「兄さん、もっと強く抱きしめてください」
突然だが俺の妹は妹としての距離感?というのがバグっている。そうはっきりと思えるようになったのは長きに渡る戦争が終わってからだ。邪竜ソンブルを倒して数ヶ月、エレオス大陸はすっかり平和を取り戻していた。
と言っても異形兵の残党が残っていたり山賊や盗賊がいたりと相変わらず大陸全土を見ると問題も残っているが以前のような国同士の戦争もなくなり、概ね平和になった。そんな感じだろう。
妹はつい先日、戴冠式で神竜王に即位した。妹は俺が神竜王になるべきだとか言ってくれた。けど今の時代、神竜として1番の功績を残したのは俺ではなく間違いなく妹だろう。それに関しては満場一致だった。
千年前・・・まだ邪竜だったあの頃からは想像もできない変化だ。ソンブルに謝ることがあるとすればあいつをこちら側に引き込んでしまったことくらいだろう。まあでもあいつは自分の実の父は大嫌いだったみたいだし、気にも留めてないみたいだけど・・・
そんなことを考えていたらすごく時間が経ってしまった。こうやって妹を抱きしめるのは構わないがたとえ家族だろうと恥ずかしいものは恥ずかしい。
「とりあえずもういいだろ。離れてくれリュール」
「???なぜですか?まだ抱きしめてから3分くらいしか経ってませんが」
なぜと頭にクエスチョンマークを出す妹だが・・・いや長いのよ3分は。普通ハグなんて長くても10秒から30秒くらいだろ。3分はいくらなんで長い。兄としてビシッと妹に言わなければ・・・
「リュール、あのな・・・」
「もしかして・・・兄さんはこうやって妹に抱きしめられるのは嫌・・・ですか?」
今にも泣きそうな顔をしてリュールは抱きしめたまま上目遣いでこちらを見てくる。まるで捨てられた子犬のようだ。
「グッ・・・その返しはズルいだろ」
「ふふっ、なら問題ありませんね。兄さんは妹のことが大好きですから抱きしめられるのは嫌じゃありませんもんね」
「・・・全く、それに関しては否定は別にしないが抱きつく時間にも限度というものがあるだろう」
「でもあの頃の・・・邪竜ソンブルの娘だった頃の
うん、そうだったな。確かにあの頃のリュールに家族としての愛情を教えたのは俺と母さん・・・ルミエルだけだった。と言っても母さんがあまりにもリュールを溺愛していた気がする。神竜ノ王・・・ルミエルの子は俺だけ。家族は祖父も祖母もそして父も俺が物心つく前に死んでしまった。
リュールは覚えてないかもしれないけど千年前もこうしてよくリュールを抱きしめてた気がする。俺がというよりは・・・母さんの方が多かった気がする。リュールは本質的に無理をするタイプだったからどうしても何かしらの方法でのガス抜きが必要だったから。
「兄さん・・・」
「今度はなんだ?」
「このまま頭も撫でてください。兄さんのことをもっと感じたいんです」
「・・・・」
無言で頭を撫でてやるとリュールは「兄さん、くすぐったいです」と言って頬を緩ませてとても喜んでくれる。それに関しては別にいいんだけど兄妹ってこういうものなのか?と思う時がある。
「いつも神竜として凛々しいリュールがこんなだらしない顔をしてていいのか?」
「こうやってだらしない顔をするのは兄さんと2人っきりのときだけですよ。兄に甘えるのは妹の特権ってセリーヌも言ってましたかから」
そう言いつつセリーヌ王女本人はあんまりアルフレッド王子に甘えてるところを見たことないんだよなぁ。アルフレッド王子は身体はあまり強くないしそういう意味でセリーヌ王女は兄のために強くなろうとしたわけで。
「私だって日々の業務で疲れてるんです、休みの時くらい兄さんが妹を甘やかすのは当然のことだと思います。本来なら家系図的には兄さんが次期神竜王だったんですから」
うんっ、ぐうの音も出ないわ。確かに正当にルミエルの血を受け継いでるのって俺だけだからなぁ。けど国を繋ぎ止めてこのエレオス大陸を平和に導いたのはリュールだ。それに・・・
「言っただろ?俺はリュールとみんなが作っていくこれからの世界が見たいって。神竜王にはならなかったけどリュールの望む限りは俺も力になっていくつもりだ」
だからといって頭をなでなでしてとか抱きしめてとかまたそれはそれで力になるという意味合いでは違う気がするけどリュール自身のわがままもこのレベルだと思うとすごく可愛く思えてくる。俺としては内政とか外交とかでもっと力になっていきたいという意味だったんだけどいかんせん守り人たちが有能すぎるのがなぁ。フランとクランに手伝えることはないかと尋ねたことがあるけど・・・
『神竜様たちがイチャイチャするのを見られるならどんな仕事もへっちゃらです』
『なので神竜様が休んでるときは安心してイチャイチャしててください』
『『神竜様たちがイチャイチャしてるだけでご飯3杯食べられますから!!』』
臣下が有能なのは喜ぶべきことだろうけど動機があまりにも不純すぎて頭を抱えてしまう。ヴァンドレにも聞いてみたけど動機はともかく守り人としてはあの頃に比べたら本当に優秀になったと言っていた。動機はともかくと2度言っていたけど・・・
その証拠にフランもクランも歴代でも最高レベルの実績を残してるらしい。ヴァンドレも正式に守り人引退しようかと考えているとかなんとか。
「まあとにかくもうそろそろいいだろ。リュール、いい加減離れてくれ」
「・・・」
「・・・そんな顔してもダメなものはダメだ」
心を鬼にしろ。絆されるな、妹とは言っても血の繋がりがあるわけじゃないんだ。やめろそんな目で見るな。俺の脳内がリュールを甘やかせと囁いてくるんだ。もう充分だろ。頼む・・・
「・・・わかりました。じゃあ最後にひとつだけお願いしていいですか?」
「いいだろう。それでやめてくれるなら聞いてやるよ」
もうそろそろ疲れてきたしな。そんなことを思っているとリュールはしてやったりという笑みを浮かべる。あれもしかしてこれ選択肢を間違えたのでは?
