフルの銃口から、大口径の弾丸が放たれ、音すら置き去りにして、目標に突き刺さった。弾丸は馬の首元を貫通し、そのまま指揮官の腹元を抉り、一人と一頭を一瞬で絶命させた。
馬は倒れ、指揮官は上半身と下半身が二つに分離し、そのまま落馬する。その様子は、500mほど離れていた国境警備隊の陣地からも確認できた。
『ヒット、目標は即死』
「よくやった狙撃隊、しばらく待機しろ」
国境警備隊の隊長は、再び双眼鏡を覗いて今度は奥の人影を見る。先程指揮官が置いてけぼりにした、部下と思しき兵士たちだ。
彼らは大きく動揺しているのか、尻餅をついたりしている兵士もいたが、即座に指揮を引き継いだ代わりの人物が何か言葉を発すると、兵士たちはゆっくりと引いていく。
警戒体制を解かずにゆっくりと後退りしていき、しばらく経って、霧の向こう側に彼らは消えていった。
「アイツら、一体……?」
「隊長、死体の状態を確認しますか?」
「……ああ、誰か行ってきてくれ」
隊長の指示を受け、部隊で一番若い兵士が頷き、死体の方向へ駆け出していった。残った兵士たちは他に攻撃がないかを警戒し、周囲を見張る。
『……隊長、死体にとりつきました。ですがこの死体、何か変です』
「どうした?」
『中国人の顔つきじゃありません。武器や装備も、妙に古臭い。それにこれは……マスケット銃です』
「なんだと?」
隊長は死体を見聞している兵士からの通信を受け、首を傾げる。
確かにここら一帯の地域は、武器の持ち込みが中国との協定で厳しく制限されており、いっとき兵士たちが投石機しか持っていなかったこともあった。
それを鑑みれば、マスケット銃を持ってくるのは法のすり抜けとしてはあり得るかもしれないが、それでも銃は銃だ。制限されているのは変わらない。
「一体、何が起こっているんだ……?」
若い兵士が持って帰ってきた武器や装備を見て、隊長は何か大変なことをしてしまったのではないかと、冷や汗をかいた。
事実、この時インド国境警備隊が射殺したのは、地殻変動の知らせを受けて編成されたパーパルディアの調査隊だった。
その彼らを、規定に乗っ取ったとは言え射殺した事が、後に大きな波紋を呼ぶことになる。
いかがでしたか?
というわけで今回、インドで大変な事態が巻き起こりました。
これが今後、更なる波紋を呼ぶことになります。