自由インド太平洋諸国召喚 作:自由で繁栄した海洋国家
申し訳ありません。
中央暦1639年1月16日
パーパルディア皇国南東部
印中国境線にて事件が発生したのとほぼ同時刻、パーパルディア側の地殻変動が起きた地域に、十数人以上の調査団が足を踏み入れた。彼らはパーパルディア皇国軍から派遣された、臨時編成の部隊である。
「これは……酷いな」
あの時発生した大規模な地殻変動は、パーパルディア側の地域にも大きな被害をもたらしていた。
優雅さと美しさを重視したパーパルディア式の建築は、地震対策が全くなされておらず、このような大規模な災害に弱かった。
そもそもフィルアデス大陸では地震など滅多に起きないことも、そのような建築になった要因の一つではある。
しかしそれにしたって、今回調査団が目の当たりにした惨状は酷いものだった。
建物は崩れ、地形は地図の様相とは全く打って変わり、地面がひび割れ、隆起し、崖や小高い丘ができてしまっている。巻き込まれた人々は、倒壊した建物や隆起した地形に巻き込まれ、その姿が消えていた。
「うっぷ……」
「死体はあまり見るな、吐きかねん。しかし……これで生存者はいるのか?」
あまりに酷い惨状を見た比較的若い兵士が、思わず胃の中のものを逆流させかける。馬に乗って指揮を取る士官も、あまりの酷い惨状に顔を顰める。
彼が言った通り、ここまで酷い地殻変動が起こった状況下で、奇跡的に生き残った生存者がいるとは思えない。
「そもそも……何故このような事態に」
士官はあまりに突然起きた地震と地殻変動に、タイミングの悪さを歯軋りした。するとそんな様子の士官を見た副官が馬上から近づき、士官に耳打ちをする。
「兵長、このような惨状です。騒ぎに乗じて我々を狙う輩がいないとは限りません、警戒しましょう」
「そうだな。例の未確認飛行物体の件もある、災害に乗じて我が皇国を狙う可能性も、無きにしも非ずだ」
確かにここまで酷い地殻変動、自然の仕業だけとは思えない。そもそもこの地域に地震など滅多に起きず、あったとしても小規模な地揺れ程度だ。
となると、地震はともかく地殻変動や建物の倒壊は、人為的に引き起こされた可能性がある。もしかしたら皇国を狙う不届きものが、侵略への足がかりとして地震を起こしたのかもしれない。
「総員、警戒は怠るなよ!戦闘体制で一箇所に固まれ!」
「はっ!」
士官はそう言って指示を飛ばし、兵士たちをなるべく集合させる。そして手に持ったマスケット銃に弾薬を込めさせ、いつでも撃つことができるようにする。
「ん?」
そしてそのまま街の跡地を進んでいた最中、士官は目線の先の丘上に、何か奇妙なものを発見した。
何人かの人影が居て、その後ろには鉄でできた箱のような物体が転がっている。箱の上には風車のような物が搭載され、昔士官学校で見た、第二文明圏の列強国ムーが保有する飛行機械の送風機のようだった。
「あれはなんだ……?」
「生存者でしょうか?何かを話してます」
士官と副官は、まだ遠くにうっすらと見えるその人影を見て、分析しようとした。しかし答えは出ず、人影らは丘の向こう側に消えていった。
「……行ってみるぞ、直接聞き出す」
「しかし、奴らが盗賊だった場合は……」
「問題ない。その時は蹴散らせばいいのだ」
そう言って士官と数十人の皇国兵らは、固まったまま早歩きで駆け出し、その現場へと向かった。
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西暦2025年1月16日
インド北西部 ジャンムー・カシミール連邦直轄領
インド空軍の傘下には、専門の特殊部隊がいる。それがいわゆる、ガルダ・コマンド部隊だ。
ヘリボーンやエアボーン、さらには陸軍と連携しての特殊偵察や対テロ対策などを行い、その規模は1500人から2000人ほど。
そんな彼らは、地震による地殻変動で陸続きになった未知の新大陸への調査という名目で、インド国産のドゥルーブ汎用軽ヘリコプターを用いてこの地域に降り立ったのだ。
パーパルディア皇国軍の調査団が見つけたのは、その先遣部隊だった。
