チー牛学園~君達にはこれから恋をしてもらいます~ 作:サニキ リオ
スクールカースト。一般的に学校のクラス内でできる友人グループの序列を表すものだ。
条件は様々だが、恋愛経験や容姿、コミュニケーション能力や趣味、部活などで序列は決まる。
例えばサッカー部などの体育会系かつ爽やかなイメージがある部活に所属している者はカースト上位に所属していることが多い。
逆に文化部である漫画研究部や囲碁将棋部に所属している者はカースト上位に行きづらい。
偏見も良いところだが、こうして個々にレッテルが張られてカーストは形成されていく。
智位業学園でもそれは例外ではない。
以前までは上辺がクラスの中心となり、トップカーストのグループが存在していた。
しかし、上辺が退学になったことでそのグループは散り散りになった。原因は全員が上辺のコミュニケーション能力に依存していたからだ。
友達の友達は友達ではない。上辺がいなければ会話を回せない以上、グループが存続することはなかったのだ。
上辺のグループにいた蒲生と小山内も今では俺とよくつるむようになった。
ここに多々納と乾が加われば大きいだろう。
乾は特定のグループに属さず、全員と交流を持つタイプだから問題はない。
問題は風鈴だ。
彼女は現在女子だけのグループを形成しており、風鈴が俺のグループに合流することを大阿久と里口はよく思わないだろう。
「友田、今日カラオケいかね?」
「またかよ。別に全然いくけど」
「蒲生はカラオケ好きだよね」
俺の席周辺に蒲生と小山内が集まっているため、このグループは俺が中心と言っても過言ではないが、トップカーストとはほど遠い。
トップに君臨するようなグループとは、爽やかイケメンとギャルの揃った男女混合グループだ。
男子校のノリみたいなグループが上位に行くことはまずないだろう。
そもそも、この学園の生徒は運動部の割合が極端に低い。
所属している人間も本気で打ち込んでいる人間は少ない。つまりファッション運動部が多いのだ。
現在、教室の入り口付近に屯して大声で騒いでいる
コミュニケーション能力が高い者も女子なら風鈴や乾がいるが、男子の方では上辺以外は俺を含めてコミュニケーション能力はさほど高くない。
さらに言えば飯盛達は他の者を見下す傾向にあり、とにかく肩書きを重視する。
そのため、帰宅部の集まりである俺達は下に見られがちだ。
陰キャを見下すのはいつだって陰キャなのである。
「よっ、難しい顔してどうしたの?」
蒲生や小山内と話しながら、どうしたものかと頭を悩ませていると、乾が話しかけてきた。
「い、乾さん!?」
「ど、ども……」
乾が現れた途端、蒲生と小山内は視線をあちこちに動かし始めた。
「そうだ。乾も一緒にカラオケ行くか?」
「いくいく! 私、カラオケ好きなんだよねぇ」
「蒲生と小山内もいいよな?」
「「お、おう」」
「ありがとね! じゃあ、また放課後!」
乾は笑顔で手を振りながら自分の席へと戻っていく。
乾が席に戻ったことを確認すると、蒲生と小山内は俺に詰め寄ってきた。
「ど、どういうことだよ友田。お前、乾さんと仲良かったのか?」
「一体いつの間に!」
「仲良いってか、普通に話くらいするだろ。乾って誰とでも話す人間なんだし」
「俺、上辺のグループいたときでも挨拶程度しかしてなかったぞ!」
「自分から話し振らなきゃそうなるだろ……」
蒲生と小山内は愛想笑いくらいはするが、自分から話を振ることは少ない。最近になってようやく俺に対しては積極的に話しかけるようになったくらいである。
「乾は大丈夫だ。あいつは誰が相手でも優しく接してくれるからさ」
俺は過剰に陽キャ女子に怯える二人に言い聞かせる。
「てか、二人共大阿久と里口がペアなんだから怯えることないだろ」
蒲生も小山内も所謂〝陽キャ女子〟が恋愛実習のペアだ。
最初の恋愛実習の課題もクリアできるくらいにはコミュニケーションを取っているのだから、乾みたいな優しそうなタイプなんて話しやすいタイプだろうに。
「大阿久とは課題があるから話せるんだよ!」