背筋が凍る音がする。なんだろう、軽い感じで引き受けたけどリュールはまるでこれを狙っていたかのような・・・
「私とキスしてください」
「却下だ!」
「なぜですか!」
えっ?どうしてみたいな顔をしてくる。リュールは千年間眠っていたせいで記憶の大半は吹っ飛んでるらしいがキスくらいの意味は覚えているだろ。
「なぜですか?って言われても普通しないからだろ」
「なぜですか。兄妹や家族、親しきもの同士でもキスするって聞きましたのに・・・」
「誰から聞いたんだろそれ」
「カゲツからです」
あの和風ハイテンション剣士がぁ!なに妹に変なことを吹き込んでるんだオルァ。カゲツの生まれの文化は少し変わっていて神竜や邪竜信仰がなかったり米を主食としたりと和といわれる独特の文化を持っている。持っているんだけど確かにキスという認識も変わってはいたが・・・
「それはカゲツの嘘だ・・・半分はだけど」
「嘘・・・なのですか?けど母さんは千年前には私の頬にキスしてたって言ってましたよ」
あんた本当に余計なことしかしないな。あんたのせいで今俺の貞操?が危ないことになってるんだけど。母さんがリュールを甘やかした置き土産は思っていたよりも大きなものになっていた。娘いなかったからって舞い上がりやがって・・・ここは兄として妹に正しい兄妹としての接し方を・・・
「リュール、あの「嫌です。兄さんがキスするまで離しません。このまま頭で兄さんの胸をグリグリして兄さんの匂いを堪能します」
うん、やめて。ナチュラルに匂い嗅ごうとするのやめて。聞いてる?リュール、待って分かったから匂いかがないで。リュールだって匂い嗅がれるの嫌でしょ!やめろ!やめろ!
「兄さん・・・・」
「もう!分かった、分かったから!」
「いいんですか!じゃあさっそくお願いします・・・・」
兄とは・・・男とは無力な生き物なのか。歴代でも最強クラスの強さを誇る神竜の俺が妹に言いくるめられていいように扱われるなんてそんなことをあっていいのだろうか。
「ほっぺでいいよな」
「はいっ・・・」
「・・・・・」
「兄さん?」
「分かってるって・・・」
深呼吸して息を整えるが鼓動が早くなる一方だ。いくら妹と言ってもリュールは顔は整ってるし、誰からみても美人や可愛いっていわれるくらいにはレベルが高い。だから嫌でも意識してくる。血は繋がってないから尚更だ。
「リュール、目を瞑れよ」
「はいっ・・・兄さん」
落ち着け。キスするのはほっぺだ。口と口でするわけではない。それに俺とリュールは兄妹だ。意識するな、母さんもよくやってたことだ。これは家族としては普通なんだ。
俺はそう言い聞かせてリュールの前に立つ。少し頬の紅くなってるリュール、ここでしなかったらそれこそ男としてダメだよ。俺はそっとリュールの頬にキスを・・・・
「ああああああああ!!!」
「「!!!!!!!!」」
その大声でうっかり標準が
「えっ・・・あっ・・・えっ?兄さん?えっ?えっ?えっ?」
「リュールすまんっ、これはっ・・・」
いやっ、キスする場所を間違えてしまったのも問題だがそれ以上に問題であろう爆弾がそこにいた。
「もしかして神竜様たち・・・キャーー!!!びっくりしましたよ私!ラインハルト様って意外と積極的なんですね。これはクランに・・・神竜様ファンクラブ会長に報告しないと・・・」
「ちょっ・・・えーっとすまんリュール。これは事故だ!事故なんだ」
「兄さんが私の・・・・」
とりあえずリュールは放っておこう。それよりもフランを止めないと。これがもしクランに伝わったら神竜様ファンクラブに大きく広がってしまう。最初はあの2人だっただけなのに今の神竜様ファンクラブ会員はリトスに留まらず各国にも会員がいる。つまりもし今のことがファンクラブに知られたら・・・
「早くこのことをクランに・・・ファンクラブのみんなに伝えなきゃ!」
「やめろおおおおおフラン!そんな使命感持つなぁああああああ」
俺はこの後フランを全力で止めた。何が悲しくて妹とキスしたことをエレオス大陸全土に広められないといけない。
ちなみにリュールは数日間ものすごくご機嫌で「兄さん・・・ふふふ」と言いながら度々思い出し笑いしてたらしい。幸いなことにリュールはこのことを内緒にしてくれたらしい。もしリュールが言いふらす性格だったら今頃エレオス大陸全土が血の海に沈むことになっていただろう。本当によかっ・・・
「・・・・・ぷくーっ」
俺の目の前で頬を膨らませて怒ってるもう1人の妹がいた。あっ、これ詰んだわ。母さん、まってて俺も今そっちに逝くから(白目)
本作登場人物
ラインハルト
神竜王ルミエルの実の息子でルミエルの血を引く神竜の中では唯一の生き残り。ソンブルを倒した後はソラネルで暮らすことになりリュールとヴェイルの兄になる。兵種は神竜ノ王
リュール♀
FEエンゲージの主人公。家族愛に飢えていたせいで本作ではお兄ちゃん大好きの重度なブラコンになる。いろんな人のアドバイスを元にラインハルトに甘えようとする。