彼らは不測の事態に備え、実弾とフル装備の武器を支給されている。イスラエル製のIMI タボールAR21や、L1A1 セルフローディングライフルなどの装備だ。
「酷い有様だな……」
そんな彼らも、現地に降り立ってすぐの感想は皇国兵と一致していた。瓦礫や地形に埋まった死者を見て、兵士たちは気分を暗くしている。
さらに言えば、彼らが降り立った小高い丘は、どうやら避難所として使われていたようである。しかし最悪な事に、丘が地殻変動で崖となって崩れ、多くの人々がその下に落下死していた。
「……災害ってのは、どこも同じなんだな」
ガルダ・コマンド部隊の隊長はそう言うと、死者を弔って手を合わせた。
「大尉、どうやら生存者はいないようです」
「未曾有の大災害だな……ここでの死者数は十万人規模を超えるやもしれん」
「我がインドの方は、ここまで酷い状況ではありませんでしたが……やはり地震対策が未熟なのでしょうか?梁とか補強材とかが見当たりません」
「トルコ・シリアの地震の時もそうだなったな……あの地域も、地震対策がなされてないが故に、多くの建物が崩壊した」
「地震対策ですか……例えば日本のように頑丈な補強をつけたりとかですかね?」
「あそこまでできたらそりゃ万全だろうが、地震対策ってのは金が掛かるから全部は無理だ。それに……」
隊長は周囲を見て、何かを察する。
「この地域の建築レベルや技術レベルを見て、そこまで大規模な地震対策は無理だろうな」
コマンド部隊の隊長は、崩れた瓦礫や建物の様子を見て、建築レベルは近世辺りから進んでいないと分析していた。
当然鉄筋のような構造もなければ、ただ建材を積み上げて高い建物を作ったに過ぎない、地震のことを考えていない作りだ。
それを加味すれば、ここまで被害がひどくなるのは当然といえよう。コマンド部隊の隊長は、脆い家に住んでしまったこの地域の人々の不運に哀悼の意を表した。
「大尉」
と、コマンド部隊の隊長が手を合わせて追悼をしていた最中、側の部下が何かに気づいた。
「丘下から何か来ます」
「……本当だな、この音は馬か?」
丘下の方向、瓦礫に埋もれた街だった場所の方角から、馬の蹄のような音が聞こえる。しかもそれは段々と近くなり、馬が走る音に聞こえた。
そして隊長は目を凝らし、そして相手を発見する。地形に隠れた向こう側から、馬に率いられた多数の人間が現れた。
「そこの馬上の奴、誰だ!?」
「総員、構えろ」
副隊長がその馬と人間に対して銃を向け、隊長も隊員たちに向け銃器を向けさせる。セーフティも解除し、光学サイトを覗く。
そんな様子に臆する事なく馬は突き進み、ついにはコマンド部隊が集合していた場所にまで辿り着き、そして馬を嘶かせた。
「そこの貴様ら!何者だ!?」
「(白人?しかし、言葉が通じる……?)」
馬は丘上にたどり着き、コマンド部隊の周囲を半周すると、彼らを囲い込むように足をとめた。
コマンド部隊の隊長は、馬上の派手な服装をした人物が白人の顔つきであることを見抜いた。しかしその白人から発せられるはずの言葉は、何故かなんの通訳も必要とせずに通じた。
「ここは我がパーパルディア皇国の領土内である!貴様ら、どこからその銃器を持ち出した!所属を名乗れ!」
しかし、白人側の口から聞き覚えのない単語が飛び出し、隊長は首を傾げる。しかし相手が殺気を持っていることを受け、ここは下手に刺激してはならないと、隊長自ら前に出る。
「失礼、我々はインド軍の調査隊です。昨晩の地震の影響を受け、地形状況の確認に参りました」
「インドだと?そんな国は、このフィルアデス大陸には存在しない!貴様ら本当に何者だ!」
「なんだって……?」
自分たちからしたら、パーパルディア皇国という国の方が聞き覚えがない。しかし馬上の人物はこちらの事情を聞き入れる気配などなく、睨みを効かせる。
「……国土の不法侵入に関しましては、こちらとしても謝罪します。我々は、貴方方と敵対するつもりはない」
「黙れ!今すぐ立ち去れ!ここは我が国の領土であり──ッ!!」
その時、馬上の人物はチラリと見た横目に、多数の死体が見えたのを受け、恐る恐る背後を見た。