「同じく」
どうやら、二人は理由がないと会話できないタイプのようだ。気持ちはわかるぞ。
「それに趣味が合わないから会話が続かなくてさ……」
「わかる」
蒲生の言葉に小山内は腕を組んで頷いていた。
「そういえば、俺も風鈴とは趣味は合わないな」
「普段、あんなに仲良く話してるのにか」
「授業の話とか、課題の話とか、共通の話題はいくらでもあるからな」
俺も最初の頃は会話が尋問になりがちだったが、風鈴が都度アドバイスしてくれたおかげで最近は普通に話せるようになったのだ。
「そうだ、音楽の話題は結構強いと思うぞ。アニソンだけじゃなくてJ-POPとかいろいろ聞いてみるのはありだな」
「俺、そういうのあんまり聞かないんだけど……」
「同じく……」
二人はどうにも普段聞いていない音楽を聞くことに抵抗があるようだった。わかるぞ、俺も人からおすすめされた音楽が刺さらないなんて日常茶飯事だ。
「アイドル系の曲ならどうだ?」
「アイドルって、リアルの?」
「そっちはあんま興味ないからなぁ。何か二次元オタクと三次元オタクって分かり合えない気がするしさ」
オタクと一括りにしても、その中で好きなジャンルによって棲み分けがされている。
もちろん、両方が好きな人間もいるが、アニメオタクとアイドルオタクの間には隔たりがある。
その理由は単純で、別のコンテンツに新しく参入するのにはエネルギーがいるからだ。
「曲とか聞いたことはあるのか?」
「いや、CMで流れてるな、って思ったくらいだ」
「同じく」
要するに、ただの食わず嫌いである。
俺も風鈴が部屋のテレビで動画を流すまで気にも止めていなかったが、実はアイドル曲はアニソンが好きな人間なら刺さりやすいのだ。
「プロデューサーがアニソン作ってた人だったりするし、案外アイドルを推せなくても曲だけ好きになることは多いぞ。このグループとかは女性ファンに刺さりやすい曲も多いからな」
俺は再生リストで作っていたアイドルグループの曲をいくつか二人に見せる。
二人はひとまずメモはしたものの、どうにも浮かない表情を浮かべていた。
「うーん、やっぱ何か違う気がするんだよなぁ」
「現実の女の子が歌って踊ってるとこ見てもねぇ」
「だったら〝Vtuberの歌ってみた〟から入るのはどうだ?」
近年、バーチャルユーチューバーことVtuberの活躍が目覚ましい。
バーチャルのキャラクターを使用して配信活動を行う彼らはオタクには取っつきやすいジャンルだろう。
「歌活動をメインにしてるVなら最近の歌も歌ってるし、そこから原曲に入れば意外とすんなりはまれるぞ」
「お前、天才か……」
「その発想はなかった……」
俺は自分のスマートフォンから動画アプリを立ち上げて登録しているVtuberの一覧を見せる。
「おっ、この子クール系で俺好みだわ」
「この子、小っちゃくてふわふわしてそうで可愛いなぁ」
蒲生と小山内は俺が登録しているVtuberを全てチャンネル登録していた。
別にこれが正解というわけでもないのに、宿題の回答を見せているような気分だ。
ちなみに、二人が選んだVtuberは外見と中身のギャップが激しいことで有名なVtuberである。
「最近じゃ風鈴とお互いに好きな曲教え合ってるし、趣味が違うからこそ会話が広がることもある。だから、そうマイナスに捉えなくてもいいんじゃないか?」
「マジか……友田、お前すげぇよ」
「一生付いていくよ」
「さすがに一生は付いてこなくていい」
そうやっていつものような冗談交じりの会話をしていると、いつの間にか俺の周囲に何人かの男子がやってきていた。
「友田、俺にもおすすめの曲教えてくれないか?」
「友田君、Vが好きって本当?」
「お、お前の推し誰?」
どうやらVtuberが好きな奴らが話を聞いていたらしくわらわらと集まってきた。
俺は自分の見ているVtuberを教えると、集まっていた男子達とVtuberの話題で盛り上がった。
さりげなく推しの布教に成功したことで、俺は密かにほくそ笑むのであった。