するとそこには、人が落ちて死ぬような高さの崖と、そこに埋められた多数の死体、ここの街の住民だった人々が横たわっていた。
「……これは貴様らがやったのか?」
「……何を言うのです?」
コマンド部隊の隊長が嫌な予感を手にしたその瞬間、馬上の人物は腰からサーベルを引き抜き、それを隊長へと向けた。
「答えろ!貴様らこの場で何をした!!」
「(まさか……俺たちが避難民を突き落として殺したと思っているのか?)」
そんなはずはないと思うが、コマンド部隊の隊長はその甘い思考を捨てた。
このサーベルを持った謎の武装組織は、避難民が自分たちによって殺害されたと思い込んでいる。
確たる証拠はないにしろ、彼らはこの状況を見てそう判断したのだ。殺気立っている上、臨戦体制であることから、説得は難しい。
「(どうする……?)」
「答えろ!返答次第では……」
コマンド部隊の隊長がどう説得するかを悩んでいる最中、馬上の人物は、腰にあるもう一つの銃を目にも留まらぬ速さで引き抜いた。
小型のフリントロック式のピストルは、コマンド部隊の隊長の背後にいた副官を狙って放たれ、胸に弾丸が当たった。ばたり、という土音を立てて副官は倒れ、出血を伴う怪我を負う。
「これだけでは済まん!貴様ら全員皆殺しに──」
「ッ!!」
部下が撃たれたと判断した隊長は、即座に反撃を行う。照準を向け、構え続けていたIMI タボールAR21の引き金を迷わず引く。
四連射ほどの短いバースト射撃が鳴り響き、馬上の人物を胸から頭にかけて、5.56mm弾が貫いた。馬上の人物は、言葉を言い終わる前に絶命する。
「こ、こいつっ……!」
「射撃自由、撃てっ!!」
敵から反撃されるより前に、コマンド部隊の隊長は射撃指示を飛ばした。隊員達も相手からの発砲を受け迷わず、残りの敵兵らにタボールの掃射を喰らわせた。
ものの数十秒で、辺り一体を囲んでいた兵士らは殺害され、物を言わぬ屍となる。
「ば、馬鹿な!」
「銃が連射だと……!?」
敵の兵士たちがあまりの火力の高さに狼狽し、慌てて背を向け逃げ惑おうとする。しかしそれを逃さず、選抜射手が逃げ惑う敵兵達の背中を狙い、L1A1の正確な射撃で撃ち殺していく。
しかし敵の副官らしき、もう一人の馬上の人物は、馬を使って猛スピードで距離を取る。選抜射手もそれを狙おうとするも、絶妙なタイミングで瓦礫に身を隠し、そのまま逃走した。
「大尉……」
「……今のはこちらの正当防衛だ。それより、こいつの救助を」
「は、はい!」
コマンド部隊の隊長は衛生兵に指示を出し、撃たれた副官を介抱する。防弾チョッキを脱がし、服の中がどう言う損傷かを確認する。
「隊長、相手の馬が逃げました」
「放っておけ、今はこいつの方が大事だ」
幸いにも撃たれた隊員に対して、弾丸は貫通しなかった。強力なボディアーマーが役に立ったのか、大口径ながらストッピングパワーが少ないマスケット銃の弾は致命傷を与えられず、その場に転がっていた。
しかし、彼らが取り逃がした馬の方は大変な事態を産む事になる。パーパルディア皇国側の調査隊が銃撃された報告は、上層部に伝わっていたからだ。
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中央暦1639年1月16日
パーパルディア皇国 皇都エストシラント
それから数時間と経たずに、逃した副官が得た情報は、パーパルディア皇国の上層部にまで伝わった。その報告の衝撃は、相当な物だった。
「我が国の調査隊が、蛮族に殺されただと!?」
パーパルディア皇国の長、皇帝ルディアスは怒りを露わにし、王座から立ち上がって叫んだ。
「はっ、調査隊からの生き残りからの報告です。まず第1調査隊は、地殻変動が起きた地域を進んでいる最中、地図にない地域を発見。そのまま進んでいたところ、謎の武装組織に銃撃されたようです」
「馬鹿な……地図にない地域だと?しかもそこには、我々を射殺するような奴らがいるだと?」
「はい。しかも二件目として、第4調査隊が崩壊した沿岸部の街への調査に向かっている最中、肌が黒い人種で構成された武装組織と遭遇。しかもその武装組織が、生き残った住民を崖下に突き落として虐殺した疑惑も見つかっているようです」
「まさか……そんなことが許されるのか……!」
そのことに衝撃を受けたルディアスは、持っていた資料を床に投げつけ、玉座にゆっくりと腰掛けた。混乱の最中に起こったあまりに大きな出来事に、疲労困憊だったルディアスは頭を抱える。
「……して、そいつらは何者だ?どこの国の奴らだ?」
「それが……生き残りの証言によると、武装組織は"インド軍"と名乗っているようです。インド共和国の、国軍であると」
「そんな国は聞いたことがないぞ……いや、しかしまさか……」
「おそらくですが、地殻変動によって現れた地域に新しい勢力が現れたものかと思われます。どう言うわけかは、分かりませんが……」
曖昧な答えであるが、ルディアスはあえて怒らず、歯軋りをするにとどめた。自分たちの国民を虐殺した敵の正体が分からないのは歯痒いが、彼らとしても地震への対応に追われ、情報が錯綜しているものと思われる。
「陛下、地図に載っていない地域の詳細は分かりませんが、これは我が国に対する明確な侵害行為です。ここは断固たる意志で反撃するべきかと」
皇国皇女のレミールがそう言う。確かにルディアス皇帝としても、このような地震に便乗した非道な虐殺行為や、皇国軍への銃撃などを見逃すわけにはいかない。
「……そうかもしれないが、今は少し待て、焦るな。そもそも、私はインドと言う国の存在を聞いたことがない。もしかしたら、何か重大な行き違いが生まれているのではないか?」
「陛下……」
しかしルディアスが冷静になって考えた通り、パーパルディアはインドと言う国の存在を聞いたことがない。
今まで国がなかった場所に地殻変動が起こり、国を名乗る者が現れた。国家転覆にしては、準備と展開が良すぎないか?と。
もしかしたら、今パーパルディアは混乱によって大きな行き違いをしているかもしれない。ルディアスは皇帝であるが故、それを見抜いていた。
「陛下!大変です、また事態が急変しました!」
「次から次へと……今度はなんだ?」
皇国軍最高司令官のアルデが駆け足で戻ってきたのを受け、ルディアスは理由を聞く。
「はっ、それが……海軍の哨戒からの報告です。先ほど報告に上がっていたインドという国の船が、エストシラントの沖合に現れました!」
「な、なんだと……!?」
その言葉を聞き、会議室は大きくどよめき、軍人らを中心として狼狽が巻き起こった。彼らが今さっき想定した最悪のシナリオが、今そこで巻き起こっているかもしれないからだ。
皇国軍の兵士を不意打ちで殺害し、調査隊に対して発砲して住民を虐殺した疑惑のある国が海上に現れたなら、やることは一つしかない。本土への本格侵攻である、彼らはそれを恐れていた。
「まさか、奴らの海上侵攻か!?」
「奴らは今どの辺りまでいる!?」
「それが……奴らの船は鉄鋼船一隻です。臨検を行ったところ、どうやら国交の設立を求めているようで、外交官が同乗しています」
「国交の設立だと……?」
本格的な海上侵攻を想定していたばかりに、国交を求められた事に対して、上層部の面々らは拍子抜けする。
しかしこちらに不意打ちに銃撃を起こした国だと思い出すと、話し合いを拒否し始める。
「我が国の兵士を不意打ちし、虐殺まで起こした国と話し合うことなどない!門前払いしてしまえ!」
「こちらも不意打ちだ!鉄鋼船がなんだ、戦列艦で囲んで殴り殺してしまえば──」
「待て」
軍人達が殺気に満ちた意見を挙げる中、ルディアスは一人、静かにそれを制した。
「外交官が乗っている以上、無下には扱えんだろう。たとえ蛮族が相手でも、外交だけはキチンとやるのが我々列強国の在り方ではないか」
「しかし……陛下」
レミールらがルディアスを見て、言葉で説得しようとするが、その前にルディアスは結論を述べた。
「まずは話し合いをして、言い訳でも聞いてやろう。それでもダメだった場合にのみ……奴らを潰せばいい」
ルディアスはあくまで冷静に、状況を鑑みる形での外交を許可した。それがインドとパーパルディアの戦争を止める、唯一のチャンスであった。
いかがでしたか?
と言うわけで今回、ルディアスがまともな判断をしました。
次回は外交回になります、お楽しみに。